小説『フェアリーテイル ローレライの支配者』
作者:キッド三世()

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第四十一話 甘いだけさ…






己の身に雷を宿すカイル……今の彼は雷そのものとなっていた。


「ぐ、がはっ…」


何とか回避しようとするジェラールだが、カイルがそれを許さない。

殴っては消え、蹴っては消え……完全に滅多打ちだった。
素早い動き、そして雷や炎を宿した攻撃でカイルは確実にダメージを与えていった。


ジェラール…、できることならお前を助けたかった。
だけど、お前は闇に染まりすぎてしまった。


お前の犯した罪は、決して赦されるものじゃない。


裏切り、評議院への潜入、エーテリオンの投下、評議院の破壊、仲間殺し…


「っ、がは…っ」




血を吐き、地に伏せるジェラールへゆっくりと近付く。





「あのジェラールが…手も足も出ない……」


「やっぱカイルは強ぇ…!」


驚愕に包まれる二人…無理もない。カイルの本気を超えた真の力を目の当たりにしているのだ……


ジェラール……お前の罪は消えない。


だが、お前だけに罪を背負わせたりはしない。


「ジェラール…お前は……俺が…」


震える声でそう言うカイルの顔を見、エルザとナツがハッとする。











泣いていた……誰より強く、弱いところなんか決して見せないカイルが……
ナツ達の前で臆面もなく泣いていた……














やめろ……なんでお前がそんな顔をする!!



それ以上言うな…
嫌だ……聞きたくない…!


エルザが耳を塞ぐ。だが言葉は無慈悲に紡がれた。





「お前は俺が……殺す……」








「…っ、ぁ…」


塞いでも耳に入ってきてしまった言葉に、エルザの瞳から涙が溢れ落ちる。


カイル、お前は…自分も罪を背負うつもりなのか…?


「…ふざ、けるな…っ」


よろめきながら立ち上がるジェラール。


「俺、は…っ、死ぬ…わけには…いかんのだ…っ!」


身体を再び光に包む。流星だ。


「この速度にはついてこれまい!!」


カイルの周りを超高速で旋回するジェラール。
しかしカイルはその様子を痛ましく見ているだけだった…


「っ!?がはっ」


唐突にカイルが姿を消し、ジェラールに肉薄すると光と闇の魔力を込めて顎を蹴り上げた。


「な、なんっ……!!」


状況がのみこめず、混乱するジェラールだが、体勢を立て直そうと空中で一回転し、自分を蹴った者の姿を探す。

突然目の前に現れたカイルに後ろ頭を掴まれ、そのまま雷速で地面に叩きつけられる。


「く、くそお!!」


流星で脱出し、距離を取ろうとする。が、再び目の前に現れたカイルが今度は首を直接掴み、壁に打ち付け、持ち上げた。
ジェラールが叩き付けられた衝撃でラクリマが大きく割れる。

カイルは首を押さえ付けたまま、もう片方の手に魔力を集める。


「終わりだ……かつて愛した弟よ…」


首を掴む手を振りほどこうと力を込めるジェラールだが、カイルの力は緩まない。


これで最後だ……この手に宿した魔力を解放すればジェラールは死ぬ…


「がは…っ……どう、した…っ怖じ気付いたか…!?」


その言葉を聞き、カイルはジェラールを地面に叩きつける。


「ガハッ!!」


振り上げた拳が震える。



やらなければいけない。
俺がやらなければいけないんだ…っ


振り下ろせ!!


振り下ろそうとするカイルの意に反し、腕は震えるだけで全く動かない。





「…ハァ…ハ…、ぐっ…」




「くそっ!!」



息を乱し、苦しみに耐えるジェラール。
その姿を見たカイルの脳内に、走馬灯のように記憶が駆け巡る。





明るくて、強くて、優しい奴だった。






ーーーーーー「兄さん!」




目を見開く。エルザとナツの叫ぶ声を聞きながら、カイルは拳を握り直し、そして一気に腕を振り下ろした。


激しい破壊音が響き渡った。

その音に全員が息を呑む。













振り下ろされた拳が捉えたのは、ジェラールではなく、地。



溢した涙がジェラールの頬に落ちる。


……悪い。
やっぱ、俺には出来ねェ。


殺す事なんて、出来はしない。







「、……本当に甘いな…兄さんは、」


「うるせー……」


呆れるジェラールに苦笑を溢す。









「い、いや……いやぁああああぁああああ!!!!!!」


「カイルーーーーーーーーー!!!!!!」






エルザは瞳に涙を溜めたまま崩れ落ち、ナツはジェラールへの怒りを露にしてカイルの名を叫んだ。







目の前で起こった悲劇。








光がカイルの体を貫いた。





ジェラールの頬に落ちた血が涙と混じり合い、赤い涙のように伝い落ちる。


「これくらいの覚悟、俺はとうの昔にしているっ!」



ジェラールは再度、光をカイルの胸に放ち、そして大きく蹴り飛ばした。



「俺は…お前のように甘くはない!」


「……ごぶっ…」


壁に背中を強く打ち付け、大量の血を吐き出す。


「…終わりだ」



壁に背を預けるカイルに、ジェラールが手を翳し、狙いを定める。




「カイル…っ」




「フン、もう遅い…」


エルザが間に入ろうとするが、間に合わない。

勝ち誇った笑みを浮かべ、ジェラールが攻撃を放とうとしたときだった。


「がぁっ!!」


いつ間合いに入ったのか、驚くよりも早く、ナツがジェラールを渾身の力で殴り飛ばした。


「カイル…!」


その隙に、よろけながらもエルザがカイルに駆け寄る。


「お前…なんで……なんでっ」



「、……ごめん…」


涙を流すエルザにカイルは謝る。


「…………?」


「俺には…でき、なかった…」


自嘲する。口から血が溢れながら笑った。



「っ!いいんだ…!やらなくていい…っ」




「………甘い、よな「違う!お前は優しいんだっ!!」



甘いだけさ…



勢いよく壁に打ち付けられるジェラールに目を見開く。


これ、は…ナツが…?


「…ぐ…、っな…!?」


傷を押さえ、ふらりと立ち上がるジェラールも、同じように目を見開く。


「エーテリオンを…食ってやがる…!」



エーテリオンが吸収され、ラクリマ化したものをナツは食っていた。

確かに、取り込めば強大な魔力を手に入れられるかもしれない。だが!!


「うおぉぉぉぉ!」



「…チッ」


叫びと共にナツが強力な衝撃波を放つ。が…


「ぐ…がぁぁ…っ」


突然喉を押さえ、苦しみだした。


「なんてバカな事を!!エーテルナノには炎以外の成分も含まれてるんだぞ!!」


(炎の代わりに強力な魔力を喰えばパワーアップするとでも思ったか……その短絡的な考えが自滅をもたらした…)


「うぅっ…うおぉぉぁぁ!」




しかし、苦しむ声は塔を震わす咆哮へと変わり、エーテリオンの魔力はナツの炎へと変化した。


「なに!?」


「エーテリオンを……取り込みやがった……」



自滅するどころか、ナツはエーテリオンの魔力を自分のものにしたのだ。



立ち上る炎がドラゴンの姿へと変わる。


ナツがジェラールを蹴り飛ばす。
雷天大荘程ではないが凄まじいスピードだ。


「お前がいるからぁあああぁあああ!!!エルザやカイルが…仲間が涙を流すんだぁああああぁああああ!!!」


何層にも重なるラクリマの壁をぶち抜いて行く。


それに俺は…


「約束したんだ!」


ナツ、エルザを頼む


「約束したんだー!」



「っ…!こざかしい…!」


流星を使い、ナツの攻撃を振り切るジェラール。


ナツも足に魔力を貯め、貯めた魔力を炎に変えて、崩れ落ちる瓦礫を力の限り蹴り上げ、一気に上へと跳ぶ。


そして、ジェラールの腹に拳を叩き込み、ラクリマの天井を突き破っていく。



「馬鹿な…っ!?」


あり得ない、と目を見開くジェラール。


「っ、俺は負けられない!」



「がっ」



最上階まで来たとき、ジェラールは一度ナツを蹴り飛ばし、ラクリマの壁を蹴って更に高く跳ぶ。




「自由の国を創るのだ!痛みと恐怖の中でゼレフは俺に囁いた!真の自由が欲しいか、と呟いた…!」


降り注ぐ攻撃の雨を全て避け、上空にいるジェラールを睨む。




「そうさ…ゼレフは俺にしか感じることができない!俺は選ばれし者だ!!俺がゼレフと共に真の自由国家を創るのだ!!」


「それは…っ人の自由を奪ってまで…、家族を犠牲にしてまで創るものなのかぁぁっ!?」



「世界を変えようとする意思だけが、歴史を動かすことができる!」


「っ…!貴様らには何故それがわからんのだ!!」



ジェラールが上空に魔方陣を描く。


「煉獄砕波…!?」


「貴様っ…!塔ごと消滅させる気か…!?」




「また8年…いや、今度は5年で完成させてみせる。ゼレフ、待っていろ」


魔方陣が光る。

ヤベェ…!
このままじゃ…


「────ぐっ!?」


不意に傷が痛んだ。エルザに斬られ、カイルに散々殴られた傷が…


カイルの攻撃でジェラールが体制を崩し、魔方陣が消滅する。

今だ…!



ナツがジェラール目掛け、地を蹴る。



「!?」



「お前は自由になんかなれねぇ!亡霊に縛られてる奴に、自由なんか…ねぇんだよおおおぉおぉおおぉお!!!!」


炎がナツを包み込む。


全身に炎を纏ったナツは、まるで火竜そのもの。




「自分を解放しろ!ジェラァァールゥゥゥ!!」




「ぐぅぅ…っ」


渾身の力で殴られたジェラールは、声にならない絶叫をあげながら塔の床を突き破り、最下層まで落下した。



「…これが…ナツの真の力…」









これが…滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)…!























あとがきです。ドラゴンフォースのナツは無敵すぎですね。書こうか少し迷ったんですが物語上必要だろうと思って書きました。それでは次回。【俺が殺してやる】でお会いしましょう。コメントよろしくお願いします!!あ、後別にアカメが斬る!で連載スタートしました。原作知らない人もいるかと思いますが原作はとても面白いので興味を持っていただければ幸いです。よろしくお願いします。

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