小説『混沌の日常 〜Chaos days〜』
作者:黒亜()

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今日はラーメン屋とピザ配達、あとはアフレコのバイトで終了だ。
あくまで全てバイトである。
なるべく多種多様なことを経験できるよう絞ったりはしない。
選り好みなんてもっての他だ。
そういうわけで今はスタジオからの帰路なのだが……。


「おーう、待ってたぜぇ、篠崎。」

「ん?」

「ここを通るっていう情報は本当だったらしいなぁ。」

「あれ……えっと誰でしたっけ?」


目の前にいる男。
記憶力は悪いほうじゃないんだが、どうにも思い出せない。
ただ親しげに話してきているし、面識はあるのか?


「いや、初対面なんだが……じゃねぇ!お前が篠崎仁だろう?」

「いかにも。」

「お前があの伝説の“鬼人(きじん)”なぁ、暴力団1つをたった一人鉄パイ
プ一本で壊滅に追いやったとか。」

「そんな無茶苦茶な……」


噂というのは大抵広まる過程で尾ひれがつくものだ。
流石に馬鹿らしい作り話のにおいがぷんぷんするのだが……。
少し昔はだいぶ荒れてたからなぁ、完全否定できないのが悲しい。


「で、なんだっけ、奇人?変人?まぁなんでもいいや。そんな俺に初対面の君
が一体何の用だい?早くしてくんないと、アイス溶けちゃうんだけど。」

「いや何、伝説を狩ったとなればうちの族の名声も飛躍的に高まると思ってな。
生贄になってもらいにきた。」

「んー、嫌だね。」

「な!?どうしてだ、鬼人は来るもの拒まずのはずだぞ!」

「いや、その噂が事実からどうねじ曲がってるのか知らないけどさ、俺にはそ
んな称号の自覚もないし、大体生贄は誰だって嫌だろ?あと、アイスが溶けち
ゃうしね。」

「頼む!来てくれないと俺らがボスに怒られるんだ!アイスならちゃんと弁償
するから、お願いだ!」


そんな泣きながら土下座されても……


「分かった、決闘とかじゃなくてゲーム形式の勝負なら付き合ってやってもい
いぞ。あと、アイスはハーゲンダッツな。」

「……お高いやつですか。」

「お高いやつです。」


交渉は成立した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「よっ」

「のわぁっ!」


投げ技が綺麗に入る。
俺はアジトに連れてこられ、早速ボスとの一対一を始めた。
そして、数秒後決着。


「あんな簡単に巨体を……」

「鬼人、まじでつえぇ……。」

「さ、これ以上の勝負は受け入れないからな。俺の勝ちってことで、約束どお
りこっから一日ボスだ。」


あくまで今の決闘もゲーム形式。
何かを賭けようということだったので、勝者は敗者に罰ゲームを命令できる権
利が与えられる。


「じゃあ、罰ゲームはフリスク一箱一気食いしたあとにキンキンに冷やした麦
茶を飲むっていうので。」


ふふふ、これほど残酷な仕打ちがあろうか。
メンバーたちも口をあけて恐怖におののいているぞ。


………

……




「すんません、フリスク売ってなくて!ミンティアのドライハード買ってきち
まいました!すんません!」

「いや、いいよ。むしろナイス機転だよ。」


こうして一風変わった夜は過ぎていく。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


何の変哲もない空間、虚空。
そこに空間のねじれが現れる。
中から出てきたのは少女。
いや、少女という表現よりも幾分か幼い容姿。


「いたたた、案外“門”もきついなー。」


辺りを見回す。
目立った建造物があるわけでもないただの道路。
しかし、彼女にとっては新鮮な景色だった。


「くっ……、体にかかる変な感じ……。これがこっちの世界でのリスクってこ
となのかな。力も上手く使えるようになるまで慣れが必要かも……」


手をグーパーするようにして、何かを確かめる。
その間も終始微妙な表情は消えなかった。


「こっちで生きてくには外から取り込むしかないか……。色々と不便だけど、
もう戻る気はないし。」


そこで突如、彼女の前に障害物が現れる。
それはこんな遅い時間に仲間とつるんでいる集団だった。
数は4人。
どうやら、先頭の男にぶつかったようだが…


「おい、ガキ。ちゃんと前見て歩きやがれ。」

「…ガキ?誰に向かって口利いてんの?」

「あん?」

「弱者のくせに偉そうにしないでくんない?見てて痛々しいから。」


明らかに相手の怒りを買う一言。
普通ならここまで体格差がある相手に喧嘩は売らない。
まあ相手も小さい子どもの言うことなど普通気にしないのだが、こんな夜にう
ろうろしてる連中がまともなはずもない。


「生意気なガキじゃねぇか、大人の恐ろしさってもんを教えてやろうかぁ?」

「物足りないけど、こいつらで動作テストしとこっか。」

「意味わかんねーことほざいてんじゃねぇ!」


殴りかかる男。
いや、正確には殴りかかろうとした。


「弱すぎだよ。」


次の瞬間、衝撃が走る。
得体のしれない力。
言葉で表すなら、そう“破壊”。


「やっぱり、全然本調子じゃないなー。確かにこれはあたしくらいじゃないと
危険かも。ま、とりあえずエネルギーを補給しとこっかな。」


見るからに幼い少女の前で。
4人の男の命はいとも簡単に消し去られた。

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