小説『フェアリーテイル ローレライの支配者』
作者:キッド三世()

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第六十七話 龍の王





「ヘヘ、土産って外国の珍しい炎とかかなー?」

「何だろうねー?」


ギルダーツの言っていた“土産”に思いを馳せ、嬉々とした表情でその家へと続く道を進むナツとハッピー。
そしてその家に着くなり、ドガンッと大きな音を立てて扉を開ける。


「よォ!」
「お邪魔しまーす!」

「おう、来たか」


そんな騒々しいナツとハッピーの訪問をギルダーツは笑顔で迎え入れる。
家の中に入れば、パチパチと燻る薪の音とその温もりがナツたちに届く。
中でも一番目を引くのが、奥の壁に掛けられた“唯我独尊”と書かれた掛け軸。
ナツとハッピーの中に懐かしさが込み上げてくる。


「はぁー此処に来んのも久しぶりだなー」
「三年ぶりだもんねー」

「んで、土産って何だー?」

「それは兎も角、お前ェあれからリサーナとは上手くやってんのか?あん?」

そんなギルダーツの言葉に、ナツは上げていた腕をスッと下ろし、目を細めた。


「んだ、照れやがってーハハハッ」

「…リサーナは死んだよ。二年前に」

「…、っな……マジかよ…」


ナツの真剣な、しかし冷めた様な顔を見、ギルダーツは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、額を押さえる。


「そうか…それでミラの奴…っすまねェ、ナツ…」

「そんな話しなら帰んぞ」

「ナツってば、」


この話は終わりだ、と踵を返すナツ。
…と、ギルダーツが額から手を少し離し、視線を下に向けたままナツを呼び止める。


「…ナツ、仕事先で…ドラゴンに会った」

「、…!」


思わず足を止め、驚きに目を見開きながらギルダーツを振り返るナツ。


「お前の探してる赤い奴じゃねェとは思うがな…黒いドラゴンだ」

「黒い…ドラゴン?」
「っ、どこで!?」

「霊峰ゾニア。おかげで仕事は失敗しちまったよ…ちくしょう」


場所を聞くなり再度踵を返そうとするナツだが、「行ってどうする」というギルダーツの言葉にピタッと足を止める。


「っ、決まってんだろ…そいつにイグニールの場所を聞くんだ」

「もういねェよ。あの黒竜は大陸、あるいは世界中を飛び回ってる」
「それでも何か手掛かりがあるかも知れねェ!!」

「…ナツ、これを見ろ」


マントの留め具に手を掛け、静かに立ち上がるギルダーツ。
そのマントが取られたとき、ナツとハッピーは驚愕に顔を染めた。

今まではマントで隠れて見えなかったが、曝された身体には無数の傷跡、無くなった左手足の義手義足。


「ほとんど一瞬の出来事だった。左腕と左足…内臓もやられた」

「「…、」」

「イグニールって奴はどうだか知らねェが、あの黒いのは間違いなく人類の敵だ。…そして、人間には勝てない」

「…、っそ、それを倒すのが滅竜魔導士だろ!俺の魔法があれば、黒いドラゴンなんて…!」
「本気でそう思ってるなら止めやしねェよ」

「…っ…くそっ!!」

「ナツ!」


己の無力さ、悔しさに拳を握り、ギルダーツの家から飛び出すナツ。
その後を追おうとしたハッピーだが、ギルダーツによって止められる。


「ハッピー、お前がナツを支えてやれ。あれは人間じゃ勝てねェが、竜なら勝てるかもしれねェ…ナツなら、いつかきっと、…」

「あい…」

「…それと、一つ聞きたいことがある」

「?」


首を傾げるハッピーにギルダーツが続けた。


「カイルの奴。ドラゴンの力を手にいれたのか?」

「あい!なんでも龍の精霊王ってのと契約したらしいよ」

「そうか……龍の王と……」


ドラゴンの力を身に宿すというのは並大抵ではない。ナツやガジルが異常なまでのタフネスを誇るのは滅竜魔法に耐えうる身体が必要だからだ。それをカイルは何の修行もなく飼いならしている。


ーーーー知ってたつもりだったが……とんでもねえ奴だぜ、あいつはよ。










「ぶぁっくしょん!!」


盛大なくしゃみと共にティッシュを創造し、鼻をかむカイル。
ティッシュ箱を持って来ていたエルザはがっくりと肩を落とした。出来ればチーンをしてあげたかったのだ。


「風邪か?カイル」

「うんにゃ、噂されてんな。この感じは……ギル?」

「わかるの!?」















「すみません、ガジルのフィギアってまだありますか?」
「ちょっと、カイル様のもよ!」

「おぉ…マニアックなとこ来たねー――――…えーっと、あ、ガジルのはあるけど、カイルのは売り切れだ。ごめんね」


そう頭を掻き、仲の良さげな女の子たちに申し訳なさそうに謝るのは、妖精の尻尾のグッズを販売している店の番をしているマックスだ。


「カイルは売り切れかー…残念だなぁ…」

「今度仕入れておくよ。…っと、ほい、ガジルのフィギア」

「へぇ…!一応猫用スタンド付いてるんだ!」
「スゲー!マジヤバい!」

「ついでにカイルのフィギアにはテリーが付いてるよ」



アハハ、と苦笑しながらマックスはサンプルであるナツ、ウェンディ、カイル、ガジルのフィギアを指差す。
確かにナツとウェンディの足元にはハッピーとシャルルの姿があるが、ガジルにはスタンドしか付いていない。
これは何れ猫のパートナーを得た時様に作ってあるそうだ。
カイルは白狼の背中に跨って剣を構えている姿だ。

「また来るわね!」と、ガジルのフィギアを手に去って行く女の子たち。
一仕事やり遂げたように、マックスははぁ、と息を吐いた。






*







今日も今日とて、相変わらず騒がしい妖精の尻尾のギルド内。
あちらこちらで歓声や笑い声、将又怒声までが飛び交っている。…まぁ、皆もう慣れっ子なのだが。


「…777年7月7日?」

「私やナツさんに滅竜魔法を教えたドラゴンが同じ日にいなくなっているんです」

「そう言えば、前にナツがガジルの竜も同じ日に姿を消した、って言ってたかも。」


お茶やミルクを飲み交わし、そんな雑談をしているのはルーシィにウェンディ、そしてシャルルだ。
そんな二人の会話を黙って聞いていたシャルルは、頭に?を浮かべながら「どういうことなの?」と疑問を口にする。


「うーん、遠足の日だったのかしら?」

「…ルーシィさんもたまに変なこと言いますよね…。…火竜イグニール、鉄竜メタリカーナ、天竜グランディーネ…皆今どこにいるんだろう…」


真面目な顔でボケをかますルーシィに苦笑を浮かべ、そして知っているドラゴンの名を上げていくウェンディ。
本当にあれ程大きな体を一体どこに隠しているのだろうか。何か、人間にはわからぬことを感じ取っているのだろうか…

少し俯き、考えれば考える程浮かんでくる疑問にウェンディが頭を悩ませていると、


「シャールルー!」

「?」


己よりも大きな魚を頭上に掲げ、シャルルのもとまで駆け寄って来たのは満面の笑みを浮かべたハッピー。
掲げた魚には丁寧に可愛らしいリボンが巻かれている。どうやらプレゼントのようだ。


「これ、オイラが捕った魚なんだ!シャルルにあげようと思って、!」

「いらないわよ。私魚が嫌いなの」

「そっか…じゃぁ、何が好き?オイラ今度、…」
「うるさいっ!!」


ハッピーの言葉を怒声で遮るシャルル。
突然のことにハッピーだけでなく、ルーシィやウェンディも驚き、息を呑んだ。


「…私に付き纏わないで」

「…、ちょっとシャルル…!」
「何もあんな言い方しなくても…」


プイッとそっぽを向き、皆の声を無視してシャルルは出口へと歩いて行く。
途中ウェンディが何度も呼び掛けるが、遂に止まることなくその姿は見えなくなってしまった。


「…、」


眉をハの字に下げ、落ち込んだ様子のハッピー。
…と、その頭にポスンと誰かの手が乗せられた。


「落ち込むなって、ハッピー」

「あ、カイル…」


聞き慣れた声に上を仰ぎ見れば、苦笑を浮かべたカイルの姿。
乗せられた手から伝わる温もりにハッピーも少し笑みを浮かべた。


「言ったろ?女には尽くすより尽くさせろってな」

「お、おぉ!オイラ頑張るよ!待ってよ、シャルルー!」

「いや、尽くさせろって…」


感動したかのように納得を示したハッピー。だったが、即座に助言とは逆の行動に移した時には、はあと溜息をつく他ない。


「あはは、頑張るわねハッピー…。にしても、シャルルってやけにハッピーに冷たくない?」

「どうしたんだろう…」

「さぁ…シャルルにも何かあるんだろうがな」




シャルルの後を追い、徐々に小さくなっていくハッピーを三人は微妙な表情で見送った。








(何がハッピー…何が幸せよ…何も、知らないクセに…っ)






















あとがきです。エドラス編スタート。桜の奴とかも書きたかったのですが早く竜王祭までいきたいので省きます。
それでは次回【異世界の騎士王物語】でお会いしましょう。コメントよろしくお願いします。

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