小説『リリカル世界にお気楽転生者が転生《完結》』
作者:こいし()

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「で、なんなん? この子」

「アリシア・テスタロッサ」

「そう言う事聞いとるんやないわ!!」

 そう言って、テーブルをバンバンと叩くはやて。現在、俺達は朝食を食べ終えてアリシア・テスタロッサの死体を眺めながら話をしていた。いや、眺めながらって死体に対する侮辱なんだろうけど、俺みたいな良い歳した成人が死体とはいえ幼女の裸体を眺める光景は変態以外の何物でもないな。ちょっと罪悪感が湧いたよ。湧いただけだけどさ。

「あー……はいはい。この子はだな、ちょっと歪んだ親が色々しでかした結果死なせちまった子でね。死体を何時までもこんなカプセルに入れて保存したままその親も死んじまったんだよ。で、放置されてたこの子を俺が持ち帰って来た訳だ」

 嘘は言ってないよ嘘はね。ちょっと本当じゃないだけでさ。

「そ、そうなんか……可哀想な子やな……ぐすっ」

 うん、なんというか前々から思ってたけどさ。こいつチョロすぎない? 将来が心配だよ俺は。それに、この子をどうするか具体的に決まってもいないんだぜ? まぁ、その辺に放置するのもいいけどね。この子を連れて来たのはプレシアの目的阻害の為だった訳だし。正直もう用はないんだよね。とはいえ、あの時に考えたこの子を蘇生できる可能性を考えれば、まだ捨てるというのもいささか早計とも取れる。
 ならば、今のままもう少しだけ様子を見てみようか。多分、学校のほうで転生者と高町なのは達からお話を受けるだろうし、その時にでも確認してみようか。どうせ転生者……主に神崎君辺りが

『テメェ! 俺のアリシアを何処にやりやがった!!』

 とか言い出すに違いない。いや、絶対言うと思うな、うん。

「で、兄ちゃん。この子どうするん? 身寄りもないし、何より……死体なんやろ? どうしようもない気がすんねんけど……」

「まぁ、だよなぁ……でもまぁあれだ。一応様子を見てみようぜ?」

「兄ちゃんがそう言うなら別にええけど……早めに判断決めてな?」

「勿論だ」

 そういう方向で決まった後、はやては買い物に、俺は家で寛ぐのだった。



◇ ◇ ◇



「さて……はやても買い物に行った事だし……ちょっと試してみますか」

 俺はアリシア・テスタロッサを自室のベットにカプセルから出して寝かせる。心臓の音は無いし、瞳も閉じたまま、呼吸すらしていない。正真正銘の死体だ。
 だが、御存じの通り俺の魔法は人間が使える全ての魔法。つまり、現在の人間が使用していない古代の魔法や、これから見つかるであろう未来の魔法、未だ発見されていない魔法等々人間が会得できる物ならそう言う物ですら俺は使う事が出来るのだ。これもある意味、チートだろう?
 で、これから行使する魔法は【偽蘇生魔法】。その名の通り、不完全な蘇生魔法だ。この魔法に関する知識として、俺の頭の中にはこうある。

 【偽蘇生魔法】:古代ベルカに存在した名も無き研究者が生涯を注いで造り出した死者蘇生の為の魔法。完成と共に研究者は死んでしまったが、この魔法は未完成。使えば死者は仮死状態となるが、それ以上にはならない。つまり、この魔法では完全な死者蘇生を行なう事は不可能である。

 これがこの魔法の知識。文字化出来るのはこれ位の物で、後は魔法陣や必要魔力量、魔力の練り方等々発動の為に必要な技術の知識がある。
 恐らく、というか確実に人間には不可能な魔法だが、俺の【人間が会得できる全技術】という特典がそれを可能にする。この知識の中にある、偽蘇生魔法の発動に必要な技術は個人では到底不可能なほど繊細な物。この魔法工程を一人で再現するのは、一生をとしても失敗しかしない作業だ。だが、俺の中にはその工程を全て可能にする全技術がある。これくらい朝飯前だ。

「―――――蘇生」

 自身の魔力を操り、障壁のように魔法陣をアリシアの下に広げる。そして、その魔法陣の輝きがアリシアを包みこんだ。

「――――」

 呪文、とは言い難い音。それを声帯模写…いや、声帯変化の技術で再現する。

「――――」

 呪文を確立させ、空間を固定化させる。そして、次に行なうのはアリシアの感覚の接続。それは、俺とアリシアの間に一種の使い魔的な契約を行なう事で、アリシアに俺の五感と同レベルの五感を与える。これを行なうと、アリシアの見ている物を俺が見たり、聞いている事を聞けたりと簡単なリンクが出来る様になるが、あまり障害にはならない。

「―――、―――」

 更に呪文を紡ぎ、続いてアリシアの中の魔力源……つまりはリンカーコアの活動を促す。俺の魔力を的確な量で的確に流し、的確なタイミングで刺激する。アリシアのリンカ―コアが微弱に動きだすが、魔力が圧倒的に減少しているので、このままではすぐにまた活動を停止してしまう。
 そこで、俺の中にある魔力をアリシアのリンカ―コアに適量注ぎこみ、自意識的に活動できるように確立させる。

「―――――――」

 更に呪文を紡ぎ、内臓器官を再活動させる。再活動させる順番も決まっており、まずは俺の魔力を使った血管の強化、次に消化器官である小腸と大腸を活動させ、間髪いれずに肝臓と腎臓、肺に命を吹き込む。そして、最後に心臓と脳を動かす。だが、アリシアの中にある血液は死んで時間が経ったことからほぼ使用不可能だ。そこで、魔力で強化した血管に復活した心臓が流す血液の中にある不純物を強化している魔力を使って分解していく。これで身体の方は完了。脳も血液が回ったことで再度思考を開始し始める。元々、寿命で死んだわけじゃないから内臓器官は全て活動できるのだ。身体に及んだ多大なダメージが活動を無理矢理停止させただけで、ダメージを抜き取り、再度活動させてやればまだ身体は生き返らせる事が出来る。

 それを可能にするのが、魔法という奇跡なのだから。

「――――」

 そしてまた呪文を紡ぐ。魂の復活、いや精神の復活だ。魂と言う物は実際の所精神と同義だ。なまじ幽霊や心霊現象という物があるからあるかどうかも不明瞭だが、生きている間は魂ではなく身体にあるのは精神、自意識という物だ。
 そして、その精神や意識を生み出すのは"脳"。脳が復活したのなら、精神だって復活させる事が可能な筈。だが、この体は一度死んだという認識をしてしまっている。まだ生きているではなく生き返ったと認識させるのは少々難しい。だからこそ、無理矢理に精神を起こせば生前とは違う性格、思考、行動を取る可能性がある。
 とどのつまり、そこがこの魔法の欠点。意識の確立が出来ないのだ。だからこそ、意識の覚醒は本人次第なのだ。術者はそこに手を加える事は出来ない。

 だからここでこの魔法は終了。出来たのは身体の蘇生のみ。精神の方はアリシア次第であり、目を覚ますのは数年後か、はたまたずっとかという所。
 俺には此処までしか出来ないので、完全な蘇生には他の転生者の助力を得ようとしていた訳だが、あいつらは簡単には手を貸してくれそうもない。寧ろ、アリシアを奪い去って蘇生させ、自分の良い様に精神をコントロールする位はやりそうで怖い。

「うーん………ん?」

 そうにか出来ない物かと考えた所、俺には名案が浮かんだ。というか、何故こんな簡単な事に気が付かなかったのかが分からない。

 ――――一つじゃ足りないのなら、足りるまで足せばいい。

 つまり、この【偽蘇生魔法】では不完全な蘇生しか出来ないのなら、別の魔法でその欠点を補えばいいのだ。そう思った俺は自分の知識の中からこの状況で役に立つ魔法を検索する。
 すると、3分位思考した結果。見つけた。

【覚醒魔法】

 この魔法は、今から320年後に確立される魔法だ。これに関する知識は以下の通り。

 【覚醒魔法】:現時点から320年125日6時間34分12秒後に確立される魔法。人間の持ち得る技術では実現不可能だったので、未来の技術で生み出された新デバイスにより実現を可能にした魔法であり、人間の潜在能力の強制的な覚醒、植物状態の人間の意識の覚醒、意識を失った者の覚醒など、様々な物を覚醒させる魔法。
 尚、潜在能力の覚醒は一人の魔力量では確実に足りず、植物状態の人間の覚醒には新デバイスを用いても実現不可能な程複雑で多くの技術量が必要になるので、実質覚醒出来るのは気を失った者の意識ぐらいの物になる。

 つまり、この魔法も先程の魔法同様凄まじい技術量を持っていれば植物人間の意識を覚醒させる事が出来るのだ。そして、その条件を俺は既に達している。

「shu4dosr2o1u2」

 そうと決まれば、早々に発動させる。使うのは、俺の魔力とアリシアの魔力。この魔法には技術以前の条件がある。それは、対象の身体に覚醒の妨げになるダメージが無い事、術者と対象にスムーズな魔力移動が可能な程の深いつながりがあることの二つ。

 一つ目は何も問題ない。アリシアの身体は健康そのものなのだから。そして、二つ目も問題ない。彼女と俺には感覚の復活の段階で使い魔契約と同じ様なある種の回路(パス)が通っているのだから。

「deoudo2e9j2o3p」

 呪文は先程よりは言語化されているモノだが、やはり解読は不可能だろう。

 その呪文でアリシアの脳内に存在する記憶と意識を繋げる。といっても、魔力を伝って電気信号と似た様な事をしているだけだ。これをきっかけに電気信号の動きを活発化させて、自分の、性格、癖、好意的だったモノ、嫌悪していたモノ、常識、人間関係、様々な物の知識、自分に何が出来て何が出来なかったのか、そう言った生きていた時の何もかもを覚醒させる。

 これだけでこの魔法は完了だが、これにはかなりの技術がいる。脳内の電気信号を全て把握して操るだけの繊細な魔力操作、肉体を傷つけない量の魔力量を的確に操作する技術、そしてそれを5分間という長い時間維持し続ける集中力。これらが無いと達成できないのだから大変だ。正直、もう二度とやりたくはない。

 分からないかもしれないが、現在俺の身体は汗びっしょりだ。集中力を極限まですり減らし、魔力を殆ど使い果たし、体力もかなり持っていかれている。この事から、息は切れぎれで汗は脱水症状と見間違うほどに溢れ出ており、立っているのもままならない。

「はぁっ……! はぁっ……!! あ゛ー疲れた。まったく、蘇生なんて面倒な事もう二度としないからなっ……!」

 さて、とりあえずこれで完全に蘇生は完了だ。この二つが研究されて一つになれば完全な蘇生魔法になるだろうが、偽蘇生魔法の方は日の目を見ずに消滅し、覚醒魔法の方は失敗作として見向きもされていない。それに、どちらも実現不可能なのだから、研究されようが意味はないだろう。

「ただいまー」

「お……はやてが帰ったか。さて……っとぉ!」

 足に力を込め、なんとか立ち上がる。寝ているアリシアの呼吸は正常な物で、意識が戻って以前と同じように会話したり、動いたり出来れば本当に蘇生は成功だ。今は様子見だろう。

「おかえりー」

 そう思い、俺は汗だくのままふらふらと自室を出て、力なくはやてを出迎えるのだった。



 ◇ ◇ ◇ 



 三者side


 珱嗄がプレシアの下からアリシアを連れ去った後の話。管理局が送りこんだ高町なのは、クロノ・ハラオウン、ユーノ・スクライア、アルフは転移後急いでプレシアの下へ移動を開始し、珱嗄のスルーした魔導兵達と戦闘を開始。
 その途中で、プレシアからの冷たい言葉で一時気を失ったフェイトもなんとか立ち直って合流。高町なのはと協力して魔導兵を蹴散らした。

「二手に分かれてるな……よし、二手に分かれよう」

「二手にって……クロノ君。組み分けはどうするの?」

 管理局の執務官であるクロノは、的確に指示を出す。

「まず、なのはとユーノ、アルフはあっちの道へ行って先にある駆動炉の破壊。僕とフェイトはプレシアの確保だ」

「分かった」

「僕も異議はないよ」

「アタシも」

「わ、私もそれでいいかな」

 各々が賛成を出した所で、クロノは合図を出して移動を始める。フェイトはクロノと共にプレシアの下へ、なのは達は駆動炉の破壊の為に奥へと突き進んで行った。



 ◇ ◇ ◇


 クロノ達がプレシアの下へ辿り着いた時、そこにいたのは呆然と立ち尽くすプレシアと、床に転がった輝きを失った数個のジュエルシード。クロノらは不審に思いながらプレシアに近づく。

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。プレシア・テスタロッサ、ロストロギアジュエルシードによる大規模時空震による時空断層発生未遂の罪で拘束する」

「………」

「……?」

 何も言わずに呆然としているプレシアをとりあえずバインドで拘束する。すると、抵抗も無く簡単に拘束された。あまりにも拍子抜けなので、クロノは一瞬呆気に取られるが、自分の仕事を思いだして連絡する。

「艦長、容疑者を確保しました」

『早いわね。プレシアの様子に少し疑問が残るけど……いいわ、とりあえず貴方はプレシアを艦の方へ連れて来て頂戴。プレシアとフェイトさんは艦にの一室に拘束した後、なのはさん達の援護に向かって……ああ、もう良必要ないわね。そのまま戻ってきて頂戴。なのはさん達も今任務を終えた所だから』

 それを聞いたクロノは事件解決にふっと笑みを漏らし、了解と告げてフェイトとプレシアを連れてアースラへと転移したのだった。



 ―――それから珱嗄がアリシアを蘇生させている頃には、ジュエルシード事件は完全に解決となったのだった。



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