小説『フェアリーテイル ローレライの支配者』
作者:キッド三世()

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第二十八話 もういなくならないで






ふと目を覚ましたらあまり知らない天井が見えた。
そうだ、俺は倒れたんだった……起き上がろうとしたが身体中にまとわりついた倦怠感が俺を押しやった。


「目が覚めたのね……カイル……」


「……ミラか。ずっと見ててくれたのか?」


「ええ、それとエルザやカナに頼まれたわ。もう絶対に闘いに行かせないでくれって」


やっぱりか……だが俺が行かなきゃ皆負ける。


「エルフマンが闘ってるわ」


「………ホントか?」


カイルが驚くのも無理はない。カチコミの時のような雑魚相手なら問題ないが、エレメント4クラスの相手となると全身テイクオーバーの使えないエルフマンではかなり厳しいと言わざる終えない。


そんな事を考えてるのがわかったのか、涙を滲ませながらにっこり笑い、俺に抱きついて来る。


「私もすっごく心配よ。でもエルフマンなら大丈夫。そろそろ弟を信じてやれってカナに叱られたわ。だから私も皆を信じる。だからカイルも信じて……皆が勝つって、信じてここで休んでて……お願い……」


泣きながら俺の胸にかじりつくミラ。いつものようにタダじゃれるような抱擁ではない。何が起きても放さない。そんな意思がこもった腕だった。


「悪いな、ミラ。俺がいまここで寝てるわけには行かねえんだ。俺が闘わなきゃいけムグっ!!」


唇で無理やり言葉を止められる。俺はしばらく動けなかった……ミラだけが俺の舌を舐め、縋り付くように唇を求め続けていた。


「ぷは……ホントはもっとロマンチックなところで奪ってもらいたかったんだけどね……カイルがいけないんだよ?10年クエストに行った時もそう。何でも1人で背負いこんで、私達はいつもカイルにおんぶに抱っこ……そんなの仲間じゃないよ」


「勘違いすんな。仲間だから身体張るんだ。お前らが大事だから俺は「それで待たされる私達の事考えたことあるの!!!」


押し黙るカイル……そんな事を考えたことなど一度もなかった。


「護ってくれるカイルはかっこいいわ、素敵よ?だから大好きよ。でも護られる身にもなってよ!!何もできずただ一緒にいる事しか出来ない。そんな気持ちが貴方にわかる!!??」


「ミラ………」


「もうどこにも行かないで……リサーナみたいに私を1人にしないで……ずっと……ずっと貴方のそばにいさせて………お願い……!」



むせび泣くミラをそっと抱きしめ、顔を上に向かせ、そのままキスをした。今度はあんな一方的ではない。お互いが相手を求め、ゆっくりと唇をついばむ。


少しずつ離れる二人。二人の髪と同じ、美しい銀糸が引かれる。そのまままたゆっくりとミラを抱きしめた。


「俺はここにいるじゃねーか。ここが、フェアリーテイルが俺の居場所だ。ここからいなくなるなんて絶対しねえよ。約束する。だが、今俺を必要としてる奴らがいるはずなんだ。俺が闘わなきゃならねえ相手がいるはずなんだ……
俺は家族の為に闘いたい。皆を護りたい……でもそれにはさ、想いだけでも、力だけでもダメなんだ……だから……だから……「今は……闘わなきゃならないのね……想いだけでも、力だけでもダメだから……」


頷くと離れる二人。ミラの瞳には強い非難と……狂おしい程の心配の色が浮かんでいた。


「どこにも行かないで…」


「必ず帰ってくる」


そしてカイルは立ち上がった。全身を漆黒に染め、剣を背中に換装し、外へと飛び出す。カイルが眠っていたのはほんの数分だ。動けるようになったとはいえ本調子には程遠いだろう。


剣も折れ、盾も壊れた闘えないハズの騎士が戦場へと飛んでいく。










貴方はどうしてそんなに頑張れるの?ねえ、カイル……


「レムルス、俺の具合はどうだ?」


【満身創痍……という言葉すら生易しい。お前でなければとっくにアウトだ】


「悪いな、サポートは任せる」


【御意…】


今のカイルは半分光の精霊王レムルスが動かしている。回復しきってない傷と魔力を擬似的に埋めているといった感じだ。


「さてと、いくか…闘いに……」
















シェイドとの闘いは妖精の尻尾側の一方的な持久戦となっていた。


「くそ…っ」


キリの無さに悪態を付くアルザック。
アビスブレイクの発動を確認したエルザはすでにファントムに乗り込んでいた。
今まで何体ものシェイドを斬り捨ててきたが、斬ると同時に自己再生をし、すぐに復活してしまう。


「ワカバ!しっかりしろ!」
「く…体に力が入らねェ…」


そして、シェイドは存在自体が呪い。
少しでも触れれば途端に命を蝕まれてしまう。

そのシェイドに体を通り抜けられてしまったワカバは一瞬のうちに力を奪われ、膝をついてしまった。


「う…」
「ビスカ…!?」


苦しげに呻き、ふらりと倒れ込んでしまうビスカにカナが慌てて駆け寄る。
…もう全員魔力の限界が近く、次々に一人、また一人と膝をついて行く。


「…っ!ビスカ!」

「カナ!前だ!!」

「「…っ」」


マカオの声にハッと顔を上げるカナ。
その目が捉えたのは、目前に迫ったシェイドの姿。


「ビスカーッ!…、く…!」
「くそォ…!邪魔すんなァァッ!」


アルザックやマカオが助けに入ろうとするが、別のシェイドに邪魔をされ、動けない。


カナとビスカは襲い来る死への恐怖に涙を浮かべ、ギュッと目を瞑った。



「吹き飛ばせ、レムルス!!」


刹那、聖なる光が辺りを包む。周辺のシェイドは光に飲まれ、断末魔をあげながら消えていった。




「…、っ何だ!?」


「無事かビスカ…ッ!?」


「アルザック…!」


「あれは…何、…?」


その光景にマカオは足を止めて驚きに目を見開き、駆け寄ったアルザックはビスカをギュッと抱き締め、カナは唖然とそれを見つめる。
…まるで星々を呑み込むホワイトホールだ。


「っ、シェイドが…!」


球体はシェイドたちを半分以上呑み込んむと再び縮小し、そのまま空間の狭間に消えて行った。
残ったシェイドも得たいの知れないものに攻撃をやめ、辺りを警戒し出す。
…と、


「随分と好き勝手やってくれたな……ファントム……」


驚きと緊張に包まれる中、憎々しげな呟きを溢し、空からスタッと地に下りる者がいた。



「か、……カイル……」


「よお、カナ。お前はまだ元気そうだぁあぁああぁああ!!!!!」


襟を掴まれ押し倒されるカイル。カナは首元を締め上げ叫んだ。


「な・ん・で・あ・ん・た・が!!ここにいるの!!ミラはなにやってたのよ!!」


「あ〜あいつを責めるな。俺が無理いったんだ。すまない」


「カイル……お前大丈夫なのか?」


「そういうセリフは俺に助けられなくなってからいえよワカバ。大丈夫じゃない奴に助けられる程フェアリーテイルは弱かったのか?」


襟を掴んだまま、俯いているカナを優しく抱きしめる。
そして、「此処からは俺も参戦だ」と笑みを浮かべてやる。俯いていたカナが顔を上げ、泣いて赤く腫れた目で見上げて来た。


「お前ら、まだ闘えるな!?」


「当ったり前だ!」


「気にしねェで行って来い!」


「ナツたちを頼んだよカイル!!」



そう言って笑顔で送り出してくれる仲間たち。
…妖精の尻尾の者たちは皆しぶとい。
俺らをナメるなよ、ジョゼ。


「「「…行っけェェェ!!」」」


「スーパー任せろ!!馬鹿野郎ども!!」


皆の声を背に、カイルは地をダンッと蹴り上げ、見上げる程高い位置にあったファントムのギルドまで一気に跳躍する。


「覚悟しろよジョゼ……黒の騎士王が行くぜ…」



















あとがきです。参戦したカイル。次回、【カイルVSジョゼ!!死すら貴様にはもったいない】
お楽しみに!!
コメントよろしくお願いします。


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