第三十八話 心の鎧
エルザを救出した後、俺たちはジェラールを探すべく楽園の塔の中の雑魚を蹴散らしていた。
「多いな……こいつら一体何なんだ?」
「さあな。まぁとりあえず倒しときゃいいだろう」
何人でかかってこようが二人の王の敵ではない。どんどん上へと進んで行く。
「いたぞーー!!侵入者だーーー!!」
「侵入者?」
雑魚どもの叫び声の中に妙なものが混じっているのが聞こえた。気になり、シルフに様子を見に行かせる。
【奏者。ナツ達だ】
シルフの答えを聞くと同時にナツ達と遭遇した。
「「「「エルザ!!カイル!!」」」」
「な!?お前たち!!」
「よー。早かったな。お前ら」
目を丸くするエルザといつもどおりのカイル。その様子を見たナツがカイルに怒る。
「カイル!!何先に行ってんだよ!!急にいなくなって心配したんだぞ!!」
「悪い悪い。今回は出来れば俺たちだけで解決したかったんだよ。とゆーかよくここがわかったな」
「ナツの鼻だ」
なるほど納得。
「お前たち。来てもらったのは嬉しいがもう帰れ。これは私達の問題だ」
「はぁ!?何言ってんだエルザ!!」
「そうだよ!!手伝わせてよ!!」
エルザの言葉に猛反対する二人。だがこいつらを巻き込むのは確かにまずい。
「それにお前らだけじゃねえ!!ハッピーもさらわれちまったんだ!!」
「何!?」
「恐らくミリだろう。あいつは無類の愛猫家だからな」
カイルが冷静に判断する。するとエルザも納得したように頷きナツに話しかけた。
「ミリアーナは猫に危害を加えるようなマネはしない。見つけ出して必ずお前達に返そう。だからお前達は帰れ」
「何でそんな事言うんだよ!!仲間だろーが手伝わせろよ!!」
激昂するナツに対してエルザは涙をこぼした。これ以上の我慢は限界だったのだろう。
「………………この闘いに勝っても負けても私達は表の舞台から姿を消す……」
「ここまできちまったんだ…話そう……おれ達の過去を……」
そしてカイルの口から話されたのは……地獄とも呼べる二人の幼年時代……
突然現れた黒魔導士に攫われて奴隷として働かされた事。そこで子供達だけの仲間ができた事。脱走しようとして失敗し、エルザとカイルが責任を取り、罰を受けた。その際エルザは右目を潰された事。偶然出会ったロブというじーさんに魔導士の存在を教えてもらった事。そして魔法に目覚めたカイルとエルザが皆の先頭に立ち、労働者を解放すべく戦った事。最後に………救出しようとしたジェラールも魔法に目覚め、助けにきたカイルとエルザを殺そうとした事。
全て話した。
「そしていつかこの日がくる事もわかっていた……だから私達は……ジェラールと闘うんだ……」
涙を流しながら話すエルザ。ナツ達はみんな黙り込んでいる。
そんな中、カイルはエルザに近づき抱きしめた。
「そんなに辛いならお前は闘わなくてもいいんだぞ、エルザ。俺さえいれば何とかならなくはないんだから…」
「……ふっ。バカを言うな……私達はチームで運命共同体だ。死ぬ時は……一緒だ。」
そっとエルザも抱き返す。この二人にもう後退という考えはなかった。
その時、壁画から声が聞こえた。
『ようこそフェアリーテイルの皆さん、楽園の塔へ』
「これは……?」
「「ジェラール!!」」
『俺はジェラール、この塔の支配者だ!互いの駒は揃った。そろそろ始めようじゃないか、楽園ゲームを!』
「楽園ゲームだと!?」
「ジェラール、何を!?」
『ルールは簡単だ。俺はエルザを生贄として、ゼレフ復活の儀を行いたい。即ち、楽園への扉が開けば、俺の勝ち。もしそれをお前達が阻止出来れば、そちらの勝ち。ただ、それだけでは面白くないのでな、こちらは三人の戦士を配置する』
どうやら魔法で塔全体に響かせているようだ。
『そこを突破出来なければ俺には、辿り着けん。つまり三対九のバトルロワイヤル!最後にもう一つ、評議員がサテライトスクウェアで、此処を攻撃してくる可能性がある。全てを消滅させる究極の破壊魔法、超絶時空破壊魔法(エーテリオン)だ!』
エーテリオン!?あんなものが撃たれるだと!?
「ジェラール!!ハッタリはよせ。あんなものの許可が出るわけがない!!」
『残り時間は不明。しかしエーテリオンが落ちる時、それは消滅…勝者無きゲームオーバーを意味する。さあ、楽しもう』
どうやらこちらの声は聞こえてないようだ。ハッタリだとは思うが万が一奴のいう事が事実なら一秒たりとも猶予はない!!
「うおおおおおおおおお!!待ってろハッピー!!」
何を聞いていたのか。ナツがハッピーを探すべく走って行く。
「あ、おいバカ!!今の聞いてなかったのか!?とっとと帰れって」「ど、どういう事だ。今のは……」
気絶から目が覚めたショウが呆然としている……どうやらこいつらも聞かされてなかったようだ。
「エルザ、そいつの相手は任せた。俺はナツを追う」
「ああ、任せておけ」
ナツに追いつくともう色々終了していた。ハッピーは奪還され、ミリアーナは倒されている。
「そこまでだ。ナツ。もういい」
「わかってるよ。これ以上はしねえって」
ナツが離れると俺はミリアーナの方へ歩いていく。
「ミャ…カイル兄ちゃん。あ、あのね?あの時何で私達を見捨てたの?」
「そこを詳しく聞かせてくれ。ミリ…絶対怒らない。約束する」
そして涙ながらにミリから語られたのはとんでもない作り話。魔法に目覚めなかった労働者を俺とエルザが見捨てて船に爆薬を仕掛けたという事になっていた。事実爆発した船を見てその言葉を信じたらしい………煽動したのはやはりジェラールだった。
「あのなぁミリ。俺とエルザがんな事するわけないだろう……今起こっている事を簡潔に話す。嘘は一つもない。よく聞けよ」
俺はジェラールの企みを全て話した。楽園の塔のシステムを使ってゼレフを復活させようとしている事。そのためにお前らは利用された事を……
「て、てことは悪いのはジェラールで……エルちゃんやカイル兄ちゃんは間違ってなかったってこと?もうどっちがどっちなのかわかんないよ!!」
頭を抱えてへたり込むミリ。俺はしゃがんで抱きかかえてやった。
「何を信じるか、誰を信じたいかはお前の自由だ、ミリ。お前にしか決められない……お前の心に素直になれ。心の鎧を外せ。お前はどちらを信じたい?」
問いかけるとか細い声で、けれど確かに言った。
「ひくっ……大好きなカイル兄ちゃんを信じたい」
「そうか……ありがとう」
ミリを抱き起こすと、ナツに預けた。
「ナツ!!こいつをグレイ達のところへ!!でもってお前らは早く逃げろ。ハッタリだとは思うが万が一エーテリオンが落とされたら全員間違いなく死ぬ。お前らは避難するんだ!!わかったな!!」
「カイルはどうすんだよ!!?」
「俺はジェラールとエルザを止める!!その後はなんとかして見せる!!いいな!?お前らは早く逃げるんだぞ!!」
そう言うとカイルは階段を上がって行った……ナツは無言で見送り、後はカイルに任せる事に決めたのだった……
上へと走っているとエルザ達に鉢合わせた。
既に倒れてるショウとカードの中で斑鳩の剣激を防いでるエルザがいた。
「貴様のおかげで、空間に歪が出来た。そこを斬り開かして貰った」
「追いついたか……まだこんなトコにいたんだな、エルザ」
「カイル!?ナツは?」
「ミリを送らせて避難させたよ。様子をみるにショウの誤解も解けたみたいだな」
「ああ、シモンも協力してくれた。あいつは元から騙されたフリをしていたらしい」
言葉を切り、今戦っている相手を見据える。
「斑鳩とか言ったな…貴様に用は無い、消えろ!」
「…挨拶代わりどす」
すると、エルザの鎧が砕けた。
「へえ、やるじゃん」
「いや〜もしかして見えてあらしまへんでした?」
「………貴様…」
「ふふっ『見つめるは〜、霧の向こうの〜、物の怪か〜♪』…ジェラールはんを探すあまり、今自分が見えへん剣閃の中におる事に気ぃ付いてあらへん」
「剣は中々だが……俳句の才はイマイチだな」
カイルとエルザが本気モードに入る。空間がビリビリと震える。
(す、すごい……やっぱりエルザ姉さんとカイル兄さんは…)
驚愕するショウ。本物の戦士というものを初めて見たのだ。無理もない。
「そうそう、その目。うちは路傍の人ちゃいますさかいに」
「そのようだな」
「……………エルザ、こいつ譲れ。お前は先にいけ」
「カイル……わかった。任せる……気をつけろよ」
駆け上がるエルザ。特に追う事はしない斑鳩。
「いいのか?行かせて?」
「意地悪おすなぁ。今のあなた相手に一瞬でも気ぃぬいたら八つ裂きでしょう?」
「よくわかってるな」
手に剣を換装する。疾さに特化した剣で漆黒の刀身をしている。俺の格好も漆黒の着物を着たようになっていた。
「換装……天鎖斬月…」
「おやおや、うちと斬り合いたいと?」
「そういう事」
お互い構える。
「フェアリーテイル、黒の騎士王、カイルディア・ハーデス!!」
「これはご丁寧どすなぁ。ほなうちも、暗殺ギルド・髑髏会(どくろかい)、トリニティレイヴンの隊長、斑鳩と申します。よしなに」
しばらく沈黙が二人を包み……どちらともなく飛び出した!!
「絶剣技初めの型、紫電閃!!」
「無月流いぶし銀!!」
神速の斬撃が飛び交う。目にも止まらぬ疾さの剣戟にショウは圧倒されていた。
「ふふふ、あんさんやりおすなぁ」
「てめえもな」
態勢を整え、再び消える二人。残るのは激しい剣戟の音のみだ。
「あ、あのカイル兄さんと互角……」
高速移動しながら二人は刃を交える。しかし突如カイルが停止した。つられて斑鳩も止まる。
「なんのつもりおすか?まさかまだ限界ではあらしませんやろう?」
「このまま斬り合いを続けるのも悪くないが……少々飽きた。次でケリにしないか?」
「………ふふふ。よろしおす」
互いが構えて、走り抜けた!!
斑鳩は完全に抜いた状態で停止している。
カイルは剣を鞘に収め、ゆっくりと歩いて行く……鼻唄を歌いながら……
「鼻唄三丁………矢筈斬り」
刹那、斑鳩の身体から鮮血が弾ける。あまりの斬れ味のよさに剣尖がついてこれなかったのだ。
「…お見事…どす…」
そう言って倒れる斑鳩。
「ふふっ…うちが負けるなんて…ギルドに入って以来…初めてどす…。せやけど…あんたらもジェラールはんも負けどすえ…」
「……………どうゆう意味だ」
「『落ちてゆく〜…正義の光は〜…皆殺し〜…♪』…ふふっ…ひどい歌…」
そう言って完全に気絶する斑鳩。
「ショウ!!こいつは任せた。連れて行ってとっとと避難しろ!!」
「カイル兄さんはどうするの?」
「俺はこのままジェラールとケリをつけに行く。エーテリオンが落とされるまであまり時間がないみてえだ。急げ!!」
ショウを送り出すと俺は上へと向かうべく天鎖斬月の特性超高速を使おうとした……が使えなかった。
突如感じたとんでもない殺気。気がついたら俺は月牙天衝を放っていた。
漆黒の三日月型の巨大な斬撃が相手を襲う。しかし相手はあっさりとかわしていた…
そこには女がいた……腰まで届く豊かな金色の髪。滑らかな白磁の肌。豊満な胸が申し訳程度の薄布で覆われた扇情的な肢体。琥珀色の瞳を宿し、初対面なら……いや知人であろうと釘付けになるであろう蠱惑的な美貌。漆黒のマントを纏った美女だった。
「あらあら。熱烈な歓迎ね。でももう少し暖かく迎えて欲しいものだわ。ようやく時代の運命の二人が出会えたのに……」
「………………誰だ?貴様は?相当強いのはわかるが…」
「私?私はあなた。そしてあなたは私…」
その瞬間剣をふるっていた。その女の首筋に寸止めする。
「くだらねえ問答聞いてんじゃねえんだよ。質問には的確に答えろ……てめえは何者だ?」
「ふふ、せっかちね?いいわ、教えてあげる。私の名は…………アルテミス・ルナー。もう一人のローレライ。精霊神の支配者よ」
これが……王と神の邂逅……時代が引き合わせた宿命の二人の出会いだった………
あとがきです。オリキャラ登場させました。彼女がこれから物語にどう関わって行くのか……色々考えておりますのでお楽しみに!!それでは次回【王と神。たった二つのpeculiarity point】でお会いしましょう!!
コメントよろしくお願いします。