「重たいですね・・これ、何が入ってるんですか?」
「ドラムの機材が入ってるんだ」
スネアといっても分からないであろうと察した。
「ドラムやってるんですか、すごいですね」
「そうかなあ。俺は弦楽器の方がかっこいいと思うけどなあ」
「あの、高校生ですか?」
「うん。大工の2年」
龍児は女性の歩幅に合わせる。
「私、宮西高1年の坂本明日香っていいます」
「あ、俺は森平龍児」
1年ということは1つ下か。
スタジオが見えてきた。
「俺、あそこだから。荷物いいよ。ありがとう」
「あ、はい」
スネアケースを龍児に差し出す。
「がんばってくださいね」
龍児は恥ずかしくなり手を振って応えた。
まともに喋れてたかもあまり覚えていない。
龍児は恋愛に関しては経験がない。
中学2年のころ、クラスの女子に付き合ってくれと告白されたことがある。
断るのも悪いのかなと思い、ワケが分からないまま付き合うことになった。
だがデートもろくにせず相手から別れようと言われた。
付き合ってた間、学校で話しかけられたり、一緒に帰ろうと誘われたりしていた。
たが、龍児は恥ずかしいからといって話しかけられても会話にならず、誘いも断っていた。
よくよく考えれば、好きでもない人に簡単に付き合ってしまって悪かったなと思っている。
龍児は中学3年の頃に、人生初めての恋をした。
向こうからよく話しかけてきていたが、龍児からは話しかけれなかった。
そして告白もできず卒業し、別々の高校へと進学した。
いろいろな人から、相手の子も龍児のこと好きだったと聞いたのは高校になってからだった。