第二十七話 タイムリミットは十五分
ファントムのギルドから撤退に成功した皆。
ナツは捕らわれたルーシィを救出して戻ってきた。
気を失ったマカロフはマグノリアの東の森に住む治癒魔道士のポリューシカの元に運ばれた。
カイルにしか教えられてないが、ポリューシカの話によるとマカロフは何かの大病を患ってるらしい。
もう永くはないそうだ。
「………その事、じーさんは知ってんのか?リューさん」
「一ーー知らせてはいるよ。こう見えてもフェアリーテイル専属の治癒魔導士なんでね。でも奴は体が動く限り現役を続けるそうだ」
しかし今日明日死ぬという話ではなかった。ひとまずはこの事はカイルの胸の中にのみ押しとどめ、ギルドへと帰った。
「カイル!!マスターの様子はどうだった!?」
「メチャメチャ元気、とはとても言えんがストレスによる発熱だそうだ。じきに治るだろう」
全員が安堵のため息をつく。無事がわかっただけでも良かった、と思っているようだ。
今は地下一階でファントムに向けての作戦会議をしている。
「あークソッ」
「まさか俺たちが撤退するはめになるとは…」
「悔しいぜ!」
「ギルドやレビィたちの仇もとれてねぇしな…」
そんな皆の会話を聞き、ルーシィは表情を更に曇らせる。
「…どうした?まだ不安か?」
「ううん。そういうのじゃないんだ……なんか、ごめん」
グレイが話し掛けるが、ルーシィは謝るばかりだ。
「…元を正せば、あたしが家出なんかしたせいなんだよね…」
「それは違うだろ」
「違わないよ…。皆にこんなに迷惑かけちゃって…本当にごめん…」
あたしが家に戻れば、と自分を責めるルーシィ。
だが、それをカイルが否定する。
「妖精の尻尾のルーシィだろ?此処がお前の帰る場所だ」
「〜っ、うぅ…」
カイルの言葉に思わず泣き出すルーシィ。
それを見、ナツとグレイがわたわたと慌てだす。
「な、泣くなよ!」
「だってぇ〜!レビィちゃんたちやマスターはあたしのせいで傷ついて…」
「ルーシィ…」
「大丈夫だルーシィ!レビィたちは打たれ強いし、じっちゃんは強いぞ!」
「んな簡単に死ぬわけねぇだろ!」
な?とナツとグレイは自分にも言い聞かせるようにルーシィを励ます。
まだ泣いているルーシィの背後にそっと近づく影があった。
「うぅっ、うっ、うっ、うっ?うひゃ、うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!や、やめて!!い、息できない!!」
カイルがルーシィの後ろに回り込み、思いっきりくすぐっていた。泣いていたルーシィは今は別の意味で涙をこぼしている。
「カイル!!!何やってんだお前は!!」
「だってなんかシリアスじゃん。こんな空気やだ」
「ダカラってあれはねえだろ」
まだ腹筋が痛いのか、お腹を抱えて悶えているルーシィ。
「あのな、ルーシィ。腹抱えながらでいいからよっくきけ」「腹抱えてんのはお前のせいだろ……」
「フェアリーテイルにいる時点で、お前は家族なんだよ。家族ってのは迷惑かけてナンボだ。俺なんかナツやエルザにどれだけ迷惑かけられたかわからねえ。言っとくがルーシィが考えてる二億倍は酷いと思って間違いない!!」
それを聞いて気まずそうにするナツとエルザ。周りの連中は確かに、と笑っている。
「だからそれでいいんだよ。悪いと思ってれば上等だ。こいつらは俺に殴られるまで自分が悪いって気づけねえ奴らなんだからよ」
顔をあげていたルーシィを抱きしめ、優しく励ます。しかしやはりそれは逆効果でルーシィをさらに泣かせる羽目になったのだった。
「ダメ!ミストガンの行方もわからない」
カナはカードをばら蒔く。
「そう…」
残念ね、と悲しそうにミラジェーンが呟く。
「ルーシィが狙いだとしたら、奴らはまた攻めてくるはず…。怪我人も多いし…ちょっと不味いわね…」
「マスターは重症…、ミストガンの行方もわからない…。頼れるのは貴方しかいないのよ、ラクサス」
ミラジェーンの視線の先には水晶玉に映ったラクサス。
[ああ?]
「お願い戻ってきて…!」
[俺には関係ない話だ。勝手にやってちょうだいよ]
「ラクサス、アンタ…!」
冷たい言葉にミラジェーンは俯いてしまう。
[じじいが始めた戦争だ。何で俺たちがケツを拭くんだぁ?]
「ルーシィが…仲間が狙われてるの」
[誰だそいつ?…あー、あの新人かぁ。俺の女になるなら助けてやってもいいと伝えておけ]
どんなに頼んでもラクサスは動いてくれないようだ。
「…っ…うぅ…」
ラクリマを叩き壊し、虚しさ、悔しさ、悲しさ、様々なものが入れ雑じり、溢れた涙がミラの頬を伝い落ちた。
数分後、不安を洗い流すかのように、冷水のシャワーをカイルは浴びていた…
(負傷者も多い。これ以上はムリ……か……)
シャワー室のタイルを殴る。
(俺はバカだ!!なぜ気づけなかった!!レビィ達をヤられて熱くなりすぎてた!!周りが見えてなかったんだ!!なにが皆の兄貴だ……なにが最強だ!!俺は……弱い……)
浴び続けていると誰かが入ってきた。驚くが、振り返る気も起こらない。よく知った気配だった。
「なんのようだ?今は虫の居所が悪いぞ。……………エルザ」
入ってきたのはエルザだった……
一糸纏わぬ姿で立っている
「お前の事だ。また背追い込んで自分を責めてるだろうと思ってな。
なんだ、このシャワーの温度は……風邪を引くぞ。お前にまで倒れられたらそれこそおしまいだ」
「うるせーよ」
シャワーのコックをひねり、水を止めた。エルザにかかり、こいつのコンディションを崩すのを避ける為だ。
だが振り返ることはしなかった……俺はこいつらの前では最強でいなければならない。こんな情けない顔をしたカイルを見られるわけにはいかなかった。
「カイル……」
エルザはそのままカイルの背中に抱きついた。豊かな双丘が押しつぶされる。
全ての事情を察したエルザにはそれぐらいしかできなかったのだ…自分がカイルと同じ立場なら同じ事を考えるだろうから……
「……お前のせいじゃない……」
耐えきれなくなったカイルはエルザに向き直りかき抱いた。その存在を確認するかのように強く………頬からは涙が流れ落ちている。
エルザも抱き返す。肩にかじりつき、嗚咽をもらす……自分の弱さを見せられる。お互いそれが出来る唯一の相手だった
突然大きな揺れがギルドを襲った。
全員が外に飛び出し、カイルとエルザもタオル一枚巻いた状態で飛び出した。
「な、何だあれは…!」
「おいおい…!」
「ギルドが歩いてるよ!」
「想定外だ…まさかこんな方法で攻めてくるなんて…!」
揺れの正体は六本足で歩くファントムの本部。
それはズゥン、と大地を揺らし、波を巻き起こしながらこちらに向かっていた。
皆が慌てる中、動いていたファントムのギルドが凄い音を立てて停止する。
そして建物から巨大な大砲を出してきた。
魔導集束砲ジュピター。
当たればギルドだけでなく皆も木端微塵になってしまう。
────エネルギーは既に蓄えられている。
「っ…まずい!全員伏せろぉぉ!!」
カイルとエルザが巻いていたタオルを落とし、換装しながら皆の前に飛び出す。
「カイル!!」
「エルザァ!!」
「ギルドは…やらせん…!!」
「銀の妖精王(シルバリオ・ティターニア)の力、見せてやる!!!」
カイルが召喚した精霊王はオーフィス。すでに精霊魔装が展開されている。
換装したのは超防御力を持つ金剛の鎧。
いくら超防御力を誇る鎧でも相手が悪すぎる。だがカイルがその威力を軽減できればあるいは……
「な、なんだ?その精霊魔装は?」
「幾らカイルでも無理だ!!」
「よせエルザ!死んまうぞ!」
「エルザァ…ッ!」
「ナツ!ここはカイルとエルザを信じるしかねぇんだ!」
「伏せろぉぉぉ!!」
ジュピターが発射された。
「冥竜奥義!!冥殺黒龍波!!!」
黒と青が混じった様な魔力がジュピターと撃ち合いになる。
(守るんだ…!家族を…居場所を!!)
「おおおおおおお!!!オーフィス!!俺の魔力全部喰らって構わねえ!!押し切ってくれ!!」
【御意のままに……我が奏者よ】
さらに巨大化するカイルの滅竜奥義。二つの魔力が空中で爆散し、消えた……カイル一人でジュピターを受け切ったのだ。
しかしそのまま倒れるカイル。それをエルザが受け止めた。
「カイル!!なんて無茶を……!!」
「カイル!しっかりして!!お願い……」
カイルを抱き締めるエルザとミラ。
「や、やり切ったか……だが、ちょいと無茶が……過ぎたよう……だ」
そのまま気を失ってしまった。
ギルドや皆は無事。
だがカイルは戦闘不能となった。
「マカロフは倒れ、黒の騎士王も戦えない。聖十二人が消えたんだ。もう貴様等に凱歌は上がらねぇ。ルーシィ・ハートフィリアを渡せ…今すぐだ」
戦況はかなり不利。
だが、ジョゼの言葉に全員がふざけるな、と返す。
「ルーシィは仲間だ!」
「仲間を売るくらいなら、死んだ方がマシだ!!」
「俺たちの答えは何があっても変わらねぇ!お前らをぶっ潰してやる!!」
それが気に食わなかったジョゼはもう一発、しかも特大のジュピターを撃つと言う。
更に自分の魔法によって作り出した幽兵(シェイド)までも投入してきた。
カイルでも止めるのが精一杯のものをもう一発。
……次は確実にない。
ジュピターを止めるためナツにハッピー、グレイ、エルフマンがファントムのギルドに乗り込む。
残りの者はエルザを筆頭に下でシェイドと戦闘を開始した。
………タイムリミットは十五分
あとがきです。遂に始まった全面戦争。倒れたカイルに寄り添うのは誰か……次回ローレライの支配者、【もういなくならないで……】お楽しみに!!!