小説『ちっぽけなバンドの物語』
作者:Dissonance★()

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「俺、もっとうまくなります」
突然の言葉に海斗と雄大がくるっと龍児のほうを向いた。
龍児が続けた。
「いつか、どんな奴も我を忘れて飛び回らせるようなドラマーになります」
龍児はまっすぐ2人を見て、告げた。
短い沈黙。
「飛び回らせるような・・バンド、だろ?」
海斗が笑顔で言った。
「俺らを忘れんな。自分一人で抱え込むな。3人で一段ずつ階段を上るんだ」
雄大も微笑みながら言った。

龍児は改めてこのバンドとの出会いに感謝した。
自分のドラムが全部悪いと決め付けていた。

俺達はバンドなんだ。

ライブの承諾メールの返信はすぐに返ってきた。
『よろしくお願いします。7月15日土曜日、Tabasco houseです。詳しい日程は後ほど連絡します』
雄大は了解のメールを送った。
「じゃ、そろそろ戻るか」
3人はライブハウスに戻っていった。

3番目のバンド「SHAKE BABY」が演奏していた。
ボーカルが小指にマイクのコードを絡ませ、クネクネと体をしならせながら歌っていた。
客席からは「○○くーん」と黄色い声援も飛び交っていた。
リハの時は普通だった髪が、ワックスでガチガチに固められてあり重力に逆らった立ち方をしていた。
服も白いカッターシャツに黒いベストなど、こったおしゃれ着をしていた。
龍児はGパンにTシャツ1枚の自分を見て、おかしな気分になった。
バンドに対する価値観の違いが、このライブで思い知らされた。
そして、自分達のバンドの良さも改めて知った。

龍児の眼は次の目標に向かっていこうとする眼になっていた。

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