小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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 『式』を書く事しか出来ない手を止める。
 『床』しか向いていなかった顔を上げる。
 『式』と『床』しか見えていない目に違う何かが入る。

 ようやく来た。
 そう思う。
 ようやく来れた。
 そう思っている。

 憎くて、殺したくて、認めたくない存在。
 面倒で、殺せなくて、認めてはいけない存在。

 許せない。
 許すことなんか出来ない。

 自身と彼は同時に口を開く。
 声、という概念はここに適応されるか分からない。
 でも二人で、同時に喉を震わせる。

「おはよう、こんにちは、さようなら、殺されるよ」
「おはよう、こんにちは、さようなら、壊しにきたよ」

 俺は苦笑することもなく、
 俺は苦笑するしかなく。

 俺は俺を壊す為に手を伸ばした。

◆◆

「…………」

 唖然。というのが正しいのだろうか。
 私達は息をすることも忘れて、言葉を出すことが出来ない。ソレは、なのはちゃんが突然乱入した事にではなく、彼が容易くも消えてしまったからだ。

「……夕……くん」

 はやてちゃんの声が聞こえた。
 震える声で出た言葉は彼の名前。私は、声も出せずに、何かが抜かれたように、冷たい床に座り込んでいる。
 どうしようも出来ない。
 私には、どうしようもない。

 どうにかしたい。
 どうして、どうして私にはこんな時に力になれない。
 どうして、好きな人を助ける事も出来ない?
 どうして、化け物なのに好きな人を連れ去る事も出来ない?
 イラナイ、イラナイ、イラナイ、イラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイ

 好きな人さえ助けられないなら、こんな体、こんな心、こんな生、いらない。
 私の目の前は、真っ暗になる。
 アリサちゃんの声が遠くなる。

 遠く、遠く。











「気がついた?」
「アリ…サちゃん?」
「うん……」

 私は目を開く。
 もしかして、夢だった、そんな事を思ったけど…残念なことに現実らしい。最悪だ。

「ここは…」
「ここはアースラの医務室よ、すずかちゃん」
「シャマル……さん」
「シャマル!!こいつを抑えろ!!」
「どけ!!ヴィータ!!オレは、オレが助けないといけないんだ!!」

 隣のベッドを見れば、横たわる白い女の子と、更に隣にはなのはちゃんが居る。
 どうしようもない現実。
 たぶん、ゆぅ君はこの女の子に代わってしまったんだろう。存在その物も。全部、彼女に渡してしまった。
 彼女がナニかは知らない。けれど、彼ならそうする……と思う。

「ライト君!!アナタはリンカーコアにまで損傷があるんですよ!?」
「うるせぇ!!それでも……オレは、オレが………」

 彼はペタリと脚を崩して、俯く。
 あぁ、コイツがゆぅ君を殺したのか……。あぁ、そうだ、殺そう。そうしよう。そうしないといけない。そうしないと。
 私はゆっくりと立ち上がり、腕に力を込める。
 耳障りにもしゃくり上げる目の前の存在の首がイイ位置にある。
 あぁ、これ程にも容易いのに。これ程に軽いのに。

「―やめなさい」
「ッ」

 私の腕を掴んだのは、アリサちゃんだった。
 思わず睨んでしまったからだろう、掴んでいた力が少しだけ緩んだ。
 それでも、彼女はしっかりと私の腕を掴んでいた。
 悲しい顔をして。

「……ごめん」
「仕方ないわよ。でも、少し落ち着きなさい」
「……うん」
「アンタも!!ちょっとは黙りなさい!!」
「黙れって…!!お前はなのはが心配じゃ、」
「心配よ!!もちろん、あのバカも心配よ。ソレでも、アンタは今万全!?それでなのはやバカを助けるつもり!?巫山戯るんじゃないわよ!!」

 アリサちゃんが叫ぶ。
 叫んで、息を荒げて、彼を叱る。
 そんな中、医務室の扉が開いた。出てきたのは、長い黒髪とキッチリと着込まれたシャツ、そして白衣の美人。瞳はキツく、私達を見下ろしている。
 そんな彼女は溜め息を吐いた。

「まったく……こういう事……」
「プレシアさん…」
「本当に……バカね」

 手を額に当てて、また溜め息が吐かれた。
 溜め息を吐いた彼女はツカツカと歩いて、光君の前で立ち止まり、彼を叩いた。
 ソレもかなり力が入っていたのだろう、乾いた音が大きく響いた。

「……」
「反応無し?食ってかかったらどうなの?」
「……ッてぇな!!何しやがる!!」
「その反応でいいわ。王子様は準備ができるまで回復してなさい。尤も、準備と言っても眠り姫の準備ではないけれど」
「た、助かるのか!?」
「……なんなの?あの子、眠り姫を助ける為、とか言ったのに説明もしないで女の子に代わったの?」
「そうみたいです」
「本当に、バカね……世話の焼ける。とにかく、アナタは少しでも休んでなさい。乗り気ではないけれど、助けてあげるわ」

 本当に乗り気ではないのだろう。彼を叩いたあとはずっと眠っている女の子に触れているプレシアさんと呼ばれていた美女。

「……なるほど、ね」
「ゆぅ君は助かりますか……?」
「…アナタはコレの、何?」
「何って……」
「友達よ!!」
「そう…生死で言えば、生きてるわ。この体は」
「……体?」
「そう身体。簡単にしか解析出来ないけれど、ソレでも、わかるわ。この体は生きている」
「恐らく、彼は死んでしまいましたが」

 そう言う声は扉から聞こえた。
 声を出していたのは、銀色の綺麗な髪と真っ赤な瞳をした女性。何処かに感情を置いてきた様に、表情は冷たい。

「遅くなりました」
「構わないわ。事態は既に後手よ…」
「ユウ相手に先手に回る、という事態少し無茶があります」
「そうね……」
「リイン、後ろからスマンな。ちょいと状況説明してもらってええかな?」
「ハッ、主はやて。申し訳ございません」
「いや、そんな畏まらんでええねんけど…」

 銀髪の女性の後ろから出てきたはやてちゃんは私達を見てニヘラと笑う。

「うん、よかった。起きたんやね」
「残念な事に、夢じゃなかったけどね」
「うん、でも最悪、ではないっぽいよ」
「らしいね」
「じゃぁ、リインフォース、頼むな」
「ハイ。まず、謝ります。私達は彼の計画について、知っていました」
「ええよ、そんなん。もう終わった事や」
「感謝を。……今、高町なのはは恐らく夢の中に閉じ込められてます」
「……夢?」
「ハイ、夢です。自身のトラウマを植え付ける様に永遠と繰り返される、悪夢です」
「なにそれ、タチ悪すぎない?」
「ネコがよければ……スマン、冗談やって、すずかちゃん睨まんといて」

 冗談を言ってる場合ではないと言うのに。

「話を続けます。結論から言えば、彼女を助ける事は可能です」
「本当か!?」
「私とプレシアは扉を開ける鍵を渡されましたから…但し」
「適応する人間が限られてるわ」
「適応?」
「見て分かると思うけど、私は学者よ。彼に渡された鍵を解析すれば、本当に、其れだけに作られた物なの」
「彼の様に言えば、眠り姫を助ける王子様だけの鍵、なのでしょうね」
「という事よ、王子様。アナタだけにしか彼女は助けられない。アナタが失敗すれば彼女は永遠の悪夢に取り憑かれる。もしくは覆せないトラウマで精神崩壊してしまうかしら」
「ッ……」
「それでも、アナタはやるわ。いえ、例え拒否した所で私達がやらせるわ。いっその事、今すぐに殺してしまいたいもの……彼の遺志を無駄には出来ないからしないけれど」

 鼻で軽く笑った彼女はようやく彼を睨む。
 彼は、その瞳をジッと見つめて、立ち上がる。

「行くよ。行かせてほしい……」
「拒否しても一緒よ」
「わかってるよ。それでも、オレだけなんだろ?アイツが選んだのは」
「そうね」
「なら、……いや、違うな。どう言ったらいいんだろ…」

 彼は少し悩んで、迷い迷いに言葉を選ぶ。

「選ばれてなくても、オレが行くしかないと思う。助けたい…助けないといけない。オレだけしか出来ない、じゃなくて、オレがそうしたいから、オレがオレに、なのはがなのはになる為に」
「……意味がわからないわ」
「オレもさっぱりわからないよ」
「まぁ、少しはいい顔になった……と言っておきましょう」
「シャマル、彼の調子は?」
「……精々、五割程度ですよ?」
「ということだが?」
「十分だよ」

 彼は少しだけ肩を竦めて応える。
 シャマルさんは少しだけ申し訳なさそうに、溜め息を吐いた。

「無謀です…とは言っておくわ」
「いいよ。無謀でも、無茶でも、無理でも」
「さぁ、準備はいいかしら?」
「悪くても、だろ?」
「当然よ」
「ならいいさ。コレがアイツの予想した事なら、うまくいくさ…いや、違うな」

 ライト君は少しだけ笑って、なのはちゃんの手を握る。

「救う為、なんて大きな事は言えない。でも、救いたいんだ……英雄としてじゃなくて、光として、オレとして、助けるよ。絶対に」

 そして彼を淡い紫色の円が包みこんだ。

**********************
〜視点
 正直な話、すずかではなくて英雄様であった方がいいと思う。でも、今の英雄様は思ったことを口に出してるだけだから…ね?

〜シャマルさん
 王子様の調子を気にして、結局彼の思い通りに動けなかった素晴らしい人
 五割程度しか動けない人間を危険な目に合わせるのは、流石に…

〜タチが悪い
 ネコが良くても、タチが乗り気ではなければうんたらかんたら

〜救う為、ではなくて助ける為に
 救う為に力を得た英雄()なんだゼッ!!→英雄なんかじゃなく、オレとして、助けるよ

〜以前からの冒頭
 ユウ→アンヘル→夕→アンヘル→ユウ…の順番。次からは無くなる


本編
〜フェイトとアリシアのいない理由
 お母様から来るな、と言われてる為。フェイトは部屋の中を往復、アリシアは冷静を装って逆さまにした本を読んでいる

〜次回予告()


 ついに悪の本拠地『O☆HA☆NA☆SHI町』に到着したライト!!
 あらゆる所から迫る桜色の砲撃!!敵として、そして的として認識されしまった彼は無事に囚われの姫、高町なのはを救えるのか!?
 そして姫を攫った魔王の正体とは!!そして彼は魔王を倒すことが出来るのか!?

 次回!!
『魔王様の名前は高町なのは』!!
 犯人は!お前だ!!
※ネタバレ注意
※尚、次回は予告と重なる可能性が一切ありません

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