黙示録
十七章
第二節
大いなる魔術師が消え逝く時。
世界に新たな使徒が現る
その使徒、不滅の器をもち、神々の命に従い世界を滅亡に導くであろう
畏れよ
禁忌を犯し使徒に、世界に、光などない
_著・ペデルト=ワルステーラオス_
◇*◇
「君の予言は相変わらず素晴らしいよ。ペデルト」
辺り一帯が薄暗い部屋・・・いや、部屋とも形容しがたい、空間。
闇とも取れる黒い霧が漂う空間。そこにいるのは、ロッキングチェアに深く腰掛けた男。
腰まである金色の髪は、手入れなどしてないと雄弁に語れるほどボサボサで、髪色でさえ、なんとか金色だと識別できるが、くすんだ、という形容詞が付いてくる。
服装もなんともお粗末なもので、中世のヨーロッパを思わせるような薄汚れた紳士服だ。
おまけに、顔の上半分を巻布で隠しているその姿は、薄暗く、黒い霧の中でも異様な存在感を醸し出している。
男は、ずっと同じ本の、同じページを読み続けた。
いや、読むとは少し違うかもしれない。親友の遺した文字の羅列をなぞり、懐かしんでいる。必死に、自分の愛した世界を守ろうと戦い続けた男の戦績を糧に。
「でも、どんな素晴らしい予言でも、凡人どもがそれの真意を知ることが出来るのは予言が『事実』になってからだ」
特に、君のこの残酷な真実を見通した予言は、じじいどもに遮られて、知る者は少ないんだよ。
言葉に、声色に、憎悪と軽蔑、哀れみが色付く。
それは、辛い現実を受け止めようとしない世界に対してか。器量が狭く、醜い彼の嫌うものに対してか。全てを知りながらそれを放置し続けた自分に対する苛立ちによるものなのか。自らでさえ、それの区別を付けることはできない。そこまで深く、根強く男の中にある感情なのだ。長い間、この感情は男を縛り続けた。だが、それもここまでだ。
「あとは、僕のシナリオで進めよう」
君の望む、僕達が望んだ世界が見れるのは、この僕だけだ。
男がなぞり続けた文字が、男の思いを感じ取ったかのように波打つ。
それに動じることなく、ただ、男の口元が静かに笑を象る。
やがて霧は全てを包み込み____空間自体、塗り潰されてしまった。
『世界は犠牲の上でしか成り立たない』
それを憂い、泣き叫んだのは神か、人か
知る者は、知ることのできる者は、何を思うのだろう