小説『フェアリーテイル ローレライの支配者』
作者:キッド三世()

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第六十三話 世界は……こんなにも……




「――――皆!無事だったか…!」


崩壊するニルヴァーナから脱出したエルザやナツたち。
そこに、ジュラやウェンディ、ハッピーにシャルルも遅れて合流した。



「よかった…!カイルは……?」


エルザが周りを見渡すが出てくる様子はない。



「見当たらんな…」

「まだ中に…!?」


「そ、そんな…」


姿を現す気配さえもしない彼に、皆の顔に焦りが浮かび始める。


「カイル……!!」


「嘘だろカイル……!何してやがんだ…ッ!」


「…カイル、何をしている」


そう呟きながら、今もなお、崩壊の音を止めないニルヴァーナを見上げるエルザ。
押し寄せる不安に握った拳が震える。


「カイルーーー!!っうわ!?」


「「「!!」」」


カイルの名前を呼びながら辺りを走り回っていたハッピー。

その足元が急に吹き飛んだ。
驚きに目を見開く皆。


「ふぅっ!!急に崩れてくんだもんな〜!ビックリした……死ぬかと思った」


そこには拳を振り上げた状態で出てきたボロボロのカイルの姿があった。


「ったく、冷や冷やさせやがる…」


「…カイルさん!」

「うお!?」


目に涙を浮かべ、カイルに抱き着くウェンディ。


「本当に…っ約束、守って…くれた…っ…ありがとう…ギルドを助けてくれて…!」


「…ハハ、皆の力があったから、だろ?」


最初は突然のことにポカンとしていたカイルだが、嬉し泣きをするウェンディにニッと笑みを浮かべた。

そんな様子を見、皆の顔に安堵の色が浮かぶ。

そしてエルザとルーシィから黒いオーラが……


「ウェンディ。交代だ」


抱きついているウェンディを無理矢理引っぺがすエルザ。

そしてウェンディと同じように、微笑みながらカイルに抱き着くエルザ。
勢いよく飛び込んできたエルザをカイルはよろめきながらもしっかりと片手で受け止めた。


「馬鹿者が…心配した…」


「へっ。百年早えよバーカ」


肩で泣いているエルザをそっと撫でてやる。無言で頷くエルザ。


「ところで何でホットアイがなんか親しげな感じで一緒にいるんだ?それとナツ、ジェラールと仲良くなったのか?」


出てきた時に目に入った光景が不思議で仕方なかった。
少し警戒していたカイルだったが、愛に目覚めた自分は貴方たちの味方!と言い張るホットアイ。
ジュラの話によれば、ニルヴァーナの影響で善意に目覚めたとか。


ナツは魔力切れだったところをジェラールに炎を貰い、信頼まではいかないが何とか一緒にいる事には納得しているらしい。


安堵の息を吐くカイル。
すると、忘れていた傷みが体中を巡り始めた。


「エルザ痛い。もうちょい優しく」


「ああすまない!!しかしボロボロだな、カイル。いつ以来だ?お前がそんなに傷ついたのは」


「さあな、今を生きる男カイルさんは興味ない事は忘れちまうんだ」


「…よし、今度は元気よくハイタッチだ!」


ニッと笑みを浮かべながら手を上げるナツに、ウェンディは涙を溢しながら元気よくはい、と返事をする。
闘いの終わりを告げるように、パァンと良い音が響き渡った。


「全員無事で何よりだねー!」


「あぁ、皆本当に良くやった!」


「これにて作戦終了ですなっ!」

「キモッ…!」


皆で輪を作り、互いの功績を称え合う。


「…んで、あれは誰なんだ?」


話しが途切れたのを見計らい、ふと、グレイが今まで疑問に思っていたことを口にした。
その言葉に、皆がグレイの視線を辿る。

そこには岩に寄りかかり、静かに何かを考え込んでいるジェラールの姿があった。
その隣にはカイルもいる。
二人は何を話すでもなく、ただ肩を並べていた。


「…青い天馬のホストか?」


「…ジェラールだ」


「何ィ!」

「あの人がァァ…!?」


エルザの言葉に体を飛び跳ねらせて驚くグレイとルーシィ。
まあ無理もない。


「…だが、私たちの知っているジェラールではない」

「記憶を失っているらしいの…」


「あ、いや…そう言われてもよ…」


「大丈夫だよ、ジェラールは本当はいい人だから!」


「…」


二人に嬉しそうにジェラールのことを話すウェンディ。
そんな話をナツはムスッとしながら聞いていた。

エルザは、と言えば、輪からひっそりと抜け出し、二人の傍に歩み寄っていた。


「…取り合えず、力を貸してくれたことには感謝せねばな」


「エルザ………いや…感謝されるようなことは何も…」


「…これからどうするつもりだ?」


「これから…」


復唱するようにそう呟き、ジェラールは…わからない、と小さく溢す。
二人の会話をカイルは眉を顰めて聞いていた。


「…そうだな。私とお前との答えも簡単にはでそうにない…」


「……、怖いんだ…っ」


「怖い?」


俯き、組んだ腕を震わせるジェラール。
その姿は本当に何かに怯えているようだ。


「記憶が…戻るのが…っ…怖いんだ…ッ」


「ジェラール…」


震えるジェラールを見、エルザが安心させるようにフッと笑みを浮かべた。


「私達がついている」


「、…!」


驚きに目を見開くジェラール。
カイルもふっと笑う。


「たとえ再び憎しみ合うことになろうが、今のお前は放っておけない。兄としてな」


「エルザ…、兄さん…」


二人の言葉に今にも泣きそうな顔をするジェラール。
そして、エルザが再び何かを言おうと口を開きかけたとき、


「―――――イケメェェェーン…ッ!!」


それを遮るように、一夜の悲鳴が響いた。
不思議に思い、首を傾げながら皆が一夜に視線を向ける。


「んー?」

「どうした、おっさん?」


「っ…トイレのパルファムを、と思ったら…何かにぶつかったーっ!」


そう言って冷や汗を流しながら空を叩く一夜。
…見えない壁、だと…?



「何か…地面に文字が…?」


「これは……術式か!?」


カイルは眉を寄せ、術式の壁に触れてみる。
どうやらこれはフリードが使っていた魔法と同じものだが…


「同等…いや、それ以上かもしれねぇ…!」

「閉じ込められちゃった…!?」

「誰だコラァァーっ!」

「何なの…?」


カイルは背中の剣を抜きはなつ。
皆は困惑の表情を浮かべ、辺りを見渡す。
すると、一寸たりともズレることなく足並みを揃えた何人もの兵が術式の壁を取り囲んだ。



「―――――手荒なことをするつもりはありません。暫くの間、そこを動かないで頂きたいのです」


「っ、誰なのー!?」


兵たちの合間を縫い、皆の前に姿を現した男にハッピーが問いかける。
男は眼鏡をクイと持ち上げ、ゆっくりと口を開いた。


「私は新生評議院 第四強行検束部隊隊長、ラハールと申します」


「んなっ!」

「新生…評議院!?」

「もう発足してたの!?」


「我々は法と正義を守るために生まれ変わった。如何なる悪も決して許さない」


それが何でここに?、と困惑する皆。
だが、カイルだけはラハールの言葉に不機嫌そうに眉を寄せた。


「おいらたち、何も悪いことしてないよ!」

「お、おぉ…!」

「そこはハッキリ否定しようよ…」

「いや出来ねえだろ……あんな事やこんな事…あっただろ?いや、もしくはあれか?」


カイルは指折り何かを数えている。
また何かしてしまったのかと焦りに震えるナツに、ラハールは表情を変えぬまま、存じていると告げる。


「我々の目的は六魔将軍の捕縛。そこにいる、コードネーム ホットアイをこちらに渡してください」

「な…、っ待ってくれ!」


「いいのですよ、ジュラ」


ラハールたちを止めようと前に出るジュラに評議院の兵たちが槍を構える。
しかし、ホットアイ本人がそれを止めた。


「リチャード殿…」


「たとえ善意に目覚めても、過去の悪行は消えませんです。私は一からやり直したい。その方が弟を見つけたとき、堂々と会える!ですよ」


「…、ハハ、ならばワシが代わりに弟殿を探そう」


「本当ですか!?」


ジュラの言葉に驚き、だが嬉しそうに声を上げるホットアイ。
そんなホットアイにジュラは笑みを浮かべながら力強くあぁ、と頷く。


「弟殿の名を教えてくれ」


「名前はウォーリー、ウォーリー・ブキャナン」

「「「…ん、?」」」

「ウォーリー…!?」


その名前には聞き覚えがあり、あれ?と首を傾げるナツたち。
脳内で響き渡る、「だぜ!」という口癖。


「「「四角ーっ!!」」」


「…アイツは…ウォーリーは、本当に素直で…優しい弟でした」


昔を懐かしみ、弟との思い出に馳せるホットアイのその顔は優しい兄のものだった。
その様子を目を細めながら見つめているカイル。
そして、隣にいたエルザが一歩前に出た。


「…その男なら知っている」


「え、」

「なんと…!?」


「俺の友だ。今は大陸中を旅しているはずだ。元気だよ」


「ッ…あ、あぁぁ…、っこれが…光を信じる者だけに与えられた…奇跡と言うものですかぁぁ…っ…、ありが…と…ありがとう…っ!」


嬉しさのあまり、その場に泣き崩れるホットアイ。
その口からは何度もありがとう、という言葉が零れた。

鈍い色を放つ枷に手を繋がれ、護送馬車へと連行されていようとも、ホットアイのその表情は実に清々しいものだった。


「何か可哀想ね…」


「仕方ねぇさ…」


「私たちにできることはもうないわ」


「っ、も…もういいだろう…ッ!術式を解いてくれ…っ!漏らすぞ…!」

「やめてぇぇ!!」


「…いえ、私たちの本当の目的は、六魔将軍如きではありません」


ラハールのその言葉に、再び驚く皆。
カイルの体を嫌な汗が伝った。


「評議院への潜入、破壊、エーテリオンの投下…」


「…」


エルザの目が見開かれる。
ラハールがクイと眼鏡を持ち上げた。


「もっととんでもない大悪党がそこにいるでしょう。―――――貴様だ、ジェラール」


「来い。抵抗する場合は抹殺の許可も下りている」


「そんなっ!」

「っ、ちょっと待てよ!」



「その男は危険だ…二度とこの世界に放ってはいけない。…絶対に」





世界はこんなにも…思い通りにはならない


ガチャンと鈍い音を立て、頑丈な枷がジェラールの両腕に填められる。


「ジェラール・フェルナンデス、連邦反逆罪で貴様を逮捕する」


「っ、ジェラールは記憶を失っているんです!何も覚えてないんですよ!?」


「刑法第十三条により、それは認められません」


ウェンディの必死の声も虚しく、感情の困っていない声でラハールが冷たくそう言い放つ。


「…もう術式を解いていいぞ」


「はっ」


「…っ、でも…!」


「いいんだ。抵抗する気はない」


助けたい一心でなおも食下がるウェンディだが、それはジェラールによって止められた。


「君のことは最後まで思い出せなかった…本当にすまない…ウェンディ、」


「…この子は昔、アンタに助けられたんだって」


「……そうか。俺は君たちにどれだけ迷惑を掛けたのか知らないが…、誰かを助けたことがあったのは嬉しいことだ」


シャルルの言葉を聞き、悲しそうに、だが少しだけ嬉しそうにそう言うジェラール。
カイルがギリッと歯を食い縛った。

ジェラールは微笑を浮かべながら皆の顔を見渡し、エルザでその目を止める。


「…エルザ……色々とありがとう…」


これが最後だというのに、黙ったまま動かないエルザとカイルをナツが交互に見やる。本当にこれでいいのか、と。

ジェラールの目がカイルに向いた。


「…兄さん、貴方は俺の誇りだ」


「…………」


「ありがとう」


「待てコラ」


ジェラールがそう告げ、皆に背を向けたとき、カイルが初めて口を開いた。
その声は怒りで震え、だが皆の耳に確実に届いていた。


「ジェラールは俺たちとニルヴァーナを止めた。…お前らが新生評議院なんかを発足している間にな」


「…何が言いたい?」




「ジェラール無しじゃ、ニルヴァーナを止められなかった。…俺はその功労者に何のねぎらいもなしか?って言いたいんだよ」


「…何を言うのかと思えば、そんなことか。たとえそうだとしても、ジェラールは許されない罪を幾つも犯している。それは兄である貴様がよく知っているだろう」


「あぁ、知ってる。現場にいたからな。確かに罪を犯した。…だが、こいつがすべて悪いわけじゃねえ」


「何?」


「楽園の塔で奴隷として働かされていた。ジェラールだけじゃない、六魔将軍の奴らもだ」


「それがどうし、…」

「如何なる悪も許さない?ガキ一人救えない奴らがほざいてんじゃねえ」


ラハールの言葉をカイルが嘲笑を混ぜた声で遮る。
その目には黒く燃え盛る怒りの炎。


「正義を翳すお前らがあの時子供たちを……俺たちを助けていればこんなことにはならなかった。更なる悪は生まれなかったんだ。…何故助けなかった!?」


「っこちらにも事情と言うものがあるのだ!「だったらこっちにも事情がある!痛み、苦しみ、悲しみ、憎悪が渦巻くあの塔で子供たちは何に縋ればいい!?神を信じられなくなった俺たちは何を信じればよかったんだ!?」


カイルの剣幕に皆が息を呑む。
これ程までに怒りを現したカイルはエルザすら見たことがなかった。


「何も信じられなくなった、世界に憎しみを持ち始めた子供の心に付け入るのは簡単なことだ。だからジェラールは、…」

「もう二度とそのようなことが起きないよう、目の前の悪を我々が裁くのだ!!ジェラールはこの世界に害を成す!正義のために裁くのだ!」


今度はラハールがカイルの言葉を遮る。


震える程まで握った拳から血が流れる。



「腐ってるな。ノーブレスオブリーシュも知らん雑魚どもが…真実を知ろうともしない奴らが…!お前らがそんな正義を掲げるって言うなら、今度は俺が評議院をぶっ壊してやろうか!?」


「何だと貴様…っ!」


「ちょ、ちょっとカイル…!」

「ダメですよカイルさん!」

「落ち着けよ!そんなことしたらお前まで…!」


必死にグレイたちが止めようとするが、カイル全く聞こうとしない。
そればかりか、ジリと土を踏みしめ、当に尽きたはずの魔力を体に纏わせ始めた。
その根源は怒り、憎しみ、…

ラハールも怒りに拳を震わせていたが、落ち着かせるように一度息を吐き、そして周りの兵に何か指示した。


「…やはり、弟が弟なら兄も兄か。今までの評議員は目を瞑っていたが、我々はそうはいかん!」


「…何の真似だ」


カイルは周りを取り囲む兵を冷たく、静かに睨み付けた。
その鋭い睨みを受け、僅かに怯む兵たちだが、すぐに槍をカイルに向けた。


「公務執行妨害、侮辱罪…」


「ぁ、…」


エルザの目が見開かれ、身体が震え出す。
駄目だ…このままでは…カイルまでが…


「カイルディア・ハーデス、正義の名の元、貴様も逮捕する!」


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