スタジオの前でずっと話していて、気づいたら10時を回っていた。
駅に戻りバスの運行表を見ると2分前に出発していた。
次のバスは30分後。
前にもこんなことがあった。
あの時はバスが20m先で出発していた。
「あのときに比べたらましか・・・」
龍児は駅のイスに腰をおろした。
ウォークマンを取り出し、耳にイヤホンを装着した。
ぼーっと周りを見ていた。
悪そうなあんちゃん3人組が前を通り過ぎた。
通る人皆、俺を無視していく。
俺という存在に気づいていない。
形は目に見えていても、存在には気づいていない。
前を通るサラリーマン風の人が携帯を見ながら歩いていった。
ここに居る俺が仮に、今話題の売れっ子バンドでテレビにも出ているような有名人だとすれば。
今前を歩いている女性2人組は俺に話しかけていたのかもしれない。
今向こうで電話をしている男は電話を切ってこちらに駆けつけたかもしれない。
俺みたいな奴はこの世にいくらでもいる。
高校もロクに行かずぶらぶらとしている奴ら。
バンドでドラムを叩いてる奴ら。
俺じゃないといけなかった場所はあるのか?
Junkersも俺じゃないといけない、そうであってほしい。
でも、俺よりうまいドラムなんて幾らでもいる。
あの時海斗に話しかけてなかったら今頃、別のドラムが居るはずだ。
森平龍児も俺じゃない場合だって・・・
「あの・・・」