小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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不本意だ。
‐それが願いだ
‐それこそ願い下げだ
‐叶える為だ

「それほど嫌ならどこかへ消えればいいわ」
「消えたら、フェイトにとって大切なアンタが一人になるだろ」
「フェイトにとってだなんて、照れるわ」
「その照れ具合が四割程フェイトに伝われば、たぶん俺はここに来れなかったんだろうよ」
「これでもその五割は伝えてるつもりよ」
「二割伝えても、二厘しか伝わってないだろうけどな」
「そう………」

隣にいるプレシアも少しだけ落ち込む。
この場にフェイトは居らず、いるのはプレシアと俺だけになる。
‐人妻だ!
‐セクシーだ!
‐優しく奪ってもらおうぜ!
カット。
フェイトの願いは自分を守ってもらう事じゃなくて、自分の大切な者を守ってもらう事だった。
‐暗に戦力外通告
カット。

「アナタのソレ…ロストロギアね」
「…………知ってるのか?」
「伝承と名前だけよ。私が探してた物の一つ」

俺の左手に埋まった宝石を眺めながらプレシアは残念そうに口を開いていく。

「………適合者がいるなら、もういいわ」
「自己完結しやがった」
「アナタに教える義理がないじゃない」
「そうだけど。流れは明らかに説明をする筈だろ?」
「流れとは断ち切るモノよ」

そう言って宙に浮かせたジュエルシードを眺めて、少しにやつく。
‐このオバサン怖いよ
‐どうせフェイトを思い出してるんだろ
‐しかし、なぜジュエルシードを?
‐綺麗だから?
‐他にもあっただろうに
‐求めたのはジュエルシードだけじゃなくてコレもだろ?

「なんでそんな欠片を集めてるんだ?」
「……聴きたいかしら?」
「…是非」
「そうね…アナタがフェイトに永遠に近付かない事を誓えば、まぁ教えてあげるか考えてみるわ」
「対価がスゴい割にアンタは全く教える気がないんだな」
「意味がないわ。それに、フェイトの近くに触手の自称【化け物】がいるなんて最悪じゃない」

なんでこんなに棘があるんだか。
‐当然過ぎて考えたくない
‐正論過ぎて反論できない

化け物は肩身が狭い。別に胸を張りながら生きる気もしないが。

「私にはもう1人、娘がいるのよ」
「…語り出したよ」
「そう本当に目にいれても痛くないって理解できるぐらい可愛い娘よ。アナタにも見せたいけどあの娘が汚れるから、見ないでちょうだい」
「そして俺の悪口にシフトしやがった」
「アリシアがいるからフェイトが生まれた。アリシアがいたならフェイトは生まれなかった」
「………死んだのか?」
「…その為のジュエルシードよ」
「蘇生なんざ止めとけ。全く違う存在になる」
「知ってるわ。アリシアとフェイトのいい部分は違うもの」

そう言ってプレシアはジュエルシードを杖の中に入れる。
顔は何を考えているかわからない。何かを考えてる顔を見分ける事なんて出来ないけど。

「フェイトは…私の為に生きすぎなのよ」
「……母親的には嬉しいだろ?」
「嬉しいわ。それはもうその嬉しさをエネルギーに変換すれば枯渇世界を潤せる程に嬉しいわ」

彼女の感情があれば、世界に戦争も起きなさそうだ。
‐争いの種が殆ど無くなるからな
‐確実に争いは起こるけどな
‐今の比じゃないエネルギーを用いた争いだけど

「でも、親としては自分の為に生きてほしい」
「……………そうかい」

カット。カット。
カット。
無駄な事を考える前に思考を放棄する。
‐諦めろよ
‐もう遅いんだから
‐お前はお前で
‐彼女は彼女で
‐フェイトはフェイトで
‐プレシアはプレシアだ
‐全て違うのだから
カット。

「だからこそ…いえ、しかし私はやり過ぎてしまった」
「…まぁ確かに、あの年齢の娘にSM的体験はトラウマに」
「殺すわよ」
「口を閉じてます」

肩を竦めて、口を閉じる。
プレシアは立ち上がり、杖をゆっくりと降り下ろし床に着ける。
付けた場所から波紋が広がり、そこにフェイトが映し出された。
白い服を着た、魔力光が桜色の少女と戦っている。

「こんなに頑張って……どうかしたかしら?私のフェイトが可愛すぎて絶句してるの?無理もないわね」
「親バカの極みだな」
「失礼ね。引きちぎるわよ」
「失礼しました、マダム」


金髪のフェイトは鎌を降りながら戦う。
栗色の髪をした少女は杖を構えて戦う。
‐高町なのはだ
‐映像がフェイト主体でそんなに見えなかったが
‐間違いなく高町なのはだ
‐なぜアレが魔導士に?
‐相談事の危険な事って
カット。
考えたくないどころか知りたくなかった。

「この戦い。フェイトが負けるわ」
「なんで分かるんだ?」
「私がフェイトを追い込んだ後なのよ?精神的に余裕のないフェイトが不利に決まってるじゃない」
「オイオイ…それでいいのか」
「いいのよ。それがあの娘の未来を護るなら」
「………アンタはどうなる?アンタがいなかったらフェイトは悲しむぞ?」
「私はもう先も長くない」
「歳か」
「焼き殺すわ」
「確定は怖いよ」

バチバチと電気の走る杖を此方に向けてきたので両手を上げて降参する。
‐簡易的なスタンガンだな
‐人を焼き殺すほどの電圧は簡易とは言えない
‐R服の二人組は超人だな
‐百万ボルトを空中で食らってるもんな
‐電気の逃げ場ェ…

「それに管理局の船を攻撃した時点で既に負けてるのよ」
「……は?」
「管理局の船を攻撃したわ」
「…マジで?」
「マジよ。フェイトを助ける為にヤっちゃったわ…フェイトにもちょっとしたお仕置きをしたけど」
「行き過ぎた愛情表現は止めとけって」
「過去の事よ」
「未来の事もな」

しかし管理局が関わってたのか。
‐腐った林檎がまだ樹にぶら下がってたのか
‐誰も喰わないし
‐落ちなかったんだろ
‐異臭が喰う虫を叩き落としてたしな
どうしたものか。俺の存在をあっちは知らないだろうが…。

「非常に気に食わないけれど、あの子は管理局に保護してもらうわ。非常に、非常に気に食わないけど」
「そんなに歯を食い縛るなよ、美人な顔が怖い」
「私の気持ちなんて貴方には想像出来ないでしょうね」
「わかりたくない。アンタの気持ちはアンタのモノだろ?それも背負う気はないよ」

もう俺の背中は満員なのだから。
‐カット
‐カット
カット。

「私の罪は私が背負うわ。私の業があの娘に降りかからない準備もした」
「それが、その書類か」
「私の研究成果と失敗と原因になった会話の映像よ」

空中に現れた平面に映し出された文字。
それはエネルギーに関する彼女のレポート。そして、管理局による汚職の映像。

「わざわざこんな管理外惑星まで来ている船よ…乗っているのはお人好しか仕事熱心な尊敬すべき馬鹿よ」
「侮蔑すべきテンサイ様は映像みたいに楽をするからな」
「嫌な世の中ね」
「まったくもってその通りだ」

溜め息すら吐く気になれない。

「後は私とフェイトの関係を親子から他人にするわ」
「ものスゴく怖い顔になってるぞ。もしくは泣きそうな顔」
「心証がいい方がそれはもう最高なんでしょうけど。その為にフェイトに嫌われると思うと…死にたくなるわ」
「目が死んでるな」

想像してしまったのか、黒い髪が真っ白に見える程落ち込んでいる。
黒い髪が真っ白になっているのに黒い影を背負うとはなかなかだ。

「………アナタは私が死のうとすればどうする?」
「今現在なら止める。全力をもって、それこそ四肢を縛り、口に触手でも突っ込んで自殺を妨害する程度に止める」
「……厄介な化け物ね」
「厄介な願いをしてしまったのさ」

フェイトの心や未来を守れるなら、俺はそこまでしてしまうだろう。
‐守るなんて願うから
‐不特定多数じゃないだけマシだ
‐ある意味不特定多数だ
‐特定した少数の為の願い

「大切なモノが守れる力を欲したのは今でも馬鹿だと思ってるよ」
「底抜けの馬鹿ね」
「性格がいいんだ」
「単なるお人好しじゃない」
「化け物だから、普通が好きなんだよ」

苦笑して映像を見れば、床には桜色しか映っていなかった。

「帰りたくなった」
「奇遇ね。私は帰したくなくなったわ」

そんな事をいいながら大切な存在の大切な人は自身の可愛い娘に向けて雷という愛を落とした。


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〜R団
世界の破壊と平和を守る悪を貫くラブリーでチャーミイな敵役の人間二人と喋る猫のトリオ。エンカウント率が低い黄色い電気鼠を必死で追いかけている。猫が鼠を追いかけているが、猫の名前はトムでもジョンでもヒロシでさえもない

〜電気の逃げ場
空中だと周りにある塵に移り、誘電率の高いだろう人体に戻ってきそう。怖い

〜電気
水に良く効くと言われているが、真水は絶縁体。水の中にある様々な塵や成分が感電しあい電気が通りやすいだけ

〜奪ってもらう
人妻は大変な物を盗んで行きました



〜『大切なモノを守る』願い
前話でチラッと触れた主人公の一度目の“願い”。その時点で叶った結果主人公の左手にはロストロギアが寄生している。
主人公が『大切に想う』事が絶対条件であり、今の現在で適応したのは母、半分家族のようなフェイトとアルフ、自分を頼ってくれるはやて、そして当たり前のように接してくれる買い物先の魚屋のオヤジのみである。
かなり曖昧な“願い”であり理論上、主人公が『全てを大切に想う』事が出来れば結果はどうあれ“守る”ことは可能である。
主人公が考えれる最善を“守る”為、何を守るかは主人公次第だが、主人公が“守れない”と感じた段階で願いの力が反転して確定的にソレは守れなくなる。

この“願い”に関しての質問は聞きはするが、たぶん一から十までは返せない。
先に言うが、ご都合主義っぽく見えるがたぶん違う


〜触手
ロストロギア。この話で名称が出る予定だったが、プレシア様の暴走のお陰で見送り。前回のアトガキで『次回に明らかになる!』と書いたが無理だった。正直かなり悪いと思っているが、改正はしない
この小説のご都合主義によって生まれた産物。

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