第三十九話 王と神の邂逅 たった二つのpeculiarity point(特異点)
「もう一人のローレライ……だと……バカな!!ローレライは俺一人のはずだ!」
剣を相手に突きつけながら呆気に取られるカイル。
無理もない。精霊王達からローレライはただ一人と聞かされていたし、彼女達が嘘をついた事はいちどもなかったからだ。
「表向きはね。もう一人のローレライが現れるかどうかは王次第なのよ。全ての精霊王を操れる王が現れた時、神が顕現される……私がローレライなのは貴方が最高のローレライだからよ」
そうなのか?オーフィス?
【いずれ出会う事は必然じゃった……じゃが他の精霊王を責めるな。コレは妾しか知らぬ事じゃった…精霊王達は嘘をついてはおらぬ】
「………で?お前は何しに来たんだ?ジェラールの仲間なのか?」
「まさか。あんな小物の下に着くわけないじゃない。こう見えても私は神の支配者なのよ?ここにいれば必ず貴方に会える。そう思って来たのよ」
漆黒のマントをはためかせ、腰に下げた剣を抜く。同時に放たれるおびただしい魔力。カイルは思わず身構えた。
「ねえ、当然貴方は精霊魔装に至ってるんでしょ?」
「………口ぶりから察するにお前もか?」
「もちろん。王の精霊魔装の二つ名に何で神を殺す様な内容の名前がついてるか知ってる?」
言われてみれば精霊魔装の二つ名は神を殺すと言った内容の名前がつけられている。ただ単にそれ程の威力の魔法だからだと思っていたが……
「それはね?私達が最強の魔導士だから。私を倒せるのは貴方だけだし、貴方を倒せるのも私だけ。私達はたった二つの特異点なの。来たれ炎の精霊神。我が契約に従いてその姿を現せ……スカーレット!!」
そう言って彼女は精霊神を呼び出す。全身から炎が噴き出る赤髪の美男が現れる。
「奴が王か……素晴らしい魔力だ。滅びるのは我々かもしれんぞ」
「そうかもしれないわ、だから面白いんじゃない。続けていくわよ。汝、魔を滅する紅蓮の精霊神よ…」
【何をやっている奏者!!そなたも精霊王を呼び出せ!!】
相手のサモナルを驚愕の表情で眺めていたカイルは我に返り、レリーズを展開する。
「「ローレライの名の下に我が剣となりて具現せよ!! 」」
「レーヴァテイン!!(神をも焼き尽くす紅蓮の剣)」「プロミネンス!!(王殺しの炎閃)」
二人の手に炎の大剣が具現する。ほとばしる魔力はお互い凄まじい。並の魔導士ならそばにいるだけで消し炭になるだろう。
「さぁ楽しもうじゃないか。王と神の決戦を…」
「………こいつは長引きそうだな……」
同時に跳躍し、刃を合わせる。その刹那巻き起こる炎の嵐。壁面を溶かし、彼らの周りの物全てが消し炭となる。
「流石ね……精霊の格は私が上なのに互角……素晴らしいわ。最高よ、貴方」
(魔力なら俺の方が上のはずなのに互角?それ程の威力なのか?こいつの精霊魔装は!?)
互いに跳躍し、距離を取る。迂闊に飛び込める相手ではない。どう先手を取るか…それにこの勝負はかかっている。
「わかっているけどやめたわ。あまり考えるのは嫌いなの。この最高の戦い、思考などの入る余地はない」
漆黒の炎を纏った剣を振り下ろす。黒い炎が俺に襲いかかる。
(正気か?俺に炎は効かない事ぐらいわかってんだろう)
レーヴァテインを振りかざし炎を纏おうとする。
しかし炎は俺のいう事を聴かず、暴れまわった。
「ま、纏えない!?俺が炎を!?」
身を焼かれると本能的に察したおれは大きく飛び下がった。
ナツの炎でも纏える俺が焼かれそうになった……これは一体??
「神の炎を纏うなんて図々しいわね、王様?王の力では神の炎は操れない」
黒い炎をその身に纏い、悠々と俺に近づいてくる。
「ならてめえはどうだよ!?炎獄煉龍波!!」
龍の形をした炎がアルテミスに襲いかかる。しかし奴が精霊魔装を一振りすると俺の炎は消え失せた。
「素晴らしい炎ね。対象を燃やし尽くすまでは決して消えない炎。二つ名に偽りなしって言った所かしら?確かに私でもこの炎は纏えない。でも打ち消す事は出来るわね」
お互い相手の魔力を力にする事はできない様だ。なら剣で圧倒する。
跳躍し、懐に潜り込むと大剣を叩き込む。かろうじてアルテミスは防ぐがやはり剣技は俺の方が上だ。
続けて剣閃を見舞う。
「うわっ!?流石は黒の騎士王。剣技の方も半端じゃないわね。接近戦はまずいかしら」
言葉を無視して俺はダッシュする。回り込んで炎ごと切りふせるつもりだ。
しかし奴も本気ではなかったようだ。先程はかろうじて受け止めた斬撃を今度はしっかりと受け止める。
そこから超高速の連続技の応酬が始まった。奴の大剣が俺の斬撃を阻み、俺の剣が奴の一撃をいなす。やはり長期戦になりそうだった。
しかし突如俺の剣が吹き飛ばされる。鍔迫り合いを行っていた奴の大剣から今までとは比べ物にならない炎の爆発が起きたのだ。
「ヒュー。流石流石。これ以上剣での勝負を続けたら私が負けるね。だから上回ってる物で戦わせてもらうわ」
つまり今のが奴の精霊魔法の本気。今までのは様子見にすぎなかったようだ……
未だかつてないほどの苦戦。強敵、命の危険すら脳裏を過る……
しかし彼は笑った……
(ありがてえ……ニセモノじゃねえ)
生涯で初と言っていい好敵手。ジョゼも難敵ではあったが強敵ではなかった。
しかし今彼の目の前には己の全力を出し尽くしても及ばないかもしれない相手がいた。それが純粋に嬉しかった。
「来たれ氷の精霊王よ…契約に従いてその姿を現せ……」
「え……何をするつもりなの……」
「フリージア!!!」
炎に身を包まれていた俺の体に吹雪が巻き起こる。ふたつの力がせめぎ合い、打ち消しあっている。
「ど、同時に精霊王を?!無理よ!!そんなの出来るわけがないわ!!」
「汝、魔を滅する氷結の精霊王よ…ローレライの名の下に我が剣となりて具現せよ!!ラヴィアス(神をも凍てつかせる氷結の剛槍)」
薄青い槍が俺の手に具現する。右手に持った炎の剣と反発を起こすが、魔力の波長を同調させ、一つの力とする。
「喰らえ…焔と氷の合成精霊魔法……インフェルノ!!」
二つの武器を同時に振るう。放たれたのは炎と氷が混ざった複合精霊魔法。その二つは決して打ち消し合う事はなく、それぞれの最高の威力を保ったまま、アルテミスを襲いかかる。
(プロミネンスで炎は防げても氷が!!同時に精霊王を使役するなんて……)
氷結の一撃が彼女に直撃する。あたり一面凍りついたが、彼女の姿はなかった。
代わりに地面に大きな穴が空いている。
「防ぎきれないと悟って逃げたか……冷静だな」
穴の下を見たがもう彼女の姿はなかった。魔力の残滓はあるので先程までいたのは間違いないが、気配すらも消えている。
(また会う時が来るだろう。その時は恐らく決着が着くまで戦う事になる)
来る決戦の時を憂い、武者震いするカイルだった。
「さてと!!めちゃくちゃ時間喰っちまった。急がねえと!!」
精霊王たちをしまい、天鎖斬月を換装し、屋上へ向かおうとする。
が、突如世界が光に包まれた……
エーテリオンが………落とされた………
あとがきです。いよいよジェラールとカイルが再開します。果たして闘いの行方は!?
次回【間違えた選択】でお会いしましょう!!コメント宜しくお願いします。