第五十三話 面白い口調は伝染する…
収穫祭が終わって一週間。
街にもやっといつも通りの落ち着きが戻ってきた頃だが、ギルドは相変わらず騒がしかった。
「────納得いかねぇぞ、じっちゃん!何でラクサスを追い出したんだ!」
「よさないかナツ!」
「一番辛いのはじーさんだ。わかってんだろう?」
ラクサスが破門になったことは、全員それなりにショックを受けていた。
特にナツは駄々をこね、黙らせるごほん!!納得させるのが一苦労だった。
「それよかじーさん。なんでラクサスが滅竜魔法を使ってたんだ?あいつはドラゴンスレイヤーじゃねえだろ」
「ああ、それはな………」
話によれば、ラクサスは滅竜魔導士ではないらしい。
ならば何故滅竜魔法が使えたのか。
それは、体が弱かったラクサスに父イワンが滅竜魔法が使えるラクリマを埋め込んだからなのだと言う。
「知らなかったぜ……世界は広いな」
マスターはラクサスの事で引退しようと思っていたが。
「これ以上ラクサスの罪を増やさないでください…」
フリードの丸坊主でなんとか留まったそうだ。
スポーツマンか、フリード。
ラクサスが破門になったことは俺にとっても残念だが個人的に気になっていることが他にある。
収穫祭が終わってから、エルザはよく一人でいることが多い。
何か考え込んでいるようで、話しかけても上の空。
たまに何か言いたそうに口を開くが、すぐに閉じてしまう。
そんなエルザがふと溢した、「ミストガン」という名。
ジェラールと顔がそっくりだったことが、ずっと心に引っ掛かっているようだ。
その引っ掛かりを解決してはやりたいのだが、俺はミストガンのことを何も話すことはできない。
…すまないな、エルザ。相棒失格だ。
「家賃ゲットならず〜〜〜!?ああ〜〜〜〜〜!!??」
ギルドの中に響き渡る絶叫。どうやらルーシィはミスコンダメだったらしい。
「おお、そういや順位どうなったかな…?」
1位、エルザ
2位、カイル
3位、ルーシィ
「ちっ、惜しくも二位か…」
「「「「「男に負けたーー!!!!」」」」」
「ーーーーホッ……良かった…」
絶叫する女衆と胸を撫で下ろすエルザ。
カイルは不満気な顔をしているが大多数の面白い顔が見れて満足しているようだ。
「「「「「鬼畜!悪魔!魔王!ドS!」」」」」
「そんなに褒めるな」
「「「「「褒めてない!!」」」」」
しかし困った事に、最近街中で女達だけでなく男にもストーカーされるようになってしまった…女はある程度元からだったけど…
「こんな事になるとは思わんかった……参ったな」
「自業自得だ馬鹿者」
「てめえ一位だったからって調子のんな」
頭をぐわしと抑え込む。二人とも本気ではない。はははと笑いながら街中を歩いて行った…
ハルジオンの一角に最近オープンした、[8island]というレストランがある。
今回の仕事は、ここでウェイターとウェイトレスの手伝いをすることだ。
「────いらっしゃいませー、ご注文はお決まりですか?」
「えーと、蒼天ミートソースとホーリーソーダが欲しいぽよ」
「俺は獣人カレー」
「はーい、ありがとうございまーす!デザートも一緒にいかかですかー?」
にこにこと営業スマイルを浮かべ、受けた注文をメモするルーシィ。
その格好は、胸部に店の名前である、[8island]と書かれた露出度の高い制服。
あまり魔導士の仕事には関係ないように見えるが、このレストランのシェフは魔法で料理を作っているので、ウェイターとかも魔法が使えるといいらしい。
「じゃぁ、このルビーパフェも欲しいぽよ」
「俺も同じので」
「かしこまりましたー」
「こっちも注文頼むよー」
「はいはーい…って、何やってるのよあたしはぁぁ!!」
自分自身にツッコみを入れるルーシィ。
改めて考えてみると、とても恥ずかしく、魔導士に全然関係ない仕事だ。
「ルーシィ、これも仕事のうちだぞー」
そう言って現れたのは、ウェイターの服に身を包み、いつものマフラーを巻いたナツ。
手には料理の乗ったお盆を乗せていた。
「もうナツ…!ってか、この恥ずかしいコスなにぃ…。まぁ、我ながら似合ってると思うけど!」
鏡の前でポーズをとるルーシィ。ナツが呆れ顔で仕事に戻っている。
「ここのシェフが魔法料理を作ってるからねー」
「いいじゃねぇか。俺たちも手伝ってやってるんだから。…ん、もごも、ごふっ!」
「客の料理食うな!」
平然と客に出すはずの料理を食べているナツに、ルーシィがお盆を投げつけた。
「ま、たまにはウェイターの格好もいいもんだぜ」
「服着てから言って!!」
どこか楽しそうに、ナツたちと同じように手にお盆を乗せ、しかしパンツ一丁に蝶ネクタイという危ない格好で出てきたグレイ。
「おいおい、誰の家賃のためにやってんだ?」
「あぁ…うん、ごめんなさい…」
「それに、見てみろ…」
そう言って視線をどこかに向けるグレイ。
その視線を追ってみれば、そこにはカイルとエルザの姿が。
「注文を聞こうか」
露出度の高い制服を上手く着こなし、大胆にテーブルに身を乗り出すエルザ。
「注文は?」
制服を少し着崩し、妖艶な瞳で見つめるカイル。
エルザが接客をしている客は皆男で、カイルが接客をしている客は皆女。
仕事のため、互いに客を虜にするような接客をしている。
「何が欲しいんだ?…言ってみろ?」
「遠慮なんかすんなよ…お姫様達…」
「ほ、欲しいわ…!」
「そりゃもう…」
「「「店の料理全部くださーい!!」」」
エルザとカイルの接客を受けた客は目をハートにし、店の料理全てを注文している。
それを離れたところから見つめるグレイとルーシィ。
「……あんなノリノリな奴らもいる…」
「あ、あたしも頑張りまーす…」
「─────いやーお疲れ様。すっかし、最近の子は働きモンだねぇ。またいつでも来なさいよ」
「はい、今日は勉強になりました」
そう六人を労うのは、元評議員のヤジマ。
楽園の塔事件後、責任を取って評議員を引退したヤジマは、趣味で磨いた料理の腕をレストランで発揮していた。
そう。ここ、[8island]はヤジマの店なのだ。
「ミラちゃんの気持ちが少しわかったよ…」
「ふぅー食った、食ったー」
「アンタ、店の物食べ過ぎ!」
「ホッホッホ」
三人のやり取りを温かい目で見つめるヤジマ。
カイルは眉を寄せ、複雑な表情を浮かべ壁に寄りかかっていた。
「ところで、ヤジマさん。評議会の方はどうなりました?」
「うーむ…わすはもう引退すたからねぇ…」
「「ひ、評議会…!?」」
「あんたたち知らなかったの?ヤジマさんは元評議員の一人よ」
「「えぇー!?」」
驚くグレイとナツ。
「ズーク…いや、ズラールだったかの?」
「…ジェラールです…」
「そうそう。そのズラールとウルティアの裏切りで大変な失態をしたからねぇ…」
「すまなかったな。ヤジマさん」
眉を寄せたままカイルが口を開いた。
頭を深く下げるカイル。
それを悲しげに見つめるエルザ…ヤジマはフッ、と微笑む。
「あぁ、君が気にすることはない。全部マー坊から聞いているよ」
「だが俺がもっと早くケリをつけてれば……あんたにはもう何度も世話になってたのに仇で返すようなマネをしたと思っている」
ヤジマが頭を上げるように言うが、それでもカイルは頭を下げたままだ。
「ズラールの責任はズラールの責任。義理の兄であるからといって、君が責任を負う必要はない」
「………言葉を返すようで悪いがヤジマさん。あいつは「カイル……」
無言で首を振るエルザ。
ーーーーああ…わかってるよ。
違う、ジェラールが全部悪いわけじゃない。
そう言いたかったが、エルザに止められた。
「君たちにも本当に迷惑をかけたね…。申し訳ないよ」
「いえ、ヤジマさんは最後までエーテリオン投下に反対されたと聞きました。行動を恥じて引退など…」
「わすには政治は向かんよ…。…やはり、てやぁぁー!!」
「「「っおぉ…」」」
「料理人の方が楽しいわいっ!!───…ところでナツ君。グレイ君」
「うひょぅっ…!?」
突然近づいてきたヤジマに退くナツとグレイ。
「…」
ヤジマのその表情は先程とは変わり、真面目なものだった。
「…これから評議員は新すくなる。わすはもういない。妖精の尻尾を弁護する者はいなくなる…そのことをよぉーく考えて行動すなさい!!」
「「こ、行動すます!!!」」
首がとれるのではないか、というくらい縦に頷く二人。
ヤジマはうんうん、と微笑んだ。
「さて、そろそろ帰るか」
「「「あいさー!」」」
エルザの声に元気よく返事をし、各々帰りの準備をしに店に戻っていく。
固い表情のままカイルも皆の後に続こうとするが、ヤジマに呼び止められ、足を止める。
「ナツ君に言ったように、わすはもう弁護できん」
「………」
「新生評議院が結成すた場合、もすかすたら君は…」
「…わかってるよ……ヤン爺ちゃん」
「おお、やっとそう呼んでくれたの」
そう短く答え、カイルはヤジマを振り返らぬまま歩いて行った。
何でもやってやるさ……俺が俺であるために……