小説『フェアリーテイル ローレライの支配者』
作者:キッド三世()

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第五十九話 心の中の光





あれからカイルたちは都市の様な古い遺跡を散策してた。


ここはかつて、古代人ニルビット族が住んでいた都市。

今からおよそ四百年前のことだ。
世界中でたくさんの戦争があった。
中立を守っていたニルビット族はそんな世界を嘆き、世界のバランスをとるための魔法を作り出した。
それが、光と闇を入れ替える超魔法 ニルヴァーナ。
この名は、平和の国を意味して付けられたものだが、皮肉にも、今は邪悪な目的のために使われようとしている。


ニルヴァーナについては、ジェラールの説明で大体理解した。
あとは止め方だけだが、これに関してはジェラールも何も出来ない。

取り合えず今は、ニルヴァーナを動かしているであろう、ブレインを目指している。


「、まただ…」


「あっちからも闘いの音が聞こえる…」


「派手にやってるな……ナツの奴大丈夫かな?ここ一応乗り物の上だぞ」


途中、所々で上がる激しい戦闘の音がカイルたちの耳に届いていた。
カイルだけは誰が戦っているか察しがついていた。

二頭の竜の気配で……



「相手はコブラか…」


「ナツが…」


六魔将軍のコブラが滅竜魔導士だということは、確信はなかったが薄々感じていた。

コブラは相手の心の声を聞く能力を持っているみたいだが…
バカだから大丈夫だろ。


「あっちは…知らん魔力だ。…多分六魔将軍」


ナツたちからやや離れたところから聞こえる闘いの音。
どういうことかはわからないが、どうやら六魔同士で闘い合っているらしい。

…仲間割れか?


「六魔将軍も一枚岩じゃねえってことか。急ぐぞ」


「ああ。っとと…」


目覚めたばかりでまだふらついてるジェラールが倒れこみそうになった。
とっさにカイルが腕をつかむ。


「す、すまない、兄さん。」


「懐かしいな。昔はよくこうしてお前の事を引っ張ったもんだ」


「……その……ごめん…憶えてない」


「ああ、わかってて言ってる。もし記憶があればあの時あったあんな事やこんな事を脚色をふんだんに交えてエルザに語ってる所だ」


なぁっ!!と顔を赤くするジェラールに二ヒヒと笑う銀髪の若者。
たとえ記憶がなくとも…血が繋がってなくとも…やはり彼らは兄弟だ…


「全く、仲の良い兄弟だ。私が入る余地も少しは残しておいて欲しいものだ」


「まあ考えておくさ。それより」


その時、大地を揺らす“何か”の咆哮が辺りに木霊した。口をつぐむカイル。
三人は声が聞こえてきたに方向に目を向け、辺りを窺う。

その咆哮はまるで、本物の竜(ドラゴン)の声の様な…


「何だこの声は…?」


「…、ナツ……」


全くアイツは、と苦笑するエルザと、眉を寄せて考え込むジェラール。
そしてカイルは、怒気を含んだナツの咆哮に鳥肌を立たせていた。
これはきっと、カイルの内(なか)の竜がナツという竜を意識したからであろう。


「…?嬉しそうだなカイル」


「弟子の成長を喜ばん師がどこにいる」


ふっと笑うと三人はニルヴァーナの中心部にむけて駆け出す。
もうじき月が真上に登る……







その頃、コブラを倒したナツはグレイやジュラたちと合流し、今度は六魔将軍の司令塔である、ブレインと交戦していた。
交戦と言っても、闘っているのは蛇姫の鱗(ラミアスケイル)のジュラであり、乗り物に弱いナツは動くニルヴァーナにただ苦しんでいた。


「常闇奇想曲(ダークカプリチオ)!」

「岩鉄壁!」


目の前では、六魔と聖十の激しい攻防が繰り広げられている。
グレイとルーシィは唖然とその光景を見つめていた。


「リオンが“さん”付けで呼ぶわけだ…」


「こいつらと一人で闘ってたカイルも凄かったけど、ジュラも凄い!」

「あい!」



「ふんっ!」


「ぐああぁぁ…ッ!」


幾度となく訪れるピンチをジュラは冷静に覆し、ブレインを追いこんでいく。
そして激闘の末、遂にジュラは六魔将軍のボス ブレインを倒した。



「ま…まさかこの私が…やられる、とは…ッ…、ミッドナイトよ…あとは頼む…、六魔は…決して倒れてはならぬ…ッ」


「「「…」」」


最後の力を振り絞り、懇願するように呟くブレインを、グレイたちは黙って見下ろす。


「六つの祈りが消えるとき…あの方が…ッ、」


「あの方…?」


ジュラの疑問に答える前に意識を失うブレイン。
その間際、ブレインの顔の模様がスッと消えたようにグレイの目に映った。


「コイツの顔…模様が一個消えたように見えなかったか?」


「ぶ、不気味なこと言わないでよー!夢に出ちゃうじゃない…!」


「うーむ…」


腑に落ちないが、これでほとんどの六魔は倒した。
残るはブレインの言っていたミッドナイトという男のみ。

取り合えず、今はニルヴァーナを止めることが先決と、グレイたちがこれからどう動くべきか考える。


「―――――皆さーん!」


「、?ウェンディ!」


遠くから聞き慣れた声が聞こえてきた。
目を向ければ、一生懸命こちらに走ってくるウェンディとシャルルの姿。


「やっぱりこの騒ぎはアンタたちだったのね…」


「っこの都市!私たちのギルドに向かっているかもしれません!」


「…らしいが、もう大丈夫だ」


「え?」


首を傾げるウェンディにグレイが事の顛末を話すと、パァと顔をほころばせた。

ニルヴァーナを動かしていたのはブレイン。
そのブレインを倒したのだから、ニルヴァーナを止められるはずだ。


「気になることが多少あるが…これで終わるのだ」


「っ、まだ終わりじゃねぇーよ…ッ」


「…早く、…これ、とめてぇ…!おぶぉ…っ!」


「ナツさん!まさか…毒に…っ!?」


「「うーん…」」


ただの乗り物酔いを毒による影響かと心配するウェンディに、グレイとルーシィが呆れながら首を横に振る。
ジュラも珍しく苦笑いを浮かべている。


「もう、雄猫もよ!全くだらしないんだから!」


「あい…」





*





―――――…僕は、僕は夢を見る



「む!?」


脳内に響き渡る声にホットアイが目を見開く。

ニルヴァーナの影響で連合軍側についたホットアイは、六魔将軍のミッドナイトと交戦していた。
六魔同士の闘いは峻烈を極めたが、それはホットアイの勝利ということで終結したかと思われた。
だがしかし、目の前には傷だらけだというのに、なお、立ち上がるミッドナイトの姿。
それに少し様子がおかしい。


「君も夢を見る…、……真夜中に」


不敵な笑みを見せるミッドナイト。
その体には先程まであった傷が跡形もなくなっている。


「…?、っああぁぁあ゛ぁぁあ…ッ!?」


そして突然悲鳴を上げるホットアイ。
その悲鳴はまるで体を引き絞るかのような声だ。



「僕に魔法は、あたらない」


「ああ゛ぁぁ…っ…ああぁあぁぁっっ…!?」


「僕は父上をも超える、最強の導士なんだ」


化粧の施された黒の唇が三日月の様に吊り上る。
それを境に、ホットアイの悲鳴が途絶えた。




―――――…ブレインの顔からまた一つ、謎の模様がスッと消えた。







ナツたちはジュラの力を借り、確かにブレインを倒した。
だが、ニルヴァーナはその六つの足を止めない。

何とか止めようとするナツたちだが、途中ある一つの事に気が付く。

ニルヴァーナは行先から照準まで、全て全自動へと切り替えられていたのだ。


「そんな…」


涙を浮かべるウェンディ。
このままでは彼女のギルドがニルヴァーナに攻撃されてしまう。


「大丈夫だ。絶対止める!」


そんなウェンディを、彼女の魔法で乗り物酔いから復活したナツが力強い言葉で励ます。


「止めるって言っても、どうやって止めたらいいのかわかんないよー」


「壊すとか?」

「…はぁ、またそういう考え?」


「こんなでけぇモノ、どうやってだよ!」


とんでもないことを言い出すナツに、ルーシィとグレイがツッコみを入れる。


「やはり、ブレインに聞くのが早そうだ」

「簡単に教えてくれるかしら…」


「…」


色々な案が上がる中、ウェンディは一人、あることを考えていた。


「もしかして…ジェラールなら…」


ブレインたちが必要としていたくらいだ。
もしかするとジェラールはニルヴァーナの止め方を知っているかもしれない。
だが、洞穴でナツがジェラールへ向けていた目をウェンディは思い出す。

疑問、怒り、憎しみ……負の感情…

きっとこれは言ってはダメなことだ。


「、?何か言った?」

「どうかしたか?」


「っ、ううん。何でもない……私、ちょっと心当たりがあるから探して来ます!」


「あ、」

「ウェンディ!待ちなさーい!」

「おい!」


首を傾げるルーシィとグレイにウェンディは首を横に振り、そしてその場から逃げるように走り出した。
その後をシャルルが名前を呼びながら急いで追いかける。
二人の姿はすぐに見えなくなった。



「…、どうしたんだろう…?」


[―――――皆さん、聞こえますか?]


突然脳内に語りかけるような声が響いた。

…これはホットアイの声だ。
驚き、周りを見渡す皆。


「リチャード殿!無事なのか!?」


[残念ながら、無事ではありませんです…ミッドナイトにはやはり敵わなかった…]


悔しげなホットアイの声に、皆眉を寄せ、続きを聞こうと念話に耳を傾ける。


[皆さんの力を合わせて、ミッドナイトを倒してください…!奴を倒せば、ニルヴァーナへの魔力供給が止まり、この都市は停止するはず…!]


「生体リンク魔法で動いてやがったのか…」


[奴は王の間の真下にいます…!気を付けてください!奴はとても…とても強いです…ッ!]



「強ぇ奴か!よーしっ!燃えてきたぞ!」

「ナツ、止めるためだよ!」


意気込むナツを宥めるハッピー。
途切れ途切れにホットアイは続ける。


[六つの祈りは残り一つとなりました。皆さんを信じます!必ず勝って…ニルヴァーナを止めるのです!お願い、します…ぐぁ…ッ]


「リチャード殿!」


呻き声を最後に、遂に念話が途切れる。

ホットアイの話によれば、目的の場所は丁度ナツたちの真下だ。
ナツたちは急いで王の間を後にする。




*






「――――――あそこか…!」


走ること数分、ナツたちの目の前に現れたのは巨大な扉。


「よーっし!出てこい、居眠りヤローっ!」


先頭を走っていたナツが勢いよく扉に飛びつき、その取っ手をを力一杯引っ張る。
すると、重々しい音を立て、徐々に扉が開かれていく。
扉の奥には眩いほどの光。


「「「、!」」」

「ッ罠だー!!」


目を見開き、驚きに固まるナツたち。
誰よりも早く状況を理解したジュラが大声で叫ぶが、次の瞬間、ナツたちは光に包まれる。

そして、刹那ほど遅れて爆炎と爆音が同時に上がった。


全てはホットアイを偽ったブレインの罠だったのだ。










「今の爆発は…」

「王の間の方だ…」

「………………お客さんか」


突如響き渡った地をも揺らす爆音に、三人は足を止めた。
微かに漂う焼け焦げた匂いにカイルは眉を寄せる。

そして、目つきを鋭くさせながらスッと背後を振り返った。
―――――と、


「父上も人が悪い」


「「、!」」


いきなり背後から聞こえてきた声に、エルザとジェラールはバッと振り返る。
そこには、既に臨戦態勢をとっているカイルと、六魔将軍最後の一人であるミッドナイトの姿があった。


「僕の楽しみを奪ってしまうんだからねェ」


そう言って、妖しい笑みを浮かべながらこちらに近づいてくるミッドナイト。


「もう、君たちが最後の獲物だ。楽しませて欲しいなァ」


「…」


カイルに習い、エルザも構えを取ろうとするが、それをジェラールが庇う様に制す。


「下がっていてくれ、エルザ」


「ジェラール…」


予想外の行動に驚くエルザだが、ジェラールのキッとした表情を見、納得いかなさそうな顔をしながらもスッと体を退く。


「…」


ジェラールは無言でカイルに目配せし、カイルはふっと微笑むと後ろに下がった。


「…ハッ…!」


まず、ジェラールが攻撃を放った。
だがその攻撃はミッドナイトに届く寸前で曲がり、その背後の地面にあたった。


「、…あたらな、かった……、っう…!」


「っよせ、ジェラール!その体では無理だ!私が…」


「っ!」


苦しげに呻くジェラールを気遣い、前に出ようとするエルザ。
だが、ジェラールはそれを頑なに拒み、数歩前に出る。


「おいで」

「フンッ!」


今度は魔法陣を展開し、無数の攻撃を放つ。
ズドンッという音がし、砂煙が立ち上る。


「っ、!?うぐ…ッ」


歯を食いしばり、肩を震わせるジェラールを心配げに見るカイル。
だが、すぐに視線をミッドナイトに戻す。

砂煙が晴れ、姿を現したミッドナイトには掠り傷一つついていない。


「そんなものかい?」


「、!」


ブンッ、とミッドナイトが腕を振る。
すると赤い風圧がジェラールを上空に巻き上げた。


『ジェラール!』


それを追う様にカイルが地を蹴り、ジェラールの腕を掴んで引き寄せる。
だが、赤い風圧は鋭利なものへと姿を変え、そのまま二人の身体を斬り刻んだ。


「…ぅ、」


「カイル!ジェラール!」


服が裂け、肌から鮮血が吹き出す。
カイルは舌打ち一つ、ジェラールを抱えたまま空を蹴り、ミッドナイトの背後に着地した。


ミッドナイトは首だけで背後を振り返り、嘲笑を浮かべる。


「だらしないねェ。これがあのジェラールかい?」


「…哀れな道化師。またお兄さんに守ってもらうつもり?」


カイルがミッドナイトを睨み付ける。
その目には静かな怒り。


「フフ、記憶と一緒に魔法の使い方まで忘れちゃったのかなー?ジェラール君?」


「おい、その軽い口を閉じろ…化粧男」


ジェラールを横たわらせ、カイルが立ち上がる。
その足元からは黒い魔力が影の様に蠢いている。


「兄、さん…ッ」


「もういい、休んでろ」


何とか起き上がろうとするジェラールをカイルが制する。

ジェラールは自分に掛けた自立崩壊魔法陣の影響で予想以上に魔力を失っている。
ミッドナイトを相手にするのはやはり無理だ。



「優しいカイル。次は君かい?」


対峙するカイルとミッドナイト。
その後ろでエルザが静かに剣を換装した。


「この俺を前に随分余裕こいてくれるじゃねえか…」


「まぁ、ね」


ミッドナイトが再び腕を振る。
すると、さっきと同じように赤い風圧がカイル目掛けて飛んでいく。
カイルは地を蹴り、腕に魔力を集める。
集まった魔力が形成するのは―――――鞘。


「おっと」


赤い風圧を鞘で弾き、カイルがミッドナイトに回し蹴りを放つ。
ミッドナイトはそれを簡単に避けてみせ、振り返り際に再度赤い風圧を放つ。
が、既にそこにカイルの姿はない。


「コッチだ」「わかってるよ」


一瞬で背後に回り込んだカイルは千の顔を持つ英雄で創造した幾百の剣や槍を突き刺そうと繰り出す…


が…


外れるはずがない必殺の刃はミッドナイトに刺さる寸前のところで切っ先を曲げた。
カイルの体は勢いを殺し切れずに傾くが、瞬間的に地に手を付き、バク転で体勢を整えると共に距離をとる。


……俺が外された?十中八九奴が何かしたな…


入れ違いに今度はエルザがミッドナイトに斬り掛かる。
だが、エルザの剣も先程同様、切っ先を曲げ、ミッドナイトには届かない。


「もうメインディッシュの時間かい?エルザ・スカーレット」


「、うあぁぁッ!」


「エルザ!」


更に、ミッドナイトが手を振ると突然、エルザの鎧が形状を変え、その体を絞めだした。


「あぁ、動かない方がいいよ。エルザ・スカーレットが絞殺されるところが見たいなら別だけどね」


「ぐあぁっくぅ…ッ!」


形状を変えた鎧はエルザの喉を絞め上げる。

剣先が曲がったり、鎧の形状が変わったり…
そうか…こいつの魔法は…



「、っはあぁぁ!!」

「!」


エルザは鎧の換装を無理やり解き、己でミッドナイトの呪縛から逃れた。
そして新たに天輪の鎧を換装する。


「成る程、そういう魔法か」


「…そう、僕の屈折(リフレクター)は全てのものを捻じ曲げて歪ませる」


「魔法を跳ね返すことも出来るし、光の屈折を利用して幻だって作れるんだ」


「ッ…何と言う魔法だ…」


誇らしげに語るミッドナイト。
カイルは苛立たしげに舌打ちをする。

これまた随分と面倒くさい魔法だ…



「…行くぞ!――――舞え!剣たちよ!」


「創造……ト・フィロティモ(彼方にこそ栄えあれ)!!」


エルザの声に、無数の剣がミッドナイトへ飛んで行く。
カイルもまた先程とは比べものにならない数の剣や槍を創造し、それらはまっすぐに降り注いだ。
だがミッドナイトは余裕の表情のままその場に立っている。


「数撃てばあたると思った?」


そう呟くミッドナイトには、確かに剣は一本もあたらない。
そればかりか、無数の剣をエルザとカイルに弾き返してきたのだ。


エルザも向かって来た剣全てを両手の剣で弾き返す。
カイルは指をパチンと鳴らすと創り上げた剣達が消え失せる。
最後の一本をエルザが弾き返した時、ミッドナイトが腕振る。
すると、天輪の鎧とカイルの黒の戦闘服までもが形状を変えてエルザの体に巻き付いた。


「もっと…もっと苦しそうな顔をしてくれよ!」


「うあああぁぁぁッ!」


「っ…!!ぐぉああああ!!!」


「そう…その顔が最高なんだ…」


舌なめずりをし、興奮した表情でカイルとエルザを見るミッドナイト。


「なんちゃって…」


ベロっと舌をカイルが出し、腕を一振りしたかと思うと黒の戦闘服が一瞬で元に戻る。


「これは俺の魔力で具現化した戦闘服。故にどんな形状にも変化出来るし、特別な能力もつけられる。因みに俺がコレにかけたのはマジックキャンセル。つまり放出系及び操作系魔法は完全に遮断する。相手がわるかったなぁ」


「くっ!!」


カイルの話に気を取られて隙が出来た所にエルザが握っていた剣をミッドナイトへ投げつける。


「流石だね、二人とも」


ミッドナイトは微笑を浮かべ、首だけで剣を避けた。


ここで銀髪の騎士王はハッとした。


そうか……読めたぞ…絡繰が…


カイルは何気なくエルザに目を向ける。
すると、エルザもカイルを見ており、フッと笑みを浮かべた。


流石だぜ、相棒…


「…何がおかしいのかな?…スパイラルペイン!」


ミッドナイトが腕を振ると、今度は風が竜巻状に巻き上がり、エルザの体を空へと巻き上げる。

カイルは地を一気に蹴ってエルザを庇う様に突き飛ばし、自らがミッドナイトの技を喰らう。
風の刃がカイルを斬り裂き、十字の傷ができる。
体中に痛みが走る中、カイルの目は明らかな侮蔑を込めて見下ろしている。


「気に入らないな、その表情!!」


一際大きい風刃がカイルの肩を斬り裂いた。


「馬鹿者…!ッぐ…!」


「そん、な…」


ドサッと地に落ちるカイルにエルザが急いで駆け寄る。
だが、ミッドナイトの攻撃に吹き飛ばされ、離れたところに崩れ落ちる。

ジェラールが絶望的な表情を浮かべた。


「…もう終わり?まだ死なないでよ。化猫の宿(ケットシェルター)に着くまでは遊ばせて欲しいなァ」


「化猫の宿…?」


「僕たちの最初の目的地さ」


「何故…そこを狙う…ッ」


地に手を付き、何とか上半身を起こすジェラール。
ミッドナイトはゆっくりと振り返り、口角を上げる。


「その昔、戦争を止めるためにニルヴァーナを造った一族がいた。…ニルビット族だ。しかし、彼らの想像以上にニルヴァーナは危険な魔法だった。だから自分たちの造った魔法を自らの手で封印した」


「悪用されるのを恐れ、彼らは何十年も何百年も封印を見守り続けた。そのニルビット族の末裔のみで形成されたギルドこそが、化猫の宿さ」


彼らは再びニルヴァーナを封印する力を持っている。
だから、滅ぼす。

そうミッドナイトは言った。


「この素晴らしい力を眠らせるなんて惜しいだろ!?この力があれば、世界を混沌へと誘えるのに…!」


「く…っ」


「…そしてこれは見せしめでもある。中立を好んだニルビット族に戦争をさせる!」


ミッドナイトは両腕を広げ、高らかに語る。


「ニルヴァーナの力で奴らの心を闇に染め、殺し合いをさせてやるんだ!ゾクゾクするだろ!?」


「っ下劣な…!」


吐き捨てるように言うジェラールに、ミッドナイトが冷たい目を向け、そしてゆっくりと歩み寄る。


「正しいことを言うフリはやめなよ、ジェラール」


「ッ」


「君こそが闇の塊なんだよ?汚くて、禍々しくて、邪悪な男だ」


「違うッ!」


「違わないよ」


ミッドナイトが幼子に言い聞かせるかのようにゆっくりと語る。
その言葉はジェラールの心を蝕むように浸透して行く。


「君は子供たちを強制的に働かせ、仲間を殺し、エルザやカイルまでも殺そうとした」


「…、っ」


「君が不幸にした人間の数はどれくらいいると思う?君に怯え、恐怖し、涙を流した人間はどれくらいいると思う?」


「、…」


ジェラールが目を逸らそうとするが、ミッドナイトがそれを許さない。
更にスッとその手を差し出した。


「ジェラール、こっちに来なよ」


「ぁ…」


「ジェラール、君なら新たな六魔に相応しい…」


「―――――…兄の目の前で弟を勧誘とはいい度胸だな」


「…、!」

「ん?」


怯えるジェラールの目に、フラフラと立ち上がるカイル、そしてエルザの姿が目に入った。


「…私達は…ジェラールの中の光を知っている」


エルザが今までに見たことのない装備を換装する。
それは異国のものを思わせる衣と薙刀。


「…へぇ、まだ立てるのか」


「貴様らのくだらん目的は私たちが止めてやる。…必ずな」


「行くぜ相棒…反撃開始だ」


「任せろ、相棒」


コンっと互いの拳を打ち鳴らし、笑みを浮かべる緋と銀。


「…噂通りだね、カイル、エルザ…、―――――壊し甲斐がある!」






……君たちの言葉こそ、俺に勇気をくれる光だよ、














あとがきです。久々に書きました!いかがだったでしょうか?これからちょくちょく更新してきますのでよろしくお願いします。それでは次回【優しくあれ】でお会いしましょう!コメントよろしくお願いします。

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