小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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「よぉ、はやて。ごきげんよう」
「ん、なんや遅かったなぁ」

 ベッドに座っている彼女は微笑み、俺は表情を奥に押し込める。

「みんな大げさなんよ。ただちょっと転んだだけやっていうのに」
「みんなお前が心配なんだよ」
「夕君も心配してくれるんやろ?」
「アッハッハ、長期休みを先に体験しているお前を心配なんてするか」
「ハッハッ、最低やね」
「お褒めいただき感謝感激」
「患者観劇なんて、趣味悪いわぁ」

 近くにあった椅子を寄せて座る。
 彼女は苦笑して、俺の頬を抓る。

「痛いんだが?」
「ならいい加減笑ったら?ずーっと悲しそうな顔してるよ?」

 近くにある鏡を確認しても無表情な顔しか見えないのだけど?

「ほら」

 どうやら謀られたらしい。
‐どうしてこんな娘が犠牲となるのか
‐救う術を演算しろ
‐そして彼女が望み、彼女に幸福に恵まれる未来を

「そんな悲しそうな顔せんでええよ。死ぬわけやなし」
「そう、だな……」
「なんや、私が信じられへんの?」
「病人の言うことなんて一々信じれないさ」
「じゃぁ、指切りでもしよか」

 素早く俺の左手の小指を絡め取り見えるように持ち上げられる。

「そうやなぁ…来年のお祭りにみんなで行こか」
「あの夏祭りか」
「うん。絶対に、一緒に行くよ」
「あぁ……絶対に行けるさ。みんなで」
「約束は守らなあかんで?」
「絶対に守るよ。お前は来年までに完治して、夏祭りにいく。守るよ、その約束」
「ん、じゃぁゆーびきーりげんまーん、うーそついたら針千本のーます!」
「指切った」

 はやてはにっこり笑って指を離す。
 咄嗟に離れた手を取ってしまい、少しだけ気まずくなる
‐解析魔法展開
‐対象、八神はやて

「どないしたん?」
「いや、えっと」
「案外子供らしいところもあるんやね」
「うっさい、バカ」

‐解析完了
 手を離して、少しだけ熱い顔を背ける。
 クスクス笑っているはやてに少しだけ満足しながら、夕日だった事を嬉しく思った。
‐なるほど、以前よりバストサイズが
‐カット

 笑っていた彼女の声が消えて、夕日を眺める。

「ホンマはさ、ちょっとだけ痛いんよ?」
「……」
「ちょっと、うん。ちょっとだけやねんけどさ」
「そっか……」
「なんやねん、その微妙な反応は」
「俺には解らんからな」
「私の気持ちが理解されたら、恥ずかしくて死ねるわ」
「どっちなんだよ」
「どっちもなんよ」

 溜め息を吐かれた。
 はやてはずっと夕日を見ている。眩しいのか、目が少しだけ潤んでいる。

「もっと、楽しみたかったなぁ」
「楽しめるさ」

 俺は立ち上がって、はやての頭に手を置く。

「俺が、お前を守るよ。どんな運命からも、どんな悲しみからも、どんな苦境からも、守るさ」
「……なんや、それ。御伽噺の王子様かい」
「お前を守れるなら、騎士でも王子でも、友人でも、なんでもいいさ」
「……それはえっと、あれか、私にも心の準備というものがあってやな、そういう段階に至るにはまだ私らは少しばかり早いと思うんよしかしながら夕君がのぞむならバッチ来いといいますかムッハーキタコレといいますかブッ壊れといいますかというか私がブッ壊れてる?ハハハ何を言ってるんだねワトソン君私は常に正常だ正常にて異常だ既に何を言ってるかわからない誰か私を止めて今すぐトメテェ!!」
「お、おう」

 思い切って叩いてみた。
 それはもうベチンと音が鳴ると思うほど力を入れて頭を叩いた。

「ぉ、ぉーぉ…」

 数秒ほど頭を抑えて唸るような声を出したあと涙目で俺を睨む。

「あんな思いっきり叩かんでもええやろ!」
「昭和のテレビみたいに治ればいいかなと」
「アホかぁ!そんなんで病気とか精神病が治るなら医者いらずや!」
「ほら、はやて!オマエハキットタテルヨー」
「ワーホンマヤー。鼻にストローブッ刺して脳ミソ吸うたろか?」
「そういうプレイは勘弁してください」
「よし殺す」
「ヒィ!私には四人の妻と一人の息子が」
「おい!数が逆やろ!それが正しいとしたらそいつは殺す、今から殺す」
「四つ息子が付いてるとか、スキュラもびっくりだよ」
「もうええわ!」
「ありがとうございました」

 一段落。
 ゼェハァと肩で息をしているはやての背中を摩りながら呼吸を促す。
‐どうしてこうなった
‐どうしてもこうなった

「ホンマに……なんで病院で疲れなあかんねん」
「リハビリとか?」
「残念今治療中や」
「そいつはお大事に」
「それはどうも!」

 フイッと窓を向き、頬を膨らませる彼女に再度苦笑する。
‐さぁ約束は守らねばならない
‐八神はやての家族を守ろう
‐八神はやてを守ろう
‐家族全員で、夏祭りに行かせる為に
‐約束を、守ろう
‐その為なら目の前の障壁など、全て砕こう
‐さぁ、約束を守ろう

















「……」
「よぉ、騎士共」
「……気づいてしまったか」
「ついさっきな。まぁ大して怒ってねぇよ」

 スルっとシグナムたちの間を通り抜けようとすれば捕まれる。

「おい、ヘタレ」
「後ろ二文字の母音しかあってねぇよ。携帯ゲームめ」
「お前、何をする気だ?」
「ワンコは黙ってな。おーけー?」
「無理は許しませんよ?」
「ジュンサーさんでも連れて来いよ、ジョーイさんを攻略するためのダメジムリーダーはいないんだから」
「……」
「あと、離せよ。痛い」
「…ミカゲ、死ぬなよ」
「……知ったことか」

 掴んでいる手が放される。
 掴まれていたところを何度かさすって、守るべき騎士共に頭を下げる。

「お前らはたぶん帰る事になると思う」
「あぁ……そうか」
「なるべくは善処するし、どうせすぐに家長から呼び出されるさ」
「おい!何のはなジヴェ」
「ハーイ、ヴィータちゃんは黙ってましょうねー」
「んー!んー!!」




「すまない」
「謝るなよ、友人殿。私たちを無駄にではなく、主のために殺してくれるのだ。これほどうれしい事はないさ」
「それでも、一度でもアイツの家族を消してしまうんだ。許されるのならこの頭をいくらでも下げるさ」
「頭を下げられた程度の価値、か」
「全て終わったら、俺の首を落とせ」
「……本気か?」
「冗談でこんなことを言う趣味はない」
「シグナム…」
「安心しろ。お前の首にもそれほどの価値はない」
「だろうな。どうすればいい?」
「全て終わったら、私と全力で戦え」
「……は?」
「それが条件だ。なお場所、時間、規定は全て私が決める。異論は?」
「……それは、また、お高いことで」
「だろう?」

 ククッと口角を上げる俺たちにザッフィーの溜め息が響く。

「生きろよ、ミカゲ」
「さてね、試合をしたくない一心で逝くかもな」
「契約不履行ならば黄泉の国にでも殺しに行く」
「おっかねぇなぁ」

‐黄泉の国があるのならば、そこは俺にとって…
‐楽園でもねぇよ
‐どの世界も既に変わらないさ
‐俺が俺である限り
‐俺が、全ての荷を降ろさない限り
 カットカットカットカット。
 黄泉などあるわけがない。知っているだろう。
 理想を捨てろ。
 或るのは全て現実からの分岐路だ。


 その先にある、彼女にとっての至高を、俺はただ目指せばいい。
 簡単なことだ。








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〜昭和TV
 いいか、右斜め上から慈悲の心を抜きにした全力のチョップをするんだ

〜はやての願い
 「みんな」で来年の夏祭りに行く。ユウリンはその解釈をしてません

〜ジョーイさん
 「ジュンサーさん」という名前をポッと思い出せる人間はすごい

〜妻四人と子供一人
 エロゲの展開ってだいたい…

〜スキュラさん
 下半身が四頭だか六頭の犬の女性の化け物。伝承は場所によりけりなので、やっぱり柔軟性のある触手がうんたら





〜アトガキ
 色々やることが多くて、逃げ出しました。猫毛布です。
 サイトの作成が以外に時間掛かるというか、今現在手元にここまで書いている文がないのでなんとも。
 データ自体は実家に残っているので、土曜か日曜あたりに整理して、サイト作成して、うpします。
 たぶん書いてればやるはず。がんばるんだ、未来の私。嫌とか言うなよ!

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