第四十七話 開始を告げる雷光
収穫祭当日。
街はお祭りムード一色に染まっていた。
「ぁぁぁー…ま、祭りだぁ…」
「あい!」
「く、食えるもん…片っ端から食うぞー…」
「食うぞー!」
そう意気込むものの、フラフラと覚束ない足取りで街を歩くナツ。
エーテリオンを食ったときの影響が、今になって現れたようだ。
「まだ調子悪そうね…」
「まあ無理もない。炎以外の魔力を喰うとああなるんだよ。前はラクサスの雷だった」
「喰えるの!?それ!!」
普通無理だがまあナツだからな。
「大丈夫ですか?」
「ほぉっておきゃ、いいんだよ」
今はナツとハッピー、ルーシィにグレイ、ジュビアとカイルの五人で街を回っているところだ。
そんな五人に近づく者が一人。
「────相変わらずだな」
「ん?…ウォーレン!久しぶりだな!」
「収穫祭に何とか間に合ったよ」
話しかけてきたのは妖精の尻尾の魔導士で、念話(テレパシー)の使い手。ウォーレン・ラッコーだ。
今日までずっと仕事に行っており、ちょうどさっき帰ってきたところのようだ。
「懐かしいな、元気だったか?」
「まあ一応ね。そっちの女の子は?」
「はじめまして!ジュビアです!」
「ああ、君があの…」
ウォーレンとジュビアが挨拶してる間にルーシィは街の様子を見ていた。
「相変わらず派手だな。ギルドもこの街も」
「ファンタジアを見るために他の街からも集まってくるからな」
周りを見渡せば、妖精の尻尾のマークが入った風船、ハッピーに似た着ぐるみ、洋服などが売っており、たくさんの人がこの収穫祭を楽しみにしていることがわかる。
「私も見たーい!」
「…お前、参加する側だろ」
「ん?参加といえば…ミスフェアリーテイルコンテスト始まっちゃう!私の家賃ー!!」
走り去ってくルーシィを見、そういえばもうそろそろか、とカイルも会場に向かおう歩き出す。
「カイル?行くのか?観客席はそっちじゃねえぞ」
方向違いの場所に向かうカイルにグレイが話しかける。
「いいんだよ。それよりお前らも早く行っとけ」
はははと笑うとカイルはどこかに行ってしまった…
会場に着くと、マックスの司会の上手さもあり、たくさんの人で賑わっていた。
すると、マックスが息を大きく吸い込み、マイクを握る。
どうやら始まるようだ。
「エントリーナンバー1!異次元の胃袋を持つ、エキゾチックビューティー!カナ・アルベローナ!」
会場から歓声が上がる。
一番に現れたのはカナ。
魔法を使ったアピールタイムでは、カードで身を隠し、水着姿に変身して魅せた。
「エントリーナンバー2!新加入ながらその実力派S級!雨も滴るいい女!ジュビア・ロクサー!」
2番目に現れたのはジュビア。
アピールタイムでは、水着に合う演出を水で作り、会場を魅了した。
「グレイ様ー!見てますかー?」
「何で!?」
「エントリーナンバー3!ギルドが誇る看板娘!その美貌に大陸中が酔いしれた…!ミラジェーン!」
マックスの熱い司会と、ミラの美しさに今まで以上に会場が沸く。
さすがはミラだ。
「さぁ!アピールタイムだ!」
「私、変身の魔法が得意なんで、変身しまーす」
ミラの言葉に、会場の男共が興奮する。
「顔だけハッピー!あい!」
「………………」
「顔だけガジル君!」
水着的なモノを期待していた観客はえーっと言った表情。
勝負を捨てたな……ミラ。
「エントリーナンバー4!説明不要の妖精女王!エルザ・スカーレット!」
宙で一回転し、堂々とステージに現れたエルザ。
「エルザさーん!」
「カッコイイー!」
流石に根強い人気がある。観客は大盛り上がりだ。
「アピールターイム!」
「フフ、私のとっておきの換装を見せてやろう。…はぁぁぁ!とうっ!」
「「「な…」」」
会場がミラの時とはまた違う意味で再び固まった。
エルザが気合を入れて換装したのは、何故かゴスロリ。
「フフ、決まったな」
…その通りで、凄く可愛くはあるが……なんかちがくね?
「エントリーナンバー5!小さな妖精!キューティ&インテリジェンス!レビィ・マクガーデン!」
「「レービィー!!」」
「エントリーナンバー5!小さな妖精!キューティ&インテリジェンス!レビィ・マクガーデン!」
「「レービィー!!」」
ジェットとドロイが熱く叫ぶ。どうやらわだかまりはなくなったようだ。
アピールタイムでは、立体文字(ソリッドスクリプト)を使い、空中に可愛らしい立体的な文字を書いて魅せた。
「エントリーナンバー6!セクシースナイパー!ビスカ・ムーラン!」
「換装!銃士(ザ・ガンナー)!」
水着姿で現れたビスカは、4つのコインを宙に投げ、自慢の射撃で打ち抜いて魅せた。
アルザックが目をハートにしてビスカを見つめている。
とっとと告っちまえよ、チキンアル。
「エントリーナンバー7!我らがスーパールーキー!その輝きは星霊の導きか!」
「ルーシィ・ハー…「だー!ラストネームは言っちゃダメー!」」
マックスの声を遮り、現れたルーシィ。
会場から、なんだ?という声が上がる。
「さぁ、アピールタイムだ!」
「えーっと、あたし星霊たちとチアダンスしまーす」
おー!とルーシィの気合に合わせて盛り上がる会場。
「よーし!行くよ!エントリーナンバー8。誰もが認める天才魔導士。王の中の王!!カイルディアーーー・ハーーデーーース!!!」
「「「「「「「「えぇえええええええええええ!!!!!!」」」」」」」」
現れたのは銀のロングウィッグをつけ、軽く化粧をし、漆黒のドレスに身を包んだカイル。いわゆる女装なのだがその美しさは他を圧倒するものだった。
「「「「きゃぁあああああああああああ!!!!!」」」」」
「カイル様ーーー!!!」「お姉様と呼ばせてくださぁあああああああああああい!!!!!!」
女性からの大歓声。サラッと髪を巻き上げ、ウィンクすると全員膝から崩れ落ちた。
「カ、カイル!?なにやってんの!!」
美しさに呆気をとられてたが、正気を取り戻したルーシィがカイルに突っ込む。
「何ってミスフェアリーテイルコンテスト?」
「あんた男でしょ!!」
「そ、それに見世物になるのを嫌うお前がなんで!?」
エルザも続く。それに対してカイルは不敵にふっと笑い、言った。
「ミスコンで男に負けたらお前らどんな気持ちになるだろ〜な〜って思ったら面白そうだったから」
「「「「「「「お、鬼!!悪魔!!ドS!!」」」」」」」
フフフと上品に笑うカイル。長く美しい銀髪をかきあげ、優しく微笑みながら唄う様に応える。
「褒め言葉さ…」
(((((((ドキッ///////))))))
「別に男の参加は禁止してないので大ありです!!それではアピールターーイム!!」
カイルは光の精霊王を呼び出し、煌びやかな剣を換装し、光舞う美しい剣舞を舞った。
男女問わず巻き起こる大歓声。舞踊が終わるとカイルはドレスをつまんでお辞儀して下がった。
そこで突如幕が降りた。だが、観客達も気にする様子はなく、続いた。
「続いて行くよ「エントリーナンバー9」」
続いて言おうとしていたマックスを誰かが遮る。
女の声だ…
「妖精とは私のこと…美とは私のこと…そう、すべては私のこと…」
コツコツと音を立て、緑色のドレスを着た女が姿を現す。
「優勝はこの私!エバーグリーンで決定!はーい、くだらないコンテストは終了でーす」
「エバーグリーン…!?」
「帰ってたか……」
会場から動揺の声が上がり、グレイたちが冷や汗を流す。
「っ、ちょっとー邪魔しないでよね!あたし、生活がかかってるんだからね!」
「ルーシィ!そいつの目を見るな!」
「え?」
エバーグリーンに食って掛かるルーシィにグレイが声を上げるが、遅かった……
「なーに?このガキ」
驚いた表情のまま、石化するルーシィ。
「まずいぞ…!お客さんは早く逃げて!」
マックスの声で、急いで逃げる観客。
「何をする、エバーグリーン!祭りを台無しにする気か!?」
「ウフフ、お祭りには余興がつきものでしょう?」
マカロフの注意に、エバーグリーンはふざけたように答える。
と同時に、ステージ上の幕が上がる。
そこには、石化されたカイルたちがいた。
「バカタレが…今すぐ元に戻さんかい!…ぬ!?」
突然、ステージに雷が落ちる。
「よぉー、妖精の尻尾の野郎共…。祭りはこれからだぜ!」
「ラクサス…!?」
「っ、フリード!?ビックスローも!?」
「雷神衆……か」
石化から復活したカイルがつぶやいた。
「相変わらずね、あんたは。どうやって戻ったんだか。しかも二秒で…」
悔しげにつぶやくエバ。不敵に笑うカイル。
「お前程度の呪いじゃ俺は縛れねえよ」
「なんだぁ?カイルディア。おもしれえ格好してんじゃねえか」
見咎めたラクサスがニヤリと嗤う。
「ふふ、似合うだろう?ラクサス」
ターンするカイル。その表情から余裕が消える事はない。
「遊ぼうぜ、じじぃ」
「バカなことはよさんか!今すぐ元に戻せ!」
「ファンタジアまでに何人生き残れるかねぇー」
マカロフの言葉を無視し、楽しそうに呟いたラクサスは、石化したルーシィの頭上に雷を出現させる。
雷はルーシィを掠り、ステージの床を焦がした。
「この女たちは人質に頂く。ルールを破れば、一人ずつ砕いていくぞォ?…言ったろ、余興だと」
「…冗談では済まんぞ!ラクサス!」
「俺は本気だよ」
ニヤリと妖しく笑うラクサスの傍にフリードとビックスローが降り立つ。
「妖精の尻尾最強は誰なのか、はっきりさせようじゃないか」
「つー、遊びだよ」
「ルールは簡単。最後に残った者が勝者」
「ね?簡単でしょ?」
「バトルオブフェアリーテイル!」
ラクサスたちの言葉にどよめく皆。
その中で、ガンッとテーブルに拳をぶつける者がいた。
「いーんじゃねぇの?わかりやすくて。燃えてきたぞ!」
ナツだ。
「俺はお前のそういうノリのいいとこは嫌いじゃねぇ」
「ナツ!」
「祭りだろ、じっちゃん。…いくぞ!」
マカロフの咎める声を無視し、ナツはラクサスに向かっていく。
「…だが、そういう芸のねぇとこは好きじゃねぇ。…ま、落ち着けよ」
雷に打たれ、あっさりと倒されるナツ。
「この子たちを元に戻したければ、私たちを倒してみなさい」
「そっちは百人近くだよ?」
「制限時間は3時間!それを超したらこの子たち…砂になっちゃうかも?」
「何だと…!?」
「バトルフィールドはマグノリア全体。俺たちを見つけたらバトル開始だ」
「ラクサス!!」
マカロフが怒りを露わにしてラクサスに向かっていくが、ラクサスはニヤリと笑い、目が開けられないほどの雷光を出した。
「バトルオブフェアリーテイル、開始だ!」
あとがきです。始まりましたバトルオブフェアリーテイル篇!!
女装カイルは次回からはいつもの格好に戻ります。それでは次回【囚われの王】でお会いしましょう!!コメントよろしくお願いします。