第三十三話 劇団!!妖精の尻尾!!
6人で行った仕事はしっかりと果たしたが、街を全壊させる結果となってしまった。
「はぁ〜…」
「あら?元気ないわね、ルーシィ。何かあったの?」
「……この間のルピナスの仕事…ナツは火はきまくるわ、グレイは凍らせまくるわ、カイルは芥子粒一つなくすわ、エルザは…」
あー!と頭を抱えるルーシィ。
皆が皆、ルピナスの城下町を破壊して帰ってきた。
特にエルザは恐ろしいほどの暴れっぷりを見せた。
「とにかくー皆が色んなもの壊しちゃうから報酬額減らされちゃってー…」
今月の家賃払えないよー!と泣き出すルーシィにミラが優しく笑いかける。
「じゃぁ、とっておきの仕事紹介しちゃおうかな」
「?」
ミラ曰く、ルーシィ向きで何かが壊れる心配もない仕事だそうだ。
*
現在、ルーシィに誘われて俺たちはオニバスに来ていた。
「オニバスかー!子守唄以来ねー」
「ナツ着いたよー?」
「うぇっぷ…」
「この負担が減ったのは良かったな」
ナツとよくクエストへ行くカイルは酔ったナツの世話をよくされていた。
今はグレイが抱えている。
今回の依頼は、客足の遠退いている劇場を俺たちの魔法を使って盛り上げることが仕事らしい。
「あとエルザ。お前がそんなに気合い入れても意味ねーぞ。俺らは裏方なんだから」
「何を言うカイル!!お前と私の美しさなら急遽出演もありうるではないか!!」
あれ?こんなナルシだったっけ?
…………………前に俺がベッドで綺麗だ言いまくったのが原因か?
「「…おぉー」」
「へぇー」
想像していたのより大きく立派な劇場に感嘆の声が出る。
すると柱の陰から小さいおっさんが出てきた。
「あの〜妖精の尻尾の皆さんですかな?」
「あ、はい!!」
「引き受けてくださり、誠にありがとうございます」
「はい!演出ならあたしたちに…」
「それがですね…」
元気よく答えるルーシィとは反対に依頼主はどこか暗く、言いにくそうに口を閉じたり開いたりしていた。
「ちょっと困ったことになってしまいまして…」
「────えー!?役者が全員逃げ出したー!?」
「はい、ありがとうございます」
「何に対して礼言ってんだ?おっさん」
何か、公演する舞台が不評に次ぐ不評で、それでも夢を追う依頼主を役者が恥じる始末。遂には妻にまでも愛想を尽かされたようだ。
「そういうわけで、舞台は中止なのです!ありがとうございます!」
「何かと思えばそんな事か……」
あ、ヤバい…
「役者ならここにいるではないか!」
「えぇ!?」
「………やっぱり…」
「あ・え・い・う・え・お・あ・お・か・け・き・く・け・こ・か・こ……」
胸を張って発生練習まで始めるエルザ。
くそう。出演が決まりそうな以上、文句は言えん。
「まぁ確かに、なんか面白そうかも!」
「俺は火ぃ吐く野菜と火ぃ吐く果物どっちやればいいんだ?」
「んな役ないない」
「あい!」
「アンタの夢はこんなとこじゃ終わらせねーよ」
「み、皆さん………ちっ、素人が。まあやらせてみるか……」
「そこはありがとうございますしゃねえんだな」
「当たり前だ。俺たちゃマジで素人ダカラな。オーナーとしては当然の反応だろう」
カイル以外全員が何故かやる気を出してしまい、結局皆で舞台をやることになった。
勿論カイルも強制参加。
公演まで一週間。
衣装やセットなども作った。が、配役でもめまくる。
カイルは王子様役で決まった。グレイは敵役のジュリオス。ナツはドラゴンと男はすんなり決まったが、女性陣が荒れたのだ。
「私が姫役だ!!」
「あたしの方がお姫さまっぽいもん!!」
姫役の取り合い……まぁ女なら誰でも憧れるモンではあるだろう。
「それだけじゃなさそだがな」
「うるせー」
結局俺が王子様役を降り、エルザがやる事となった。俺の役は魔王セインハルト。姫役はルーシィだ。
そして一週間の猛稽古の後、公演十分前…
フェアリーテイルの魔導師が出演する劇という事で評判を呼び、中は超満員であった。
「満員御礼です。ありがとうございます。」
「おお、こりゃちょっとヤル気出てきたな」
「緊張とかしないんだ、カイル…」
もちろんなくはないがその分面白い。
外に出て見ると、
「よっ」
マスターとミラにヤジマさん、ゴールドマインとボブ、ガルナの村長とカイルファンの子にエルザファンの海賊。ファントムのなまり喋りの男女もいた。
「あんたら……暇だな」
「なんじゃい!!来てやったというのに!!」
「いらねーよ!!」
まあ見知った顔と喋れたおかげで少しはリラックス出来たようだが……
「わー!リラもこんな大勢の前で歌うの初めてー!」
「あとは成功させるだけね!」
ほう、リラは緊張してないか……中々だ。
そして公演開始……
ブー、と開演のブザーが鳴り響き、ざわついていた観客席が静かになる。
幕が上がり、最初に現れたのはリラ。
ハープとその美しい歌声で観客を魅了している。
リラが歌う中、次に現れたのは王子の格好をしたエルザ。
ん?なんかおかしいよーな?
「わっが、名は、…フレ、フレデリ…ひ、姫を助、けにまい、った…!」
………えぇええええぇええええ!!!!
あんなノリノリだった奴が、えぇえええええええ!?
そ、それはないだろう!?
「おいおい…」
「まさかの…」
「何であんなに緊張してるのよ!」
「本番に弱ぇータイプか」
膝はガクガクと震え、体はガチガチ。
…何か呼吸してないぞ。
大丈夫かよエルザ…。
「わた、わたしにはっ父上がっ…!」
「飛ばしてる飛ばしてる!その台詞早すぎだからー!」
「…わぁぁ!」
ちょ、マジでヤバいぞ!
大声は出せないので小声で話す。
『ルーシィ!』
「うん!あらゆる手を使って誤魔化すしかないわね!」
そう言ってルーシィは舞台に立ち、捕らわれた姫を演じ始めた。
「あぁ、助けてくださいフレデリック様。私はあのセインハルトに捕まってしまいました」
『あの、って、まだセインハルト出てないからー!』
心の声で叫ぶ。誤魔化しきれてないよルーシィ!
カイルが焦っていると、今度はグレイが舞台に現れた。
「我が名はジュリオス!姫を返して欲しくば、私と勝負したまえ!」
『ジュリオスもまだだってー!』
観客からセインハルトはどうしたー!?という声が上がる。
もうワケわかんなくなってきた…!
だぁぁもう知らん!
自棄になったカイルはセインハルトの仮面をつけ、マントを纏い、用意する。
「勝負、勝負、し、勝負…」
「ヤベー…!」
酸欠でエルザは顔を真っ青にしている。
それをルーシィが助けようと、こっそり星霊を呼び出す。
「開け 時計座の扉 ホロロギウム!」
煙と共に現れるホロロギウム。その中にはエルザが入っている。
「………はっ!!復活!!」
酸欠の治ったエルザが復活してホロロギウムから出る。
対峙するグレイとエルザ。
よし、なんとかなりそうだ。
「喰らえ、氷の剣!」
「う、わ、私にはじ、十の剣がある…!」
負けじとエルザも換装によって剣を呼び出し、グレイ目掛けて一気に放つ。
「うわぁぁぁあぁあぁああ!!!!」
放たれた剣にビビり、逃げ出すグレイ。
完璧台本を無視してやがる…!
「き、き、貴様の負けだ!!ジュリオス!!」
すると上空から黒いマントをなびかせ、宙を舞う魔王が現れた。
「フハハハハハ!!情けないなジュリオス。やはり貴様では奴の相手は務まらん!!この私が!セインハルトこそが真の魔王である!!」
「つ、つ、ついにあ、あ、現れたか……セインハルト」
「さあ始めようかフレデリック!!死の演武を!!」
剣を換装し、本気の殺気を向ける。するとエルザも戦闘モードに入ったらしく、身構える。
「行くぞ!!カイル!!」
あの馬鹿本名言ってんじゃねえ!!アドリブでごまかす!!
「その名はもう捨てた!!我が名はセインハルトだ!!」
飛び出し、剣を交差させる。
エルザが振り下ろす斬撃を受け止め、流しながら攻めに転ずる。受け止め、かわし、接近する。だが、それをエルザは鍔迫り合いになる所を力勝負になる事を嫌い、弾いた。
二人に距離が空く。
「………ふっ、やるではないか…」
「お前もな、カイル」
だからやめろってそれ。
観客から歓声が巻き起こる。これほど迫力ある殺陣は初めてだろう。
「セインハルト!!見よ!これが私の切り札だ!!」
逃げたグレイが再び戻ってきた。
「─我が僕のドラゴンだ!!」
え、ここでか!?
「やっと出番かー!」
グレイの声で、ドラゴンの格好をしたナツが火をはきながら現れる。
…自分もやっておいてアレだけど…、展開が読めない。
「うおぉぉ!俺様は全てを破壊するドラゴンだー!」
「っく…こうなったら手を組むしかない!」
「お、おう…それは頼もしー…!」
「てめえが呼び出したんだろ……ジュリオス」
ドラゴンを呼び出した張本人、ジュリオスがフレデリックに手を組もうと言いだす。
何故だ。
「私がアイツを足止めします!二人は逃げてください!」
おーい、なんつーたくましい姫さんだよ。
ルーシィまでとんでもないことを言い、フレデリックとジュリオスが退場する。
「お、重い…」
「えぇー!?」
「う、嘘だろ!?」
重さに耐えきれず、ハッピーはドラゴンを掴む手を放してしまった。
勢いよく落下してくるドラゴン…いや、ナツ。
ちょ、ハッピィィー!!
ナツが落ちてきた衝撃でカイルの仮面がとれ、どこかに飛ばされてしまう。
「あ、取れた…」
「…あ!」
「お?」
「…!」
「キャー素敵ー!」
「セインハルト様ぁ!」
「カッコいいー!」
前の席の客(大半が女性)からキャーと黄色い歓声が上がる。
「あーあ、魔王の顔は最後まで見せないってのがセオリーなんだがな」
「カイル!!呑気なこと言ってないでなんとかして!!壊れるよーーー!!!」
落ちて来たナツの衝撃で舞台がやばいことになっている。
「ルーシィ!ドレスドレス!」
「え?…きゃー!」
ルーシィが自分のドレスに目を向けると裾に火がついていた。
「グレイー!助けてー!」
「よし!アイスメイ…、ぐはっ」
「とぅ!」
氷で火を消そうとグレイが魔力を集めるが、後ろから跳躍してきたエルザに踏み台にされる。
「はぁぁ!」
「ちょ、きゃー!」
エルザの剣がルーシィのドレスを切り刻む。
確かに火は消されたが、もはやドレスの原形はなく、露出された肌を見て観客(大半が男)が歓声をあげる。
「姫、大丈夫ですかな?」
「下手なクセに役に入りすぎー!」
「う、…うがぁぁいってぇぇ!痛ぇぇぇ!」
復活したナツが痛みに悶え、叫びと一緒に火をはく。
「み、水!水よー!」
「えーっと、来い!!ウンディーネ!!」
炎に包まれる舞台。
それをカイルが水の精霊王を使い、上空から流れ落ちる水で消火した。
「あ、ありがとうカイル!」
「礼は後だ!!それよりこれ」
「痛ぇぇぇ!」
「な、ナツ暴れちゃダメだって!」
「こうなったら…全員成敗いたす!!」
「バカ!!この状況で剣振り回してんじゃねーーー!!」
「アイスメイク…!」
「グレイ落ち着いてー!」
ルーシィが皆を必死に止めようとするが、カイルは逃げ、ナツは火をはいて暴れ、エルザは剣を振り回し、グレイは凍らせまくり、劇場は観客席だけを残して崩壊した。
「いやぁぁ!」
もう終わりよー!とルーシィが頭を抱えるが、何故か観客は大盛り上がりし、大喝采。
「ブラボー!」
「フレデリック様ー!」
「セインハルト様ー!」
「あ〜らら」
「何でこうなるんじゃ!?」
「マー坊。はよ引退せーよ…」
「月の呪いじゃーーーー!!」
「うーん!素晴らしい!」
一週間後、劇場内控室
「まさかこんなに大ヒットするとはよ、大根役者の癖してやるじゃねーか!」
満足している小さいおっさん。
そしてぶっ倒れてる一同。
「おい…いい加減…報酬…寄こせよ…」
「一日…三公演は…キチ過ぎんぞ…」
机に突っ伏しているナツとグレイ。
「グズが!とっとと準備せんかー!」
「キャラ…変わってる…し…」
「早く…早く帰りた〜い…」
「あーーー、あーーーーー」
一人だけ発生練習してるエルザ。
「お前はなんでそんな元気で、本番ガチガチになるくせにそんなヤル気あんだよ…エルザ…」
椅子に座って腕を組んでいるカイルは大きく溜息をつくのだった…
あとがきです。劇って面白いですよね!見るのも演じるのも……
今度からは空に戻れない星霊篇です。カイルはどうやって関わらせよう……
が、頑張ります。それでは次回【まくら投げって途中から絶対プロレスになる】でお会いしましょう。
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