小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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 やはり、彼は馬鹿だ。

 少しながらも大切に想ってる人間に、嫌われようとしている。
 普通は嫌われた後で、自身の考えを改めて、その人間を嫌うというのに。

 それでもカレは、彼女を心配して、自分を犠牲にする。
 犠牲にして、カレが得るものは何もないのに。
 もしかしたら嫌われたままかもしれないのに。

 そんな問を彼にすれば、相変わらず真っ直ぐ床を見ながら溜め息を吐かれた。
 必要だから、行動する。
 それだけを言って、彼はまた地面を見つめて手を動かす。

 やはり、という言葉はおかしいのだけれど。
 やはりワタシの宿主はオカシイ人間ばかりだ。


◆◆

「……お集まり頂き、感謝感激」
「こんな夜中に呼び出しなんて、いい度胸ね」
「今更肌の調子を気にする年齢でもないだろ」
「この年齢だからこそよ。ぶち殺すわよ?」
「まぁ望むところだけど、少し待ってくれ」
「……あなた、少し変ね」

 失礼な。俺はいつも通りだ。
‐全くだ

「ツキビト、私達まで呼んだ理由はあるのか?」
「そうですよ。はやてちゃんにも黙ってだなんて」
「はやてにはバレたくない事だからな」
「……真剣な話か?」
「木刀や竹刀の話をする気はないな」

 そう言うと『夜天の』は溜め息を吐いて壁に凭れる。
‐いやはや、冷たいねぇ
‐夜だからだろ
‐タイトスカートだから冷えてるんじゃね?
‐ふむ、触手でセーター的な
‐おいおい、ふざけるんじゃないよ
‐既に理論は完成しているさ
 カット。

「……いいかしら?」
「ん?」
「彼女たちは?」
「ロストロギア」
「そんなアバウトな表現で…いえ、まぁどうでもいいわ」
「手間が省けた」
「えっと、」
「あぁ、この人は……ふむ、どう言えばいいんだろう」
「コレの保護者よ」
「保護されるような人間でもないがね」
「保健所に送るわよ、駄犬」
「ウー、ワン。まぁどうでもいい」
「夕くんのお母様…でいいのかしら?」
「よくはないさ。フェイトの母親だ」

 変な勘違いのまま話を進められると困る。
‐特にシャマルさんが勘違いすると説教が
‐色々とバレる
‐あぁソレは嫌すぎる
‐癒しすぎる?
 カット。癒しにもなりはしない。

「で、三人に集まってもらった理由を話そうと思う」
「さっさと話しなさい。大事な睡眠時間が削られてるのよ」
「ん、じゃぁ、本題。俺、そろそろ死ぬから」
「……もう一度言ってくれるかしら?聞き間違いかしら?」
「年だもんな、仕方ないね。俺は死ぬよ。たぶん、一ヶ月内に。はやけりゃ…明日にでも?」
「ちょ、ちょっと待ってください!」

 声を荒げて制止させたのは、湖の騎士。
‐話せと言ったり、待てと言ったり
‐面倒だな
‐あぁ、面倒だ

「私が上げたのは咳止めですし、あの時のチェックでは異常なかったじゃないですか!!」
「うん、そりゃぁ隠蔽したもの。それこそいつもよりも健康体だったと思うよ、データ上」
「そんな……」
「アナタは私を助けて、自分は死ぬ気なの?」
「アンタを助けた気はねぇよ。勝手に助けられたつもりなんだろ?虚数空間のデータ欲しかっただけだし、フェイトとの約束だし」
「酷いツンデレね」
「ツンドラかもよ」
「は、はやてちゃんに言います!絶対に言い、」
「まぁ落ち着けよ、湖の騎士。まだ本題を喋っただけだろう?」

 左手を伸ばし、シャマルの身体を縛る。
‐むぅ、なるほどなるほど
‐女体とは一人一人違うものなんだなぁ
‐三人目になってくると、中々
‐このままぐにゅぐにゅしても、よかですか?
 カット、ダメです。

「オーケー、落ち着いた所で前フリを話そう。アンヘルの侵食が思ったよりも早い」
「ッ、」

 隠蔽魔法を解いて、首元まで忍び寄っている黒い線を見せる。
 服の下は、もう言わずもがなだ。

「ツキビト、」
「あぁ、ようやくその『憑き人』ってのがわかったよ。アイツとも少しだけ話した」
「アイツ?」
「アンヘル」
「ロストロギアに意思が…ってすぐ後ろにも居たわ」
「まぁ、アイツ…アンヘルと少しだけ話して、約束した訳だよ」
「……彼女はなんと?」
「『ワタシを殺して』、だとさ。滑稽すぎる約束だよ、ホント」
「……ちょっと待って、いいかしら?」
「はい、どうぞ、プレシア様」
「彼女ってのがアンヘルなのは、わかったわ。で、その彼女が死にたがってるのに、アナタが死ぬ意味は無いんじゃないの?」
「アンヘルを殺すのに必要な術式は俺が殺される事で成り立つんだから仕方ないね」
「それで、アナタはいいの?」
「いいも悪いも、そうなってんだから仕方ないさ」
「す、すいません、いいでしょうか」
「あぁ、悪い。解放するわ」
「助かります……」

 シャマル先生を解放して、触手をしまう。
‐もう少しだな
‐もう暫くは堪能できたのでは?
‐落ち着け、落ち着いてゆっくりと忍ばせるんだ
 カット。

「で、お三方には俺が殺された後の処理を色々任せようかなぁ、とか」
「……遺産なんてあったの?」
「知的財産なら少し。まぁその辺りは全部譲るよ。ついでにシ体も持っていてくれるとありがたい」
「ソレは嫌よ」
「まぁ……テキトウに頼むわ。で、処理ってのはコレだ」
「……コレは」
「感応系術式。まぁ自分が対象に入るとか、対象を自分に入れるとか、そんな高度な物じゃなくて対象の夢の世界に別の対象を入れるっていうモノな」
「…で、これでどうしろって言うのよ」
「眠り姫を助けるのに必要になるだろうから、譲っとく」
「眠り姫?」
「悪い魔法使いに悪夢に落とされるだろう、眠り姫さ」

 きっと、そうなる。いや…そうする。
‐当然だ
‐万全に、万端に
‐備えあれば
‐嬉しいな?
 カット。どうでもいいさ。

「……やりそうな事は理解したわ。最低だけどね」
「察しがよくて、幸いです」
「知ってる?全部救おうとするのも、全部自分の責任にするのも、傲慢な人間なのよ?」
「残念ながら、よく知ってるよ」

 だって、傲慢だから。
‐だからこそ、死ぬべきだ
‐だからこそ、殺されるべきだ
‐だから、殺すべきだ
 カット。

「……あのー」
「ん?シャマルさんなにか?」
「どうして私が呼ばれたんですか?はやてちゃんに言っちゃう可能性を考えるといなかったほうが」
「あぁ、うん、もしも…まぁ出来る限りは無事に済ませるんだが、もしもの話」
「はい」
「悪い魔法使いが王子様を両断し続ける事があってもくっつけるからいいんだが、そんな王子様が眠り姫を助けるのに邪魔をしないでほしい訳だ」
「両断してくっつけるって……粘土じゃないんですから」
「そうだな。まぁ、念の為。備えあればって言うだろ?」
「そうですけど……」
「保険だよ、保険」

 そう、コレは単なる保険。出来ることならば、全てを俺で終わらせたい。
 それが一番なのだ。たぶん。

「……わかったわ」
「ん、よかったよ。これで思い残すことは、ってな」
「私は許さないわよ。勝手に死んでみなさい、蘇らせて、絶対に説教してやる」
「閻魔様の元にダッシュするとしよう」
「そこまでなのか?」
「雷様を怒らせると閻魔様なんて目じゃないんだ。きっと裸足で逃げ出すね」
「逃がさないわよ」
「ほら」
「ふむ…」

 どことなく納得したらしい『夜天の』が頷く。どうしようもなく、納得出来てしまうのだから仕方ない。
 そんな閻魔様も裸足で逃げ出す雷様事、プレシア様がブツブツ言いながら俺の部屋から出ていき、それに続くようにシャマルさんが溜め息を吐きながら出ていく。
 壁に凭れる事をやめて、歩き出す『夜天の』がふとその足を止める。

「私も、お前が勝手に死ぬ事は許さんぞ」
「…それは怖いな」

 そう言って彼女はもう一度足を動かし始める。

「あぁ、すっかり忘れてた」
「なんだ?」
「アンヘルから、伝言だ。『いい主を持ったね』だとさ」
「……お互い、とは付けられないのだな」
「自分を大切にしない主はお気に召さないらしい」
「…そうか、彼女らしい」

 銀髪の夜はクスリと笑って扉を開く。

「ではな」
「あぁ。いい夜を、リインフォース」
「……いい夜を、夕」

 バタン、と扉が閉められて、部屋の中が静かになった。
 そんな中俺の吐いた息の音がイヤに耳に入る。

「…………はぁ、さて、殺される準備でもするか」

 ゆっくりと、しかし、しっかりと。
 俺を殺す足音は……たぶんスキップか何かをしながら寄ってくる。というか、歩いてくるより幼女としてはスキップしてくれる方が殺されてもいいんじゃないかなぁ、とかなんとか。


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〜ツキビト→憑き人
 ようやくカタカナから漢字に変換出来た結果。
 アンヘルに憑かれてるんだから、この表現が一番正しい。

〜夜天と天使
 とある時代で重なり、蒐集とか吸収とかされたりした結果ある程度の親交もある。かなぁとか。
 表面上、本と触手がぐにゅりとなってるだけだけど、こう本体同士だと、こう…うん。最高です!

〜シャマルさんからの咳止め
 はやての誕生日回の時にシャマルさんから譲ってもらったモノ。描写はしてない。強いて言うならシャマルさんに用事はある、と言っていた程度
 あの時は内蔵までアンヘルに侵され始めて咳を出すと中の血液とか食べれなかった内蔵の一部とかがががgggg

〜眠り姫と王子様
 誰かが眠って、王子様が助けに行く。そんな物語の基盤

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