小説『リリカル世界にお気楽転生者が転生《完結》』
作者:こいし()

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 さて、時間は珱嗄がジェイル・スカリエッティの拠点に乗り込む前までに戻る。時空管理局中央本局の病院の中、一つの病室の中で一人の男が目覚めた。
 その枕元には、待機状態のデバイスと眼を瞑って静かに座っている融合デバイスがいた。男はゆっくりと眼を覚まし、ゆっくり状態を起こした。それに連れてユニゾンデバイスもまた眼を開いた。

「……マリア、行けるか?」

「勿論。貴方に戦う意志があるのならば」

 ユニゾンデバイスはそう言って、男の胸に手を当てた。そして、その身体を光輝かせる。男とユニゾンデバイスは二人同時に言った。

「「ユニゾン・イン」」

 男とユニゾンデバイスはユニゾンする。すると、男の魔力量は撥ね上がり、容姿にも変化が訪れる。銀色だった髪は金色に輝き、青と金のオッドアイは両目とも青色になる。そして男はベッドから降りて立つ。枕元のデバイスを手に取り、起動させる。

「グラン、セットアップ」

『OK,my master』

 グランと呼ばれたインテリジェンスデバイスは起動し、男の身体にバリアジャケットを纏わせる。ユニゾンした事で普段と色が違うが、白いロングコートに青いインナー、下半身にはベルトが所々に巻かれた軍用ズボンを履き、黒いブーツが脛の部分を覆っていた。

「……聖王のゆりかご。起動してるな……それじゃ、御礼参りに行こうか」

『OK,Everywhere if you want(貴方が望むのならば、何処までも)

『付いていきます。この命の限り』

 男は窓を開けて外へ出る。視線の先には金色の巨大な戦艦、聖王のゆりかご。

「約束を果たせなかったからな……今度は負けられない」

 男はそう言って飛行魔法を行使し飛ぶ。遠くに見える聖王のゆりかごは巨大だ。だが、男は全速力を持って向かう。恩人との約束を果たせなかった後悔を胸に、自身の敗北を払拭する。



「今度は勝つぞ」



 男の呟きに、デバイス達は無言で返したのだった。




 ◇ ◇ ◇




 そして、男はゆりかごへ辿り着く。その速度はガジェットと戦っているはやて達には目視出来ない程。男は速度を一切落とさずにゆりかごの中へ入る。

「――――マスター、います」

「ああ」

 男が進む先に居たのは、ディエチ。そして、男が敗北したナンバーズの一人、オットー。原作ではここにオットーはいなかったのだが、男や珱嗄と言った人物がいる故に此処に居るのだ。

「また来たんだね、神崎零」

 男、神崎零は立ち止まる。そしてオットーとディエチを睨んだ。

「ああ、まあな」

「仕返しにでも来たの? 存外、子供なんだね」

 オットーはそう言って無表情に神崎を見た。神崎はそんなオットーに対してふっと笑う。オットーとディエチはそんな神崎に眉をひそめたが、神崎は関係ないとばかりにその手に弓と螺旋剣を投影した。

「!」

 構えるディエチとオットーだが、神崎はその口元を吊り上げて力強くこう言った。




「仕返し? 違うね。俺はただ、負けた事が悔しかっただけだよ」




 子供と同じただのプライドに障ったから神崎はやって来たのだ。




 ◇ ◇ ◇




 そして、時は現在に戻る。

 俺はゆりかごの中を駆けていた。

「! この気配は……神崎君か」

 走っている最中に神崎君の気配を察知し、肉眼でもその姿を捉えた。どうやら戦闘中だったようで、ディエチとオットーの二人と戦っている。いや、戦っていた。
 どうやら既に戦闘は終わっているようだ。

「! 珱嗄さん」

「やぁ神崎君。お前も憂さ晴らしか?」

「ははは、ああその通りだよ。すっきりしたぜ」

 神崎君は地に伏せるオットーとディエチを見てそう言う。神崎君が無傷なのを見ると、どうやらかなり圧倒的な勝負だったようだ。

「さて、それじゃあ俺はヴィヴィオを迎えに行くわ。神崎君はどうする?」

「……俺は外の手伝いに行くよ。憂さ晴らしも出来たし」

 神崎君はそう言って、俺が来た方向へと走りだした。

「……さて、行くか」

「うぎゅ!?」

「ふぎゃ!?」

 俺は呟き、歩き出す。その際に何かナンバーズ的なのを二人程踏みつぶした気がするが、気のせいだろう。どうせ戦闘シーンすらカットされてやられた奴だし、機動六課壊した奴だし、ヴィヴィオ攫った奴だし、砲撃撃ってきた奴だしね。
 いやいや、決して俺がそいつに対して何かムカついているとかそういう事は無いよ? うん、だって俺は心が広いからね。うん、決してそいつに対して怒ってるなんてある訳がない。

「………やっぱ神崎君呼んで来よう」

「うげ!?」

「ぐぶっ!?」

 踵を返して少し引き返す。何か踏んだ気もするが気のせいだ。

「面倒だしやっぱいいや」

「ごふっ!?」

「むぎゅ!?」

 さらに踵を返して前へと進む。何か踏んだ気もするが、気のせいだ。

「さてさて、ヴィヴィオまではもう少しかな?」

 俺はそう言って、ゆらりと笑い、もう一度地面に転がる紫色の何かを踏んだのだった。



 

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