小説『フェアリーテイル ローレライの支配者』
作者:キッド三世()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>


第三十六話 空に戻れない星………獅子が背負いし咎









ルーシィの魔力をシルフが辿って着いた場所は、たくさんの星の光を浴び、美しく流れ落ちる滝に囲まれるようにひっそりと建てられた、ある人物の墓。




「星霊ロキ。ううん、本当の名は……獅子宮のレオ……」


「ーーーーーーーーー」


「黄道十二門最強を謳われる星霊……ただの人間じゃないとは思ってたがそこまで大物とはな……」


「カイル…!」


「…!」


歩きながらゆっくりと二人に近づく。
ルーシィに任せて正解だった。


安堵から、カイルはハァ、と息をはく。
良かった……間に合った…


「カイル、どうしてここに…?」


「ルーシィの魔力をシルフに探らせた。お前ならロキを見つけられると信じてたよ」


そ、そうなんだと少し顔を赤らめながら応えた。


「…確かに。よく気付いたね、僕が星霊だって」


「…あたしもたくさんの星霊と契約してる星霊魔導士だからね。あんたの真実に辿り着いた。…もっと早く気付くべきだったんだよね」


「……君が気にすることはないよ。…早く気付いたところで、何も変わりはしない」


その言葉は、ルーシィだけでなく、気付いていたのに何もしてやれなかった俺にも言っているようだった。



「何がだ?俺はお前に何もしてやれてない」


「あたしもあんたを助けたい!!」


「君にはたくさん励ましてもらった。勿論、ルーシィにも。……十分だよ」


「…本来、鍵のオーナーが死んだ時点で星霊との契約は解除される。次のオーナーが現れるまで、星霊は星霊界へ強制的に戻されるの。
カレンが死んで、契約は解除されはたはずなのに、貴方は人間界にいる…」


ルーシィの視線を辿れば、

“Karen lilica"

と彫られた墓石。


「カレンってのは?」


「ロキの元オーナーよ。青い天馬(ブルーペガサス)の魔導士」


オーナーが死んだにも関わらず帰れないというのは、何かロキに事情があるから…


「…人間が星霊界で生きていけないように、星霊も人間界じゃ生きていけない。生命力は徐々に奪われ、やがて死に至る」



「…もう3年になるよ」


困った顔をしながら、ロキが他人事のように告げる。


「3年……だと……一年でもあり得ねえのに…」


「あぁ、もう限界だよ…。全く力が出ないんだ…」


「っあたし!助けてあげられるかもしれない!帰れなくなった理由を教えて!」


あたしが門を開けて見せるから!と必死に叫ぶルーシィ。

それでもロキは、助けはいらないと背を向けてしまう。


「帰れない理由は単純なんだ。…オーナーと星霊の禁則事項を破ってしまったんだ。…結果、僕は星霊界を永久追放となった」














ロキが犯した罪は、オーナーであるカレン・リリカを殺したこと。


青い天馬の魔導士 カレンは、星霊を物のように扱い、やりたい放題星霊に酷なことを命じていた。

特に酷い扱いを受けていたのが、黄道十二門 白羊宮のアリエス。
アリエスはカレンの代わりに攻撃を受けさせられたり、彼女目当てで来た男の相手を無理やりさせられたりと、酷い扱いの日々に身も心もボロボロになっていた。


そんなアリエスを助けようとしたのが彼だった…


カレンの手を借りずに自らの魔力で人間界に出てきたロキは、自分とアリエスの契約を解除しろと要求した。


勿論カレンはその要求を呑まなかった。


しかしロキの力を借りれない彼女は仕事が出来なくなっていた。


「強制閉門!!ーーーーー!くそ!!何で閉じない!!」


「そんなヘマ僕がすると思うかい?自分の魔力でここに来ている。強制閉門は出来ないよ……契約を破棄する気になったらここへ来てくれ」





廃墟の淵で腰掛けるロキ。
その後何度も説得にカレンが来たが全て突っぱねた。


「もうひどい事しない。約束するから話し合いをさせて?」


「………はぁっ、ふ、ふざけるな。契約を破棄してからでも話し合いは……出来るだろ?」


当時のカレンには星霊を2体同時に呼び出すことができなかった。
それなのに彼女は仕事へ向かい、…そして命を落とした。











「それが…」


「…そう。僕の犯した罪だ。…償うためには僕自身も消滅するしかな、い…っ」


言い終わると同時に、ロキの体がぐらり、と傾く。


カイルとルーシィが慌てて近寄るが、ロキの体は色素が薄くなり、透け始めていた。

消えてしまう────…!



「僕は、この時を待ちながら生きてきた…。カレンの墓の、前で消滅する時、をね……最期に素晴らしい星霊魔導士と、素晴らしい兄さんに会えた、…ありがとう」


「待って!」


俺たちに、妖精の尻尾の皆に、別れを告げるロキをルーシィが止める。


「あたしは納得できないっ!だって…おかしいじゃない!そんなのカレンを殺めたことにならないよ!不幸な事故じゃない…!」



「ルーシィ…」




「開け!獅子宮の扉!!ロキを星霊界に帰して!」



必死に扉を開こうとするルーシィ。
それをロキがもういいんだ、と止めるが、ルーシィは引かない。





「開けぇぇ!獅子宮の扉ぁぁ!!」


バチバチと、周りから金色の光が上がり始める。

門を抉じ開けている……!!


「そんなに一度に魔力を使っちゃダメだ…!」



「っ…言った、でしょ…助けるって…!星霊界の扉、なんてっ…あたしが無理矢理抉じ開けてみせる…っ!」


このままじゃ、ルーシィの魔力が尽きてしまう…

ならば……


「……手を貸すぞ、ルーシィ…、っ!」



「カイル…!」


「カイル…何を…!?」


ルーシィの手に己の手を重ね、魔力を分け与える…
俺とは性質が全く異なるルーシィの魔力に合わせるのは少し難しかったがやり遂げた。
一気に魔力が失われていくのがわかる。


「………開け!獅子宮の扉!」


「やめてくれ二人とも…!」


「………開けーーーー!!!!」


「っ開かないんだよ!契約をしている人間に逆らった星霊は、星霊界には帰れない!」


「うあぁぁぁ!」


「ぐぅうぅううう!!!」


内臓が締め付けられているような、雷が体を巡っているような感覚。

カイルは歯を食い縛って耐える。



「やめてくれ!このままじゃ、君たちも一緒に消えてしまう…!」



ロキが譲らなかったように、俺らも譲らない。

仲間を守れなくて、魔法に何の意味があるんだ…!


「これ以上…僕に罪を与えないでくれえぇええええぇええ!!!!」



「そん、なの罪じゃないっ!それ、が星霊界のルールなら…っ、あたしが変えてやるんだからーっ!」



ルーシィの叫びに反応するように、大地が揺れた。


空の星たちが回転して異空間を作り出し、滝の水を飲み込んでいく。


「な、なんだこれは……」


「そんな…まさか…」



信じられない、という顔をするロキ。


「星霊王…!」


「俺のと違ってデカ!!!」


「王って…、一番偉い星霊ってこと…?」



三人が呆然とする中、星霊王がその口を開く。


「古き友、人間との盟約において我ら、鍵を持つ者を殺めることを禁ずる」


「直接ではないにしろ、間接にこれを行った獅子宮のレオ、貴様は星霊界に帰ることは許されん」



「んだとこら!!」


「ちょっと!それはあんまりじゃないっ!」


「よ、よさないか二人とも…!」


カチンッときた二人は、ロキの制止を無視し、星霊王に食って掛かる。


「古き友、人間の娘と男よ、その法だけは変えられぬ」


「…3年!ロキは3年も苦しんだのよ!仲間のために、アリエスのために!仕方なかったことじゃないの!」


「……余も、古き友願いには胸を痛めるが…」



「何言ってんの!?」


星霊王の言葉を遮り、ルーシィが叫ぶ。



「古い友達なんかじゃない…!今、目の前にいる友達のことを言ってんのよ!ちゃんと聞きなさい!ヒゲオヤジ!!」


「ハハハハハ!!やるなぁルーシィ。こんなデカブツで強そうなおっさん相手にひげおやじかよ!!いいぞ、もっと言ってやれ」


「る、ルーシィ!カイルも…!」


慌てるロキ。自分の王にこの態度はかなりヤバいだろう。


「これは不幸な事故でしょ!?ロキに何の罪があるって言うの!?無罪以外は認めない!このあたしが認めないっ!」


「もういいルーシィ…。僕は誰かに許してもらいたいんじゃない…!罪を償いたいんだ…!このまま消えていきたいんだー!!」


ロキの悲痛な叫びが辺りに響き渡る。




結局それかよこのヤロー…



「…カイル…?」


カイルはロキに近づいて襟を締め上げる。ロキは冷や汗を流す。


「お前何なんだよ!それはただの逃げだぞコラ!償いたい?違う!!楽になりてぇだけだろーが!!てめえが!!」


「……そうよ!貴方が消えたってカレンは帰ってこない!新しい悲しみが増えるだけよ!」


仲間を思う気持ちは罪なんかじゃない。

ルーシィの気持ちに応えるかのように、ルーシィの契約星霊たちがカイルたちの周りに現れる。



「ここにいる皆がまた悲しみを背負うだけ…!そんなの罪を償うことにはならないわ!!」


僅かな時間でも、たくさんの星霊を呼び出すには相当な魔力を消費する。

魔力を使い果たしてしまったルーシィは遂に倒れてしまう。

だが、それでもルーシィは歯を食い縛り、必死に体を持ち上げる。



「ルーシィ…!」


「今姿を見せてくれた友達も、皆同じ気持ち…!」


「友達…」



「あんたも星霊なら、ロキやアリエスの気持ちがわかるでしょ!?」



ルーシィの必死な叫びで、黙って聞いていた星霊王が眉を寄せた。



「…ふぅむ。古き友にそこまで言われては、間違っているのは法かもしれんな。
────同胞、アリエスのために罪を犯したレオ。そのレオを救おうとする古き友、その美しき絆に免じ、この件を例外とし、レオを……貴様に星霊界への帰還を許可する」


ルーシィの仲間を大切にする思いが、遂に星霊の禁則の法を変えた。




「な…」


「YES!!」


「良いとこあるじゃない!ヒゲオヤジ!」


嬉しそうに親指を立てるルーシィに、星霊王はニカッと笑う。



「星の導きに感謝せよ」


星霊王は罪を償いたいというロキに、ルーシィの力になって生きるよう言い残し、眩い光となって消えていった。



「…!」


涙を流し、カレンの墓を見つめるロキ。
その目には、微笑むカレンが写っていた。






「ありがとう、ルーシィ。…カイル」




ロキも眩い光となり、ルーシィの手に鍵を残して星霊界へ帰っていった。



「カイル、ありがとね」


「ん?特に礼を言われるような事はしてないが?」


「ホントにもう……カッコいいんだから……でもそんなとこが大好きだよ、カイル」


顎に手をあてられ、そのまま唇を奪われる。
少し驚いたが、そのままルーシィを受け入れた。ついばみお互いを求めあう。


「……ぷは……ふふ、エルザ達に殺されるかな?」


「内緒にはしといてやるよ」


「お互いにね?」


そう言うと二人ともふふ、と笑い、もう一度キスをした。
満点の星空の下で……























「──────星霊だぁ?」



朝のギルドにナツの声が響き渡る。



「ロキがー?」


「うん。まぁ、そういうこと」


ギルドの皆に自分が星霊ということと、今までの礼を伝えるため、ロキは人間界に再び来ていた。


「俺は全く気がつかなかったなぁ」


「見た目は俺らと変わらねぇからな」


「でもよ、お前牛でも馬でもねーじゃねーか?」


「ナツの知ってるバルゴだって、人の姿だろ?」


「あいつはゴリラにもなれるぞ?」


「はは、そうだったね」


いや、あれ限りなくゴリラだけどゴリラじゃねーぞ、ナツ。


「ロキは獅子宮の星霊よ」


「獅子!?」


「「大人になった猫!」」


「そうだね」


「違うー!?」


「でもお前、体の方は良いのか?」



「まだ完全じゃないけど、皆に挨拶したくてね」



それに、とロキが続ける。



「ルーシィの顔も早く見たかったし」


「…ぁ」



「どぅえきてるぅー」


思わず頬赤らめるルーシィをハッピーが茶化す。


「もう…、アンタ帰りなさい。まだ体調完全じゃないんでしょ?」


強制閉門しようと鍵を取り出すルーシィを、ちょっと待って、とロキが止める。



「はい、これ」


ロキが差し出したのは、高級リゾートホテルのチケット。


「ネカネビーチのリゾート……すげえな」


「カイルしってんの?」


「何度かあそびにいったことがある」


「エルザにもさっき渡しておいたから、楽しんでおいで」


あいつに渡した!?て事はもう…


「貴様ら、何をもたもたしている!」
「「「「「「?」」」」」」

そこに居たのは、既に準備万端でバカンスに行く格好をしているエルザだった。

「「気ぃ早ぁー!?」」


「やっぱり……」


はぁっと一つため息……
水着は向こうでなんとかすりゃいいか。

「ほれほれ、早く行こー!」


「あいさー!」


「一日二日じゃ遊び尽くせねーぞ!」


「久しぶりの骨休みだ!海水浴だー!」


「あい!!」


「良し、折角のロキの好意だ。思いっきり楽しむぞ!」


「「「あいさー!」」」


まぁ、たまにはいいか…てめえに優しい時間があっても……


そう思ったカイルも思いっきり楽しむ気になった。




















しかしカイルとエルザは気づかなかった……
過去の忌まわしき事件の口火が……既に切られている事に………

















あとがきです。空に戻れない星篇しゅーりょー!!
次はいよいよ楽園の塔篇!!なんですが、一応長編一つ終わったので番外編挟んだ方がいいですかね?それともこのまま長編続けた方がいいですか?アンケート取りたいと思います。番外編はR18になると思います。番外編がいい人はお相手のリクエストも出来ればお願いします。何もなければ筆者のプロット通りで行きます。それではまた次回お会いしましょう!!

-38-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える