小説『フェアリーテイル ローレライの支配者』
作者:キッド三世()

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第六十五話 己の意志で決めた明日を…





「――――うわぁ、可愛い!」


「あーら?私の方が可愛いですわ」


鏡の前でポーズを決めるルーシィとシェリー。
二人が身を包んでいる服は、独特の珍しい形をしていた。


「ここは集落全土がギルドになってて、織物の生産も盛んなんですよ」


「ニルビット族に伝わる織り方なの?」


「今思えばそういうことなのかなぁ…」


ルーシィの問いに首を傾げるウェンディも、その独特の服を着ていた。


「貴方、ギルド全体がニルビット族の末裔って知らなかったんでしたわね?」


「私だけ後から入ったから…」


そう言ってウェンディはシェリーに苦笑を向ける。
そんな様子を柱に背を預けて眺めるエルザ。


「あ、エルザも着てみない?可愛いよー!…そうだ!カイルたちにも見せてあげよう!」


「ん…あぁ、そうだな…」


「…、」


ルーシィの言葉にエルザは曖昧に答える。
カイルはいつも通りだった。まあ生来くよくよしない性格なので当たり前と言えば当たり前だが…
エルザは今朝の出来事からずっとこんな調子。
どうすることもできず、ルーシィは困ったように溜息を吐いた。




*




集落の中心にある広場。
そこに、今回闘いに参加した連合軍とニルビット族全員が集合していた。



「妖精の尻尾、青い天馬、蛇姫の鱗、そしてウェンディにシャルル。よくぞ六魔将軍を倒し、ニルヴァーナを止めてくれた。地方ギルド連盟を代表して、このローバウルが礼を言う。ありがとう。ナブラ、ありがとう」


「どういたしまして!マスター ローバウル!六魔将軍との激闘に次ぐ激闘!楽な闘いではありませんでしたがっ仲間との絆が我々を勝利に導いたのでーす!メン!」

「「「さっすが先生ー!!」」」


まるで連合の代表の様に謝礼を受け、おいしいところを持っていく一夜。


「あいつ戦ってたか?」


頬杖をつきながら呆れた顔をするカイル。


「終わりましたのね…」

「お前たちも良くやったな!」

「ジュラさん…」


仲間たちは共に闘った者を称え合い、負った傷を労わる。


「この流れは宴だろー!」

「あいさー!」


「はいはいはいはいっ!」


明るいナツとハッピーの声を聞き、一夜がリズムを取り始め、その後にトライメンズが続く。


「一夜が!」

「「「一夜が!」」」

「活躍!」

「「「活躍!」」」

「それ、わっしょい!」

「「「わっしょい!」」」


「宴か!」

「脱がないのっ!」

「フフン」

「アンタもっ!」


宴色の雰囲気にグレイとリオンが服を脱ぎ、ルーシィに諌められ、ナツとハッピーは大喜びで一夜たちと踊り、ウェンディは楽しそうに笑顔を浮かべる。

だが、エルザはずっと暗い表情のまま。カイルがそばにより、肩を抱く。それでようやく笑みを浮かべた。ポスっと肩に頭を預ける。
そしてニルビット族も依然として暗いままだ。


「さぁ、化猫の宿の皆さんもご一緒に!」


そう促しながら、ナツやグレイたちを混ぜて踊りだす一夜とトライメンズ。
ウェンディは嬉しそうにナツたちに続くが、ローバウルを初めとしたニルビット族は無言でナツたちを見つめるだけ。
気まずさに思わず踊りを止める皆。


深刻そうな顔をしたローバウルが何かを決意したように口をゆっくりと開く。


「…皆さん、ニルビット族のことを隠していて本当に申し訳ない」


「……そんなことで空気壊すのー?」

「全然気にしてねぇのにー…なぁ?」

「あい」


「マスター、私も気にしてませんよ?」

「…」


ローバウルはナツとウェンディの言葉に一度目を伏せ、表情を変えぬまま皆さん、と言葉を紡いだ。


「ワシがこれからする話を良く聞いてくだされ」


「…?」


「まず初めに、ワシらはニルビット族の末裔などではない。…ニルビット族そのもの、四百年前ニルヴァーナを造ったのはこのワシじゃ」


「何…!?」

「嘘…」

「四百年前…?」

「は…?」


「どういうことだ…?」


思わず、全員が驚きの声を上げる。
それもその筈。魔導士と言えど人間だ。四百年も生きられるわけがない。


ゆっくりとその歴史を語りだすローバウル。


「…四百年前、世界中に広がった戦争を止めようとワシは善悪反転の魔法、ニルヴァーナを造った。ニルヴァーナはワシらの国となり、平和の象徴として一時代を築いた。―――…しかし、強大な力には必ず反する力が生まれる。闇を光に変えた分だけ、ニルヴァーナはその闇を纏っていた」


「、」


「バランスを取っていたのだ……人間の人格を無制限に光に変えることはできなかった。闇に対して光が生まれ、光に対して必ず闇が生まれる」


「世の摂理だな…」


「人々から失われた闇は我々ニルビット族に纏わりついた」


「そんな…」


目を見開き、ウェンディは息を呑んで言葉を失う。
ローバウルは眉を寄せ、目を伏せた。


「地獄じゃ…。ワシらは共に殺し合い、…全滅した」


「え、…」


「生き残ったのは…ワシ一人だけじゃ……、いや…今となってはその表現も少し違うな。我が肉体は当の昔に滅び、今は思念体に近い存在」


「ぁ…」


冷たい風が皆の髪を巻き上げる。


「ワシはその罪を償うため、また…力なき亡霊であるワシの代わりにニルヴァーナを破壊できる者が現れるまで、四百年…見守ってきた」


そこで、ローバウルはフッと笑みを浮かべた。嬉しがるような、悲しむような、優しい笑みを浮かべた。
その瞳に映るのはニルヴァーナに立ち向かい、破壊することに成功した連合軍の者たち。そして―――ウェンディ。


「今、ようやく役目が終わった」


「そ、そんな話…」


肩を震わせ、拳を握るウェンディ。
すると、ローバウルの背後に控えていた者たちがその姿を消し始めた。
初めからいなかったかのようにどんどん消えていくニルビット族に、ウェンディとシャルルは焦り、悲鳴に近い声を上げる。


「みんな…っ!」

「アンタたち…!」


「いやよ…みんな…ぁっ…消えちゃいやぁぁぁ!!」


泣き叫ぶウェンディに皆は笑顔を浮かべて消えていく。


「騙していて、すまなかったなぁ…、ギルドのメンバーは皆、ワシが作り出した幻じゃ」


「何だとーっ!?」

「人格を持つ幻だと、…!?」

「何という魔力なのだ…」


ナツたちはただ驚きに目を見開き、声を上げることしかできないでいた。


「ワシはニルヴァーナを見守るために、この廃村に一人で住んでいた。……七年前、一人の少年がワシのところに来た」


―――この子を預かってください!


まだ幼さが残る少年に抱えられた、幼い少女。


「少年のあまりに真っ直ぐな目に、ワシはつい承諾してしまった…一人でいようと決めていたのになぁ…」


悲しげに目を伏せるローバウルに、ウェンディは思い出したかの様にハッとした。


「つまり化猫の宿は……」


「ウェンディの為に作られたギルド……」


愕然とするカイル。なんと凄まじい……そして優しい嘘…



「っ、そんな話聞きたくないっ!皆消えないで…!」


耳を押さえ、泣き叫ぶウェンディにローバウルは優しく微笑みながら声を掛ける。


「ウェンディ、シャルル。もうお前たちに偽りの仲間はいらない。本当の仲間がいるではないか」


ローバウルが指差す方には、数々の苦難を共に乗り越えた連合の仲間たちの姿。
ウェンディの頬から止めどなく涙が零れ落ちる。


「お前たちの未来は始まったばかりだ。…皆さん、本当にありがとう。ウェンディとシャルルを頼みます」

「マスターぁぁっ!」


駆け寄るウェンディを待たずして、光の粒子となってその姿を消すローバウル。
その声は無人と化した集落に優しく木霊した。


「っ…、ぅ…っ…」

「、っ…」


そして、まるでローバウルと同じように涙を溢すウェンディとシャルルの腕から、化猫の宿のメンバーとしての紋章がスゥと消えていく。
その場に泣き崩れ、空に向かって泣き叫ぶウェンディ。

仲間たちはどう声を掛けて良いのかわからず、ただ悲痛な面持ちでそれを見守る。
――――と、ウェンディの肩に、頭に優しくトンと手が乗せられた。


「愛する者との別れのつらさは…仲間が、埋めてくれる…」


「っ…」


誰よりもそのつらさを知っている緋色の髪の美女と銀の髪の騎士が藍色の髪の少女を優しく包み込む。



「来いよ――――…妖精の尻尾に」



「っぅ、…うぁァぁぁっ…ぅ…」


竜の少女が王の青年にしがみついて嗚咽をもらす。
手練れの騎士である彼なら勇気づける言葉はいくらでもあっただろうが……王として、少女の髪を優しく撫でてやる事しか出来なかった。









人は悲しみも辛さも涙も乗り越えて大人になり、強くなる……泣いたっていい。弱音を吐いたっていい。だが己の力で乗り越えろ……












後書きです。ニルヴァーナ篇終了〜。長かった〜。いかがだったでしょうか。次回は番外編。相手はまだ決めてませんので恒例のアンケートをとりたいと思います。複数でも結構です。よろしくお願いします。感想もよろしくお願いします。

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