小説『ちっぽけなバンドの物語』
作者:Dissonance★()

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「人が回りながら暴れてるのに、当たっちゃって・・・」
龍児の顔が青ざめる。

モッシュだ。
手や足をぐるぐると回し、動き回る行動。
周りを見ず、手足をしならせ暴れまわるのである。
モッシュは、公園などにラジカセを持っていき、練習をする人も居る。
そんな人の蹴りは、キレがよく、当たるとかなり痛いだろう。
丁度こんなアザになるのだろう・・・

腕に蹴りを入れられる母親の姿を想像すると、じんわりと涙が出てくる。
まさか、自分のライブで怪我してたなんて。
わざわざ休みを取って、ワケの分からないところでけたぐられたのである。

「龍児」
母親が口を開いた。
「バンドを本気でやりたいなら、けじめをつけるべきじゃない?」
龍児はパニックのせいか少し理解が遅れる。
「学校、自分がやりたいようにしなさい」

龍児は涙が溢れた。
こんな怪我をしながら。
バンドというものを分かってくれている。
我が子が、あのような場所へ行こうというのを。
「お袋・・・」
「あんたがあんなに真剣なところはしばらく見てなかったね」
龍児はぐしゃぐしゃに泣いている。
「母さんのことはいいから、とにかくやるからにはがんばりなさい」
母親はそう言って、我が子の頭をなでた。
龍児は数年ぶりに、母親の前で無様に泣きじゃくった。

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