小説『フェアリーテイル ローレライの支配者』
作者:キッド三世()

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第七十九話 デカイヤツ相手と戦うと手加減って何?手加減ってどんな字だっけ?てなる






大気の僅かな揺れを感じ、眉を寄せるカイル。
…何だ?魔力が一カ所に集まって行く…

何かに引き寄せられるかの様に集束して行く魔力の行先はナツたちを残して来た闘技場の様な場所。
アニマに魔力を供給しつつ、何が起ころうとしているのかをカイルが探っていると、同じ様に異変を感じ取ったエドカイルが眉を寄せながらその口をゆっくりと開いた。


『…ドロマ・アニムには“黒天”と呼ばれる最終形態が存在している』

「最終形態って何?オデコ強調したこざっぱりしたヤツになるアレ?俺は後二回の変身を残してる的な?」

『そ、それはよくわからんが…ゴホンっ…天を黒く染め、滅亡を従えし者…という話を聞いただろう?…あれはドロマ・アニム 黒天の事を表しているんだ。…しかし、黒天はエドラス中の魔力を無尽蔵に吸収しエネルギーに変えてしまうため、禁式とされている筈…』

「なるほど……戦闘力は百万といったところか…」

『……………さっきから何を言っている…』


カイルがハァと溜息を吐くと、申し訳なさそうに目を伏せるエドカイル。
…と、突然球体が今まで以上の光を放った。加え、魔力の供給も停止した……どうやらアニマ展開の準備が整ったようだ。


『…これでいつでもアニマを展開する事が出来るだろう。あとは“英雄”を待つだけ、…だが、それはお前の性分には合わないだろう?』

「あ、わかる?フェアリーテイルは基本的に嫌われもんだからな」

















「―――天輪・三位の剣(トリニティソード)!」

「重力の鎗(グラビティ・コア)!」


交差された二本の剣から繰り出される鋭い斬撃と、黒を纏った鎗から繰り出される重力の掛かった一撃がぶつかり合い、周りの建物を次々に破壊して行く。
二人のエルザの闘いは激しさを増す一方だ。


「氷炎の鎗(ブルー=クリムソン)!」

「く、…っ!」


一本の鎗からもう一本、しかもそれぞれ氷と炎を纏った鎗を取り出すナイトウォーカー。
交互に薙がれたそれは氷の斬撃と炎の斬撃を飛ばし、エルザ目掛けて襲い掛かる。…しかし、その攻撃を簡単に喰らうエルザではない。


「換装!―――明星・光粒子の剣(フォトンスライサー)!」


氷と炎の斬撃を天輪の鎧の機動力を生かして避け、そのまま次の鎧を換装するエルザ。
そして、換装によって取り出された光纏う二本の剣の切っ先をぶつけ合う様に交差する。すると、弾ける様に拡大した眩い光がナイトウォーカーの体を呑み込んだ。
…だが、


「―――封印の鎗(ルーン・セイブ)!」

「っ魔法を斬り裂いた…!?」


自身の体を包み込む光を間髪入れずに鎗で斬り裂き、驚きに目を見開くエルザをフン、と嘲笑うナイトウォーカー。…と、次の瞬間にはグンとその体が加速した。


「音速の鎗(シルファリオン)!」

「ぐぁッ!」


勢いよく放たれた風を纏った素早い突き。
その隙のない連係攻撃にさすがのエルザでも受け止める以外の反応が出来ず、石の壁を何枚も突き破って吹き飛ばされてしまう。


「もらったァ!」


目にも止まらぬ速さのままナイトウォーカーは吹っ飛んだエルザを追い掛け、その頭上へと跳躍して鎗を刺す様にして振り下ろす。…エルザの両足が光を纏った。
ガキンッと響く金属同士がぶつかり合う音と「何…!?」と驚いた様なナイトウォーカーの声。

放たれた鎗の一撃は、換装した二本の剣を器用にも足扱い、突き刺さる寸前の所でエルザが受け止めたのだ。


「っスカーレットォ…!」

「ナイトウォーカーッ!」


軽業師の様な動きでナイトウォーカーを引き離し、剣を手に持ち変えながら体勢を整えるエルザ。
そして間を置かずに再び激突する剣と鎗。

周りの建物はほとんど崩壊し、白石の床も巨大な穴が所々に開いている。


「く…ハ、ハァ…ッ此処まで互角とはな…!」

「互角…?違うな…!貴様はまだテン・コマンドメンツの最終形態を知らん!」


乱れた息に肩を揺らし、それでもなお戦闘を続ける二人。
…ナイトウォーカーの鎗が光を纏い、形状を変えて行く、…


「聖鎗 レイヴェルト!エドラス最高の鍛冶屋が鍛えた聖なる鎗!この一撃は天下を轟かす究極の破滅!」


光の中、姿を現したのは美しい装飾の施された聖鎗。
それを見たエルザは鎗を向けてくるナイトウォーカーに応える様に光を全身に纏う。


「換装 妖精の鎧(アルマデュラ・フェアリー)!この鎧がギルドの名を冠する由来は言うまでも無かろう!」


エルザが新たに換装したのは薄い桃色をした見事な鎧。
この妖精の鎧は彼女が呼び出す中でも最強のものだ。


「最強の魔法というわけか…面白い!」

「来い!」


ほぼ同時に地を蹴る二人。


「はあぁァアぁァァァ!!」

「でやアあァぁァァァ!!」


究極の一撃同士が激しくぶつかり合い、その影響で周りの建物、床、その他ありとあらゆるものが弾け飛び、爆炎に包まれ燃え尽きる。

――――…バキンッと何かが砕ける音が響いた。



















「ダメだ…数が違いすぎる…っ」


爆風で弾き飛ばされ、勢いよく木に激突するココ。振り回されたレギオンの強靭な爪牙に倒れるグレイとロキ。魔導弾の直撃を喰らい、吹き飛び地に体を打ち付けるルーシィとアルテミス…
そして動けない皆に一斉に向けられる鋭利な槍の切っ先…

目の前で次々に倒れて行く仲間たちを見、ハッピーはシャルルを抱く手に力を込めながら瞳を震わせる。


「このままじゃ…皆死んじゃうよ…!誰か、助けて…っ!」


――――ハッピーがそう叫んだその時、土を掻き分け、紫を帯びた芽がメリメリと顔を出した。
そして次の瞬間、その芽は急激にぐんぐんと成長をし、伸びた蔓を自在に操りレギオンたちを絡め取って行く。

突然の出来事にただ呆気に取られている皆の目の前、小さかった芽はあっという間に大樹へと成長した。
…その大樹に掲げられる様に張られているのは妖精の紋章。

ルーシィの目から涙が溢れた。


「――――うおオォォォ!!」

「行くぞォォーっ!」
「おう!仲間との絆の力、見せてやるー!」
「「「おおぉーっ!!」」」

「エドラスの…妖精の尻尾…!」


大樹の正体はエドラスの妖精の尻尾のギルドそのもの。
エドルーシィの声に立ち上がったエドラスの皆が最後の転移魔法でギルドごと駆けつけてくれたのだ。


「すまねェ、遅くなったなアースルーシィ!」

「エドルーシィ…!」


金髪の髪を揺らし、グッと親指を立てるエドルーシィを筆頭に、残り僅かな魔力の宿った武器を持って次々に王国軍へと向かって行く妖精の尻尾の仲間たち。…その顔に一切の恐れなし。


「ナツ!頑張ろう!」

「うん!アースランドの妖精の尻尾が闘ってるんだ!僕たちだって闘うんだ!」

「「「行っけェェェー!!」」」


「立てるか?アースルーシィ?」
「うん…ありがと…!」


駆け寄ったエドルーシィは傷だらけのルーシィに手を貸し、その体をしっかりと支える。
その後ろでは、…


「「…俺?…っていうか服!」」


「脱げよ!」
「着ろよ!」


「グレイが二人とかありえない…っ、ジュビア…ピンチ…!」

「うおぉ!?何て羨ましい…!」
「はぁ?」
「お前は俺なのに何も感じないのかよ…!愛しのジュビアちゃんのあの姿を見て…!」
「愛しのジュビアちゃんだァァ!?」

「ジュビアちゃーん!愛してるゥゥゥー!」
「だああああうるさいッ!」


胸が当たるのも関係なしに兵隊を両脇に抱え、その首を絞め付けているジュビアを見てエドグレイが興奮に叫びを上げる。
しかし、そんなエドグレイをエドジュビアは鬱陶しそうに一喝する。


「私たちも負けてられないわね、アルアル!」
「うん、行こうビスビス!―――これが僕たちの…」
「愛の力よ!」

「「イーハー!!」」


「俺たち最強!」
「シャドウギアー!」
「アンタたち!ルーシィより手柄取るよー!」
「「おう!!」」

ーーーーアースランドではあり得ない光景ね…


「…見てシャルル、妖精の尻尾が助けに来てくれたよ…」

「……」


涙で滲む目を手で擦りながらそう告げるハッピーの声に薄らと瞼を開けるシャルル。


「オイラたちの思いが…この世界を動かしてるんだ」


たとえ別の世界に行ったとしても、あらゆるものが反対なのだとしても、妖精の尻尾である事は変わらない。
このギルドに入れて良かった…シャルルは涙を流し、心の底からそう思った。


「…どこに行っても…騒がしいギルドなんだから…ッ」














「ぐ、…」
「っ…」
「…ぅぅ…」


崩れ落ちた瓦礫の上に倒れ込み、痛みに顔を歪ませているのはナツにガジル、そしてウェンディ。
その三人の目の前にはドラゴンの姿から一変し、まるで人の様な姿へと形を変えたドロマ・アニムがいた。加え、あらゆる魔法を弾く強化装甲は黒に染まり、エドラスの魔力を吸収し続けている。…これが竜騎士 ドロマ・アニム 黒天の姿だ。


[――――アースランドの魔導士、尽きる事のない永遠の魔力を体に宿し者たち…その中でもこやつ等の、ドラゴンの魔導士の出鱈目な魔力!よこせ、その魔力を!世界はこやつ等を欲しておる!]

「くそ…ッ」

[フンハハハハッ!地に堕ちよ、ドラゴン!絶対的な魔導兵器 ドロマ・アニムがある限り、我が軍は不滅なり!]

「ぐぅ、…!」
「…!」
「…ッ…」


ファウストの高らかな声に歯を食い縛り、地面に手を付いて重い体を何とか起こそうと踏ん張る三人。
だが、ダメージを受け過ぎた体はそう簡単に言う事を聞いてはくれない。


[もっと魔力を集めよ、空よ、大地よ!ドロマ・アニムに魔力を集めよォ!]


大気を、大地を震わせるドロマ・アニムの咆哮に呼応し、エドラス中から魔力が集束し始める。
そして、空や大地から引き寄せられる様にして溢れた魔力はドロマ・アニムが手にする、ロングスピアの周りに渦を巻き出した。


[おぉ…感じるぞ…!この世界の魔力が尽き様としているのを!だからこそ、こやつ等を我が手に!]


「っ…火竜(サラマンダー)…ブレスだ…!」

「ぐっ…?」

「ガキ!お前もだ…!」

「っ…三人同時に?」


ガジルの提案に驚きと戸惑いの声を上げるナツとウェンディ。…だがそれもその筈だ。
滅竜魔導士の三人同時のブレス攻撃。それは恐らく前代未聞のものだろう。


「何が起こるかわからねェから控えておきたかったが…やるしかねェ!」

「わかりました…!」

「うぉしっ!」


三人は力を振り絞って立ち上がり、それぞれ己の内で溢れる魔力を口に溜める。
途端にガクガクと大きく揺れる魔力を計るドロマ・アニムのメーターの針を見、ファウストは歓喜の声を上げる。


「火竜の…」
「鉄竜の…」
「天竜の…」

[おぉ…!?まだ魔力が上昇するか…!]

「「「咆哮ーっ!!」」」

[ッぬぉ…っ!?]


ほぼ同時のタイミングで放たれた三人のブレスは渦を巻きながら混ざり合い、ドロマ・アニムへと一直線に突き進む。
そして次の瞬間、辺り一帯は轟々と燃える爆炎に包まれ、数キロ先までその爆発音を轟かせた。

竜を滅するための圧倒的な攻撃魔法、ブレスを、しかも三人分も喰らえばいくら強化装甲と言えどこれは一溜りない。


「やったか?」


モクモクと天へと立ち昇る黒煙の源を睨むように見つめ、此処でやっとフッと笑みを浮かべるナツたちだったが…


[――――フハハハハハッ!く、ふふははハハハハハ!]


突如頭上から聞こえて来た大きな笑い声に空を仰げば、遥か遠くにある黒い点を三人の目が捉えた。
それは大気圏さえも超える跳躍力でブレスを軽々と避けたドロマ・アニム。そのあまりの機動力に三人は目を見開いた。


「っあんなに跳躍力があったのか…ッ!?」

「そんな…!三人同時の咆哮が当たらない…っ!?」

「っ、もう一度だ!」

[させんよ!…竜騎拡散砲!]


三人にブレスを撃たせまいと、ファウストはそのままの高さから魔力を帯びた拡散弾を無数に発射する。
忽ち雨の様に三人に降り注ぐ拡散弾。

転がるようにして弾を避けても、近くに着弾して上がった瓦礫混じりの爆風が三人の肌を傷付ける。


「ぐああぁァァ−…ッ」
「きゃッ…アァ…」
「っうぐ…」

[ハハハハッ!世界の為、このエドラスの為、ワシと貴様等の違いはそこよォ!世界の事など知らぬと貴様等は言ったな?…この世界に必要なのはギルドなどではない。永遠の魔力だ!民が必要としているのだ、貴様等とワシでは背負うものの大きさが違い過ぎるわ!]


ガンッと地面を凹ませる勢いでナツたちの前にドロマ・アニムを着地させ、何度目かわからぬ身勝手な演説を再び始めるファウスト。
それを遠くに聞きながら、必死に体を起こそうとするナツたちだが…


「っ…ぅ…」
「カハ…ッ、ハ…」
「…マズイ…もう魔力が…」

[尽きた様だなァ?いくら無限の魔導士といえど、一度尽いた魔力は暫くは回復せんだろう?ククク…」


ナツたちを完全に戦闘不能にさせるため、ドロマ・アニムが魔力渦巻くロングスピアを真っ直ぐ此方に向けて来る。
今この状態であれを喰らえば一溜りもないだろう…


[大人しく我が世界の魔力となれェー!]

「くそォォ…ッ!」


ナツの悔しげな咆哮虚しく、容赦なく三人に放たれる魔力を帯びた強力な一撃。

―――――…そのあまりにも強大な力故、世界から一瞬音が消えた。


[…フハハハハハハーッ!]


世界に再び音を取り戻したのはファウストの笑い声と共に上がった、ゴオォンッとエドラス全土をも揺らす大爆発音。
辺り一体の地面は吹き飛び、大きなクレーターがぽっかりと穴を開けている。

ファウストは歓喜に震える体を押さえ込み、完全なる戦闘不能となったであろう、爆煙の中の三人を回収すべく、魔力のメーターに目を向ける。
…そして、驚きに大きく目を見開いた。――――…何故なら、メーターの針が限界地点を裕に振り切っていたからだ。


[…ぬぅ?…おかしい。あ奴等の魔力は先程尽きた筈…]


このメーターの数値が表しているのは先程放った一撃やナツたち三人の魔力などではない。
ならば、一体…?


[っ、ドラゴンの魔導士の姿がない…!?]


それに加え、爆煙が晴れ、視界がクリアになったというのに、どういう事かはわからないが三人の姿がどこにもない。…避けた様には見えなかった。そもそもあの体で避けられる筈がないのだ…!


「どういう事、だ…?何故…」

「さあ、真打登場だぜ…」

[っ、ぬぅ…!?]


ドロマ・アニムの左前方から突如聞こえて来た一つの声。
驚きながらも顔をそちらへと向ければ、丁度着地をした様に体勢を低くしている二人の男が目に入った。
バサバサと揺れるマントは互いの色を引き立たせる黒と白…


「よう、フリーザ様気どり」

『もうお止めください、…“父上”』

[貴様等は…カイル…ッ!?]


操縦席から身を乗り出し、驚きの声を上げるファウストの視線の先にいたのは二人のカイル。
…そして、


「…カイル…!」

「黒の騎士王…お前…!」

「全く修業が足りんぞ?貴様ら」

「カイルさん…!と…えぇ…っと…」

『安心してくれ。私は味方だ…君たちを守りに来たんだ』


その二人の腕の中にはそれぞれナツとガジル、ウェンディがしっかりと抱えられている。
どうやら、先程のドロマ・アニムの一撃を喰らう寸前のところ、目にも止まらぬ速さで駆け付けた二人がナツたちを抱え、そのまま大きく跳躍して攻撃を避けた様だ。


「っ…カイルお前…!今までどこに行ってたんだよ…!」

「馬鹿野郎、カイルさんすっげえ大変だったんだぞ?話せば長くなるから言わないけど」


突然のカイルの登場に文句を言いつつ、しかしどこか嬉しそうな顔をするナツに苦笑し、カイルは抱えていた二人をゆっくりと地に降ろす。

その隣ではエドカイルが同じようにウェンディを優しく地に座らせ、ファウストが搭乗するドロマ・アニムに向き直っていた。


[ぐぬぬ…貴様まで裏切るか、カイルよ…!]

『…魔力は、人の命を踏みにじってまで手に入れるものではないんですよ、父上』

[それを貴様が言うか…!誰よりも魔力を欲している筈の貴様が!]

『…私は、一度も魔力が欲しいなどと言った事はない』


ファウストの言葉に眉を寄せながら強い言葉でそう告げるエドカイル。
すると、ハッとした様にファウストが目を見開いた。次の瞬間、彼の顔に浮かぶ激しい怒り。…操縦桿を握る手にグッと力がこもる。


[そうか…やはり貴様だったのか…!]

『…』

[ワシが考え出したアニマ計画…それは何者かによって何年も邪魔されていた。そのうちの一人がジェラールだ!奴はアースランドで展開されたアニマを塞ぎ周り、ワシの計画を邪魔していたのだ…!…だが!ワシの計画を邪魔する者がもう一人いた!その者は造り出されたアニマがアースランドで展開される前に…エドラス内でどうやってか塞いでいた……確信はなかったが、本当に貴様だったとはなァ…カイル!]

『…えぇ、そうですよ。私がアニマを封じていた』

[しかしどうやって…!?アニマは造るにしろ、塞ぐにしろ、どちらも魔力を必要とする。だがそんな魔力どこにも……っ、まさか貴様…!?]


再度ハッとした様に目を見開き、瞳を震わせるファウスト。
エドカイルがスッと目を細める。


[己の命を繋ぐ魔力を使って…アニマを塞いでいただと!?]

『…』

[何て馬鹿な事を…!貴様死にたいのか…!?]


信じられない、と唾を飛ばして叫ぶファウストだがそれもその筈だ。

――――エドラスのカイルは生まれながらの病によって命を蝕まれていた。
それは内臓の幾つかが上手く機能しないというもので、魔力が結晶化して出来ている魔水晶…つまり、ラクリマを体に埋め込む事によってその機能を補っていた。
…そんな体だと言うのに、彼はそのラクリマの魔力を使い、エドラス内でアニマを塞いでいたのだ。その行為は命を削っているのと同じ。
身を案じたファウストや専属医の者たちがどんなに魔力をカイルに与えても、今日まで症状が良くならなかったのはそれが原因だ。

エドラスから魔力がなくなれば自分の命も危ない。
それを承知の上で、争い無き世界の為、彼は今、今日この日までずっと一人で闘っていたのだ。…たとえ、親を、友を…愛する者を騙そうとも。


『…私だって生きていたい。…しかし、誰かの命を踏みにじってまで生きたくはない!魔力があるからこの世界は争いが絶えないのだ!ならば、そんなものはいらない!』

[貴様一人の我儘で世界を滅ぼす気か!?]

『人と人とが向き合えない、愛憎渦巻く世界ならば滅んだ方がマシだ!』

[ぬぅ…!]


感情を剥き出しにして意見してくるエドカイルにファウストが息を呑む。
こんなカイルの姿は見た事がない。今まで忠実に言う事を聞いていたからなおさらだ。…それ故に、激しい怒りが込み上げて来た。


[っ…ワシ等がどれ程貴様を案じて来たか知らぬわけではあるまい!?それを仇で返すか…!]

『…感謝しています。し尽せぬ程に…だが、今の貴方の行為を見逃す理由にはならない!』

[ぐぅ…弟が弟なら兄も兄という事か…!良くわかったわァ…!]


ジャキッとロングスピアを突き刺すかの様に空へ翳すドロマ・アニム。…どうやらエドカイルをも敵と見なした様だ。
それに応える様に、エドカイルもザ・ワールドの形状を変化させる。

緊迫に張り詰められた空気。

…しかし、その空気を無理やりに破り、まるで庇う様にスッと二人の間にカイルが体を割り込ませた。


『カイル…?』

「…お前はそこでナツたちと一緒に見てな。こんな所で残り少ない魔力を使う必要はない」

『だが…』

「会いに行くんだろうが。愛した女に」

『……あぁ』


窘める様なカイルの言葉を受け、苦渋の表情を浮かべながらザ・ワールドの発動を解くエドカイル。
途端に片膝を付いて苦痛に顔を歪め、胸を押さえてゴホゴホッと咳込みだした。…無理をし、気丈に振舞っていたのだ。


「っ、お…おい大丈夫かよ…!?」

『っハ…ッ…大丈、夫だ…』

「ごめんなさい…ッ私…今は治癒魔法が…」

『気にしないで、くれ…それより、君たちは魔力を回復…する、んだ…』

「魔力を…回復…?」

「お前らにはまだ仕事があってな。それを遂行すんのには魔力がいるんだよ。キッチリ回復しとけ」


それだけ告げると、カイルは何か言いたげな顔のナツたちから視線を外し、そして鋭い睨みをドロマ・アニムに向けながら腰をスッと落とす。そして、背後から発せられた、「すまない」という聞こえるか聞こえないかくらい小さな謝罪を背に、カイルは目にも止まらぬ速さでダンッと地を蹴った。


「よくみとけ、ヒヨッコ共。滅竜魔法のお手本見せてやるからよ。オーフィス、行くぜ」

【御意のままに、我が奏者】


一瞬のうちにドロマ・アニムの頭上に現れ、僅かに背を反らすと共に息を溜める様に口を膨らませた。


「冥竜の……咆哮!!」


闇よりも黒き息吹が放たれる。ドロマ・アニムの盾で受け止めるが、その盾は跡形もなく消え去った。


「レリーズ……汝、魔を滅する龍の精霊王よ…ローレライの名の下に我が剣となりて具現せよ……ニーズヘッグ(神をも殺す龍の牙)!!」


カイルの手元に青龍円月刀が具現化される。その武器はあらゆる滅竜魔法を放つ武器だ。


[っ、この威力…そうか…!貴様もドラゴンの魔導士か…!]

「うーん、ちょっと違うがまあいいか。さて、本気モードだ」

[そんな剣一本でこのドロマ・アニムを止めると?片腹痛いわァ!貴様も我が魔力となれェェーッ!]


グンッとドロマ・アニムは一度ロングスピアを引き、そして勢いを付けて凄まじい速さと威力の突きをカイル目掛けて繰り出した。
あっという間に迫り来る鋭利な先端をカイルは静かに見つめ、その先端が自身に届く寸前の所で体を捻り、手にした武器で倍以上あるロングスピアを捌いて魅せた。


[っ、ぐおォォ…ッ!?]

「言っとくが馬鹿力じゃねえぜ?技だ。まあこんなもん絶剣技に較べれば大した事はないが」

「おぉ!?」

「何て奴だよ…」

「やっぱりカイルさんは凄いです…!」


瞬時にカイルはがら空きとなったドロマ・アニムの腕の下へ潜り込む様に地を蹴る。


「絶剣技、灯籠の型……飛龍、応用編」


マグマの噴火の如き勢いで飛び上がるカイル。滅竜の魔力を宿した青龍円月刀がドロマ・アニムの腕を弾き飛ばす。


ぐらりとバランスを崩し、前のめりになった竜の顎したに潜り込む。


「火竜の剣角!!」


『ドロマ・アニムの巨体を…火柱で撃ち上げた…!』


顎を打ち上げられ、完全に宙に浮いた状態になるドロマ・アニム。その完全に無防備となっている腹の前にカイルが飛んだ。そのまま青龍円月刀で奥義の構えを取る。


「絶剣技、終の型…三十連烈華螺旋剣舞!!」


本来ニ刀流の技だがカイル程の腕になればどんな武器にでも応用出来る。そしてこの剣は元々こういうデカブツの為の技なのだ。


ドロマ・アニムの巨体に余す所なく打ち据えられる三十の業撃…


[ぐおォォオァァーッ!]


空中に錐揉みしながら吹き飛ぶ機械のドラゴン。その隙だらけの姿を見逃すカイルではない。


目にも留まらぬ速さで突進し、青龍円月刀をジャイロ回転させ、つき抜いた。


「絶剣技、破の型…虎穿!!」


螺旋の回転により破壊力を何倍にも引き上げる絶剣技の中でも最も威力のある技だ。
勢いよく前方に吹き飛び、ガァンッと激しい音と共に大きく地面が抉られた。


「ふう、ちょっとスッキリ」


「っ、それでちょっとかよ!」

「くそ…嫌になるぜ…」

「カイルさん凄いです…」


即座に入れられたナツのツッコミに背後を振り返れば、じと目で睨んでくるナツと拗ねたように口をへの字にするガジル、そして冷や汗を流しているウェンディが目に入り、思わず笑みが零れる。


「よし、後は任せた。ナツ君」

「も、もうかよ…!?」

「この際なんだからてめェも闘(や)ってけよ!」

「馬鹿野郎共、いつまでもカイルさんに頼ってるんじゃありません!カイルさんだってなぁ…何でもやってくれるワケじゃないんだよ?ああ、ウェンディは頼ってイイけどね」「「何でだよ!!」」
「ふ、ふぇえええ///!!」


カカカと苦笑しながらカイルはカツカツと足早にナツたちに歩み寄り、「後は任せる」とその桜色の頭をぐしゃっと撫でる。
これからのお前らの成長の為に必要なんだよ…竜の子よ…


「…行くか、カイル」

『あぁ…ありがとう、カイル』

「んー…俺に礼言われるのは何か変な気分だなっと」


ホッとした様な表情で礼を言って来たエドカイルに笑みを向け、そしてその腕を自分の肩に回し、気合の声と共に弱った体を支え立たせる。


…何に対しての礼か…それはわかっている。…どんなに酷い事をされようと、親は親だ。傷付くところなんて見たくはないだろう。
まあカイルさんは手加減出来る人だけど…


「…よし、それじゃぁ行くか」

エドカイルに手を貸したカイルがナツたちの横を通り過ぎた時、ハッとしながらウェンディが後ろを振り返った。


「エドラスのカイルさん…!」

『…?』

「さっきは助けてくれてありがとうございました…!」

『…礼を言われる程の事はしてないよ』


カイルの肩から離れ、ウェンディの呼び止めに応じるエドカイル。浮かべられた表情はどこかくすぐったそうだ。


「いいえ…!そんな事はないです!……あの、!この闘いが終わったら、私がエドラスのカイルさんの病気を治します!」

『……』

「だから…絶対にまた会いましょうね!」


その姿は傷だらけで痛々しいというのに、ニコッと浮かべられたのは花の様な笑顔。
強く優しい言葉とその笑顔に暫く呆気に取られていたエドカイルだが、フッと微笑んだ。

『その時は謝礼を込めて君たちをもてなそう』

「お、宴か?こいつらは食うぜ?」


そして、引っ繰り返った状態からグググと体を起こそうとしているドロマ・アニム…その中のファウストを数秒眺め、カイルが待つ前方へとゆっくりと踵を返す。


『…ありがとうございました。…さようなら、――――…父上』


消えてしまいそうな小さな呟きがカイルの耳に微かに届いた。




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