「バンドっていうのは、あんなに人の心を動かせるんだね」
母親は皿を取ろうと手を上に伸ばす。
その時。
弱弱しい手の動きにより、皿が滑り落ち、床に落ちた。
皿は割れなかった。
龍児ははっきりと見ていた。
右手が皿の重力が掛かった瞬間、力をなくすように崩れていったのだ。
「おい」
龍児は駆け寄る。
「ああー、わ、割れなくて良かった・・・」
母親はあわてて皿を拾おうとする。
右手を見るとやはり様子がおかしい。
龍児は強引に母親の袖をまくった。
「なんだこりゃ・・・」
湿布を2枚張っている腕。
少し腫れて、アザのようになっている。
「どうしたんだよ、これ」
母親は黙ってしまった。
「ラ、ライブでなったのか?」
母親は観念したように言った。
「ちょ、ちょっと人にぶつかっちゃってね・・」
「ぶつかった程度のアザじゃねえだろ」
龍児は少し感情的になっている。
母親は隠すように袖を下ろした。