小説『真剣でパパに恋しなさい!』
作者:むらくも。()

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「・・・ジー」
「駄目だ。お前は俺の家をマシュマロだらけにするつもりか。マジやめろ」
「ボク、マシュマロ食べたい」
「家にまだあるだろ」
「食ーべーたーいー」


 うぜぇ・・・と青年は呟きながら、自分の足にしがみつく白い髪の少女を見る。
 少女を保護して一ヶ月。痩せこけた体は普通の、同年代の子供と変わらない体に回復し、不安定だった精神も安定し、こうして青年と買い物にも行けるようになった。
 マシュマロ〜マシュマロ〜とおねだりする少女は、青年の足をよじ登って肩車するように肩に座り、頭を揺すっていた。
 揺れる視界に溜め息を漏らすと、スーパーのマシュマロの袋を二つ手に取って買い物カゴに入れ、うんざりしながらレジに向かう。
 マシュマロー!と叫ぶ少女に、スーパーで買い物をする人間は微笑ましい様子で見つめていた。


「五千七百二十三円になります」
「ん」
「六千円お預かりいたします。レジ袋はいりますか?」
「頼む」
「マッシュマロ〜マッシュマロ〜♪」
「・・・うっせぇぞ白チビ。スーパーなんだから静かにしてろクソガキが・・・」
「むぅ。ボクは白チビじゃない! 小雪なのー!」
「わかった。わかったから頭の上でわめくな」


 こいつを引き取るのは選択ミスだ。と頭を押さえながら買った食品をレジ袋に入れ、マシュマロの袋だけを少女・・・小雪に渡す。
 わーいと小雪は喜び、青年の肩でマシュマロの袋を開け、それを食べ始めた。
 やれやれ・・・と青年はレジ袋を右手に持ちながらスーパーを出て、アパートに向かう。



 少女、小雪の親はやはり覚醒剤をしていた。
 鉄心の進言で警察は捜査をし、彼女の母親が娘である小雪を虐待していたという事実が明らかになり、逮捕された。
 また、父親は覚醒剤の常習者であり、売人もしていたため、逮捕されたと同時にひとつの大きな麻薬組織を潰す事に至る。
 そして小雪だが、施設か川神院に保護される予定だったが、青年にべったりとなつき、彼を身元保証人として小雪は青年の家に転がり込んだ。
 更に、学校でもイジメ問題が発覚し、担任の教師や関わった教師、教頭や校長に厳しい罰が与えられ、イジメていた生徒にも親側から説教をするようにとのこと。
 中には、保護者であるにも関わらずに子供と一緒に小雪を妨げていたのがおり、警察も世間も頭を痛めていた。


「マッシュマロ〜マッシュマロ〜マシュマロマシュマロマッシュマロ〜♪」
「・・・ジジイ・・・後で殴らせろ・・・」


 だが、小雪を引き取った青年はかなりうんざりしていた。
 保護した日からは、小雪は何かに怯える毎日を過ごし、無気力な毎日を送っていた。
 布団も一枚しかないため、青年は小雪を布団に寝かせ、自分は壁に寄りかかって寝るのだが、次の日には何故か青年の膝の中に丸まるように寝ていた事が多かった。
 更に、酒の臭いや煙草の臭いに過剰に反応し、怯えるため、断酒禁煙の毎日を強制されたため、かなりフラストレーションが溜まる青年だった。
 そんな風に小雪の回復に専念して一ヶ月が過ぎた頃、前の面影はなくなったかのように小雪は笑顔を見せるようになった。
 回復したので、川神院に預けようとしたが、小雪自身がまたごねるためにまだ青年の家に住み、青年は絶望する。
 何故だ・・・何故俺になついている・・・。
 断酒禁煙は徐々に解除されていくが、川神院の川神鉄心や師範代のルー・イーにより、酒や煙草は没収されるため、青年は川神院で鬱憤を晴らすかの如く、川神鉄心と死闘を繰り広げる。
 現在、二十七戦三勝二敗二十二引き分け。青年の勝ち越しで川神院の門下生に尊敬の眼差しを浴び、百代からは戦えオーラを受け、青年は頭痛と胃痛持ちになり掛ける。


「ねーねー! 今日のゴハンはー?」
「酢豚」
「餃子はー?」
「・・・白チビ。テメーは俺が料理できると思ってんのか? 簡単なのしか作れねーよ」


 俺は料理人じゃねぇと言いながら町の中を歩く青年。肩にいる小雪はぶーぶーと言っていたが、青年はガン無視していた。
 禁煙命令が出されている彼は、来ているパーカーのポケットからチュッパチャップスを取り出すと、煙草を吸うように口にくわえた。
 ボクもボクもーと手を出す小雪にも、嫌そうな顔をしながら渡すと、チュッパチャップスを舐めながらマシュマロを食うという荒業をする。


「美味しいー!」
「・・・白チビ。なんで俺といたがる」
「んー。やっぱりボクのヒーローだからかな?」
「あ? ヒーロー?」
「うん。あの辛い日から助けてくれたし、何かと世話をしてくれてるからかな?」
「・・・ケッ」
「あー照れてるー?」
「照れてない」
「照れてるー!」
「照れてない!」


 少し顔が赤い青年に、小雪は新しい一面と珍しい一面を見たため、嬉しそうに、楽しそうに笑っていた。
 その姿は、誰が見ても不器用な父親と天真爛漫な娘にしか見えず、すれ違う人々はそんな青年の姿に、驚いていた。






 ◆






「・・・珍しいな。ジジイは兎も角、川神院総本山の師範代が勢揃いか。明日、天変地異でも起きるんじゃねえか?」
「オイオイ。第一声がそれかよ」
「変わらないネ」
「釈迦堂は兎も角、テメーもかルー。カレールー製造工場に働いてるかと思ったぜ。あ、シチューのルーか?」
「・・・いくら私でも怒ルよ?」
「っは! 二ヶ月で俺に抜かれたくせに余裕だなァ、オイ!」
「いやいや。お前さんの才能が大きすぎるからコイツを抜いたんだからな? もう爺さんレベルに近いのにまだ俺等より年下なんて世も末だなルー?」
「確かにネ。もう学長の実力に近いから世界が狙われそうで怖いヨ」
「ん。なんだ? 世界征服してやろうか? 三日もあればでk「「やめろ!」」ちっ。ジョークだっつーのに・・・で? 俺を呼んだ理由は?」
「ほっほ。ワシが呼んだんじゃよ」


 青年はしばらく経った日に川神院の一室を訪れていた。
 そこには師範代であるルーと釈迦堂が座っており、少しだけ話すと、川神鉄心が髭を触りながら入ってきた。


「なんだジジイ。俺を呼んだからには何か用があるんだろ?」
「無論。とある国からの要請で、巨大な犯罪組織の足取りが掴めたのでワシ等、川神院もそれを潰すのに参加をすることを決定した」
「ほー珍しいな」
「それで場所ハ?」
「アジアの台湾と中国のマフィアの本拠地がある場所じゃ。それで、主にも援護を頼みたい」
「・・・それで俺を呼んだか・・・まあいい。ちょうどよかったな」


 ぬ?と鉄心は青年の態度を訝しげに思い、釈迦堂とルーと青年を見ていた。
 胡座をかいて座り、顎を指で撫でる青年は見られている事に気付き、肘を膝に置いて頬杖をつきながら答える。


「これを期に、俺は再び世界を回る」
「「なっ・・・」」
「・・・じゃが、小雪ちゃんはどうする気なのじゃ?」
「知り合いに預ける。榊原夫妻って奴等にな。精神カウンセラーもやってるから暫くはあの二人にやってもらう。俺様はそのまま世界で傭兵稼業再開だ」


 そんな青年を鋭い、老人とは思えない目付きで見る鉄心に、青年は受け流すように視線を受け、用意された茶を飲む。


「・・・ジジイ・・・いや、オヤジ。アンタは言ったよな? 『大きな力を持っても、使い方では凶器になる』って」
「うむ」
「やはり俺には無理だ。平穏は一番似合わない・・・囁くんだ。俺の、闘争本能が。戦闘本能が。殺意が。今まで積み重ねた経験が・・・俺を戦いの宿命に戻れとな・・・」


 青年はふぅと一息つくと、湯飲みを下に置き、鉄心を見る。
 その目はダルそうな目ではなく、まさに獣のように何かに飢えたようなギラギラした目をしていた。
 それに、釈迦堂とルーは目を見開くが、鉄心は髭を触りながらぬぅと漏らす。


「これはもう決めた・・・俺、最強の傭兵たる『鮮血の覇王』の復活だ」
「・・・仕方あるまい。許可をしよう」
「爺さん?」
「仕方ないのじゃ。こやつの本性はワシのせいなのじゃ。百代よりも濃い闘争本能を今までよくぞ抑えられたとワシは思う。こやつは、まさに戦いの申し子なのじゃよ・・・生まれた世界を違えるほど、の・・・」
「だが、君は百代や小雪ちゃんはどうするつもりなんダ?」
「・・・そう、だな。俺様はもう川神に戻らないかもしれない・・・最後に、百代と“本気で”戦おうかと思う」
「・・・よいのか?」
「ああ。世界最強になるであろう百代にプレゼントだ」


 そう言う青年に、武人である釈迦堂とルー、武術の神と謳われる鉄心は戦慄する。
 本気を見せる青年は鉄心を除き、釈迦堂やルーのような師範代ですら初見なのだから。


「?俺様?という“壁”を超えられるか、試させてもらうぞ川神百代」


 獰猛な笑みを浮かべる青年。
 そして、川神百代にとって忘れられない最後の日が始まる。





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