小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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長いよ!
駄文だよ!!本当にごめんなさい


****************
 目の前には山があった。
 ソレは、まるで普通の山ではなくて。何かが腐った匂いを撒き散らし、地面に血を染み込ませて、ソコに積まれていた、ただそれだけの山。
 そんな中にボロボロになって、息が浅い子供が横たわっていた。私よりも、幼い、子供なのに。
 その子供に対して行われる暴行。
 ある者は角材を使い。
 ある者はその鍛えられた右足で蹴り上げ。
 ある者は子供を人間だった物の山へ投げつけた。

「クソが…ガキがツマンネェ事してんじゃねぇよ」
「商品がダメになっちまったじゃねぇか!!」

 少年がしたことは、窃盗。
 彼を見ている私は、彼が生きる為にした事を理解している。そして、目の前にいる大人達も生きる為に、目の前の少年を殺そうとしている。

「ふむ……ァー、いいか?」

 突然現れたのは緑の髪を地面スレスレまで伸ばして、煙管を加えた女性だった。

「ッ……なんだよ、エンプティか。なんか用かよ?」
「オレ達にヤらせてくれんのか?」
「おいおい、それならこんな所よりもアッチに行こうぜ」
「ふむ…ソレは面白そうだが、生憎これから予定があってな」
「ならなんだってんだ」
「そこのガキを貰おうと思ってな」

 煙管を口から離してニヤリと嗤う女性、そして女性が笑った途端に男達から笑みが消える。

「アンタ、こいつが何をしたか知ってるんだろ?」
「窃盗、傷害、強盗、別段その程度だろう?」
「あぁ、ソレをココで侵したんだ。そういう事だ」
「ふむ……別に窃盗やら傷害程度で何を躍起になってるんだか…私にはサラサラわからんね」
「確かに、ココはハミ出しもの、ソレも最低の中のゴミが集まる世界ではある。だがな、ゴミの中でもルールってのがある」
「あぁ、はいはい。わかったわかった。その中にルールを持ってきてやったんだ」

 女性はポケットの中からジャラリと鳴る袋を出して男達に放る。
 男はソレを掴んで、中を確認してからニヤリと笑って後ろにいた男達に目配せする。

「わかった、仕方ない。あんたがそこまで言うんだ。俺だって男だ。ココは引かせてもらう」
「面倒な男だこと。アッチでは確か少女ばかり狙う、おっと失礼」
「おい、勝手な嘘を言うなよ」
「あぁ、失礼。ついつい嘘を言ってしまったよ。シカタナイナー」
「チッ……」

 舌打ちをして足早に消える男と、その男を追っていく他の男達。
 女性は溜息を吐いて、横たわっている子供の髪を掴む。

「ガキ、お前の命はつい先ほど、私に買われた。だから、助けてやろう。お前を利用する為に、助けてやる。だから、お前は私を利用してみろ」

 そこまで彼女は言って、少年の意識が落ちたことを確認した。確認してから、もう一度溜息を吐いて、頭を掻く。

「はぁ、……私とした事が、貯金を叩いて人助けなんざ…まったく、人は変わらんモノだな…畜生め」

 散々な事を言いながら、彼を持ち上げて、ユラユラと歩いていった。









「私が、何をしたか?」
「……アンタだって、その、」
「犯罪者、ではあるな」
「……どう考えても、アンタみたいな人間が犯罪を犯すだなんて考えれないんだ」
「ふぅむ、ソレは、褒められているのだろうか?」
「たぶん…」
「確かに、いや、微かに、私はいい人ではある。ユウ、お前を買った事からの結果論だ」

 場面は飛んで、私の目の前には先ほどの緑髪の女性と少しだけ小奇麗になった少年がいた。
 少年は朱色の帯を一本だけ本に接触させて、緑髪の彼女の方に向いていた。

「そう、結果論で語ってしまうなら、私は犯罪者だ」
「……冤罪、とか?」
「残念、思慮が足らんな、ユウ。私は犯罪者だよ。コレでもな」
「でも町にいる奴らと違うじゃないか」
「当然だろう?私とアレらを一緒にするんじゃないよ。コレでもアレらよりは真っ当な人生を送っているつもりだ」
「じゃぁ、なんでだよ」
「……まだ難しいかもしれないが、私はいい人ではなくて、人が良かったんだ。ソレも壊滅的にイイらしい」

 グシャリと少年の頭を撫でた彼女は少しだけ笑んでいて、少年は鬱陶しそうにその手を払い除けた。

「アレか、革命か何かしたのか?」
「ほう、中々に鋭いな。今日の晩飯は鍋にしよう」
「残念。作るのはボクなんだ」
「鍋だろ?鍋だよな?鍋って言ってくれよ、嘘でもいい。いや、嘘は吐くな」
「忙しいな」
「忙しいさ。さて、その本の解析は終わったな?次の本を渡そう」
「ワーイ、休憩モナインダー、ヤッター」
「ふぅむ、では多重解析といこうか」
「スイマセン、ソレだけでいいです」
「結構高いスペックの筈なのだが……ふぅむ」






 そして、また景色が飛び、私の目の前には銀色の剣で貫かれた女性が居た。
‐なぜ?何故?
‐どうして、何があった?
‐考えろ、考えろ
‐彼女を助けるんだ
‐解析魔法行使
 頭の中に入ってくる幾つもの声。
 ソレは彼女の事を必死で観ていて、そして、どうするべきか、非常に冷静に、判断した。

‐右肺を貫通
‐助からない
‐無理だ
‐守りたい
‐まだ剣が降ってくるかもしれない
‐守りたい
‐守れない
‐守りたい

「お前は……生きろよ…」
「うぁっぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 ベタリとした感触が頬にまとわりついて、私…いや、少年は絶叫する。
 これまでの冷静さなど、かなぐり捨てて、今までの全てを否定して。まだ彼女が生きている事を確認してしまって。

「神様!!あぁ!!神様お願いします!!俺に、俺に大切なモノを守れるだけの、大切なモノを守る事の出来る力を!!いま、今すぐにください!!」

 彼は剣が迫っている事も理解して、また絶叫する。
 ソレは、一つの願い事。何でも無い、今もまだ剣に貫かれ、斧により断絶され、槍によって抉られた目の前の大切な人を守りたいという、ただそれだけの願い。

 そして、彼の左手が輝き、赤い何かが宿った。
 それは、綺麗な石だった…が、瞬きをすれば、赤黒いナニかに視界は覆い尽くされて、全てを飲み込んでいく。

ー×ね!!
ー×ね!!
ー×してやる!!
ー×してやる!!

 幾つもの声が頭に直接殴りかかってくるように響き、思わず耳を塞ぎたくなる。
 ソレが、四つだったものが八つに、八つから十六に、そして気がつけば、どこからでも聞こえるようになった。









「…………」

 いつしか、声は止んで、視界に曇った空が見えた。
 少年は、一人だった。確かに抱いていた筈の女性も居らず、家に居たはずなのに、彼は地面にチョコンと座っていた。

「なんで……なんでだよ!!なんで、どうしてなんだよ!!」

 ようやく声を出した少年は地面を何度も殴って、拳を土で汚す。土も彼の血液によって汚れていく。
‐助ける方法は!?
‐全てを思い出せ
‐人体蘇生の方法は!?
‐プランA、失敗
‐B、失敗
‐失敗
‐失敗
‐失敗!!

「クソ…クソ、クソ、クソが!!」

 また声が響いて来て、彼の考えを否定する。
 守れないと思ってしまった彼女を蘇生しようと、彼はずっと考えている。考えて、考えて、考えて、失敗する。それでも彼は何度も何度も思考して、そして無理だと悟らずに、また失敗し続ける。

「これに、コレに全部入ってるんだろ!!俺が望んだモノは!!全部!!」

‐左手の石を解析

「ぐ、うぇぉぉ……」

 彼は吐いた。今まで食べていた何かを全部地面に吐いて、胃の中が空っぽになっていても、吐くことをやめなかった。

「殺した…俺が、俺が……俺が全部、!!」

 ようやく彼が視界を上げた時に、見えた物は、何も無かった。
 家も、人も、犬も、猫も、木も、草でさえも、一切が目の前にはなかった。

「……あぁ、あぁ、ああぁあああああ!!」

 また彼は絶叫して、受け入れられない絶望を痛みで忘れようとする。






「あぁ……俺の中に、俺の中で生かしてやるよ…クソどもめ……そうやって、殺してやるって、ずっと言っとけ。殺した人間の遺志なんざ守ってやるよ」

 幾つかの夜を叫びと痛みで越えた彼は呆然と、そう呟いた。
 彼は、壊れていて、壊れたまま、受け入れて。

「だがな、全部終わらせてからだ……全部終わって、俺が諦めたら…殺されてやるよ」

 そうして彼は彼女を貫いていた剣を掴む。
‐解析開始
‐魔力反応
‐転移ルート解析
‐解析完了

「さぁ、誰かの復讐をしよう。終わったら、みんなの復讐を受けてやるよ」







「人の記憶を見るなんて、関心しないな」

 ビクリと肩を震わせて反応してしまった。
 声の方を見れば、緑髪を地面スレスレまで垂らした女性が煙管を吹かしながら歩いている。

「あ、アナタは…」
「ふぅむ…私、という存在は消えている訳だ。まぁ遺ってしまっているが、正しく私、という訳ではない。アレだ、遺志AでもBでもCでもXでも構わないさ」
「……」
「アレは随分と好かれてるようだ……まぁ嬉しいという気持ちと残念、という気持ちで半々、いや一対九辺りか」
「残念…なんですね」
「あんな愚か者を好いている時点で残念だろう?」
「そうかも…しれません」
「まぁ愚か者だ。自分で勝手に遺志を人格化させて、私も、アイツも、ドイツもコイツも作りやがって。挙句の果てに『俺が死ねばいい?』だとさ」

 遺志Aさんが溜め息を吐く。
 吐いた事で、煙がフワリと上がっていく。

「まぁ、人のいい愚か者だ」
「人が良すぎますよ」
「ふぅむ……誰に似たんだか」

 きっと、今目の前で少しだけ嬉しそうに笑っているアナタに似たんだろう。
 少しだけ、本当に、少しだけ彼の事がわかったかもしれない。

 一番許せないのは、彼自身なんだろう。
 自分の事を許すことが出来ない彼は、どうしようもなくて、でもそれだから、彼は自分以外を助ける事が大切で。
 大切なモノを守りたくて。自分は大切なんかじゃなくて。でも彼女の事は大切だから遺志をずっと守って。

 ふと、お姉ちゃんが、私達と似ている。と言っていたのを思い出した。
 自分が嫌いで、誰かに認めて欲しくて。でもそれは絶対に無理で、だから意地を張って。

「なんだ……一緒なんだね」

 そうして、私の目の前には緑色の彼女は消えていて、扉が一つだけあった。
 入ってきた時の扉と一緒だ。
 ドアノブを掴み、捻れば簡単に開く扉。
 目の前には真っ白い空間。
 そして、まるで落書きの様な黒い模様。

 その黒い模様を辿れば、黒い髪の彼がいて、まだ地面を見ながらペンを握っていた。

「こんにちは、ゆぅ君」
「……あぁ、こんにちは、すずか」

 彼はこっちを向いて、一言だけ挨拶をしてまた床に目を向け始めた。

「俺を殺しに来てくれたのか?」
「残念、その逆なんだ」
「そうかい。ソレは残念だ」

 ゆぅ君は溜め息を吐いて、書いていた文字を睨みつけてペンを横に振る。どうやらまた失敗した様だ。

「何度となく、幾度も、幾千も、数えることも億劫になってしまうほど、計算した……計算して、計算して、計算して…でも結局答えはずっと遠いままだ」
「……」
「彼女は誰が殺した?殺したのは誰だ?あの時に俺が彼女を守れていたら?あの剣群から守っていたら?」
「違う、違うよゆぅ君」
「違わないさ。剣群が降ってきたのは過程でしかない。俺はその力があった筈なのに、彼女を守れなかった。



 彼女を殺したのは、俺だろう」

 どうしようもなく、お人好しな彼だから、壊れてしまった。全部自分だけで背負って、そのまま償いもせずに、自分を許せないから。

「クソ共の命を喰らった俺が生きていて、彼女を殺した俺が生きていて、あいつらも、彼女も、この世界にはいない……誰が悪い?殺したのは?剣群を降らした人間か?否だ。否、断じて否。守れた筈なのにソレをしなかった、俺が悪い」
「もう、やめようよ」
「やめる?何をだよ。もう遅いさ」
「遅くないよ……」
「彼女を殺した時点で遅いんだよ!!」

 ゆぅ君は今まで見せる事のなかった顔で叫ぶ。泣きそうな顔で、怒った顔で、不安な顔で。

「お前にも言っただろう!?親の仇だ!!許せる訳が無い!!」
「……」
「お兄ちゃん、そろそろいいでしょ?」
「アンヘルちゃん…」

 突然私の後ろから出てきた白い彼女の方を向く。
 どうせ、そろそろ来ると思っていた。そうに決まっている。次の言葉も予想できる。

「すずか、お兄ちゃんはもうダメみたい……元々壊れてたから」
「壊れてた!?違うね!!今から壊すんだ!!」
「だから、せめてアナタの手で……壊して上げて?帰りはワタシがちゃんと頑張るから」

 白い彼女がそう言って、踵を鳴らす。その音に反応した様に白い床から赤黒い剣が生えてきた。

「ゆぅ君は…」
「コレを壊したところで彼は二つも三つも生まれるよ、どうせ、もうダメなんだし」
「これで、彼を壊せば……ゆぅ君は助かるの?」
「助かる……と思う。半々といったところかな」
「そっか……」

 この剣を握れば、きっと私は目の前の彼を壊す選択肢しかなくなる。
 やっぱり、違和感が拭えない。もちろん、ソレは彼を壊すという行為ではなくて、別の事に違和感をずっと感じていた。

「ねぇ、ゆぅ君」
「なんだよ!!壊すんだろ!?さっさと壊せよ!!ソレが俺の望みでもあるんだぞ!!」
「私がここに来る事は予想外の出来事だったんだよね?」
「……そうだよ、高町さんがお前を連れて来るなんて思ってもなかったさ」
「そう、全部予想外の事から出来上がってる事なんだ。私も色々と驚く事ばかりだもん」
「…テーマパークはお前を追い返す為のモノなんだけどな」
「ソレはそれ程驚いてないよ。だって、ゆぅ君が私達に甘い事は知ってるし」
「耳が痛い」
「それ以上に驚いた事があるんだ」
「俺の過去だろ。あんな事をして、あんな世界で生きて」
「でも、私はそれでもいいよ。私も一緒に背負う、なんて言ってもゆぅ君は譲ってくれないからのも知ってるよ」
「なら、」
「支える事もしちゃいけないのかな?」
「……はぁ、降参、降参だよ。すずか」

 彼は両手を上げて溜め息を吐く。
 当然の様にあっさりと、彼は負けを認めた。ソレも、当然の事である。

「もう大丈夫みたいだね、さぁすずか。ワタシが道を開くから」
「ゆぅ君は?」
「俺は後で行くさ」
「……私の勝ちはゆぅ君を説得する事」
「だから勝っただろ?」
「ねぇゆぅ君。私はゆぅ君を負かしたい訳じゃないんだよ?助けたいの」
「だからお前が戻ったら、」
「嘘」

 私は彼の言葉を遮って口を開いた。
 だって、この世界は最初から嘘ばかり並べられてるんだ。
 歓迎されないテーマパークも、全部だ。だって、おかしいじゃない。

「嘘なんかじゃないよ」
「いいよ、もう。よくよく考えたらバカみたいなっちゃった」
「馬鹿って…」
「すずか、どうしたの?帰ろうよ」
「うん、アンヘルちゃん。そう、アンヘルちゃん」

 私はアンヘルちゃんの腕を掴む。力いっぱい。
 だっておかしいじゃないか。彼女は少し喋っただけだけど、自分の得になる相手には嘘を吐かない。嘘だったとしてもすぐに訂正する筈だ。
 だから、私は口に出さなかった。

「ようやく、アンヘルちゃんの考えてた事がわかったよ」
「え?」
「そうだね、私を案内するのは彼の中に入れる事の出来るアンヘルちゃんだけだもんね」
「何を言ってるの?」
「ねぇゆぅ君。アンヘルちゃんの髪色が()に成ってる事は知らなかったんだね」
「ワタシの元々の髪はこっちなんだよ?」
「うん、後は喋り方かな。アッチだと尊大な喋り方だった」
「元々がこっちなの!!」
「助けられないんじゃなかったのかな?」
「助けれる様になったの!!」




「ずっと、ずっと守ってくれてたんだよね?ありがとう、ゆぅ君」

 後ろに居た彼がガラスの様に散って、目の前にいた彼女が、彼に変わる。
 助けれない彼女の代わりに、私を誘って。でも帰したいからテキトウにあしらって帰そうとして。何度も諦めさせようと提案して。
 こんなに彼は優しい。やっぱり彼は、自分をずっと偽っている。

「……はぁ…なんでバレるかなぁ」
「だって、ゆぅ君だもん」
「答えになってないんだけど?あと、抱きつくな」

 そんな言葉も無視して彼に抱きつく。精一杯、離さないように。

「ちなみにどこからバレてたんだ?」
「最初に違和感を感じて、ここにアンヘルちゃんが出てきてから」
「はぁ……ご慧眼には感服致しました」
「えへへ……」

 どうしようもなく、彼はお人好しだ。
 だから、バレて尚、私をここから帰そうとする。どうしても私を絶望させて、再起不能にまでする事を彼は辞さないだろう。私がこの場にいる事は彼と一緒に壊れてしまう可能性があるのだから。

「なぁ、すずか」
「うん」
「俺さ、お前の事が嫌いだ」
「うん」

 ほら、こうやって嘘をつく。

「嫌いだ、大っ嫌いだ」
「うん、うん…」
「……嫌いなんだから…」

 抱きついた私は絶対に離さない。だって、離したら彼は何処かに行ってしまうから。
 それに、嘘だと知っているから。だって、ここはゆぅ君の中だから。

「嫌いだ」
‐好きだ
「さっさと消えろよ」
‐危ないから早く帰ってくれ
「ウザイんだよ!!」
‐危険なんだよ

 彼の言葉と同時に響く声に、彼は気づいてない。
 思わずニヤニヤと笑ってしまう。どうしようもなく、彼はお人好しだ。

「頼むから…」
「ゆぅ君」
「帰ってく、」
「私も、ゆぅ君が大好きだよ」




「あぁ、もう、最悪だ。最高に最悪だ」

 ぐしゃぐしゃと彼は自分の頭を掻いて吐き捨てる。
 ちらりと横を見れば、溜め息を吐いて嬉しそうにしている彼が居た。

「まったく、こんな男のどこがいいのかね?」
「えっとね」
「おっと、言ってくれるなよ。恥ずかしい」
「そういうところかな」
「趣味が悪いことで」
「いい趣味なんだけどなぁ」

 また溜め息を吐かれて、彼はようやく落ち着いたように喋りだす。

「わかってた事なんだよ…アイツらも、あの人も、俺が作ったモノで、実際のアイツらじゃない事ぐらい」
「うん……」
「許されない、許される事は、俺が死んだとしてもない事だ」
「……」
「……はぁ、あのバカに説教した筈なのに、まったく不甲斐ない」
「不甲斐なくても、いいよ」
「まったく、本当に、趣味が悪い」
「そうかな?」
「そうさ……なぁ、すずか」
「ん?」
「俺は、生きてていいのかな?」
「生きててほしいな。私は」
「……いつかの勘違いをしそうだ」
「これで勘違いって思うんだったら、相当だね」
「あぁ、そうに決まってる」
「ゆぅ君がいないと、私が暴走した時に困るでしょ?」
「あぁ、そっちなんですね。ちょっと落ち込むわ」
「だからさ、ずっと一緒に居てよ」
「……勘違いするぞ?いいのか?」
「いいよ。勘違いじゃないもん」







◆◆

 目が覚めた。
 目を開けば少し暗い、という事はある程度時間が経過してしまったんだろう。
 ふと、アンヘルが握っていた私の手が目に入る。
 辿っていけば、彼女ではなくなった、彼が目の前にいる。
 どうしようもなく、お人好しの、大好きな人。
 自分の事を許せなくて、全部背負い込んだ人。

「……」
「……」
「……」
「……ァー、そこまで見られてると、目が覚ましにくいんだけど?」
「えへへ、何なら眠り姫を起こすためにキスでもしようか?」
「結構、既に起きてるし、生憎性別は男でな」
「それは、残念」
「……」
「……ふふ」
「……ヒヒ」

 少しの間があって二人で笑ってしまう。
 相変わらずのやり取り、変わらないやり取り。

「ねぇ、ゆぅ君」
「ん?」
「大好き」
「生憎ながら、と言っておくよ」
「言ってくれないの?」
「さて、もう一眠りといきますか」
「えー」

 彼はグルリと私に背中を向けて顔を向けてはくれない。
 でも、残念ながら真っ赤な耳が見えてしまってるので、台無しだ。
 そんな彼がどうしようもなく可愛くて、思わず抱きついてしまう。

「……あぁ、そういえばさ」
「どうしたの?」
「なんですずかはアナグマ帽子をしてたんだ?」
「さぁもう一眠りしようかな」

 顔を隠すために、私は彼の背中に顔を埋めて眠ることにした。いや、うん、忘れた。彼の中の事なんて全部、今、忘れました。

「……ありがとう、なんて柄じゃないか」

 そんな彼の一言は、私の耳にしっかりと入ってきた。うん、これだけ覚えておこう、そうしよう。


********************
〜アンヘル()
 中に存在していたアンヘルは全てユウの演技です

〜彼の救い方
 色々と細かい事をすっ飛ばして、彼は彼女の手によって掬い出されました

〜細かい事
 アンヘルの救済と犯罪者達の遺志
 どうせ次辺りに書くとは思うけれど、前者は後述、バカ共の遺志は始めて人を殺した事で大切と判断していたので、償う、というか生きていく事に関しては触れてない。まぁ死ね死ね言われますが。

〜駄文
 たぶん、駄文、いや、駄文。

〜アンヘルの救い方
 ちゃんと彼女は救います。まぁ舞台裏でよっこいしょする程度だとは思いますけど。

〜後書
 次回にエピローグを入れます。
 まぁこのままだったら、甘いだけのクソになります故、あぁ、本当に誰か、誰か珈琲もってこい。
 シリアスだけにしようと思ったら、いつの間にかボロボロな物が出来上がってたでござる。甘い物の書き方を教えてください。

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