小説『フェアリーテイル ローレライの支配者』
作者:キッド三世()

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第五十五話 強者の意味






「化猫の宿から来ました…ウェンディ・マーベルです…よろしくお願いします」


モジモジと恥ずかしそうにそう名乗る目の前の少女こそ、この連合に参加する最後のギルド 化猫の宿から選出された魔導士だ。


「驚いたな……」


驚きを隠せずにいる皆を見、ウェンディは居心地悪そうに苦笑する。
そんなウェンディをジュラは一瞥し、あまり表情を変えぬまま口を開いた。


「…これで全てのギルドが揃った」


「…それにしても、この大がかりな作戦にこんなお子様一人をよこすなんて…化猫の宿はどういうおつもりですの?」



「──────あら?一人じゃないわよ、ケバいお姉さん」


シェリーの問いに答えたのはウェンディではない。


「はっ…!!」


声の主の姿を見るなり、ハッピーが目を見開く。
その姿はハッピーに酷似していた。


「……猫…?」

「だな…」

「ハッピーと同じだ…」

「しゃべってる…」

「酷いですわ…ケバいなんて」

「シャルル…!」


シャルルと呼ばれた白い猫は腕を組み、フンと鼻を鳴らす。


聞けば、ウェンディ一人では心配で付いて来たとのこと。


何気なくウェンディたちの話を聞いていると、ふとルーシィの足に何かが触れた。
目線をさげて見れば、もじもじと隠れるようにルーシィの足に抱き着いているハッピー。


「…ねえルーシィ、あの子においらの魚あげてきてー?」


「えぇ?…もしてかして、一目惚れー?でも、きっかけは自分で作らなきゃダメよー?」


「そうだぞハッピー。それに女を落としたきゃ尽くすより尽くさせろ」


カイルの実体験だ。事実カイルを好きな女は皆カイル好みになろうと努力している。
まあこれはカイル限定の恋愛必勝法かもしれないが…


「うぅー」


カイルとルーシィにそう言われ、唸りながら恥ずかしそうに顔を隠すハッピー。


「あ、あの…私…戦闘は全然できませんけど…皆さんの役に立つサポートの魔法はいっぱい使えます…」


自信なさげにそう話すウェンディ。
そのウェンディの話に、カイルは、ん?と首を傾げる。


戦闘が出来ない?そんなわけないはずだが…


【天竜の力は攻撃魔法もあるが補助魔法も多い。彼女はまだアタッカーの才能は開花させてないようじゃ】


心中の疑問にオーフィスが答える。


「えっと…だ、だから…」


黙ったままの皆に不安を感じたのか、ウェンディはわたわたと焦りながら涙目で口を開く。

「…な、仲間外れにしないでくださいー…!」

「……あぁもう…!そんな弱気だからナメられるのアンタは!」

「ご、ごめん」

「だからすぐ謝らないの!」


うーむ、微笑ましい。


「イイコだな…」


「そうだな。いじめるなよ?」


「一瞬よぎったがまあ小さい女の子いじるほどSじゃねえよ」


よぎっただけでも充分Sだ…



「──────すまないな、少々驚いたがそんなつもりは毛頭ない。よろしく頼む、ウェンディ」


「頼りにしてるぜ?ウェンディ」


カイルとエルザは微笑みを浮かべてウェンディに手を差し出した。
すると、パァと顔を綻ばせ、喜ぶウェンディ。


「わぁー…カイルさんとエルザさんだ…!本物だよ、シャルル!」

「フン、思ってたより良い男ね。女もだけど」


「ねぇねぇ、おいらのこと知ってる?ネコマンダーのハッピー!」


ハッピーの言葉に答えぬまま、ぷいとそっぽを向き、冷たい態度をとるシャルル。
しかし、そんな冷たい態度をとられているというのに、何故かハッピーは可愛い!と身悶えしている。
Mか、こいつは…



「あの子、将来美人になるぞ」


「今でも十分可愛いよ」


「さ、御嬢さん?こちらへ」


「へ?あの…?」


「早ーっ!?」


「東方に源氏物語といった将来美人になる女を男が育てて妻にしたという話を聞いた事があったが………」


わーわー騒いでいる他のメンバーを遠目に、一夜とジュラは何やら真剣な表情を浮かべる。



「うーん…あの娘、何というパルファムだ?…只者ではないな」


「ふぅむ。…気付いたか一夜殿。あれはわしらとは何か違う魔力だ。…エルザ殿とカイル殿も気付いているようだが…」


そう言ってエルザとカイルに視線を向ける二人。
エルザとカイルも、一夜たちと同じように真剣な表情でウェンディを見つめている。


「わかるか?カイル」


「八割がたは。だがまだ何とも言えんな」


ボソボソと二人で話している。やはり妖精の尻尾でもこの二人は頭一つ抜けている。


…にしても、さっきから俺の方をチラチラ見てるのは何でなんだろう…?










「…さて、全員揃ったようなので、私の方から作戦の説明をしよう!まずは六魔将軍─────オラシオンセイスが集結している場所だが……」


「「「「「………………………」」」」」


「……っとその前にトイレのパルファムを…」


「っおい!そこにはパルファムってつけるな!」


張り詰めていた空気が一気に解かれる。
呆れる皆を尻目に、一夜はグレイのツッコみを受けつつ、トイレを求めて姿を消した。



「…、む?」


丁度その時、カイルがここにいる者以外の気配を一瞬感じ、眉を寄せた。


「…ん?どうかしたかカイル?」


「…………いや、何でも」


とりあえず俺だけがわかってればいい。


怪訝そうに首を傾げるエルザにカイルは何でもないと答え、トイレから戻ってきた一夜に再び視線を戻す。


「ここから北に行くと、ワース樹海が広がっている。古代人たちはその樹海に、ある強大な魔法を封印した。その名は、ニルヴァーナ!」


「「「「「「「「「「ニルヴァーナ?」」」」」」」」」」


「聞かん魔法だ」


「ジュラ様は?」


「ニルヴァーナって知ってる?てか魚いる?」


「結構」

ハッピーのアプローチを一蹴するシャルル。

「古代人たちが封印する程の破壊魔法、という事だけは解っているが…」


「どんな魔法かは解ってないんだ」


「破壊魔法…」


「何か…嫌な予感が…」


「オラシオンセイスが樹海に集結したのは、きっとニルヴァーナを手に入れる為なんだ」


「我々はそれを阻止する為…」


「「「「オラシオンセイスを討つ!!」」」」


いちいちポーズを取りながら言うな。めんどくせえ。


「こっちは13人、敵は6人」


「だけど侮っちゃいけない」


「この6人が、またとんでもなく強いんだ」


ヒビキは古文書(アーカイブ)を展開した。
この魔法もまた珍しいものだ。



「これは最近になって、ようやく手に入れた奴らの映像だ」


ピピッと音を立て、宙に映像が浮かび上がる。



「毒蛇を使う魔導士、コブラ」


ヒビキが指差したのは、紫色の大蛇と共に映っている極悪人面の男。


「悪そうな面してんなーこのつり目野郎」

「「お前も似たようなモンじゃねぇか」」



「…その名からして、スピード系の魔法を使うと思われる、レーサー」


次に指差したのが、髪を逆立てたサングラスをかけた男。


「なんだっていいが、気に食わねぇ面だ」

「同感だな」



「大金を積めば、軍の一部体を壊滅させる程の魔導士、天眼のホットアイ」


映し出された映像にはたくさんの倒れた兵士たちの姿。
その中心に立つ、聖書を持った大柄な男。


「金のため…?」

「下劣な…」

「少なからずいるけどな…それに下劣かどうかは目的次第だ。頭から否定するもんじゃねーぞ。エルザ。ジュラ」


しょんぼりするエルザと申し訳ないと頭を下げるジュラ。
素直な事はいい事だね。


画像が切り替わり、今度は白い衣服に身を包んだ女が映し出された。



「心を覘けるという女、エンジェル」


「何か、本能的に苦手かも…こうゆうタイプ…」

ルーシィは嫌そうにしていた。

「この男は情報が少ないのだが、ミッドナイトと呼ばれてる」

「真夜中(ミッドナイト)?妙な名前だな」

「だけど強えなこいつは。見ただけでわかる」


「そして、奴等の司令塔、ブレイン。それぞれが、たった一人でギルドの一つくらいは潰せる程の魔力を持つ」


ヒビキはアーカイブを閉じた。


「我々は、数的有利を利用するんだ」


「あの〜…あたしは頭数に入れないで欲しいんだけど…」


「私も戦うのは苦手です…」


「安心したまえ。我々の作戦は戦闘だけにあらず。奴らの拠点を見つけてくれればいい」


「拠点?」


「ああそうだ。今はまだ奴等を補足していないが…」


「樹海には、奴等の仮設拠点があると推測されるんだ」


またヒビキはアーカイブを展開させた。


「もし可能なら、奴等全員をその拠点に集めてほしい」


「どうやって?」


「殴ってに決まってんだろ!」


「結局戦うんじゃない…」


「集めてどうするのだ?」

一夜は上に指差した。


「我がギルドが大陸に誇る天馬、その名もクリスティーナで、拠点諸共葬り去る!!」


「おおっ!」


「それって、魔導爆撃艇の事ですの?」


「てか…人間相手にそこまでやる?」


「そういう相手なのだ!」


ジュラは更に真剣な表情を浮かべ、やや緊張気味の皆に喝を入れる。


「うあっ!?はい!?」


ジュラにビクつくルーシィ。


「良いか!戦闘になっても、決して一人で戦ってはいかん!敵一人に対して、必ず二人以上でやるんだ!」

ジュラさんの意見に皆が頷く。

「ふえ〜…そんあ物騒な〜…」


「うう…困ります…」


「情けない声出さないの!」


「ウェンディ。戦闘になったら俺から離れるな。必ず護ってやる」

頭にポンっと頭をおいて笑いかけるカイル。ウェンディは真っ赤になりながらはははははい!!と答えた。


「ん?」


ぎゅ…と服の裾を掴まれる。振り返ってみるとエルザが上目遣いに睨んでいた…


「流石にそれは犯罪だぞ」


「すぐそっちに結び付けんな。お前のヤキモチは異常だ」


「……………私も……怖い…」


「わかったわかった。護ってやるよ、エルザ」


ようやく満足気な顔をして裾を離した。やれやれだぜ。


「おしっ、燃えてきたぞ!6人纏めて、俺が相手してやるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!」


ナツ…全然話聞いてなかっただろ…ホント、ルフィ見たいに作戦なんか全然解ってないからな。
ほら皆も呆れてるだろ。


「おいおい…」


「酷いや…」


「扉、開けてけよ…」

トライメンズも呆れてた。

「仕方ない、行くぞ!」


「ったく、あのバカ…」


「ふえ〜…」

ルーシィ、いい加減覚悟を決めろ。

エルザ、グレイ、ルーシィはナツの後を追いかけた。
既に姿の見えないナツに続くように、妖精の尻尾を初めとした連合の皆が走り出した。


「すまんなジュラ。身内が先走っちゃって」


「よいのです。どの道向かわねばならなかったのだ、気に病む必要はありませんよ。なにはともあれ作戦開始だ。我々も行きましょう」


「だな」


「その前にジュラさんに、カイルさん」


呼び止められる二人。何事かと振り返ると一夜が質問してくる。


「あなた方は、かの聖十大魔道と聞いていますが…」


「いかにも」


「そーだけど?」


「その実力はマスターマカロフにも匹敵するので?」


それを聞くとジュラはまさかと言わんばかりに笑った。


「いやぁ滅相もない。聖十の称号は評議会が決めるもの、ワシなどは末席。同じ称号を持っていも、マスターマカロフやカイル殿に比べられたら、天と地程の差があるよ」


「ほう」


「謙遜もいいとこだな。じーさんはともかく、俺との差はさしてないだろう?」


以前彼とやり合った事があった。結果は一応俺の勝ちだったがそれはもう苦戦した。
あの頃より俺は強くなってるがそれはジュラも同じ事。実際会ってみてひしひしと感じている。

「あなたはマスターマカロフに匹敵するファントムのマスターのジョゼを打ち倒したのです。ワシより強い事は明白ですよ」


「ありゃ相性の問題だ。俺はあいつよりお前との方がやりたくないよ」


お互い謙遜し合っていると一夜がふっと笑った。


「良かった。マカロフほどに強ければどうしようかと」


何かをやろうとした瞬間、カイルが一夜に見えるものを蹴り飛ばした。


壁に打ちつけられる一夜。ジュラは慌てている。


「か、カイル殿。何を?」


「蹴らなきゃやられてたぞ。ジュラ」


煙がはれてその姿を見てみるとそこにはよくわからん生物がいた。


「カイル殿?あれは?」


「わからん。が、予想はつく。多分星霊だ。さっき一夜がトイレに行った時、僅かだが他の魔力をかんじた。そん時入れ替わったな」


「やっぱり黒の騎士王は手強いゾ」


「「!?」」

俺とジュラは声がした方を見た。
そこにいたのは、白い羽毛だらけの服を纏った女、エンジェル。



「オラシオンセイスのエンジェルか?」


「そうだゾ」


「こやつが…」


「参考までに何でわかったが聞かせてもらうゾ」


「本当に強え奴ってのはな、敵地にいる限り警戒は解いてねえんだよ。アレが本物か偽物かなんてわからなかったが敵意は感じた。なら本物も偽物も関係ねえ」


「なるほどだゾ。ここは引かせてもらうゾ」


「はっ!貴様は!この黒の騎士王に喧嘩売ったんだぞ!?逃げられるとでも思ってんのかよ!」


魔力を解放する。辺りに波動が巻き起こる。
並の魔導士なら立つことも出来ない程の圧倒的威圧。


(こ、これ程とは……)


ジュラは心中で驚愕していた。強くなってるであろう事は感じていたがここまでとは思ってなかったのだ。





「「ピーリピーリ」」


「逃がさん!」

エンジェルは金色の鍵を取り出した。

「待ったジュラ!?」


「開け、天蠍宮(てんかつきゅう)の扉、スコーピオン!」

エンジェルは、スコーピオンを開門した。

「何!?」


「黄道十二門か!!」


「サンドバスター!!」

スコーピオンの尻尾から砂嵐を吹き出した。

「ぐぅっ!?」


「ちっ!砂嵐かよ!?」

砂嵐が止むと、エンジェル達はいなかった。

「くっ、逃げられたか」


「奴らクラスが逃げに徹せられると流石に無理か。すぐに向かうぞ!ジュラ!お前は周りをもうちょい探してくれ。あいつだけならお前のが強い!」


「わかりました!」












「──────お!見えてきた!樹海だー!」


「っ待てよナツ!」


「へ、やーだねー!」


「馬鹿者!一人で先走るんじゃない!」


グレイとエルザの声を無視し、生き生きとした表情で先を急ぐナツ。
が、行動を咎めたエルザの怒声に怯み、足を滑らせてそのままワース樹海へ落下していった。


「落ちたぞおい!?」


「…仕方のない奴だ」


はぁ、と皆で呆れていると、後ろから待ってよー、とルーシィの声が聞こえてきた。



「皆、足早すぎー…レディーファーストはどこにぃ…?」


「お姫様抱っこ、してあげようか?」

「僕は手を繋いであげる?」

「俺から離れるんじゃねぇよ…」


「うるさいっ!」


こんな時でもホスト丸出しのトライメンズを一喝するルーシィ。










響き渡る爆発音。すぐ近くだ。もうすでに闘いが始まってるかもしれない。


「ちっ!もう始まっちゃったか?」


走り続けた甲斐あってか、カイルもワース樹海に入り、先走り過ぎて崖から転落したナツにも追い付いてきた。


「クリスティーナが…!!」


飛行艇からは炎と黒煙がゴウゴウと上がり、驚き茫然としている皆を尻目にゆっくりワース樹海へと墜落していった。

樹海からは激しい爆音と共に、真っ赤な炎が立ち上る。
まだ目の前で起きたことが理解ないのか、皆は茫然と炎を見つめたままだ。
唯一カイルは眉を寄せ、苦々しい表情を浮かべている。


「やられたな…」


「カイル!?どこにいたんだ?」


「説明は後だ。来るぞ!!」


ウェンディはカイルに岩陰に身を潜めるように言われ、素直に従っていた。


皆に緊張が走る中、黒煙から六つの影がこちらに向かってゆっくりと近づいてきた。


「こいつらが…六魔将軍…!」



姿を現したのは、ヒビキの古文書で見た六魔たち。
六人全員からは禍々しく、強大な魔力を感じる。


遂に相対した両軍。



「……ふん、蛆共が群がりおって…」


「動揺しているな。…聞こえるぞ」


「仕事は早ぇ方がいい。それにはアンタら、邪魔なんだよ」


「お金は人を強くする、ですね!…いいことを教えましょう。世の中金が全て!そして──────」

「「お前は黙っていろ、ホットアイ!」」


コブラとレーサーにツッコまれ、やっと黙るホットアイ。
ミッドナイトに至ってはこんな状況下であるのに眠りこけている。


「…おい」

「あぁ」


ナツがゴキッと指を鳴らし、グレイと共に走り出す。


「…ふ、聞こえるぞ」



「「探す手間が省けたぜー!!」」


真っ直ぐ向かってくる二人をブレインは冷めた目で見やり、短くやれ、とだけ呟いた。



「OK」


「っ!ナツ、グレイ!後ろだ!」


「「な!?」」


ブレインの命令に答え、一瞬で二人の背後をとったのはレーサー。
二人が振り返る時には既に攻撃された後だった。


なるほど速いな。レーサーの名は伊達ではなさそうだ。


「「ナツ!グレイ!」」


「…え?」


自分の声が重なって聞こえ、隣に目を向けると自分と全く同じ姿をした者がいた。

ルーシィが二人…!?



「ばーかー!」

「な、何これー!?」


自分と同じ姿をした者に攻撃され、混乱しているルーシィを妖しい笑みを浮かべながら眺めているエンジェル。

リオンとシェリーもホットアイの能力に捕まり、身動きが取れない。



「僕はエンジェルを!」

「ずるいや!」

「俺は頭をやる!」


そう言って駆けるトライメンズを目にも止まらぬ速さで攻撃するレーサー。


「速い…速すぎて、見えない…っ」


「…速ぇことはいいことだ」

「──────俺も同感だな」


「!?」


先程のレーサー同様、一瞬で背後をとったのはカイル。
しかし、一気に振り下ろされた拳はレーサーではなく地面を抉った。


「お前速いな」


無言で構えるカイル。
速さ勝負なら負けねえぜ。


目の前に迫るレーサーの蹴り。
カイルは腕をクロスさせ、蹴りを受け止める。

何だコイツ…この俺が速さ負けした?


「速ぇことはいいこと、だっ!」


「ちっ!!」


レーサーはカイルを蹴り飛ばし、もう一度攻撃をするべく地を蹴る。
だが、やられてばかりのカイルではない。

追い付かれてしまうのなら、更にスピードを上げればいい。



「っ、何!?消え…──────」


「あー。そういうの聞き飽きてるから」


身体に電気を纏わせている。以前ジェラールと闘った時に使っていた魔装、雷天大荘。


目前に迫ったカイルが突然消え、レーサーが驚く間もなく腹部に横からの回し蹴りが加えられた。
カイルの蹴りに小さな呻きを上げて吹っ飛んだレーサーは、地に手をついて勢いを殺し、己の体にブレーキをかける。
顔を上げた先には、こちらを横目で睨みつけているカイル。


「流石に雷より速くは動けねえよな?」


(どんだけ速ぇんだコイツ…)


己のコードネームを脅かす目の前の脅威に、レーサーは頬を伝う汗を感じた。


「──────換装!」


レーサーの声はエルザの魔法を唱える声にかき消された。



「聞こえるぞ」


エルザと対峙しているのは、大蛇を平然と服従させている男 コブラ。



「舞え!剣たちよ!」


天輪の鎧に換装したエルザは、無数の剣をコブラに向ける。
対するコブラは余裕の笑みを浮かべ、微々たる動きで向けられた剣全てを避けた。


「何!?太刀筋が読まれている…?…、っ!」


驚いている間もなく、エルザの背後にレーサーが現れる。
気付いたエルザが咄嗟にレーサーの攻撃を剣で防ごうとするが、追って現れたカイルがレーサーを蹴り飛ばした。

「チッ…」


舌打ちしながら距離をとるレーサー。


「俺と闘ってて余所見とは……いい度胸だ」


「カイル!すまん、助かった!」


そうカイルに礼を言い、エルザは再び換装する。



「飛翔の鎧!」


「お!お前も速ぇな!」


飛翔の鎧は速度を上げる鎧だ。
それを纏ったエルザからは、目にも止まらぬ斬撃が繰り出す。


「……だがなぁ、聞こえてるぞ妖精女王…次の動きが!」


「ぐっ…」


いつの間にか音もなく背後に立っていたコブラがエルザの腹を蹴り上げる。



(やはり読まれている…)


離れたところに着地ををし、コブラとレーサーを睨み付けるエルザ。
そんなエルザを見、コブラは妖しく口角を釣り上げる。


「読まれてるだぁ?違ぇだろ。聞こえるっつてんだよ」







自慢の足を駆使し、地を駆けまわるレーサー。
カイルもレーサー以上のスピードで駆けているのだが、なかなかどうしてか捕まえることが出来ない。


ーーー妙だな。俺のがかなり速いはずなのに…


イラつくカイルだが、レーサーはお構いなしにエルザに攻撃したり、ナツに攻撃したりと好き勝手をやっている。


「ちっ!!完全雷化!!」


よりいっそうの雷光に包まれるカイル。


「必ず殺すと書いてぇえ!!必殺と読む!!」


「……ヤバ!」


「チハヤブルイカズチ!!」


馬鹿でかい雷の塊になったカイルはレーサーを焼き尽くさんと突撃した。
が、手応えはあまり感じない。


「うおお!!危ねえ!」


「かわされただと!?馬鹿な!!」


よけれるタイミングじゃなかったはずだ。直撃を避けただけのようだがそれだけで驚異的だ。


「ぐあぁ…っ」


「なっ!?」


エルザの叫び声が聞こえた。我に帰って辺りを見回してみると妖精の尻尾、青い天馬、蛇姫の鱗、全員が地に伏している。

あのエルザも、だ。立っているのは俺のみ。


「……………六対一か…悪くねえな」


雷天大荘を解除し、天鎖斬月を換装する。


「来い」


そうカイルが告げると同時に、コブラが真っ先に飛び出した。



「聞こえるぞ!」


「だからどうした!!」

「っ」


カイルの最初の一撃は予測していた通りの場所を狙ってきた。
コブラは易々とそれを避け、カイルの隙を突こうと攻撃するが、既に次の攻撃を放っていたカイル。
目を見開くコブラの目前に蹴りが迫る。



(コイツ…!考える前に攻撃を…!)


「速さに対応出来なきゃ意味ねえだろ?」



「…甘いぞ」


「アイスメイク 盾(シールド)!」


後数センチというところで、コブラの目の前に氷の盾が広がり、カイルの蹴りを防いだ。
目を向ければ、エンジェルの隣に並ぶように立っているグレイの姿。

あの人形星霊の能力か…!


歯をギリッと食い縛り、氷を蹴り上げ、距離をとる。
だが、



「余所見してていいのか?」

背後を取るレーサー。
だがカイルは後ろを一瞥もせず刃を脇から出し、レーサーに押し当てた。


「月牙天衝」


放たれる巨大な三日月の斬撃。レーサーを完全にではないが吹き飛ばした。


「…リキットグラウンド!」


ホットアイの声と共に地面が盛り上がり、カイルを包み込む。


「しゃらくせえ!!」


フンっと腰を落として両手を握り締めて気合いをいれると魔力の波動が地面を吹き飛ばした。


「──────キュベリオス!」


今度は牙を剥いた大蛇が盛り上がった地面を越えて現れ、口から毒の霧をカイルへと噴射した。


「来い!ベノム!」


呼び出したのは毒の精霊王ベノム。致死毒から媚薬まで創造出来る精霊王。放たれた毒は全て吸収された。
彼の前で飛び道具系の魔法は意味をなさない。


「殲滅しろ!レスティア!!」


続いて闇の精霊王レスティアを召喚。魔雷の閃光ヴォーパルストライクを放ちナツ達にトドメをさそうとしていた連中を吹き飛ばす。放つと同時に跳躍。


「……………」


カイルは仲間の前に立つように、六魔たちはブレインを守るように着地する。


睨み合う両者。



未だに動けない仲間たちは、ただただ目の前の闘いに驚くことしかできずにいた。


「な、何なんですの…この闘い…」

「六魔相手にたった一人で…」


「彼は一体…」





ーーーーー流石にしんどいな…しかも足でまといを庇いながら……やれやれ。てめえの甘さに反吐がでる。


ヒビキ達など放置する事も出来たがそれをやらないのが黒の騎士王だった。


「……ぐ、っくそ…」


一人で闘っているカイルを援護しようと、必死に腕に力を込め、起き上がろうとするエルザ。
だが、キュベリオスに噛まれた部分に激痛が走り、崩れ落ちる。



「……ほう…我ら相手にここまでやるか。お前はおしいな」


「ここまで?はっ!ぶっ倒すまでの間違いだろ?六対一でようやく凌いでる程度のくせによ」


「だが、…まだまだのようだな」


「なに?」


ニヤリと笑みを浮かべ、杖を空に翳すブレイン。
と同時に、カイルの足元に魔法陣が広がる。


「これは…?」


「くく、動けまい」


【マズイぞ奏者!私を武器化してつきたてろ!】


レスティアが叫ぶがもう遅い。反応する前に発動した魔法陣の効果により、カイルの体に大きな圧力がかかり、耐えきれずに膝をつく。
魔法陣が広がる地面には亀裂が走る。潰れないで膝をついている程度でいられるのは奇跡に近かった。


「非常におしいがカイルよ、我らの邪魔をするのならば、貴様もゴミ共と共に消え去るがよい」


そう言うブレインの翳した杖からは、緑を帯びた闇が現れる。
大地が震える程の禍々しく強大な魔力。


(ヤバイ!アレを食らったら!!)


【奏者!私を…】


「常闇回旋曲(ダークロンド)…──────、!?」


レスティアが何か言う前に魔法を発動させようとしたブレインだが途中で止まった…
視線の先には岩陰に隠れて怯えるウェンディ。


「どうしたブレイン?」


「何故魔法を止める?」


訝しげに眉を寄せているコブラとレーサーの問いにブレインは答えず、ただウェンディを見つめていた。


「…、ウェンディ…」



「、ぇ…え…?」



ウェンディを知ってる?どう言う事だ?










あとがきです。我ながら長っ!今年最後だからと欲張りました。それでは皆さん良いお年を…コメント宜しくお願いします。

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