第七十三話 計画
「久々に行くか、相棒」「ああ!行くぞ相棒!!」
カイルは風の精霊王を呼び出し、エルザは黒羽の鎧を換装する。
「「ユニゾンレイド!!」」
エルザの漆黒の剣を軸に巨大な風の刃で出来た剣が創造される。
その圧倒的な存在感にエドラスの二人は戦慄した。
「こ、これは……」「アースランドの魔法……なのか?」
「「嵐閃黒曜斬!!」」
嵐を纏った極大の斬撃がエドラスのエルザとカイル、そして周りの雑兵共を吹き飛ばす。
これでひとまず陣形も何もないだろう。
「見たか!!私とカイルの力!!」
「エルザ、こっからは分かれるぞ。俺は俺をやる。エルザはエルザを頼む」
少し不服たらしげな顔をしたが頷いた。まだシルバリオ・ティターニアとして戦いたかったのだろうが、そこは我慢してもらおう。あのカイルには聞かなければならない事がある。
「さてと、滾らせてくれよな!!」
粉塵が渦巻く中、カイルはシルフの反応を頼りに煙に向かって跳躍した。
「――――広場のラクリマ?」
西塔の石造りの通路を駆けるルーシィにハッピー、シャルルはナツとウェンディが幽閉されている場所へ辿り着くまでの間、ラクリマにされていた筈なのにここにいるグレイに問うていた。…そしてグレイから返って来た答えは意外過ぎるものだった。
「あぁ、あれが丁度俺とエルザだったらしい」
「嘘!?」
「でも、どうやって戻ったの?」
「ガジルが来てな。んでまぁ、色々とこっちの事とかを聞いてよ。何でも、滅竜魔法はこっちの世界じゃ色んな役割を果たすらしい」
その言葉に「え?」という顔をするルーシィたちに、グレイはニィと口角を上げ、拳を握る。
「ラクリマにされた仲間たちを元に戻すことが出来るんだよ」
「ホント!?」
「っ、オイラ皆のラクリマどこにあるか知ってるよ!」
「マジか、ハッピー!?」
「あい!」
驚いた様に振り返るグレイにハッピーが元気良く返事をする。
という事は、滅竜魔導士がその場にいさえすれば皆を元に戻せる…?
「ガジルが今その巨大ラクリマを探す、って街中で暴れてる!…ハッピー、ガジルをラクリマのとこまで連れて行けるか!?」
「ガジルなら皆のラクリマを元に戻せるんだね?」
「正確にはナツとウェンディ、カイルでも可能なはずだが…方法を知らねェと思う。特にカイルなんかはどこにいるのかもわからねェし」
「本当にもう…、カイルってば一体どこにいるのよ!」
「俺らより先に城に潜入した、ってガジルから聞いたんだが…」
全然会わねェな、と深い溜息を吐き、頭をガシガシと掻くグレイ。
取り合えず今はガジルに任せるしかないようだ。
「…よし、オイラがガジルをあそこに連れて行く!」
「ちょっと…!大丈夫なの、ハッピー!?」
翼(エーラ)を発動し、元来た道を引き返して行くハッピーにルーシィが心配げに声を上げるが、それをシャルルが「大丈夫よ」と諫める。
小さくなっていく青い背中を見つめるその瞳からは微塵の不安も感じられない。…心から信じているのだ。ハッピーなら大丈夫だ、と。
ガキンっ!!
剣と剣が交錯する。二人のカイルが闘っているのだ。
「ーーー構築、灼炎…」
エドラスのカイルの剣の刀身から紅蓮の炎が立ち昇る。
あまりの熱に、手を焼かれると直感したカイルは飛び下がって水の精霊王、ウンディーネを召喚した。
「水龍天征!!」
龍の形をした八頭の水柱がカイルを襲う。水圧に飲み込まれたカイルは手に持つ炎の剣を変形させた。
「ーーー構築、疾風」
剣の形がレイピアのように細くなり、カイルの周りを風が覆った。風に覆われた部分を避けるかのように水が通る。どうやら誘導されたようだ。
水龍を凌ぎきり、ようやく視界がクリアになる。だが肝心のカイルの姿はどこにもない。
ーーーーーーどこへ……?
疑念を感じたのは一瞬。すぐに背に嫌な予感を感じ、横っ飛びに飛んだ。
刹那高圧の水流が通過する。二メートル以上ある城壁はまるで豆腐のようにスライスされた。
「イイ感してるな、それと面白い剣だ」
「……我が剣ザ・ワールドは自然の力を纏う事ができる」
「成る程、原理は違うが俺のローレライとよく似てるな……まあ支配力は圧倒的に俺が上だが…」
剣に纏わせるとはいえ所詮剣の範囲のみ。その気になれば天を覆うほどの力を出せるカイルの精霊王とは格が違う。
が、カイルはこれ以上精霊王の力を使おうとは思わなかった。
ウンディーネを体内に取り込む。
「……なんの真似だ…」
「勝つとわかりきった勝負はしない主義でね。俺はアンタに対してローレライは使わない。まあ千の顔を持つ英雄と絶剣技は使うだろうが、まあそれでなんとか互角に持ち込んでくれよな」
剣を腰だめに抱え、突進術の構えをとる。絶剣技、初の型、紫電閃。
突き詰めればタダの突進からの切り上げだが極めれば奥義へと昇華される。
「行くぜ、俺。よけろよ」
「……来い」
カイルが纏う風を切り裂く。そして再びガキンと金属音が鳴り響いた。
暗く静かな空間にドサッと何かが倒れ込む様な音が響いた。
「ッカハ…ハ、…ケホ…ッ」
「ナツ!」
次いで聞こえて来たのは苦しそうに咽返っているナツの咳。
吸収された魔力を回復させるべく、グレイがガジルから渡されたエクスボールを飲ませた。
ルーシィは無傷とは言えないが、ナツの生きている姿にホッと安堵の息を吐く。
やっと、捕らわれていた二人を救出出来たのだ。
「よし…次はウェンディだ!」
「、ハ…ハァ…」
「大丈夫、ナツ?」
「…っ、!」
倒れているナツを心配げに覗き込むルーシィだが、それに答える事無く、ナツは意識を取り戻すなり己の拳を地面に打ち付ける。
そして、その拳からは長らく見ていなかった紅蓮の炎が燃え上がった。
「っ…止め、ねェと…」
「止める…?」
冷や汗を流し苦しげな、しかし急く様な表情で拳に力を込めるナツを怪訝そうに見つめるルーシィ。
…と、次の瞬間にはナツはバッと起き上がり、咆哮と共に大量の炎を吐き出した。
「うぇ!?」
「なぁ!?」
「はぁ!?」
驚きに目を見開き、呆気に取られるルーシィたち。
そして、そんなルーシィたちに構わず、ナツはそのまま雄叫びを上げてどこかへと走り去ってしまった。
「ナツ!?」
「おい、てめェ!」
「ッ、ケホ…」
「「、!」」
ルーシィとグレイが制止の声を投げるが、既に小さくなったナツの耳には届かなかったようだ。
訳が分からないと、という顔をするルーシィと苛立った様子のグレイ。…と、その背後から小さな咳込む声が聞こえて来た。
振り返り見れば、そこにはやはり苦しそうに咳をするウェンディ。どうやらシャルルがエクスボールを飲ませた様だ。
「ウェンディ!」
「ウェンディ…!」
「大丈夫か!?」
「…、シャルル…みんな…」
皆の呼び掛けにウェンディはうっすらと目を開ける。
その顔には疲労が色濃く浮かび、受けた仕打ちの酷さを痛感する。
「ウェンディ、っ…しっかり…!」
「…大変、なの…ギルドの…みんなが…っ…」
「「「、…!?」」」
掠れた声で必死に仲間の危機を知らせようとするウェンディに皆は目を見開き、その続きの言葉を待った。
「っ…ハァ…ハ、…王国軍が…エクスタリアを破壊するために…巨大ラクリマを激突させるつもりなの…!」
「「「な、…!?」」」
「私たち妖精の尻尾の仲間を…ッ…爆弾代わりに使うつもりなんだ!!」