小説『フェアリーテイル ローレライの支配者』
作者:キッド三世()

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第四十二話 俺が殺してやる






ナツがあのジェラールを倒した。
仮にも聖十大魔導の称号を持っていたジェラールを、だ。


ナツはこちらを振り返り、ニッと笑顔を見せた。



「…っ、ナツ!」


そして糸が切れたように倒れるナツをエルザが抱き止める。



「お前は凄い奴だ。…本当に」


俺たちの八年に渡る闘いを終わらせてくれた……感謝してもしきれねえ…


突如大きく揺れる塔。ラクリマが次々と壊れていく。


「ど、どういう事だこれは!?」


「もともとエーテリオンなんて莫大な魔力を一箇所にとどめとくのが無茶なんだ…その上俺とナツで散々暴れた…当然っちゃ当然だよ」


魔法陣を描く。簡易的ではあるが転移魔法陣だ。三人程度でグレイたちがいるところくらいなら飛ばせるだろう。


「少し目と耳閉じてろ!!転移!!」


描いた地面が光り、俺たちを包む…しかし飛ばせたのはナツだけだった……


「くそっ!!肝心の俺の魔力が足りない!!」


「精霊王を全て呼び出し、ジェラールにあれだけ傷つけられた…無茶の連続もいいとこだ。ナツを飛ばせただけでも充分すぎるほどよくやった……後は任せろ!!」


俺の腕を掴み、肩を貸すエルザ。ラクリマの間にシモンが落ちて行った…


「シモン……」


「すまない……」


俺達は見送る事しかできなかった…



……無理だ……歩いてじゃ間に合わない……


俺もそうだがエルザもボロボロなんだ……間に合うわけがない…


何か手はと考えているとエルザが俺を優しく下ろした。
ラクリマへと歩み寄っていき壁に手をつく。


「な、何をするつもりだ、エルザ…」


「私がラクリマと同化してエーテリオンを制御する…」「バカヤロウ!!そんな事したらお前の体はどうなると思ってんだ!!」


分子レベルまでバラバラにされて……死ぬ…


「お前は何も心配するな……お前には数えきれないほど助けられた……今度は私が救う番だ…」


腕がラクリマの中に埋まっていく…まだ塔はエルザを受け入れられるようだ。


「やめろぉぉおおお!!エルザ!!頼むやめてくれぇええぇええええ!!!!」


「……カイル……私はお前なしでは生きていけない……フェアリーテイルのない世界なんて考えられない……私にとってお前は……お前達は……それ程にかけがえのない存在なんだ…」


必死に体を動かそうとするカイル。だが意に反して体はピクリとも動かなかった…


「お前を助けられるなら……この体など……くれてやる!!」


ラクリマの中に完全に入り込んだエルザ。その姿はもう手の届かない所へと移ってしまった。


「エルザぁあああぁあぁああ!!!!」


楽園の塔の崩壊と共に巻き起こる魔力の渦。その竜巻は天空へと消えて行った…














〜???〜


ここは……どこだ……


エルザは真っ白の世界にきていた……白いワンピースを着たエルザは宙に浮いている…


突如世界は開かれる……目の前に現れたのは雨の中のフェアリーテイルと誰かの墓標。


「そうか……私は……死んだのか」


評議員の連中が現れ、私を聖十大魔導に任命する…


マスターが墓標に語りかける。


震える声で……涙を流しながら…


途中でナツが走ってきた…祈りを捧げている皆の姿を見て激昂する。


「何してんだよ!!皆してよぉ!!エルザが死ぬわけねえだろ!!やめろよ!!」


墓標の前で暴れ出すナツ…全員で何とか取り押さえる。


「エルザは死んでねえ!!死ぬわけねえんだぁあああぁあぁああ!!!!」


「ナツいい加減にしなさいよぉ!!」


ナツの咆哮を皮切りに皆むせび泣き始める……
その様子を宙に浮いているエルザが泣きながら見ていた。


「違う……私はこんなもののために……死んだんじゃない……私は皆の未来の為に…」


もうやめてくれ……泣かないでくれ……お願いだ……





助けてくれ……カイル………


切に願う……無茶な事だとわかっている……不可能だとわかっている……
だが頼れるのはもう彼しかいなかった……












しょうがねえな



声が頭に響く……確かに聞こえた…!カイルの声が……
何よりも愛しい……何度も私を救ってくれた優しく強い大好きな声…


「てめえがどれだけ馬鹿なマネしようとしてたか……わかったか?」


振り返るとそこにやはりいた……奇跡を起こす私のヒーロー…
……永遠に愛する人…


「帰るぞ……相棒…」


手を取り抱き寄せ、唇を奪う……私もカイルを求める……もう決して放しはしない。


雨に濡れた灰色の世界が切り裂かれた……













…………………………何だここは……死の世界か?………もっと恐ろしいモノだと思っていたが……

何だか心地よい……暖かく、優しく、力強いものに抱かれているかのような……


ゆっくりと目を開けるとそこには私のヒーローがいた…








横抱きにエルザを抱え、立ち尽くすカイル。その表情は険しいものだった…


(見つけ出したというのか……あの魔力の渦の中から私だけを……何という男だ……」


抱きかかえられながら片目から涙を零すエルザ。カイルはそっと下ろし、肩に顔を埋める。


「………………同じだ………」


小さな声でつぶやく……顔をあげるエルザ。


「俺だって………俺たちだって同じなんだ……」


お前のいない世界なんて考えられない……


「もう二度と……こんなマネするな………」


カイルも涙を零す。激情に身を任せ、泣き続ける。


「今度やってもまた俺が必ず助け出す……んでその後に……俺が直々に殺してやる……わかったな……」


「…………………………………」


「わかったなぁあああぁあぁああ!!!!」


「…………………ああ…………ごめんなさい……カイル……………ごめんなさい…」


カイルの頬に手を当て、エルザが引き寄せる……そのまま交わされる二人のキス……深く、熱く、激しく…!
お互いの存在を確かめ合うかのように……




仲間の為に死ぬんじゃない……仲間の為に生きるんだ……それが幸せな未来につながるから………



唇をはなし、立ち上がり、駆け寄ってくるナツ達を迎える……
片目を潰され、義眼となったエルザの右目……そのせいか、そちらからは涙はこぼれなくなっていたはずだった……






しかし今のエルザからは両目から涙が溢れていた……


















あとがきです。命を無下にしてはいけませんよね、それが大切な人の為なら尚更……ジェラールを殺せなかったカイルにエルザが殺せるとは思えませんけど……
それでは次回【自由の為に…】でお会いしましょう。コメントよろしくお願いします。

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