小説『真剣でパパに恋しなさい!』
作者:むらくも。()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>




「・・・なんだテメーか釈迦堂。こんなとこまで何の用だ」
「相変わらず口が汚いなお前。仮にも俺が年上なんだぞ?」
「俺様より弱いくせに吠えるな」
「・・・はぁ。爺さんもよくこんな奴を育てられたなオイ」
「うるせぇ。俺様は川神院には三年しか修行してないんだ。後はジジイの推薦で世界中を実戦で鍛えながら回ったから今の俺様がいるんだよ釈迦堂・・・ところでなぜクソガキがいる?」
「爺さんに頼まれた」
「連れて帰れ。そしてテメーは富士の樹海で首を吊って死ね」


 酷すぎる罵倒を浴びせながら、青年は釈迦堂と呼ばれた青年を見る。
 少し離れた、青年の集めたであろう漫画のある棚には、川神百代が我が家にいるかのように寛ぎながら漫画を読んでいた。
 そんな百代に、青年は頭の米神を刺激しながら煙草を吸い、灰皿に押し付けて窓を開け、空気を換気する。
 この青年、口は悪いが意外と面倒見がいいため、まだ子供の百代を気遣って窓を開けたのは本人しか知らないことであろう。


「で、だ。爺さんからの伝言で暫く百代を預かって欲しいそうなんだ」
「却下。なんで俺様がそんな事をしなければならない?」
「爺さん曰く、お前の傍に置いて百代の戦闘本能を和らげるため、らしいぞ?」
「知らん。自分でやれるだろう。俺様なんか戦闘本能を抑える事は川神院に入って二ヶ月で終わらせているんだ。あの才能に溢れた百代なら自分でやれるだろ」
「実際はお前の方が遥かに才能はあるんだがねぇ・・・爺さんに生まれた時代どころか世界を間違えたと謂わしめるくらいだぞ?」
「さあな。ビール、飲むか?」
「貰おう」


 青年は自分の家であるアパートに置いてある少し古い冷蔵庫を開けると、キ○ンビールを二本取り出して一本を釈迦堂に投げ渡した。
 釈迦堂はおっとと言いながらそれをキャッチすると、プシュッとプルタブを開けてビールを飲んだ。
 対面には、ちゃぶ台を挟んで青年がビールを一気に飲んでおり、釈迦堂は少し呆れた目で見ていた。


「オイオイ。イッキはあぶねえぞ?」
「俺様はそんなタマじゃない」
「あー! 昼間から酒飲んでるー!」
「・・・うるせぇぞクソガキ。口止め料に冷蔵庫にアイスクリームあるからそれ食え」
「ハーゲンダッツ?」
「残念。ゴリゴリ君だ。後はスイカバーだな」


 すると、スイカバーいただきーと叫びながら冷蔵庫を開ける百代はそれを取り出し、袋を乱暴に破ってかぶりついた。
 最近は少し暑くなってきたからちょうどいいだろうと思いながら青年はビールの空き缶をちゃぶ台に置き、釈迦堂と向き合う。


「・・・で。俺様はクソガキを預からないといけないのか?」
「長くて一週間、短くて明後日までだそうだ。後、爺さんから報酬としてこれを預かったんだが・・・」
「どうせ川神の寿司屋の無料券だろ。ジジイ、ケチな部分・・・が・・・」


 青年は、釈迦堂から受け取った封筒の中身を見て絶句、というよりは目を見開いて驚く。
 釈迦堂はなんだ?と思いながら覗いてみると、諭吉が厚く重なっているのが見えた。
 二人して沈黙し、暫しの間、固まる。そんな二人に百代は呑気にスイカバーをかじりながら漫画を読み、二人を見ていた。


「・・・マジかよ。あのジジイ、なんで金なんか出すんだ?」
「それだけ百代の精神訓練をしたいからじゃないか? 川神院でも百代には精神修行を優先的にやらせているようだし」
「・・・まあ、あれだけの才能を持つんだ。期待をすると同時に修羅に堕ちるのを防ぎたいのだろうな。どれだけ優れた武人でも、快楽の道に堕ちればそれまでだ。俺様も、そんな奴等は見てきた・・・釈迦堂。貴様もそれに近いニオイがするぞ」
「! やっぱお前には隠し事はできないな。爺さんですら欺けているのにヘコむぜ」


 青年は鋭い、先程のダルそうな印象はガラッと変わり、射殺さんばかりに釈迦堂を睨む。
 釈迦堂はそんな目を見て素直に驚き、同時に戦慄した。


「(オイオイ・・・なんっつー目をしやがる。爺さんレベルの殺気が俺だけに当てられるじゃねーか)」
「釈迦堂。貴様がどんな道を行こうが俺様には関係ない・・・だが、俺様に牙を剥くなら・・・容赦はせん」
「おーおー怖い怖い。肝に命じておこう」


 おどけた様子を見せる釈迦堂だが、内心は冷や汗を大量に流しながら青年の殺気を受ける。
 青年はそんな釈迦堂に脱力すると、諭吉が入っている封筒をちゃぶ台に置いた。


「結論から言うと、百代を預かるのは断る」
「ありゃ」
「だが、ここに来る事だけは了承する。よってこの報酬はいらん。俺様は傭兵稼業でしこたま稼いだからこの程度では満足はしないとジジイに伝えろ」
「・・・前々から思ってたんだが、ツンデレか?」
「殺すぞ釈迦堂」


 にこっと人懐っこい笑顔を見せる青年だが、目が笑っておらず、少しだけ顔に影ができていた。
 先程の殺気とは比べ物にならない量が青年から発せられ、離れた百代がビクッとして漫画を落としていた。


「次、ツンデレなんざほざいてみろ・・・貴様をツンドラに放り投げてやる」
「お、おう・・・」
「今日はもう帰れ。ったく、なんで川神院を抜けた俺様が後輩の面倒を見なきゃならないんだ・・・ジジイ殺すジジイ殺すジジイ殺すジジイ殺す・・・」


 ダークサイドに堕ちた青年に、釈迦堂は顔をヒクヒクさせながら見ていた。
 どれだけ、川神鉄心に苦労させられたのかと思い、同時に川神鉄心にも苦労を掛けてるよお前。とも思う釈迦堂だった。


「クソガキ」
「なんだよー。私は百代だって言ってるだろー」
「はっ! 俺様に面と向かって名を呼んでほしければ俺様に認められるんだな。今日はもう帰れ。俺様はこれからキャバクラに行くからな」
「・・・綺麗なねーちゃんならここにもいるぞ・・・ってなんでそんな生暖かい目で見る? 頭を撫でるなッ! 優しく接するなー!」


 綺麗なねーちゃんから青年は今までの印象を覆すほど慈愛に満ちた目をすると、手の掛かる子供を世話するように頭を撫でる。
 そんな青年の豹変+ナデナデに百代はぷんすかと怒り、青年の手をバシバシ叩いていた。


「・・・案外面倒見がいいのは本当だったんだな。ツンデレと言われ」
「あん?」
「・・・すまん」


 ツンデレ発言に、青年は慈愛に満ちた目を釈迦堂にだけ殺気を孕む狂気の目にして睨む。
 そんな青年にただ釈迦堂は溜め息をつくのだった。





-2-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




真剣で私に恋しなさい!S 3 (一迅社文庫)
新品 \620
中古 \300
(参考価格:\620)