小説『ちっぽけなバンドの物語』
作者:Dissonance★()

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雄大の友達は待ってましたとばかりの反応。
だが後ろの客はただじっとこちらを見ているだけ、拍手すらなかった。
つまり前の数人が騒いでいるだけという状況。
達也たちがこっちを見て手を振っている程度だった。
ステージの定位置につくとスポットライトが照らされた。
客席は前のほうしか見えず、後ろはぼんやりとしか見えない。

龍児はイスに深く腰をかけた。
雄大がEのコードを6弦から1弦までゆっくりと弾く。
雄大のストロークが早くなりベース音も加わる。
同時に龍児もクラッシュを小刻みに叩く。
弦楽器の2人が音を伸ばし、徐々に小さくなっていく。
龍児は深呼吸をし、音が消えかかる頃、カウントを取った。

リハの時と同じく「Jupiter」。
無心でイントロを叩く。
客席を見ると前の数人は体が上下に動いていた。
後ろはぼんやりとしか見えないが、こちらをただ見据えている姿が目に浮かぶ。
ライブをしているというより、スタジオ練習を見られているという感じ。
龍児はこの空気に圧倒された。
大きな音をステージで出しているが、無音の客席に、ただただ圧倒された。
ミスが目立ちはじめる。
海斗も2小節歌詞が飛んだのだろう、歌を抜いた。
雄大はこちらを見て、ストロークを見せ、安心をうながすように演奏していた。
2曲目に入った。
龍児のバスドラが安定感を欠いた。
スラッシュビートも入りが合わない。
海斗はただ大声を出しているだけというような感じ。
立て直そうと考えながら演奏し、気づいたら終わっていた。
伸ばしていた音を切る。

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