第二十六話 戦争
翌日。
マグノリア南口公園に人だかりができていた。
「すまん、通してくれ。ギルドの者だ」
人の中を進むカイルとエルザにナツ、グレイ、ルーシィにハッピー。
「…っ」
悲惨な光景に思わず息を飲む。
辿り着いたそこには、木に張り付けにされた仲間の姿。
「レビィちゃん…!」
「ジェット、ドロイ!!」
ルーシィとグレイが名前を呼ぶが反応はない。
三人の身体にはたくさんの痣があり、レビィの腹にはファントムのマークが描かれていた。
「…ファントムかぁ…!」
歯を食い縛り、爆発しそうな怒りを必至に抑えるナツ。
「やってくれたな……ガジル!!」
あのカイルが瞳に怒りを燃えたぎらせている。これほど怒ったカイルを見たのは最も長い付き合いのエルザさえ久しぶりだった。
「──ボロ酒場までなら我慢できたんじゃがな…」
「マスター…」
白のコートに聖十大魔道の称号を背負い、マカロフは持っている杖に力を込める。
「ガキの血を見て黙っている親はいねぇんだよ!」
怒りに比例するかのように砕ける杖。
「───戦争じゃ」
*
あれからマグノリア病院に運ばれた三人。
「ドロイ…、ジェット…、……レビィちゃん…」
ルーシィは悲痛な表情で三人を見守る。
「酷いことするんだな……ファントムって…」
「皆行っちゃったよ…?」
返事をする者は誰もいない。
大粒の涙が溢れてくる。
「ねぇ、私…許せないよ……」
ルーシィは爪が皮膚に食い込むほど手を握りしめる。
フィオーレ王国の北東 オークの街。
歴史ある城下町で、その中心にそびえ立つのは魔道士ギルド 幽鬼の支配者。
「はっはー最高だぜぇ」
「妖精のケツはボロボロだってよー」
「ガジルの奴、その上四人もやったらしいぜぇ」
ギルド内ではたくさんの者が酒を飲み、妖精の尻尾のことを罵倒している。
「ハッ案外大したことねぇんだなぁ」
はっはっはっ、と大笑いをしながら酒を飲み干す。
「さぁて、仕事行くかぁ」
「帰りに俺等も妖精の羽、むしって来ようぜ!」
男が笑いながら扉に向かったときだった。
ドオンッと音を立て、煙を巻き上げなから扉と共に吹っ飛ぶ男。
「妖精の尻尾じゃぁぁ!」
「「おおー!!」」
煙が晴れ、姿を現したのは妖精の尻尾のメンバー。
「うおぉぉぉ!!」
先陣を切ったのはナツ。
両手に炎を纏い、ファントムを蹴散らしていく。
「誰でもいい…かかって来いやあぁぁぁ!!」
ナツの怒気を含んだ咆哮を合図に、二つのギルドが正面衝突する。
「はあぁぁ!」
「うぉぉ!」
「おらぁ!」
カイルが、エルザが、ナツがグレイがロキがエルフマンがカナが、ハッピーが、…全員が各々の魔法を使いファントムを圧倒する。
「っ…マスター・マカロフを狙えぇぇ!!」
「おぉぉ!!」
「───うおあぁぁぁ!!」
大勢の者が周りを囲んでマカロフを狙うが、巨大化したマカロフに簡単に薙ぎ払われてしまう。
「化け物…っ」
「貴様等はその化け物のガキに手を出したんだぁ。人間の法律でてめえを守れるなどと思うなよ!」
「つ、強ぇ…」
「兵隊どももハンパねぇ!」
「コイツら滅茶苦茶だ…!」
「これが妖精の尻尾の魔道士か!?」
妖精の尻尾の勢いにファントムの士気が下がり始める。
「圧せ圧せぇぇぇ!!」
「―――…あれが妖精女王のエルザ。黒の騎士王カイルディア。ラクサスとミストガンは参戦せず、か。…ナメやがって」
闘いを上から見下ろすのはガジル。
「しかし、これ程までマスター・ジョゼの計画通りに事が進むとはなぁ……せいぜい暴れまわれぇ、クズどもが」
「焼き尽くせ!!イフリート!!」
色が変わるほどの超高熱魔法を放つカイル
「──アイスメイク ランス!!」
グレイの氷が敵を凍らせ、
「はぁぁっ!」
エルザの剣が敵を切り裂く。
「火竜の咆哮!!」
「うわぁぁ」
「くそーっ!」
全員で背を預け合い、中心に固まる。
「やるじゃねぇか、タレ目野郎」
「てめぇもな、つり目野郎」
「このまま押しきるぞ、エルザ。背中は任せる!!」
「任せろ!!相棒!!」
「「「おお!!」」」
完全にこちらが優勢。
それを見計らったようにマカロフが上の階を目指す。
「カイル!エルザ!ここはお前たちに任せる!」
「マスター!」「じーさん!!」
「ジョゼは恐らく最上階…。わしが息の根を止めてくる」
「…お気をつけて」
マカロフは戦場をエルザたちに任せ、扉を破壊して先へと進む。
「エルザ、俺も行ってくる。何かやな予感がする」
「カイルもか……悪いが頼む。お前ならジョゼにも負けない」
ニヤッと笑い、親指をつきたて、最上階へと向かう。
(まだ嫌な予感は消えないが……カイルがいるんだ。大丈夫)
エルザが不安を紛らわすように剣の柄を握ったときだった。
「───ギヒヒヒッ」
「「!」」
ファントムの看板を自ら破壊し、何者かが上から降ってきた。
「アイツは…」
「……鉄の滅竜魔道士、鉄竜のガジル…!」
タイミングを見計らい、戦場に現れたのはガジル。
「ってめぇがレビィをー!!」
ギルド襲撃の犯人が現れたことに、怒ったナブが拳を構えて飛び掛かる。
「ハッ」
「っうあ!」
だがあっさりとガジルのカウンターで吹っ飛ばされてしまう。
「ナブ!!」
「アイツ…!自分の仲間を巻き添えにしやがった…!」
「ギヒッ来いよクズ共ぉ。鉄の滅竜魔道士、ガジル様が相手をしてやる」
ガジルが加わったことにより、闘いは勢いを増していた。
「───ガジルゥゥゥーッ!!」
「ギヒッ!」
現在は怒りの炎を纏ったナツとガジルが闘いを繰り広げている。
「暑苦しい野郎だなぁ、てめぇは」
「うっせーよ、ガチガチ野郎」
鉄竜と火竜が激しくぶつかり合い、ギルドは半壊状態だ。
「っ…何だ!?」
「あーらら」
「始まったか」
突然大きな揺れがギルドを襲う。
「っ何がだよ!?」
「これはマスター・マカロフの怒り」
「…巨人の逆鱗さ。誰にも止められねぇ」
ゴゴゴッと更に揺れは増す。
周りも壁や天井も崩れだした。
「覚悟しろ!マスターとカイルがいる限り、私たちに敗けはない!」
*
ギルドを金色の魔力によって破壊しつつ、歩みを進めるマカロフ。
「……ジョゼェ」
「これは、これは…」
遂にマスター・ジョゼの元に辿り着く。
「あれは何の真似じゃぁ?」
怒るマカロフに対し、ジョゼは不気味な笑みを浮かべている。
「ちょっとお酒が入っていたもので…」
「ふんっ!!」
全部言い切る前にマカロフが攻撃を仕掛ける。
「世間話をに来たんじゃねぇんだよ、ジョゼ!」
「フッフッフッ」
攻撃を喰らった筈のジョゼは無傷。
「む!思念体じゃと!?貴様…このギルドから逃げたのか!」
「そう言うわけではありませんよ。ただ聖十同士がやり合えば天変地異を起こしかねない」
マカロフの怒りは更に増し、一対一で闘うよう言うがジョゼは応じない。
ブブッ、とジョゼの足元が歪んだ。
「フッ」
「な…っ、ルーシィ!?」
勝ち誇ったようにジョゼは笑う。
その足元には縛られたルーシィ。
「貴様ぁ…!…っ…!?」
ジョゼはルーシィに攻撃をしようと手を上げる。
「よせぇー!!」
マカロフが必死にジョゼを止めようと叫んだときだった。
音もなく突如背後に現れるアリア。
(しまったぁ…!こやつ、気配がない…!)
「か、か、か、悲しいぃぃ」
「っ、ぐあぁぁぁ…!」
マカロフはアリアの光を浴びる直前、アリアは吹き飛ばされた。
「チェックにはまだ早すぎるだろ?ジョゼ」
足に金色の魔力を纏ったカイルが飛び蹴りでアリアを蹴り飛ばしたのだ。
「やれやれ、もう一人の聖十が来ましたか……少し計画にズレが生じそうですね…」
「す、すまんカイル。助かった」
「怒りに燃えるのはいいが、とらわれんなよ?じーさん」
返事をしようとしたが、突然マカロフが心臓を抑えて、倒れた。
「!!!お、おいじーさん!!どーした!!おい!!」
「おやおや?コレは嬉しい誤算。どこか悪いのかな?マカロフ」
ヤバイ。思念体とはいえ攻撃は出来る。今の状態のじーさんを戦わせるワケには!!
意を決するとカイザーナックルを換装し、床を叩き壊し、マカロフを連れて一階へ非難する
「じっちゃん!」
「じーさん!」
土煙が晴れたそこに横たわるマカロフの姿を見て驚く。
ナツや皆が必死に呼び掛けるが、マカロフは指一本すら動かせないでいた。
(チッ…白けんなぁ。せっかく盛り上がってきたってのによぉ」
「ガジル…!」
吐き捨てるように言うガジルにナツが歯軋りする。
「───おい!マスター・マカロフがやられた今がチャンスじゃねぇか?」
「おぉ!行けるぞ!」
「これで奴らの戦力は半減!」
「こっちにはガジルもエレメント4もいるんだ!」
うぉぉぉ、とファントムの士気が上がる。
それにいち早くエルザが気付く。
「危ねぇ!」
「キャァッ」
「くそ…っ!」
「…!」
このままではまずい。
士気の低下が深刻だ…!
「エルザ!一旦引くぞ!!じーさんをこのままにしとくわけにはいかん」
「!!あ、ああ……撤退だー!全員ギルドへ戻れー!!」
「はぁ?」
「エルザ!?」
「馬鹿な…!何言ってやがんだ!」
「俺はまだやれる!」
「私もまだ闘えるよ!」
「ダメだ!マスターなしでは、ジョゼには勝てん!」
エルザがそう叫ぶが、誰一人退こうとしない。
「カイルがいるじゃねえか!!」
「無理だ!!奴との戦いは恐らく死闘になる。お前らもそうだが、今の状態のじーさんを巻き込むワケにはいかん!!」
「っいいのかよカイル!!ファントムは仲間を…!」
納得がいかないと、食い下がるナツ。
「ナツ!」
「!!」
「撤退するんだ!これは命令だっ!!」
「…っ」
エルザとカイルの必死さが伝わり、妖精の尻尾が悔しげに撤退する。
「くそぉぉ!!」
「ちくしょぉ!」
「奴ら逃げるぜ!」
「追えー!!」
皆が撤退する中、ナツが急に立ち止まる。
「どうしたのナツー!?」
「っガジル!!」
ハッピーの問いに答えず、ナツはガジルに叫ぶ。
「ハッいずれ決着をつけようぜ!火竜(サラマンダー)!!」
「っ…!」
そう言い、ガジルはアリアと共に消える。
「どうしたのナツ…?」
「…ルーシィが捕まった、…!」
「撤退だー!退けー!!」
「阿呆言え!」
皆が退いて行く中、グレイは手に冷気を溜め退こうとしていなかった。
「レビィたちの仇をとるんだ!!」
「頼む…」
「エルザ…」
グレイが魔力を放とうとするがエルザに止められる。
「今は……退くしかないんだ…」
「後で俺を殴ってくれて構わない……だから今は引いてくれ、グレイ」
涙を堪え、震えるエルザ。握りしめたカイルの拳からは血が滴り落ちていた。
「くっ!クッソォオオオオオォオオ!!!!!」
あとがきです。久しぶりの更新です。いかがでしたか?次回、マカロフの異常を察せられなかった自分を責めるカイル。その時差し伸べられる手………誰の手かはまた次回。それではまたお会いしましょう!!