さて、珱嗄とヴィヴィオは聖王のゆりかごをその手の内に入れた後、追い出したなのはとヴィータ同様ゆりかごの外へやって来ていた。そして珱嗄はゆりかごを空間倉庫へ仕舞った。
いきなり姿を消したゆりかごに周囲の局員達は動揺を隠せずにいたが、珱嗄は特に気にせずにいた。ゆりかごが仕舞われた瞬間、ヴィヴィオはまた幼い姿に戻った。
結果を見れば、スカリエッティは恐らく死に、ナンバーズのほとんどが満身創痍で地に沈んでいた。後は新人達の相手しているギンガ・ナカジマを始めとするナンバーズ達のみだが、そっちの方も新人達の手助けに向かったフェイトによってどうにでもなるだろう。エース級は伊達じゃない。
それに、フォワードだってそれなりに強いメンバーだ。手を尽くせばナンバーズ相手に善戦することだって出来る。上手くやれば勝つことも可能だろう。
「……」
「さて、事件は終わった事だし……後処理は任せて帰るとしよう」
珱嗄はそう言って、ヴィヴィオを抱えた。聖王のゆりかごは、ヴィヴィオがこの先成長して高町なのは同様戦える様になった時珱嗄は渡そうと思っているのだ。とは言っても、あれだけ巨大な兵器を渡すつもりはない。ちゃんと改造し、改良し、コンパクトに使える様にしてから渡すつもりだ。
「なぁ兄ちゃん」
「はやてか、どうした?」
「いやな、今回兄ちゃんが殆ど解決しちゃったから私ら全然達成感ないんやけど」
そう、今回の事件。仮にJS事件と名付けたとして、事件経過は壮大だっただけに結末もかなり感動的な物に収まると思っていたのだ。なのに、怒りのままに暴れた珱嗄のせいで粗方あっさりと片付けられてしまったのだ。故に、事件解決の為に意気込んでいた他のメンバーは拍子抜けしたのだ。
黒幕であるジェイル・スカリエッティは知らない内に空から落ちて転落死、ナンバーズのめぼしい面々も戦闘シーンもなくボコボコにされ、最高評議会は本当になんの描写もなくその命を絶たれた。
珱嗄が関わっていない所と言えば、フォワード陣が頑張っている所くらいである。壮大な事件はスケールの小さい結末を迎えてしまったのだ。
「ああ……まぁ解決したんだから良いんじゃね? ほらヴィヴィオも無事帰って来たし、ゆりかごも手に入れたし、黒幕も殺したし………ね? 皆幸せ」
「ま、まぁ……そうやけど……唯でさえ闇の書事件もジュエルシード事件も兄ちゃんのせいでやけにあっさり終わったって思われてるんやから。もっと感動的なアレをやなぁ……」
「だってこの小説は戦闘描写も殆どカットだし、書いてもチート過ぎてすぐ終わっちゃうしで結局あっさり終わっちゃうんだぜ? どうしろってんだよ」
「それはまぁ……あれや。そこは兄ちゃんがどうにかしてやな……」
「どうやってだよ。俺自身を弱体化しろってか? 駄目だよ。タグみろタグ、チート過ぎて引くのがこの小説の売りなの、弱体化したらいみねーの」
「……難しい所やなぁ」
こんな風に、はやてと珱嗄はメタ発言しながらの言い合いは周囲の管理局員が全員撤収し、日が暮れるまで続いていったのだった。
◇ ◇ ◇
それからしばらく、JS事件と正式に決まった事件名を付けられたこの事件の後始末に追われる日々になった機動六課だが、随分と落ち着いてきた。元々、レリックを追った延長線上にジェイル・スカリエッティが居たというだけの事だったので、大した事務処理もなかった。
だが、ヴィヴィオや聖王のゆりかごに関しては聖王教会絡みで色々と面倒なやり取りがあった。しかし、その件については珱嗄も深くかかわっている所だ。結局、いつも通りの力技で全部持って行ってしまった。
正確に言うなら、聖王教会そのものをゆりかご使って潰すぞと脅したのだ。さすがの聖王教会もゆりかごに対抗するだけの戦力は無い様で、案を呑むしかなかったようだ。
まぁなんの感動もなく、ただの黒幕潰して終わる面白みもない物語で終わってしまった訳だが、それも味というか個性というかそんな感じの事で納得してもらおう。
そしてそんな日々を続けた結果、機動六課は遂に解散の時を迎えていた。始まりもあっさりしていれば、終わりもあっさり、本当に薄っぺらい物語である。
「―――皆、他の部隊に移っても……頑張って!」
はやての解散に当たっての演説が終わると、拍手が巻き起こる。皆頑張って来た1年が終わった事に対して、胸を張れる結果を持てたからだ。最後は珱嗄のせいで達成感もなかったが。
「それじゃ、解散」
はやての言葉で全員が一礼してバラバラに解散して行った。各々移動先の部隊が決まっており、その行先で自身の夢へ向かう為に進むのだ。後ろを向いていられない、機動六課は解散したのだ。いつまでも悲しんではいられない。
「あーそうそう、スバル達」
「珱嗄さん? どうしたんですか?」
そんな中珱嗄はとぼとぼと歩くフォワード4人に引き止めた。4人は珱嗄へ振り向き、首を傾げる。解散したのだから、もはや要は無い筈だが。
「いやね、面倒なんだけど……なのはちゃん達がフォワード集めてきてっていうからさぁ」
「なのはさん達が……?」
「そ。それじゃあ行こうか」
すると、珱嗄はフォワードを連れてなのは達の下へ連れていく。
そして、連れていかれた場所はなのはの故郷地球でとてもポピュラーな植物、桜の吹き荒れる桃色の空間。春の風が身体を吹き抜ける感覚が心地良い。
「あ、あの……」
「あ、来たね」
「わぁ…これって桜ですよね…?」
「きれい…」
フォワードの4人は回りを見渡した笑顔になる。珱嗄はその後ろで欠伸を掻いた。ヴィヴィオもその場にいる上にフェイトやなのは、はやて、ヴォルケンリッターもいる。
「よし、フォワード一同。整列!」
ヴィータがそう言うと、4人はさっと並んだ。
「さて…まずは4人とも1年間、良く頑張ったね」
「この1年間、アタシはあんまり褒めた事は無かったが…お前ら、随分強くなった!」
ヴィータがそう褒める。すると4人は同じ様に笑顔を浮かべた。
「辛い訓練、きつい状況、困難な任務。だけど一生懸命頑張って、負けずにクリアしてくれた。…皆本当に強くなった! 4人とも、もう立派なストライカーだよ!」
なのはもそう言う。すると4人は
『ううう………うっ……』
と涙を流す。するとヴィータも涙目で
「泣くなバカタレ……」
と涙ぐんだ。珱嗄はそんな光景を前に心底面倒そうな顔で息を吐いた。
「なぁなぁ、聞きたいんだけど、なんで呼び出した訳?」
「ああ、うん。この1年間皆で頑張ったから、お別れ会みたいな?」
実際、1年間と言ってはいるが1年間やった気はしない。考えても見て欲しい、数日たったとか一ヵ月後とか色々時間を飛ばした事も有った物の、それでも1年経ってはいない筈だ。時間経過がおかしい。
「ああ、そう。なら早々にやっちゃおうか。どうせあれだろ? 全員で全力の模擬戦とかそんなのだろ?」
「いや、ちょっと違うよ」
「え?」
珱嗄はなのはの言葉に首を傾げた。そう、少し違う。原作ではフォワード全員が隊長勢と戦うのだが、今回は珱嗄がいるのだ。そして、珱嗄だけではなく神崎という存在もいる。
「神崎も連れてきたよ」
「あ、アリシアちゃん。おつかれさま」
「ちょ、放せ!」
二人が来た事で、なのははにっこりと笑う。そして、楽しそうにこう言った。
「それじゃあ解散したことだし、最後に皆で全力全開の模擬戦! 珱嗄さんと零君の二人対私達全員!」
「えええええ?!」
「あ、なるほど」
珱嗄はなのは達の心境と思惑を悟った。つまり、手柄を取られたというか全部持っていった珱嗄と神崎に少し不満を感じているのだ。故に、ここで憂さ晴らしをしようという事。
やけに子供っぽい思考と思惑だが、分からなくはなかった。
「神崎君、この展開は面白いとは思わないか?」
「え? ……ふっ、そうだな!」
珱嗄と神崎は互いにデバイスを起動させた。ちなみに、珱嗄のデバイスが本格的に起動したのは今回が初めてである。
「あれ? 珱嗄さんデバイスあったの?」
「おう。結構凄いぞ? 何せこいつは、速度上昇の魔法しか入れてないからね」
その言葉に、全員が凍りつく。あの人外の珱嗄の速度が更に強化される、それは全く予想が付かないからだ。唯でさえ目視出来ない珱嗄が更に速度を上げたら確実にフルボッコにされるだろう。
「さて―――――始めようか」
珱嗄の言葉に、全員が嫌な汗を出す。リミッターの外れた自分達全員で挑めば何とかなると思っていたのだ。だが、無理そうだと察した。
そして、その数分後機動六課には数名の悲鳴が響いたのだった。
こうして、機動六課はいつも通りのノリで解散して言ったのだった。
◇ ◇ ◇
そしてそれから数年後の事
「どーも、時空管理局、新人執務官になりました。泉ヶ仙珱嗄です、よろしく。基本的に仕事はしないから、何か文句があれば心の内にそっとしまっておいてください」
そんな挨拶をする着物姿の男の姿があり、その演説を聞いた人々は総じて、
『たよりにならねぇ……』
と感想を漏らしたそうだ――――
終わり
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完結です! 今までありがとうございました! なんだかなあなあな終わり方をしてますが、完結です。明日からはめだかボックスの方の執筆を再開したいと思います!
今までありがとうございました!