小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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無言の空間を歩いていく。

歩く度に感じる柔らかさをなるべく顔に出さないように楽しむ。勿論、この柔らかさを提供しているシグナムはこの事に一切気づいていない。
気付いているならば、俺の首と体は七夕の来ない織姫と彦星の如く永遠の別れを告げているはずだ。
おそらく彦星が乙女座辺りと浮気をしてしまったのが原因だろう。
いや、そんなことはどうでもいい。

「確か服屋は三階にあった筈だ」
「ああ」

やって来たのは近所にあるショッピングセンター。別段更に近い商店街でもよかったのだが、はやてを喜ばす為、を理由に此方まで来させたのだ。
歩けば皮膚が布地に触れて、擦れる。その感覚にゾクゾクしながら階段を一段一段登っていく。

悟られた瞬間に全てが終わるなど、非常に緊張する状況で俺は明らかに別の感情を得ていた。

甘美…いや愉悦…。
いっそ悦楽と言ってしまっても過言ではない感覚にハマりそうになる事、約一時間程度。
今の今まで全く、一切操作していない触手に漸く違和感を感じた。堪えれなくなって操作しようと思えば、まるで動かないのだ。

しかしながら感覚は共有できている。
‐やはり確認は必要だったか
分割思考の一つが俺を叱咤する。
だが改善点など腐るほどある方がいい。幾度となく新しい感覚を楽しめるのだ。断然そちらの方がいいに決まっている。

しかしながら階段の昇降運動というのは実にいい。
解析魔法をふんだんに行使した戦闘がまさかこんな副産物を産み出したなど、誰が思おうか。

「さぁ、服を探そう。好みのモノがあれば言ってくれ、試着室に案内する」
「すまないな」
「なに、気にしてくれるな」

こちらは既に報酬を得ている。
階段の昇り運動のおかげで、やや上にずり上がっているパンツスーツ。勿論の事ながらベルトはあるので腰から上に上がる事などない。
その皺寄せ部分は、各自想像して頂きたい。
例え変態と罵られようが、気にせずに妄想して頂きたい。

「お前はあれほど主になぜ尽くす?」
「…尽くしてる訳じゃないさ。……あれか願望を叶える時に八神に俺がツマラン事を吹き込むか不安なのか」
「……ああ。私はそんな経験を知っている」
「そりゃぁご立派な体験談だことで」

こりゃぁご立派な胸部だ。
ここだけ少し余裕を持たしてよかったと、今更ながらに再確認した。柔らかさもさることながら、凝りが布地に触れる事もいやはや、なんとも言えない。

「少なくとも俺はしないさ」
「なぜそう言い切れる?」
「俺は叶えられる願いが、必ずしも完璧に叶わない事を知ってるからな」
「は?」
「お、これとか似合いそうだな。着てみろよ」

試着室にシグナムを押し込み深呼吸する。
危なかった。会話内容もさることながら、分離した触手の限界が近そうだ。
やはり改善すべきだ。いや、いっそ下着としてプレゼントして連れ回すか?途中で下着がなくなる訳だが…保留。
スルリスルリと服が脱げていく。いやはや残念ながら時間切れらしい。

「つまり、お前は主に手を出さないということか?」
「それは、わからんさ」

あ、触手が消えた。
そう感じると同時に首を捕まれ、更衣室に引き込まれた。鏡に叩きつけられ、首を締め付けられ、剣を突きつけられる。
そしてそんなギリギリの状態であろうと、俺の分割思考は冷静に、そしてじっくりと、更にいうなら噛み締めるように
‐ナイスオッパイ
そう俺に囁いた。
首を絞められ、剣を突きつけられた俺。
下半身のショーツだけのシグナム。
場所は更衣室。
俺の状態がまともなら非常に歓迎すべき状況だ。
プルプルと揺れる肌色の果実を視界の端にしっかりと収めながらシグナムを見る。

「あの時の瞳は偽りか!」
「大声だすなよ…瞳で嘘を吐けるなら一人前だな」
「はぐらかすな」
「第一証明出来ないだろう。お前が俺を信用するなんて」
「……誓え」
「何を、誰にさ」

今ならお前のオッパイに誓えるわ。
もうなんていうか、幸せ空間が広がってる。

「主に危害は加えないと…主を助けると」
「それは無理だ」

キッと視線が強くなり、刃が薄く俺の頬を切った。
同時にややズリ落ちた俺の視界いっぱいにオッパイが広がった。オッパイが、視界に。

「お前は私に…あの優しい主の大切な友人を斬れというのか…」
「例え腕一本飛ばされたところで、俺は誓えないさ」
「何故だ!?」
「お前の理由を主に押し付けんなよ」

むう、素晴らしいオッパイだ。
こう下からタプタプしたい。

「それに、それは騎士の誓いだ。卑怯な俺が誓ったところで空論でしかない」
「なら、どうやってお前が安全だと、納得すればいい…」
「納得などするな。お前は俺を信用するな。信用など、思考の停止と同義だ」
「…………」
「常に警戒し、八神にとって危険なら、躊躇うな」

俺はもうすこしこのオッパイに躊躇いを持つべきなのか。もうタプタプしても怒られないんじゃないだろうか。

「……お前はそれでいいのか?」
「お前自身が言っただろ。俺は彼女の願いを叶える本でも、主を敵から守る騎士でも、八神を支える家族ですらないんだ」
「…………」
「俺ははやてと楽しむことを考える友人なんだからな」

もう少し、もう少し屈んでもらえると非常にベストなバストが拝見出来るのだが、否、俺がずり落ちれば。
おぅ……エクセレント。素晴らしい。絶景だ。

「…………お前が主はやてに危害を加えるなら、素っ首落とす」
「それでいい。それでこそだ剣の騎士殿」
「あぁ…では、私の変わりに他の三人の分も選んできてくれ、友人殿」
「極めて了解」




試着室から出てようやく深呼吸をする。
鼻腔の奥に残る甘い香りを肺一杯にしながら、ふと後悔する。
久しく分割思考なしで会話をしてしまった。考えなしが口を開くとやはり纏まらない。
溜め息を吐いて先程から暴走気味の思考を遮断する。あれが口に出ていたなら、俺はフィギュアよろしく着脱式の体になっていただろう。

カット。



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〜七夕のない織姫と彦星
彦星が乙女座と浮気したが故に天の川が一切出来ずに二人は永久に会えなくなった。

〜プロトタイプ【服】
感覚を共有したスーツタイプの服。実は細い触手で編まれた一品。対魔力と対衝撃に強くシグナムの着ていたモノなら一般魔導士が必死に作る収束砲程度なら余裕で防げる。だが都合上女性しか着れない
コレのお陰で今回の話が出来てしまった。誰かが試着室の話をしなければこんな結果にならなかった


〜この話のネタバレ
実は最後の地の文以外は全て分割思考
会話文は表に出てる思考が適当に喋ってた。

〜猫毛布(作者)
実は早朝からこの話を書き始め、電柱に二回、溝に四回突っ込んだドジッ子。ついでに前話では深夜の外で書いてたので職質を受ける程度に不運


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