小説『フェアリーテイル ローレライの支配者』
作者:キッド三世()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>


第七十八話 機械のドラゴン








「っリリィィィーッ!!」
「黒猫ーッ!?」
「隊長…ッ!」


重力に従い、遙か下の森へと落下して行ったリリーに皆が息を呑む。
その中でいち早く我に返ったカイルがリリーを撃ち抜いた者へと鋭い睨みを向ける。



「…フン、裏切り者め。所詮は堕天…元エクシード。王に救われた恩を忘れ、刃を向けるとはな」

「っ向こうのエルザ…!」
「ナイトウォーカーだよ!」


短くなった緋色の髪を揺らし、レギオンの背で鎗を構えているのはナイトウォーカー。
その背後には何十ものレギオンの背に乗った王国軍の姿がある。


「だ、誰か…!リリーを助けて…ッ!」
「駄目じゃよシャゴット…!」

「、女王様!私に任せて下さい!」


目に涙を溜め、リリーが消えて行った場所へ手を伸ばすシャゴットを四長老が止める。
…と、一人のエクシードが名乗りを上げ、リリーを追い掛ける様に勢い良く降下して行った。

カイルはその姿を静かに見送り、刺す様な殺気を振り撒くナイトウォーカーに視線を戻す。


「スカーレットォォー!」

「ナイトウォーカー…!」


宣戦布告にも聞こえるナイトウォーカーの声に戦闘態勢に入ろうとするエルザ。…が、それをミストガンが「待て」と手で制した。


「エドラス王国王子である私に刃を向けるつもりか、エルザ・ナイトウォーカー!」

「く、…っ」


ジェラール―――…つまり、ミストガンは王子である。
ナイトウォーカーにとって王子は目上の存在であるため、刃を向ける事、それは反逆となるのだ。


このまま何とかなるか…と考えが過ったが次の瞬間機械越しの声に希望が打ち砕かれた。


[―――フハハハッ!王子だと?笑わせるでないわ!ワシは貴様を息子などと思ってはおらん!]

「!」
「王様の声だ…!」
「え、っどこにいるの…!?」


緊迫の空気を破る様にして突如聞こえて来た機械を通した様なファウストの声。
気のせいか、その声は地中から響いているように聞こえる。


[七年も行方を眩ませておいて、良くおめおめと戻って来れたものだ。…貴様がアースランドでアニマを塞ぎ回っていた事は知っておる。…売国奴め!お前は自分の国を売ったのだ!]

「御託はいい…かかって来いや王様。こっからスーパーおしおきタイムだぜ」

「そうだそうだー!」

「カイル…」


とても一国の王とは…父親とは思えぬその発言に怒りを露わにするカイル。
ミストガンがギュッと拳を握る。


「…貴方のアニマ計画は失敗したんだ。もう闘う意味などないだろう…!」

[意味…?闘う意味だと?]

「っ何だ…!?」

「…これは…魔力」


鼻で笑った様な声の後、突然妖しく光り出す地面。
それに連動するかの様に、その周辺からゴゴゴと地響きの様な音が鳴り響く。


…強大な魔力が大気を揺らしている…


[これは闘いではない。王に仇なす者への報復!一方的な殲滅!]

「っ何よあれ…!?」
「魔導兵器か…っ!?」

[…ワシの前に立ちはだかるつもりなら、たとえ貴様であろうと消してくれる!跡形もなくなぁ!]

「父上…、!」

[父ではない…!エドラスの王である!]


ファウストの高らかな笑い声と共に鳴り響く轟音。
皆の視線を一点に集め、ゆっくりと姿を現したのはドラゴンを模した様な巨大兵器。


[…そうだ、貴様を此処で始末すればアースランドでアニマを防げる者はいなくなる!また巨大なラクリマを造り上げ、エクシードを融合させる事など何度でも出来るではないかぁ!]

「あ、あれは…っ」

[王の力に不可能はない!王の力は絶対なのだぁァァァーっ!]


まるでファウストに共鳴するかの様に地を、大気を揺らす巨大な咆哮。
その姿形だけでなく、雄々しい咆哮までもがドラゴンにそっくりだ。


「ぉ、お…あの姿、あの魔力…」
「間違いない…っ」
「あれは…あれ、は…ッ!」

「ドロマ…アニム…っ…!」

「ドロマ・アニム、…こっちの言葉で竜騎士の意味…ドラゴンの強化装甲だと…!?」
「強化装甲…?」

「対魔戦用ラクリマ、ウィザード キャンセラーが外部からの魔法を全部無効化させちゃう…っ、搭乗型の甲冑…!王様があの中でドロマ・アニムを操縦してるんだよぅ…!」


「それはまた何とも厄介な…」


緊迫の空気が流れる中、ファウストが搭乗するドロマ・アニムはその口をガパッと開き、周りに控えている王国軍に大音量で命令を下す。


[我が兵たちよ!エクシードを捕えよ!]
「「「は、!!」」」

「っ、マズイ…!逃げろー!」

「逃がすなァーッ!」


焦ったミストガンの言葉を受け、一目散に逃げ出すエクシードたちだが、それをナイトウォーカー率いる兵たちが追い掛ける。
そして、各々手にした銃の様な武器…マジカライズキャノンを充填し、エクシードたちへと一気に放った。


「うわぁ!?」
「きゃぁー…ッ!」
「わぁぁァァー!」


星々が輝く広大な夜空を無数の青い光線が切り裂き、それに触れたエクシードを次々にラクリマへと変えて行く。
少し前までの歓喜の声は一瞬にして悲鳴の声へと移り変わってしまった。


「っ皆…逃げて…!」
「シャゴット…!ワシらも行こう…ッ!」

「その通りよ…!早く逃げて女王様!皆も早くしなさい…ッ!」

「アルテミス…っ!、…皆…生き延びるのよ…!」


逃げ惑うエクシードたちを先導するかの様に声を張るアルテミスだが、パニックに陥った皆の耳にそれは届かない。
弓を引き絞り、必死に抵抗するアルテミス。


次々にマジカライズキャノンを正確に撃ち抜き、破壊していくアルテミスにナイトウォーカーがレギオンの背で鎗を構え、狙いを定める。


「今のエクシードたちは無防備だ…!俺たちが守らないと…!」


「だけどアレには魔法が効かないんだろ!?」

「だから相手にするだけ無駄だよぅ…!」

「っ、躱しながら守るしかない…!」


苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべ、レギオンの背からドロマ・アニムを見下ろすミストガン。


[躱しながら?守る?…ク、ハハハ!―――人間は一人として逃がさん!全員この場で塵にしてくれる!]


ファウストがそう叫ぶと同時にドロマ・アニムの口に集束され始める魔力。
それはまるで銃口に集束したエネルギーを一気に放つ様な…


[消えろォォーッ!]

「っ!」


予想通り、集束された魔力が解き放たれようとしたその時、カイルがココのレギオンの背を蹴りミストガンが操るレギオンへと飛び移った。
その行動に一瞬驚いた様に目を見開くミストガンだが、すぐさま表情を引き締め、自身のレギオンをエルザたちが乗るレギオンの前へと割り込ませる。

そして、間髪入れずにドロマ・アニムから放たれた光線を魔法陣を展開し、二人で受け止めた。


「…、っカイル!ミストガン…!」

[ミストガン?それがアースランドでの貴様の名前かァ、ジェラール!]

「く…ッ…、エルザ…!今のうちに行け!」

「、しかし…!」

「良いから行くんだ…ッ!」
「っ、エクシードたちは任せる!」
「カイル…!」
「王子様…!」


カイルとミストガンの言葉に眉を寄せ、迷いを見せるエルザ。
その背後ではナツやココが同様に二人の事を見守っている。


「く、…三重魔法陣…鏡水!」

[何!?撥ね返した…!?]


ドロマ・アニムの攻撃を弾き返して来た二人にファウストは驚きの声を上げる。
次の瞬間、弾き返された光線はドロマ・アニムに直撃し、その体を爆炎の渦へと包み込んだ。


「やったか…!?」
「凄い…!これがミストガンの力…!」

「……………いや……………」


感嘆の声を上げるルーシィ。しかし、カイルは眉を寄せ爆炎の渦を睨み付けたままだ。
…とその渦の中から再びドロマ・アニムが姿を現した。…その体には掠り傷の一つも付いていない。


[ク、ハッハッハ!チクチクするわ!]

「傷一つねェぞ…!?」
「そんな…!」
「あれが…!」

[…そう、これがウィザードキャンセラーの力!魔導士如きがどう足掻こうとドロマ・アニムには如何なる魔法も効かん!]


対魔戦用魔水晶の力の前に驚愕の表情を浮かべる皆。そこへファウストが再度魔力を集束し、先程と同じ光線を勢いよく撃ち放った。
光線の先にはカイルとミストガンが乗るレギオン。


「く、!」

「ミストガンッ!」


迫り来る光線に苦渋の表情を浮かべたミストガンはカイルを勢いよく突き飛ばし、光線の進路から無理やり外れさせる。
抗議の声を上げる間も無く揺らぐ視界の端に映ったのは光線の直撃を喰らい、苦しげな悲鳴を上げるミストガン。


重力に従い、落下しながらも必死にその手を掴もうと手を伸ばすカイルだが、レギオンの背からずり落ちたミストガンは伸ばされた手を掠って遙か下の森へと落下して行った。



[ワァハハハハッ!貴様には地を這う姿が似合っておる!そのまま地上で死ぬが良いわ!]

「クソ野郎が…!それがテメーのガキに言う台詞かよ!?」


奇跡的に光線から逃れたミストガンのレギオンに背で受け止められながら、眼下で笑い声を上げるファウストにギュッと拳を握り毒を吐く。
…未だ逃げ惑うエクシードたちの悲鳴は鳴りやまない。


「く、!アイスメイク…うおァっ!?」
「きゃぁ!?」

「こりゃキツイな…!」
「ナツじゃなくても酔いそー…」


エクシードたちを守ろうとグレイたちも魔力を高めるが、常に兵たちの攻撃を避けるように飛行するレギオンの背ではあまりにも足場が不安定だ。
更にフワッとした感覚が内臓を刺激し、徐々に気分が悪くなっていく。…妙だな。俺は乗り物の類には強いはずなんだが…



[おぉ…美しいぞ…―――エクシードを一人残らずラクリマにするのだァァー!]


キラキラと降り頻るラクリマを浴びながら辺り構わず光線を撃ち放つファウスト。
カイルもそうだが、ナツたちはそれを避けるのに精一杯だ。


「…天を黒く染め、滅亡を従えし者…その者の名、竜騎士 ドロマ・アニム…!」
「あれは遥か昔…エクスタリアだけでなく、エドラス全土を滅ぼしかけた…」
「あまりに危険故、人間は自らあれを禁式とし、封印したはず…!」


言い伝えによれば、ドロマ・アニムが天を黒く染めた時、この世界の魔力の大半が失われたとか。
ただでさえ魔力が枯渇していると言うのに何故今それを…!


[ハッハハハハー!]


ドロマ・アニムから再度放たれた光線は真っ直ぐにナツやエルザたちが乗るレギオンへと空を突き進む。


「っ!!千の顔を持つ英雄!!」


光線の前にカイルが躍り出る。手を突き出し、美しい鞘を創造した。


「アヴァロン!!」


鞘が光線を遮断する。この防具に防げない物はない。


「おぉ!」と上がる感嘆の声。



「ハーデスーッ!!」

「っ!ヤバ…」


生じた隙と死角を突き、殺気を溢れさせたナイトウォーカーがレギオンを操り、そして一瞬でカイルの懐まで飛び込んで来た。
避けようにもアヴァロンを創造した後はかなりの魔力を消費する。これはよけれない。


「ハァ!」

「がっ…!!」

「ッ…カイル!」
「そんな…!」


左肩から右脇腹へと薙がれるナイトウォーカーの鎗。その鋭利な切っ先が容赦なくカイルの体を斬り裂いた。
悲鳴に近い声で己の名を呼ぶエルザ、目を見開き息を呑むアルテミス…ファウストの勝ち誇った笑い声が鼓膜を揺らす。
…そして、


「偽物め…!カイルディア様に牙を剥いた事を後悔しながら死んで行けェ!」

「うるせー…唐突にイメチェンしやがって…何その髪、失恋でもしたの?」


目の前で起きた衝撃的な事にエルザは引き攣った悲鳴を上げ、レギオンから身を乗り出して手を伸ばすが、触れる寸前の所でカイルの体がバチバチと鳴り響いた。


「何…!?」
「カイル…!?」
「体が…消えて行く…!」

「くそ…予想外だった……悪い、エルザ。あとは任せた…」


申し訳なさそうに浮かべられた笑みを最後に、溶ける様にして空へと霧散して行くカイルの体。


ーーーーこれは…雷で編んだデコイ!?














「……………あっ!?」

『どうした?』

「いや、ヤられた……あっちの俺が殺された。デコイってばれちゃったな」


デコイの魔力がカイルに戻り、ヤられた事に気づく。二人は今、戦場と化した城外とは別の場所にいた。


『…お前たちが王の囮になってくれたお陰で易々と此処へ侵入出来た。…礼を言う』

「礼を言うのは早いと思うが…で?マジでやんのか?」

『愚問だな。…あの日からずっと決めていた事だ』


決意を表すかの様にグッと拳を握り、それを見つめるエドカイル。
そのまま真っ直ぐ道なりに進んで行くと、目の前に現れる、像に崇められるように浮かんでいる光り輝く球体。


「…此処が、アニマを造る部屋、…」

『あぁ。王と、その王に信用された者だけが入れる特別な部屋だ。…しかし、アニマを造り出すには魔力を要する』

「任せろって」


そう言ってカイルは光輝く球体に手を翳し、己の魔力を集束し分け与えていく。
別に大気中から魔力を集束しても良いのだが、それだと魔力の増減に敏感なドロマ・アニムに異変を悟られ兼ねない。

…そうならないためにも俺が此処にいる。


球体はカイルの魔力を吸収し、粛々とアニマ発動の準備を進めて行く。


『まだかかるか?』

「時期に終わる」

『…そうか。……あと数分でこの世界は終わる。――――世界の平和の為、エドラスの全ての魔力を排除させてもらう』













一方、カイルが突然に消えた事により混乱に陥ったルーシィたち。
ナイトウォーカーは納得のいかなそうな顔をしながらも、エクシードたちのラクリマ変換を優先し、多くの兵たちを引き連れて再び空を駆って行った。


「…っ、ナイトウォーカーが…!っていうか、一体どういう事なの!?何で…カイル…!?」
「知るかよ!それより、あれを躱しながらは闘えないぞ!?」
「どうしよう…!ねぇエルザ!?」

「…カイルに何か考えがあるのだろう。私たちだけでやるしかない!」


どういった目的でデコイを発動させていたのか、本体のカイルは一体どこにいるのか…
気になるところは多々あるが、自分はカイルに「任せる」と頼まれた。
よって今はエクシードたち守る事が最優先だろう。
…しかし、グレイの言う通り、どうやってドロマ・アニムを躱せばいいのだろうか…


[ハハハハッ!貴様らも消してやるわ!――――、っぬぉ!?]


突如ドロマ・アニムの頭付近から上がる爆炎。次いで太い首からも爆炎が上がった。
一瞬だけバランスを崩し、ぐらりと大きく揺らぐドロマ・アニム。


[っ、誰だ!?魔法が効かんはずのドロマ・アニムに攻撃を加えているのは…!?]

「…天竜の咆哮!」

[ぬぅぅ!?貴様らは…!]


背後を取ったウェンディから放たれた天竜のブレス。それは竜巻の様に空気の渦を巻き、かなりの重さがあるドロマ・アニムを数メートル後ろに下がらせた。
驚きに目を見開きながら、ファウストが視線を凝らした時、そこには三人…ナツ、ガジル、そしてウェンディの影があった。


「やるじゃねェか、ウェンディ!」
「いいえ!二人の攻撃の方がダメージとしては有効です!」
「野郎…よくも俺の猫を…!」

[、そうか…!貴様らか…ッ!]


体勢を低くし、獲物を狙う竜が如く、ナツたちを睨むドロマ・アニム。


「ナツー!」
「ウェンディ…!」
「ガジル…!」

「…行け、猫たちを守るんだ」

「…そっちは任せる」


心配げに名を呼ぶルーシィたちだがナツは此方には顔を向けず、ドロマ・アニムを睨み付けたまま静かにそう告げる。
その言葉にエルザは浅く頷き、ナイトウォーカーを追撃するため、レギオンの飛行速度をココに上げさせる。


「でも…!あんなの相手に三人で大丈夫なの…!?」
「っていうか、貴方たち正気?あれには魔法が効かないのよ?」

「なーに、問題ねェさ。…相手はドラゴン、倒せるのはアイツらだけだ。…ドラゴン狩りの魔導士、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)…!」














古びた闘技場の様な場所から天へと立ち上る眩い光。
あそこでは今、ナツにガジル、ウェンディがファウストが搭乗するドロマ・アニムと闘っている。


「…すまない、ナツ」


その闘技場を遠くに眺め、申し訳なさそうに謝るミストガン。その後ろでは、怪我をしたリリーとそれを支えるエクシードの少女がいた。


「王子、…何の真似ですか。貴方はさっき、わざとやられた…!」


リリーの言葉にミストガンは口元に笑みを浮かべ、ゆっくりと後ろを振り返る。


「…俺を、助けるために…!?」

「怪我は大丈夫か?」

「、これくらい何でもない…、っ!」
「ダメだよ…!立ってるのもやっとなのに…!」


気丈に振舞っていても、受けた傷は大きく深い。
痛みに顔を歪めるリリーに眉を寄せながら、ミストガンは再び闘技場へと目を向ける。


「ドロマ・アニムはナツたちに任せるしかない。…私たちにはやる事がある」

「やる、事…?」

「…最後の仕事だ。それには君の力が必要になる」

「、…」






*





キラキラと光を放ちながら地上へ落下して行くたくさんのラクリマ。
空に響き渡るエクシードたちの悲鳴はそのラクリマ以上に多い。


「大変だ…!」
「此処まで悲鳴が…!」
「何て事を…」

「追い付いた…!王国軍だ!」


その光景を少し離れたところで息を呑み、苦渋の表情で見守るエルザたち。
しかし、遂に王国軍に追い付いたは良いがあまりにも数が多すぎる。


「くそ…何て数だ…!」

「どうする…!?」

「行くしかなかろう…!私たちがやらねば、エクシードたちがやられる…!」

「オイラも闘うよ!」
「えぇ!私たちの故郷を守るのよ…!」
「微力ながら、私も協力するわ!」


表情を引き締め、多勢に無勢だが、王国軍と闘う覚悟を決める皆。
…とその時、目の前に一匹のレギオンが飛び込んで来た。そのレギオンの背の上、ゆらりと風に揺らぐは短い緋色の髪。


「――――待っていたぞ、スカーレット」

「っ、待っていただと…!?」


ニィと不敵な笑みを浮かべ、そう静かに言い放つナイトウォーカーにエルザが眉を寄せる。
…だが、その言葉の意味はすぐにわかる事となる。


「罠だ…ッ!」
「伏兵…!?」

「っレギピョン避けて…ッ!」


急上昇をし、ナイトウォーカーの背後に突然に姿を現すたくさんのレギオン。
そして、地上から撃ち放たれる何百もの魔導弾がエルザたちの乗るレギオンに襲い掛かる。
エルザたちが此処を通過するのを待っていたのだ…!


「「っ、うわぁ!?」」
「レギピョーン…ッ!」

「っハッピー!」
「あいさー!」
「私も手伝うわ!」


あまりの数故、機動性の高いココのレギオンでも魔導弾を避け切れず着弾。忽ち地上へと落下して行くルーシィたち。
それをハッピーにシャルル、アルテミスが翼(エーラ)を発動し、何とか空中で受け止める。


「く、…持ち上げるのは無理ね…!」

「すまねェシャルル!…に、アルテミスって言ったか?」
「名前なんてどうでも良いわ…!それより空中にいるのはマズイわ!一旦地上に降りて体勢を立て直しましょう…!」

「うわーんレギピョーン!」
「っココ!暴れないで…!」

「う、お…重た…重たい…!」
「あたし一人なんですけどー!?」


空を飛べるエクシードが三人いるとはいえ、このまま空中に止まり続けるのは危険と判断し、先陣を切ってココとグレイを抱えたアルテミスとシャルルが地上へと降りる。
その後に続くのは、何故か抱えているのがルーシィ一人だと言うのに死に物狂いで羽ばたいているハッピー。


「王に刃を向けた者は生かしておかん。確実に仕留めるんだ。―――地上に降りるぞ!」
「「は、っ!」」
「、ぐわァ!?」

「っ、!?」


ルーシィたちを追う様にレギオンを降下させて行くナイトウォーカーたち。
…と、兵の一人が突然悲鳴を上げた。
目を丸くしたナイトウォーカーが悲鳴のした方に視線を向けると、そこには鎖分銅をレギオンの首に巻き付けぶら下がり、乗っていた兵を地上へと突き落すエルザの姿があった。


「っスカーレット…ッ!」

「そろそろ決着を付けようか、ナイトウォーカー!」


主を失ったレギオンの背を蹴り、ナイトウォーカー目掛け剣を振り落とすエルザ。
ガンッと金属同士がぶつかる音が夜空に響き渡る。


「ぐ、うッ!」
「はぁッ!」


ギチギチと火花を散らす剣と鎗を無理やりに振り解き、レギオンの背から飛び降りるエルザをナイトウォーカーが追い掛ける。
飛び降りた先には、古び崩れ落ちた建物が並ぶ浮遊島。


「全員地上へ降りろ!コイツは私一人でやる!」
「「「は、っ!!」」」


勢いを殺し、器用に浮遊島に着地しながら兵たちに命令を下すナイトウォーカー。
その視線の先には同じ様に建物の残骸に上手く着地をしたエルザの姿。


「…フン、朽ちた猫共の古い都か。お前の墓には丁度良いな」

「その言葉、そのまま返そう。…お前はエルザでありながら、妖精の尻尾を傷付け、カイルをも斬り裂いた」

「お前もエルザでありながら、我が王に…そしてカイル様に牙を剥いた」


言葉を交わしながらエルザは鎧を、ナイトウォーカーは手に持った鎗の形状を変化させて行く。
原理は違えど、性質と効果が同じ魔法…


「…エルザは、」

「二人もいらない!」


ほぼ同じタイミングで地を蹴り、剣と鎗を交差させる二人のエルザ。
その凄まじい魔力と剣気に白石で出来た床が剥がれ飛んで行く。


「「この勝負、どちらかが消えるまでだ!!」」


-84-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える