小説『フェアリーテイル ローレライの支配者』
作者:キッド三世()

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第四十六話 雷光の反逆




仕事に行くのか、ガジルがギルドから出ていった少し後、静かに後を追い掛ける三人がいた。


気持ちはわからんではないが……止めなきゃな。



黙って外を見つめているカイルを不思議に思い、エルザとハッピーが心配そうに近づいてきた。


「?どうしたカイル?」


「もしかして傷が痛いのー?」


ジェラール戦で負った傷はまだ完治はしていなかった。だが普通にしていて痛むほどではない。


「俺は大丈夫だが……目に見えねえほうの傷が治って無いやつが気になってな…」


揃って首を傾げる二人。

話す程のことでもないか…


「まあお前らは気にすんな」


「またお前は背負いこむ……」


腰に手を当て、困った顔するエルザ。
悪いな、性分でね……もう治んねえよ。


「……まあいい。傷が治るまでしっかり休むんだぞ」


「ウパー!またみんなで仕事行こーね!」


二人に背中をぐいぐい押され、先ほど寝ていた部屋に追いやられる。
あー暇になるなー…

はぁ、と溜め息をつき、仕方ないから寝るかと、カイルがベッドに腰かけたときだった。


「……………こいつは……」


並の魔導士のものではない、大きな魔力を感じた。


帰ったか……あいつ…


さらに、その魔力の近くに四つの魔力。


【行くのか?奏者よ】


「行かねえと色々大変だろう」


いつもの黒の戦闘服に着替え、窓から飛び出した。


全く…コイツらに比べたら、俺なんかまだ大人しい方だよな〜














普段は静かなマグノリア西口公園に、激しい爆撃音が響き渡る。

それはまるで雷が落ちたような音だった。


「…ぐぁ…っ」


ラクサスの電撃を受けたガジルが地に倒れる。



「テメェのせいで…!」


「っ…よせよラクサス!やりすぎだ!」


思いもしなかった出来事に焦り、ジェットがやめるよう叫ぶが、ラクサスは聞く耳を持たなかった。


ガジルの後を追って行ったのは、レビィにドロイ、ジェットの三人─────…ファントムの事件での最初の犠牲者だ。

その三人を傷付けたのは他でもない、…ガジル。


ドロイとジェットは自分たちなりのけじめをつけるために、ガジルに攻撃を仕掛けた。

しかしガジルは一切反撃をせず、ただ攻撃を受けるだけ。

ジェットとドロイの中で疑問が生まれた。
しかしその疑問は、静かに現れたラクサスの登場により、二人の口から発せられることはなかった。

そしてラクサスは、ギルド襲撃の犯人であるガジルに怒りをぶつけるかのように激しい攻撃を仕掛けた。


「…ぐっ」


ラクサスの電撃をアレだけ受けたガジルは身動きが取れなくなっていた。
制裁としてはもう充分だろう。だがラクサスは攻撃を辞める気はなかった。


「妖精の尻尾に逆らった奴がどうなるか教えてやる!」


「っ…」



ラクサスが足に電撃を纏い、今まで以上の力でガジルを踏みつけようとする。



「「っ」」

「いやっ…」


目の前で起こる悲惨な現実から逃げるように、三人は目を背ける。




地を揺らす、凄まじい音。





「…あん?」


ラクサスの不機嫌そうな声に、三人が恐る恐る視線を戻す。


電撃によって焦げ、大きく陥没した地面。
だが、そこにガジルの姿はなかった。


「やれやれ、つまんねえことやってんな、お前ら」


「な、んで…ここに、…」


「……またテメェか…」


閃光の如き速さで割り込んだのはカイルだった…ラクサスから距離をとり、スタッと着地をしたカイル。
その手はガジルの襟を掴んでいた。


相変わらず大した威力だ。間に合って良かったぜ。


カイルが心の中でホッと息をついていると、掴んでいる襟が前に引っ張られた。
下を見れば、ムスッとしたガジル。



「…チッ…余計なこと…すんじゃ、ねぇ」


「ありがとうぐらい言えんのか、お前は」


襟を掴んでいる手を振り払い、ガジルがギロッと睨んできた。
強がりもここまでくれば立派だな。呆れ半分感心半分の表情で溜息をついた。


不機嫌そうに眉を寄せたラクサス。俺は正面から向かい合う。


「っカイル…!お前…」


「…………お前らの説教はとりあえず後だ」


ハッと我に返り、カイルに話しかけるドロイとジェットだが、突然大きくなった魔力に怯み、青ざめ、息を呑む。


「で?な〜に美しくねえ事やってんだ?ラクサス」


「あぁ?」


「過去に何があったとしても、もうこいつは仲間なんだよ。そいつに何してんだって言ってんの」


「仲間ぁ…?そいつが…?ハッ、何ふざけたこと抜かしてやがんだ」


馬鹿にしたように鼻で笑うラクサス。



「そいつはギルドを壊した張本人だぜ?仲間なわけねぇだろうが」


「終わった事をいつまでもグチグチと………乙女か、お前は」


「…なにぃ?」


鼻で笑いかえすカイル。
ラクサスの眉が自然と寄った。


放たれた電撃。
雷の精霊王、カーバンクルを呼び出し、相殺する。


「バカおま、え…!どい、てろ…!」


「うるせぇ下がってろ」


前に出ようとするガジルを無理やり下がらせ、バチバチと電気を纏うラクサスに対抗し、千の顔を持つ英雄で雷切を創造する。かつて東方の伝説の戦士が雷を斬ったとされる対雷系に絶大の威力を誇る片刃で細身の剣だ。
普通の斬れ味も尋常ではない。デュランダル(絶世の名剣)やエクスカリバー(約束された勝利の剣)に匹敵する。
伝説級の聖剣を除けば間違いなく世界最強の斬れ味だろう。


「なんだ?俺とやろーってか」


「一年前俺にぼろ負けしたのを忘れたのかよ。今の俺に電撃は効かねえぞ」


カーバンクルを憑依させてる上に、構えてる武器は雷切。今のカイルに電撃は無意味だろう。


「ハッ、その体でか?いくら魔力や武器が凄くても体がついて来てねえだろう」


ばれてたか……洞察力はついたようだな。


「あの速さで手負いなのかよ…」


「嘘だろ…ってか、」


「っカイル!まだ怪我が治ってないんだから動いちゃダメだよ!」


レビィが目に涙を溜めて叫ぶが、カイルは何も答えない。


「まあ頑張りますよ。可愛い子の涙は見たく無いんでね」


「ハハハッ!良いザマだな。誰にやられたんだ?ん?」


「少なくともお前よりは強えヤツだよ」


…確かにラクサスは強いが、自分の力を過信し過ぎだ。
その過信をへし折ってやりたいところだが……ヤバイな。


「…で、どうしたよ?かかってこないのか?まさか、傷が痛くて闘えない、とかいうんじゃねぇだろうなァ?」


「な〜に。お前を倒すくらい分けねえさ!!」


両者共に地を蹴り、空中で雷を纏った拳と剣が激しくぶつかる。


「うおらぁ!」


「っと!!」


「「「カイル!」」」


ラクサスの拳がカイルを捉える。カーバンクルを宿した腕でガードするが勢いで吹き飛ばされる。


そしてすぐさま降下し、砂煙の中にいるだろうカイル目掛け、拳を放つ。


が、


「せっ!!」


「ぐっ!!」


抜き打ちでラクサスを切り飛ばす。
肩口を斬られたラクサスは大きく飛び下がった。


「…ハッ、やってくれるじゃねぇか…」


「思ったほどではないな、ラクサス。てめえ弱くなったか?」


頬についた泥を拭い、ラクサスがゆっくり立ち上がる。
体からは、バチバチと音を立て、高圧の電気が溢れ出る。

……あ、ヤベーな…




「チッ…どいてろ…!」


「おわっ!!」


マントを突然引っ張られ、バランスを崩したカイルが後ろに倒れる。
引っ張ったのはガジル。


「バカかてめぇは…!勝手に始めやが、って…!てめぇは…関係ねぇだろ…!」


「ホンット可愛くねえやつだな、お前は」


ガジルはカイルの前に立ち、ラクサスを睨みつける。
だが、攻撃はしようとしない。



「あぁ?なんだ、その目は。…どうやら、まだやられたりないらしいな…」


「っ、やめろラクサス!もういい!」


手に電気を纏い、ガジルに向けるラクサス。

このままではまずい感じたのか、ジェットがラクサスに静止を叫ぶ。


「雑魚は黙ってろよ!」


怒ったラクサスの手がジェットたちに向けられ、電撃が放たれる。
電撃の先にはレビィ。


刹那カイルがレビィの前に立ち、電撃を斬り捨てる。


「お前に助けさせたほうが良かったか?ガジル。悪りぃな。俺より遅いお前の責任だ」


続いて前に飛び出していたガジル。フンっと顔をそらす。


「もういいか…?仕事が…あるんだ…」


「…あ、あの…」


「ほっといてくれ…」


レビィが声をかけるが、ガジルは振り返らず、そう短く呟き、去っていった。


それを見たラクサスは冷めた表情を浮かべ、コートを翻してその場を後にした。


「やれやれだぜ…」

「あ!!」


「カイル!」


「おい、平気か!?」


大きなため息をつき、あー、と尻もちをつくカイルに三人が急いで駆け寄る。


「問題ない………とは言えんな。体中痛え」


「っ…ご、ごめん!」


「「レビィ…!?」」



「ん?何レビィ。俺に謝んなきゃいけねえことしたの?」


バッと音がする程の勢いで頭を下げるレビィ。



「だって…カイルまだ怪我が治ってないのに…私のせいで…」


「れ、レビィは悪くねぇよ!」


「そうだ!俺たちが悪かったんだ…!」


「そだな。この二人が悪い」


ズバッと斬り捨てるカイル。
少しうっといった顔をする二人。


「お前らのやったことは間違ってる。だが気持ちはわからんでは無い。だから責めない。…敵だった奴が仲間になった。じゃぁ、仲間になったんだから仲良くしましょう、って言える奴なんてそうそうはいねえさ。俺以外」


大抵の事は笑って許すカイル。改めてその器の大きさを思い知らされる三人。


「だがあのバカはやりすぎるところがあるから…それを止めに来たってだけだから。責任感じるなよ。俺が勝手にやったことだし」


さてと、と立ち上がるカイル。三人に目を向ければ、暗い表情で俯き、黙っている。


「んじゃ俺は帰る。それと頼みがあるんだが…」


「頼み?」


「この事エルザ達には黙っててくれ」


は?と頭にハテナを浮かべる三人。


「バレたらぶっ飛ばされるからな…」


苦笑しながらカイルは去って行った…













「「「…………………」」」


「え、えーと、そのだな…………」


「「「……………………」」」


「すみませんでした……」


只今絶賛土下座中。部屋に戻ってみると仁王立ちしているエルザ、ミラ、カナがいた。


「…はぁ、…大人しく寝ている奴ではないのは知っていたが…」


「事情はわかったけど……」


「ここまでバカとはね〜」


「ホントすみません」


はぁーっと溜息をつく三人。顔を見合わせるとニヤっと笑った。


嫌な予感がしたが逃げられない。


「そうか〜。そんなに元気があるか〜。カイル」


「それなら私たちの相手になるくらい簡単よね〜」


「え、この展開は……」


お、襲われる…!


素早く立ち上がり、窓から逃避しようとするが服を掴まれ、そのままベッドに押し倒される。


「お、おいまて!マジで怪我は完治はしてなくてだな!!」


「知るか」「知らないわ」「知らないね」


ビリビリビリ!!



「十回や二十回で済むと思うなよ」


「玉のなか空になるまで絞り尽くす」


「食い尽くしてあげるわ」


すぐさま全裸になるエルザ達。豊満な胸達が迫り来る。



「や、破くのはやめて!!エ、エルザ!!どこ触って!!ミラ!!胸押し付けんな!!カナ!!胸で顔埋めんな!息が出来ん…!!アーーーーーー!!」








あぁ、収穫祭は枯れ木で出なきゃならなくなりそうだ……

















あとがきです。なんと月間ランキング9位ですよ!!一桁ですよ?嬉しすぎてヤッホーです。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。コメントもらえるともっと嬉しいです。励みになります。あ、後反逆の竜騎士という小説も連載しているんですが見てくれてる人が少ないようで少し悲しいです。私の拙い文ですが原作は本当に面白いので是非読んで欲しいです。ケンカ嫌いの喧嘩狼もよろしくです。それでは次回【開始を告げる雷光】でお会いしましょう!!

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