小説『リリカル世界にお気楽転生者が転生《完結》』
作者:こいし()

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 という訳で、現在俺は臭くて汚い地下水道を出て、地上の綺麗な街をレリックを運んできた幼女、ヴィヴィオと共に歩いていた。未来で確立された中途半端な空間魔法を使って、これまたありがちな空間倉庫なんて物を作って、レリックをその中に仕舞う事で手ぶらになった故に、街を歩けている訳だが俺の両手は新たな荷物でふさがっていた。
 それが背中に乗った幼女ヴィヴィオ。随分と衰弱していたようで、俺が見つけて地上に出た瞬間気絶してしまったよ。結局、俺が背負って運ぶ破目になった訳だ。まぁレリックを原作とは違って2つ手に入れられたのでいいとしよう。実際このヴィヴィオは助けるメリットがない上に、俺としては別に助けなくても良い物だったのだが、それでも助けた理由としては、やはり面白そうだからという物が当たる。

「う……ん……?」

「あ、起きた?」

 そうこうしている内に、ヴィヴィオが起きたようだ。まぁ歩きながら回復魔法を掛け続けてたから疲労と体への外的ダメージは特にないだろう。
 ああ、そうそう。現在ヴィヴィオの服装だが、流石に発見当時のぼろ布をいつまでも着せておくわけにもいかないので、バリアジャケットで代用させている。
 え? どうやってかって? 言って無かったけど、俺のデバイスは既に出来上がってるんだよ。だってフォワードがデバイスを支給されてからもう一ヵ月は経ってるぜ? そりゃ出来あがるさ。

 ということで紹介しよう。俺専用のデバイス、正式名称ミストルティン。愛称スミスだ。まぁ俺はスミスなんて呼んでないんだけど。俺呼称ミストである。待機モードは何の装飾もない指輪をそのまま大きくした様な腕輪。腕輪自体が宝石みたいな素材で出来てるので結構綺麗。色は薄い青色。水色じゃないよ、藍色をそのまま薄くした様な色だ。
 とまぁ紹介した訳だが、俺はこのミストを未だに起動させていないのでバリアジャケットの登録がされてない。だから、ヴィヴィオの服をデザインしてバリアジャケットとして登録した訳だ。
 このおかげで俺のバリアジャケット無くなったけど。もうこのデバイスヴィヴィオの物っぽいよね。

「……?」

 ヴィヴィオが首を傾げている。その動きにヴィヴィオの服が揺れた。ちなみにヴィヴィオの服は俺と同様和服。まぁ今は洋服の時代、和服と洋服を混合させた様な服だ。いつか図が入るよきっと。作者は上手い下手は置いといて、絵を描くのが好きだから。

「とはいえ、体力が足りてない訳だし……とりあえずなんか食べるとしよう」

「……ぱ、ぱ?」

 時が止まった。いや俺の時だけ止まった。とりあえず言っておこう。俺はこの子の父親ではない。というか、子供を作った覚えは転生をする前からない。所謂、童貞という奴だ。経験なんてないし、異性と付き合った事もない。まぁ告白された事はあるんだけど、何時も断ってたし。おっと、結果だけ見れば俺は唯のチェリーボーイじゃないか。まぁ気にしないんだけど。

「俺はパパじゃないんだけど……」

「……パパ……」

「……」

「……」

 しばらく首を後ろに回してヴィヴィオと目を合わせていたのだが、じっとこちらを見つめてくるので、諦めた。この世界の女性は皆頑固な様だ。

「分かったよ……俺がパパだよ……はぁ」

「! ……うんっ」

 ヴィヴィオはギュッと首に回した手に力を込めた。まぁ小さい子供の力だから苦しくは無いのだが、明らかに喜んでいる。見なくても笑顔なのが分かる。何故なら、周囲の目が温かいから。親子仲良いなぁ的な眼で見るな。

「さて……それじゃあお腹もへったし、何か食べるとしようか」

「えへへー」

 ヴィヴィオはただ首に抱き着いて返事をしない。やり辛いったらありゃしない。

 おそらく刷り込みみたいな効果が働いたんだろうけど、まさかこんな所で父親になるとはなぁ……。





 ◇ ◇ ◇





「美味いか?」

「うん!」

 さて、それから2時間ほど。俺とヴィヴィオは街を満喫していた。現在はお昼ご飯を食べた後、デザートとしてアイスを食べている。ヴィヴィオは口周りを汚して幸せそうにアイスを頬張っていた。

「ははは……ほら、汚してる」

「むー……えへへ」

 渡された紙ナプキンでヴィヴィオの口元を拭ってやる。どうやら俺は世話をするのが上手い様で、結構子供の扱いが良い様だ。その証拠に、ヴィヴィオは俺に対して警戒心を持たなくなっている。というか、最初から刷り込み効果で警戒心自体はかなり薄い物だったのだが、今は皆無だ。此処はドヤっても良いんじゃないだろうか?

「全く、屈託のない笑顔を浮かべやがって……」

 ヴィヴィオの純粋な笑顔は、なんというか心を和ませてくれる効果がある。無意識的にも意識的にも、守りたくなるような、そんな笑顔。
 どうやら、俺はこの1時間でこの笑顔を守りたいと思える位には、父親の気持ちが分かった様だ。原作知識からすれば、彼女は第三期の最重要人物だ。何の力もない唯の幼女の癖に、一番危険な立ち位置にいる人物。高町なのはを母親として見て、自分の居場所を必死で探して、最後は強い心を視聴者に見せつけた。
 同い年の子供が同じ状況にいたとして、ヴィヴィオと同じ様に立ち上がれるかと言われれば、無理だ。周りに頼れない辛さは、想像するに難くない。

 俺は柄でもないが、この子の父親として頼る事が出来る人で有りたいと思った。

「ホント、柄でも無いんだけどね……」

「?」

「何でもないよ」

 ヴィヴィオの頭を撫でる。気持ちよさそうに眼を細めるヴィヴィオは、子犬の様だった。決めた、俺はこの子を護ろう。あの気持ち悪い科学者から。この先降りかかる悪意から。この子がそれらに一人で立ち向かえる様になる位までは。

「なぁヴィヴィオ、お前は俺といて楽しいか?」

「うん、たのしー!」

「そっか。そいつは重畳――――!」

 俺は、気配察知に掛かった敵を補足。どうやら飛行型ガジェットが来ている様だ。それに、地下にも地上型がいる。機動六課は既に動き出しているようだ。

「ヴィヴィオ」

「なに?」

「多分、これから街で悪い奴らが暴れる。多分、街は混乱に陥るだろう。逃げるぞ」

「う、うん」

 多分、よく分かってないだろうが、原作じゃナンバーズ達はレリック回収の為に動く。そして、レリックを持っているのは俺。ヴィヴィオがいるから結局俺は奴らの眼に留まるだろう。ならば、確実にナンバーズは俺を集中的に襲ってくるだろう。
 となれば、此処に留まるのは得策ではない。ヴィヴィオを危険にさらすわけにもいかないから、早々に移動するべきだろう。

「さ、乗れ」

「! うん!」

 ヴィヴィオは、俺の背中に乗る。俺はヴィヴィオを背負って動き出す。何も分からなくて不安だろうが、リミッターは既に何処かに捨ててきた。ある意味、俺は管理局内で一番異常な存在だ。誰よりも実力が高いのに、リミッターを付けられていない人物。
 ならば、

「幼女一人、守り抜く位訳ないぜ」

 守り通してみせようじゃないか。小娘が何人集まろうが、俺の足元にも及ばないのだから。





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