小説『フェアリーテイル ローレライの支配者』
作者:キッド三世()

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第六十九話 世界には似てるやつが三人いるとか言うけど多分いない








一方、一足先にエドラスへと到着していたナツたちは衝撃的なものを見、体験し、そして聞いていた。


「なん、だと…?」
「そんな…」
「…、」
「…!」


驚きに目を見開く四人の目の前にいるのは、ルーシィやミラ、グレイにジュビアといった、妖精の尻尾の面々たち。
だが、それはナツたちが探していたルーシィたちではなく、全くの別人…エドラスに元々住んでいた者たちであった。そして今四人がいるこの妖精の尻尾のギルドも、元々存在していたもの…

シャルルの推察では、エドラスはアースランドのパラレルワールド、つまりは平行世界と称されるもので、容姿や名前が同じ人物たちがこのエドラスに存在しているというものだ。
しかし、容姿や名前がいくら同じでも全部が全部同じと言うわけではないらしく、女らしかったルーシィがエドラスではがさつで男勝り、氷の造形魔法を使用し、脱ぎ癖のあったグレイがエドラスでは寒がりで気弱、といった風に性格が正反対な者が大勢いた。

そしてそれらを確証付けたのが、アースランドでは二年前に亡くなっているリサーナがエドラスに存在していたこと、まだ子供であるウェンディがボンキュボンな女性になっていたこと…、そして…


「さっきのあれは、王都魔戦部隊隊長の一人、…エルザ・ナイトウォーカー、…またの名を妖精狩りのエルザ」

「エルザが…敵…っ?」


間一髪回避することに成功したが、先程妖精の尻尾を狙って攻撃してきた人物、…それはエドラスにおけるエルザによるものであった。
ミラの話ではエルザは妖精の尻尾の敵であり、その彼女の手によってもう何人もの仲間たちが命を奪われているらしい。

信じ難いことに唖然とする四人に対し、エドラスの皆は悲しげな表情を浮かべ、悔しそうに拳を握る。


「…、っなら…!カイルは…!?カイルはどこだ!?」
「此処には見当たらないし…カイルさんは一体どこに…!?」

「あぁ?カイルってカイルディアの事か、…?」


ハッと我に返り、ミラやルーシィに詰め寄るナツとウェンディ。
エルザが敵ならば、もう一人…此処にはいない人物であるカイルは一体どこにいるのか、…

その疑問にルーシィは眉を寄せ、吐き捨てる様に言葉を紡ぐ。


「どこって…王都に決まってんだろ」

「王都…!?」


「カイルディアは王都特別魔戦部隊総隊長であり、…この国の王子だ」


「悪い人なの?」


「いや、民の人気は絶大だし、ここにいるやつら殆どがかつてあいつの飲み仲間だった……アタシも以前は惚れてた。だがあのクソ王が軍備拡張してからは……病を盾に取られて……くそっ!!」


悪人ではないが、味方とも呼べる存在ではないらしい。










「――――つーと、何か?お前らはアースランドとかいうもう一つの世界から、…」
「仲間を救うためにエドラスに来た、ってわけか?」

「あぁ」

「そっちの世界にも妖精の尻尾があって、…」
「そっちじゃ、エルザとカイルディアは味方だってェ?」

「ざっくり言うとね」
「あい」


ギルドの皆は腕を組み、「うーん」と唸りながら首を傾げる。

あれからナツたちは己の正体を明かし、皆にアースランドのことを簡単に説明したのだが、どうにも信じ難いことが多く、皆混乱しているようだ。
そして中でも一番困惑を見せたのが、エルザとカイルがアースランドでは妖精の尻尾の仲間だということだ。


「どうにも信じ難い話ですけど…」

「でも、確かにこのナツは俺たちの知ってるナツじゃねェしな」
「似てるのは顔だけよね」
「言えてる!」


そう言って「あはは」と笑い合う皆。
だがたった一人、仲間の輪から一歩引いたところでナツを見つめる者がいた。…リサーナだ。
その悲しげな表情の意味は誰にもわからず、そして皆気付かない。


「まぁ、つーわけで、王都への行き方を教えて欲しいんだ」
「私たちの仲間がこの世界の王に吸収されちゃったんです…!早く助けに行かないと、皆が魔力に…形のないものになっちゃう…!」

「…小っちゃい私には悪いけど、やめておいた方がいいわよ?」

「え、?」


そう言って二人を諫めるのはエドラスのウェンディ。周りの皆もうんうん、と静かに頷いている。


「エドラスの王に刃向った者の命はないわ。…それ程、強大な王国なの」

「この世界じゃ魔力は有限、限りあるもの。…言い換えれば何れなくなるもの」

「それを危惧したエドラス王は魔法を独占しようとした。…だよね?ジュビアちゃん!」
「うん、…結果全ての魔導士ギルドに解散が出された」

「初めのうちは皆抵抗したさ…」

「けど、王国軍魔戦部隊の前に次々と潰されていった…」

「残るギルドは此処だけ…勿論、俺たちだって無傷じゃない…」

「仲間の半分を失った…っ…マスターだって、…ッ」


溢れ出てくる涙を拭い、皆は悲しみと悔しさに肩を震わせる。


「逃げるのが、やっとなんだよ…」

「だから、近付かねェ方が良い。元の世界とやらに戻りな」


「…頼む、道を教えてくれ」


「「「な、…」」」


そこまで聞いて尚も王都への道を教えて欲しい、と口にするナツに皆は驚愕の表情を浮かべ、ざわざわとどよめき出す。


「俺は仲間を助けるんだ。絶対にな」












――――…エドラス王都 統合参謀本部

王都を見下ろすことができる静かな通路にカツカツと数人の足音、そして、話し声が木霊す。


「スゲーよ!見たかエルザ?あのでけェラクリマ!」

「来る時見たよ、ヒューズ。綺麗なモンだな」


かなり高めなテンションで話し続けている、幼さ残る顔の男…ヒューズは隣を歩く者に言葉を投げる。
それに答えるは、結われた緋色の髪を揺らす女、エルザ・ナイトウォーカー。…エドラスのエルザだ。


「あれは何万ものアースランドの人間のものなんだぜー!」

「んー、正確には魔導士百人分くらいの魔力…と、その他大勢の生命と言うべき、か」

「ヘヘッ細けェことはいーんだぜ、シュガーボーイ。俺が言いてェのは、とにかくスゲーってことなんだ」


そしてもう一人。
エルザの隣を歩く、金色のリーゼントが特徴的な男、シュガーボーイ。
どちらもエルザと同じ、第三、第四と王国軍魔戦部隊隊長を務めている。


「良いか?俺の言うスゲーは、ハンパなスゲーじゃねェ!超スゲーってこと!」
「んー、超スゲー」

「――――…エルザしゃん、妖精の尻尾はまだ殺れんのでしゅかな?」


楽しそうに会話をする中、突然背後から聞こえてきたしゃがれた声。
だが三人は驚いた様子もなく、足を止め背後をゆっくりと振り返る。


「…バイロ、」

「ぐしゅしゅ、妖精狩りの名が廃りますなァ。残るギルドは妖精の尻尾のみ。確かに一番逃げ足の速いギルドでしゅがね?…陛下はそろそろ結果を求めておいでだ」


薄気味悪い下品な笑い方をするのは、周りの者とは異なった風貌の老人、バイロ。
彼もまた、王国軍幕僚長を務めている。


「そう慌てるな。女神が妖精を狩り尽くす日は遠くない」

「そうだよ!エルザの剣はスゲェーつーか、スッゲーんだよ!」

「ぐしゅしゅしゅ…」


「それでは何が凄いかわからんぞ、ヒューズ」

「「「、!」」」


再び背後から聞こえてきた威厳に満ちた声に、四人は驚きに目を見開き、バッと勢い良く声のした方を振り返る。
そこには、所々に金の装飾が施された質の良い白のコートを羽織った、銀髪の美男。


「「「王子…!」」」
「カイルディア様…!」


「よい、そう堅くなるな」




四人の反応に苦笑する男は王国軍特別魔戦部隊総隊長…そして、エドラス王国王子、――――…カイル。
つまり、この世界のカイルである。


「…カイルディア様、お体はよろしいのですか?」

「ああ、今日は調子が良いのだ。それとカイルで良いぞ?」

「め、滅相もございません!恐れ多い…」


スッと綺麗に跪き、心配げに己を見上げてくるエルザにカイルは笑みを浮かべて答え、立ち上がるよう、皆に言う。
…と、ヒューズが「あ」と声を上げ、笑顔でカイルに詰め寄った。


「なァなァ、王子!王子も見ました?あのでけェラクリマ!」

「無論見たとも。中々の美しさだ」

「んー、しかも暫くの間は魔力には困らない程大きい。素晴らしいね」

「ぐしゅしゅ、これでエドラスは安泰でしゅなァ」

「そうだな……喜ばしい事だ…」

「ですよね!?…〜っスゲー!スゲーよ!」

「っ静かにしないか、ヒューズ!」


騒がしい程に嬉しさを体で表現するヒューズをエルザが叱る。
そしてもう一人、


「――――…黙れヒューズ。それと、不気味な笑い方はやめろバイロ。うるせェのは好きじゃねェ。…王子の体に障るだろう」

「…リリーか」

「は、」


低い声を発し、ゆっくりとこちらへ歩いて来るのは黒豹に似た、だが人間の成人男性並の体躯を持った男…名をパンサー・リリー。彼も王国軍第一魔戦部隊隊長を務めている。


「んだよ。…てめェ、自分が一番スゲーとか思ってんだよ、絶対」

「少しは口を閉じろ」

「んー、機嫌悪いねェ、リリー」

「…フン」


ムキになって言い返すヒューズと、煽る様に言うシュガーボーイをリリーは鼻で笑い、エルザの少し前に佇むカイルに一礼だけして去って行った。
遠ざかって行くそんなリリーの背を見、カイルは苦笑を溢す。


「最近の軍備強化が不満のようですね」

「まあわからんではないがな」

「軍人なら喜ぶべきとこなのにねェ」

「…しかし、我が国はほぼ世界を統一した。これ以上軍備を強化する理由が見当たらないのも事実です」

「んー、まだ反抗勢力が少しは残っているからじゃねェの?」

「それなら私たちだけで十分のはず…」


そう言い、エルザは一歩程前にいるカイルの背を見つめる。
そんなエルザの視線に気が付いたカイルは背後のエルザを見、首を傾げながら再び苦笑を浮かべた。


「悪いな。王の考えは私にもわからん」

「あ、いえ…」

「だが、お前たちを頼りにしているのは確かだ。心配しなくても良い」


焦ったように視線を迷わせているエルザにカイルはそう言い、ポンと肩に手を乗せる。
驚いたように顔を上げるエルザ。


「これからも我が側で歩き続けよ、我が騎士エルザ。…お前たちもな」

「「「は、」」」

「…っ…もったいなきお言葉……お任せください!」

「はげめよ」


それだけ言い、カイルはリリーの後を追う様に去って行く。
その後ろ姿をエルザは静かに、だが恍惚とした表情で見送った。


(必ず…必ずやカイルディア様は私が…!)


拳を握り、心の中で誓いを立てるエルザ。ヒューズ達も彼のためなら命も惜しくないと思っている。



煌びやかな装飾が施された王の間。
そこに低くしゃがれた声が響き渡る。



「まだ足りん…我が偉大なエドラス王国は有限であってはならぬのだ」

「…父上…」


玉座に坐する男こそ、このエドラス王国国王、ファウスト。
その目の前には頭を下げ、跪いているカイルの姿。


「クク、…貴様もそう思うだろう、カイル?」

「は」

「もっと…もっと魔力をよこせ…!ワシが求めるのは永遠!永久に尽きぬ魔力…!」


ファウストは玉座から立ち上がって両腕を高く翳し、貪欲に、しかしどこか高らかに告げる。
そんな王を前に、カイルは無言でスッと目を細めるが、その行動の意味は誰も知る由がない。

ファウストの鋭い目がカイルを捉える。


「カイル、特別魔戦部隊総隊長として今後も軍備強化を怠らせるな。そして、目標の者を直ちに発見し、捕縛しろ」

「承知しています」

「うむ。…して、魔力抽出はいつになった?」

「明後日、…二日後を予定しています」

「ワシは民衆の間で演説を行う。体調が良いのならば貴様も参加しろ、カイル」

「は。御意のままに、…―――――」









王都へ向かう最中、ナツ達は大軍に襲われていた。だが闘おうにも武器に宿る魔力は少なく、とても大勢の兵たちを倒すことはできない、…

打つ術がなく、ピンチに陥っていたナツたちだが、突如として現れた救世主にその危機を救われた。


「開け!白羊宮の扉 アリエス!」


そう高らかに告げる救世主、それはアースランドのルーシィで、彼女はナツやウェンディとは違い、何故かエドラスで魔法が使えていた。


「な、何だ…!?」
「人が現れたー!?」
「一体何なんだ、この魔法は…!?」

「アリエス、アイツら倒せる?」

「は、はい…やってみますー…!――――ウールボム!」


見たことのないアースランドの魔法に困惑している兵に、ルーシィが召喚した星霊 アリエスが特殊な羊毛の塊で攻撃を仕掛ける。
それは触れた相手の戦意を喪失させ、ナツたちを避難させるチャンスを作り出した。


「皆、今のうちよ!」

「モコモコ最高ー!」
「ナイス、ルーシィ!」

「あぁ…私も気持ち良いかもー!」

「…これが、アースランドの魔法…」






「…此処まで逃げてくれば大丈夫よね、…」


荒い呼吸をしながら、そう言葉を溢すシャルル。

あれからナツたちはアースランドのルーシィを加え、全力で王国軍から逃げ出し、ルーエンの街を出ていた。
そしてやっと姿を隠すには丁度良い森を発見し、現在そこで息を整え、互いに現状を把握しようとしていた。


「…しっかしお前、どうやってエドラスに来たんだ?」
「私たち、ルーシィさんもラクリマにされちゃってると思い、心配していたんです…」

「ホロロギウムとミストガンが助けてくれたのよ」

「ホロロギウム?」
「ミストガン、…?」


ルーシィの言葉を聞き、驚いた様に目を丸くする四人。



「…ってことは、アイツも無事だったのか!」

「うん。…で、誰か知り合いがいないか探してたのよ」

「ミストガンさん、どうしてエドラスの事を知っていたんでしょう…?」

「…アイツは何者なんだ?」

「何も言ってなかったわね…、…あ!」


謎に包まれているミストガンの行動に皆で思考を凝らしていた時、急にルーシィが声を上げた。
何だ?、と不思議そうに首を傾げるナツたち。


「そういえば、カイルもエドラスに来てるってミストガンが言ってた!」

「、!本当かルーシィ!?」
「わぁ…!カイルさんが来てるんだって、シャルル!」
「戦力としては嬉しいわね」
「これでオイラたち、怖いものなしだねー!」

「カイル…?…あぁ、そっちのカイルディアのことか」


その言葉に喜びの声を上げるナツたちだが、エドラスのルーシィはフン、と鼻を鳴らし、そっぽを向く。
そんな行動に首を傾げ、「どういうこと?」とナツとウェンディに目を向けるルーシィ。


「この世界のカイルは俺らの敵で、この国の王子なんだと」

「えぇ王子!?カイルが!?それに敵!?」

「…みたいです」

「ええぇぇ!?」


信じられない、と驚きの声を上げるルーシィにウェンディが苦笑する。
…と、そっぽを向いていたエドラスのルーシィがふと、ナツたちに目を向けた。


「…お前らんとこのカイルはそんなに良い奴なのか?」

「ん?おう!すげェ良い奴だぜ!」
「はい、とても優しくて…」
「それに強いしね!」

「カイルは妖精の尻尾最強の魔導士なのよ!」

「…ふーん、」


活き活きと嬉しげに語るナツたちを見、エドラスのルーシィはスッと目を細め、明後日の方向に視線を向ける。

コイツらがそこまで言う、アースランドのカイル…
まぁ…少しだけ会ってみたい、…かな…









「ぶえっくしょい!!ちくしょい!!」


激しくくしゃみがでる。今のカイルは絶世の美女となっているので周りが信じられないようなものを見たような目でカイルを見ていた…


「う〜ん…最近よく噂されんなぁ…この感じは……ナツ?いや、複数か」


相変わらずくしゃみで誰が噂してるかわかるカイルであった…

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