小説『フェアリーテイル ローレライの支配者』
作者:キッド三世()

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第三十四話 まくら投げって途中から絶対プロレスになる。








───マグノリア西部にある、とある盗賊団のアジト。


「があっ」


ガンッという音と共に上がる短い悲鳴。


「…歯ごたえのない奴等だなー」


盗賊はナツにボコされた上、更に壁にめり込まされていた。


「弱ぇくせに盗賊なんかやってんじゃねぇよ」


「ヒィ…!」


グリグリと顔を靴で踏みつけるグレイ。
その酷すぎる仕打ちに盗賊はマジ泣きしている。


「中々のSだな、お前ら」


「カイルにだけは言われたくねえよ」


「本当にな」


周りの惨劇に目を向けたグレイが苦笑する。

どんなことになっているかというと、カイルに襲い掛かってきた盗賊がもれなく全員床に突き刺さっている。


「しっかしマジで歯ごたえねえな」


精霊王の力を使うまでもなかった。と言っても素手だけでカイルはエルザ以上に強いのだが…


「くっ…俺等にこんなことして、ただで済むと思うなよ…っ」

「デモン様、が…黙ってねぇぞ…っ」


「ん?コイツのことか」


盗賊が今出来る精一杯の強がりを言う。
だがそれをカイルがあっさりと打ち砕く。

カイルの指差す先には、壁に上半身をめり込ませた盗賊の頭と思わしき男の姿。

…まぁ、とっくに潰していたわけだ。


「こっちも片付いた」


「遅い」


「いや早えだろ…さっすがエルザ!」



「…っ」


エルザの登場で盗賊が顔面蒼白になる。

しかしそんなのはお構い無しとばかりにカイルとエルザは暢気にハイタッチをし、ルーシィはナイス!と親指を立てる。





「ヒ、ヒィィ!」


「逃がさん!」


「っぐは!」


あまりの恐怖に、最後の力を振り絞って逃亡を謀る盗賊だが、エルザに蹴り飛ばされあえなく失敗する。



「…まだ仕置きが足りないようだな」

「ヒッ」


腕を組んで男を踏みつけるエルザはまさに女王。

…何と言うか、今は妖精女王より、悪魔女王の方がしっくりくるような気がする。


「カイル?今失礼な事考えてないか?」


「ハッハー。まさか」


「もおぉぉ!エルザさーん!自分にもお仕置きしてくださーい!!」

「強制閉門 えーい!」


目をハートにし、とんでもないことを口走るタウロスはルーシィによって強制的に星霊界へ帰された。














「思ったより早く仕事が片付いたな」



とっとと帰ってゆっくりしたいなー。



「ルーシィ見てーこの宝石!」


「あぁ!勝手に持って来ちゃダメじゃない!」


ハッピーの手には日の光に反射して輝く綺麗な宝石。


「綺麗だな。売ったらいくらくらいになるかな?」


「こら、カイルも!」


「はいはい」


結構な額になると思うんだけどなー、とそんな会話をしながら帰路に着こうとする。


「ん?あれは……」


「あ!あそこにいるのロキじゃない?」


カイルがロキの魔力に気付くと同時に、ハッピーもロキの姿に気付いたようだ。


「あれ?」



「偶然だなー」


「お前もこの辺で仕事か?」


「ああ。皆も?」


『おー。盗賊団ぶっ潰してきた』


「あはは…」


相変わらず凄いね、とロキが苦笑する。


「僕はねー…、っうわぁっ!?ルーシィ…!」


「ロキ!ちょうど良かったー」


ルーシィが近寄ったことでロキはあからさまに驚き、後ろに飛び退く。


「この前は鍵を見つけてくれ…「じゃ、仕事の途中だからー!!」…て」


ルーシィが言い終わる前に走って逃げるロキ。



「え、えーと、ドンマイ」


「な…、何よあれ…」


「…お前アイツに何したんだ?」


「相当避けられてんぞ」


「何もしてないわよーー!!」


「やれやれ、困った奴だ」


キツそうだな……大丈夫なのか?














「あーいい湯だー」


あの後カイルたちは仕事が早く終わったこともあり、たまにはゆっくりしよう、というルーシィの提案でマグノリアで最も人気のある温泉街 鳳仙花村に来ていた。


「うむ、シャワーも悪くはないがやはり風呂だな。この解放感が素晴らしい」


今はナツとグレイ、カイルで露天風呂に浸かっている。


「カイルは解放し過ぎだと思うが…」


タオルなどまったくつけてないカイルを見てグレイが言う。


「このメンツで隠す必要性を感じん。まぁ俺の場合風呂なら女がいようが関係ないがな」


「そーだそーだ!!グレイもとれよ!自信がねえのか〜」


「な、バッ!ちげえよ!!だがそこの大砲と比べると……な」


「男はモノの大きさじゃねえ。器の大きさだぞ?グレイ」


ナツと二人掛かりでとっぱらおうとする。男子浴場はドタバタだった。











〜女風呂〜



「ね、ねえ、エルザ。カイルのってそんなにスゴイの?」


隣の女風呂には男風呂の声が丸聞こえだった。


「あ、ああ。とんでもないぞ……受け止める鞘が破壊されかねん。だが乗り越えたらそれはもうスゴイ」















「────始めんぞこらぁ!」


「うぱー!」


風呂から上がり、浴衣を着たナツが叫ぶ。



「なんだよ、喧しいな。俺は眠ぃーんだよ…。つか何をだ?」


ナツが言う“始める"、というのは一つしかない。

───そう。
旅館の夜といえば、


「まくら投「ぐりだろーーー!!」」


「いやまくら投げだよ」


「ふっ」


嘲笑と共にスパンッと襖が開く。
そこには浴衣を着たエルザとルーシィ。


「質の良い枕は私が全て抑えた。お前達に勝ち目はないぞ」


「質とかあんのか……」


「真の天才とは道具を選ばないモノ…」


まくらを両手に戦闘態勢をとるカイル。


「俺はエルザに勝ーつ!とぅっ!」


エルザめがけて投げられる枕。顔と両手で受け止める。


「やるな!!」


「やれやれ…」



「ふんっ!」


「…ぐはっ」


ナツが投げたまくらがグレイに激突する。


「…ナツてめぇ!!」


グレイは浴衣をはだけさせながら、何故か側にあったたくさんの枕をガッと掴み、ナツ目掛け全力投げ付けた。



「どわあっあ゛ぁ」


顔面直撃。かなり痛そうだ。


「…次はエルザとカイルだー!!」


グレイは次の標的、エルザとカイルに枕を投げ付ける。


「よっと」


「甘い!!」


飛んでかわすカイルとキャッチするエルザ。


「隙だらけだ!!カイル!」


「へっ!んなもんねえよ!!」


横から投げられる枕を蹴り飛ばす。


「うおぉらっ!」


更に復活したナツから枕が飛んでくる。



『っらぁ』


カイルはそれを両手で受け止め、体のバネと腕の力を使って投げ返す。



「とぅっ」


「らぁぁ!」


「おらっ!!」


「よーし!あたしも、…ぶぉッ」


浴衣を捲り、自分も参加しようとするルーシィだが、カイルが投げた枕が顔面にめり込んでしまう。



「っ…ぶふッうぁッ」


吹き飛ばされるルーシィ。カイル達はまったく気にせずドッタンバッタン、そこらの雑魚なら死人が出るんじゃないかという勢いで闘い続ける。
事実旅館にヒビが幾つか入ってる。


「や、やっぱりあたしは参加しない方がいいや……」


すごすごとルーシィはプルーを連れて旅館の周りを散歩しに行った。

…ついでにハッピーもこっそりと付いていった。






まくらがが手元になくなって来た俺たちは完全に取っ組み合いになっていた。
ナツはグレイと。俺はエルザと闘っている。


「魔力では敵わないが純粋な体術なら!!」


繰り出される鉄拳を合気道の要領で投げ飛ばす。


「まだまだだね」


「クッソ〜〜〜!!」


空中で一回転し、態勢を調え、飛び蹴りを放つエルザ。
カイルは脚を掴み、こちらへ引き込んだあと、そのまま布団の上に叩きつける。


「ぐはっ!!」


反撃すべく立ち上がろうとするエルザに覆いかぶさり、ふっと耳元で息を吹きかける。
へなへな〜と力尽きるエルザ。


「ひ、卑怯だぞ!!カイル!!」


「何が卑怯なもんか。あのままお前を気絶させる事もできた。しなかったのは武士の情けだ。わかったらその乱れたカッコなんとかしろ。襲うぞ」


胸元ははだけ、脚も付け根まで露わになっている。
真っ赤になって隠そうとするが途中で止まる。


「お、襲ってくれるのか?」


「アホ」


そのままカイルは何処かに歩いて行った。











歩いた先は飯処 超特急。


ここはは鳳仙花村で一二を争う超人気スポットらしい。






着いてみると、超人気スポットと言われている割りには結構普通の店だった。
もっと悪趣味な感じかと思ったんだけどな。



カイルは一度店を見上げてから、中に入ろうと扉に手をかける。

─────が、
パァンッと言う音に驚き、一旦扉から手を放す。

おぉう。
え、もしかして修羅場?





「────あたしそういう冗談嫌い!」


ルーシィがそう叫び、外に飛び出してきた。




あぶねー…

間一髪、カイルは店の屋根に上り、ルーシィに見付からずにすんだ。




「お、怒ってたな…」


怒りを露に、ハッピーとプルーを引き摺って去っていくルーシィ。


改めて店内に入ると、頬を赤く腫らしたロキが佇んでいた。


「え…カイル?」


いきなり俺が現れた事で驚くロキ。


『…グラサン落ちてるぞ』


「え、あ、ありがとう…」


落ちていたグラサンを拾って差し出せば、ロキは慌てて受け取った。


「あぁ…、うん…。それにしても…何でここに…?」

訝しげに聞いてくるロキ。


「ちょっと話がしたくてな」

「僕と…?」


「おぉ。…だけどその前に、それ冷やした方がいいな」


「いや…えっと…」



「オヤジ、小さい袋くれないか?」


そう言えば、板前は無言で頷き、すぐに袋を用意してくれた。

カイルは魔法で出した氷を袋に入れ、ほら、とロキに渡す。



「……何かごめん…」


「いいって。それよりあとどれぐらいだ…」


「…何がだい?」


眉を寄せ、知らん顔するロキ。


「てめえの残された時間」


カイルの言葉にロキは俯くように視線を反らした。


「…君は、どこまで知っているんだい?」


カイルの視線に耐えきれなくなったのか、ロキは恐る恐る口を開いた。

どこまで知っているか、か。


「別に何も……ただお前が普通の魔導士とはちがくて、何らかの理由で弱ってるって事。それと罪の念に苛まれてる事」


今の俺はロキが何をしたのか、何の罪を背負っているのか、何も知らない。
知っているのかもしれないが思い出せない。

魔力が日に日に少なくなってきていて、そのうち消えてしまうかもしれないというのに、ロキは助けを求めようとしない。

それはロキが背負っている罪故のことなのか?




「…カイル、君は本当に不思議だね…」


「?そうか?」


「そうだよ。誰よりも強くて、言ってる事は全部適確で、誰よりも早く真実にたどり着く……」


「………………もう充分じゃないのか?ロキ。ルーシィや皆にホントのこと言ったらどうだ?」


ハッとした顔をする。だが、それは一瞬のことで、すぐに眉間に皺を寄せ首を振る。


それはダメなんだ、と呟くロキにカイルは一度黙る。



「ルーシィは優しいから…、それを伝えてしまえば僕を助けようと自分から巻き込まれに行ってしまう…。君たちもそうだ…」


「いいんじゃないのか、それで」


ロキは悲しげに笑う。



「…僕に残された時間はあと僅かだ。明日かもしれないし、明後日かもしれない。でもそれでいいんだ。…助けはいらないよ。僕は罪を償わなければいけないんだ」





………そうか……


「…ごめんね」


「何が」


「色々と…あと、…────ありがとう」


店内に1人残されたカイルは、白くなるまで手を握りしめる。

…勝手な奴だ。
自分を偽って、1人で苦しんで。
……仲間を頼らない。


「人の事は言えんだろう。お前も。いや、数を考えればお前の方がはるかに酷い」


「来てたのか……エルザ」


「ああ…だからその拳をほどけ、見てるこっちが痛い」


俺の手に触れると、ゆっくりとほどいていく。


「少しは私の気持ちがわかったか?バカめ」


「ああ、まあな」


腰に手を当て、抱き寄せる。エルザも俺の体に抱きついた。


「戻ろう」「ああ」



やれる事はやった……後はルーシィに任せよう。























あとがきコーナー。カイルをねじ込みつつ、話を続けるのは中々難しい。ハーレム要素をもっと入れたいのですが、そこは文才のない私にご容赦ください。それでは次回!!【何だかんだ言ってもやっぱ男も女も顔に釣られる】でお会いしましょう!!


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