小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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 目の前に現れた魔法陣。
‐解析
‐転移魔法陣
 現れたのは

「え?……なのはちゃん?フェイトちゃん…?」

 絶対に守らないといけない人。
‐カット
‐治癒完了
‐新規バインドにての拘束を確認
‐バインド解除
‐解除コードにエラー、追加バインド確認
‐解除コードに反応するバインドかよ
‐縛られる趣味はないっての

「はやて!」

 喉が震えて、かすれた声が出る。しかし彼女は振り返らない。
 コレは、本格的にマズイ。
‐否だ

「君は病気なんだよ。闇の書の呪いっていう」
「もうね、治らないんだ」

‐否

「闇の書が完成しても治らない」

‐否

「君が救われることはないんだ」

‐否
‐こんなバインド、解除しなくても
‐痛覚は切ってるんだ
 いけ!

「はやてェェェ!!」
「ゆ、夕…くん……」

 ブチブチと帯と何かが切れる音が鳴って、ようやくはやての前に立てる。
‐両腕一部の運動機能低下
‐治癒開始
‐治癒停止
‐空間解析を密に

「はやてが救われない?それは誰が決めたんだよ」
「運命」
「あーそうかい!運命が自分で切り開くモノとかカッコイイことは言えないさ、言う気もないし、運命は常に訪れるものだ」
「なら、早くそこをどきなよ」
「退くかよ。俺は、これを運命だとは言わない。はやては治るし、騎士達も帰ってくる」
「御伽噺だね」
「御伽噺でも、それを願ってるんだよ」

 今のところバインドの因子はない。
 後ろにいるはやては本当に転移をされただけで、まだ何もされてない。
 ここまで来ると自分の計画はほぼ潰されている。

「ゆ、夕……くん」
「はやて、すぐに助ける。そこでじっとしてろ」
「でも怪我、腕から血が」
「あー、そのあたりでコケちまったんだ」

‐酷いイイワケ
‐イイワケないよ
‐空間解析持続
‐回復魔法行使
‐転移魔法解析
 逆に利用してやるよ。

「そ、そんな、こけただけで、アホやろ!」
「うっせぇバカ」
「バカってなんやねん!こっちはな!アンタの事を心配して言うてんねんぞ!!」
「茶番は、やめろ」
「ッ」

 視界がブレる。同時に床がものすごく近い。
 ヤバイ。処理が、止まってる。それを自覚した瞬間頭に痛みが走り、腕に鈍痛が居座る。

「夕君!?フェイトちゃん!何しとんねん!」
「君が居るから彼はこうなったんだ」
「え……」
「はやて!聞くな!!」
「少し、黙ろうか」
「――――――ッ!」

 突然痺れと鋭い痛みが身体を縛ったがなんとか声を出さずに済んだ。

「夕君!」
「君がいるから、彼は怪我をする」
「君が生きているから、彼は無茶をする」
「君は、生きてちゃいけないんだ」
「誰からも生きて欲しいなんて望まれてない」
「この世界から消えてなくなればいい」
「いやや……」
「君は、彼からも世界からも、誰からも」
「望まれないんだよ」
「君が居るから、彼も死んじゃうね」
「いやや、やめて……」

 ダメだ、脳が元に戻らない。復旧が間に合わない。
 視界に僅かに映るフェイトではないフェイトが光るカードを向ける。

「君のせいだよ」
「ねぇはやてちゃん」
「アカン、やめて、おねがいやから……」
「運命って残酷だよね」
「やめてぇェェッェェェええええええええええええええええ」

 はやての絶叫と共に、首元にカードが落とされる。
 俺の首は生きている、生きてしまった。

 そこからは黒く、眩しい光が辺りを包んであまり見えなかった。
 咄嗟に目を閉じて、同時に魔法を展開する。
 使い慣れてしまった空間解析。久しく使う主思考の空間解析は相変わらずバカみたいな情報量を頭に運んできた。
 夜天の書の覚醒確認発光状況により視界混濁夜天の魔力質とほぼ同等の粒子確認フェイト・テスタロッサ高町なのは皇光のバインドが解除はやての生体反応増加魔力はにより瓦礫の粉塵が飛翔害なしフェイト・テスタロッサの接近を確認

「ユウ!」
「カット――ッ……ッテェ」
「大丈夫?」

 頭痛が酷い。あれだけの処理なんて一人でやってられるか。
‐思考混濁
‐カット
‐空間解析開始
‐八神はやての反応変化

「はやて!」
「ユウ!ごめん!」

 フェイトに抱えられて少し遠くのビルに着く。
 はやての方向を見れば、黒い光柱が空に伸びて、それが収まった。

「はやて……」

 そこに居たのは八神はやてではなく、銀髪で黒い翼を開いた。
‐八神が!フェイスペイントをしている!?
‐お、お父さんそんな子に育てた覚えはないんです!!
‐おおおおおちつつけけけ
‐ちょっと待てダメな言葉になってるよ!
‐オッパイがおっきくなってるよ!
‐シグナム達のデータから夜天の自衛プログラムと断定
‐アレに触れだって!?ウッヒャー!!役得じゃねぇか!
‐公開セクハラキマシタワー
‐オッパイよりも太ももだな!

「また、すべてが終わってしまった。いったい幾度、こんな悲しみを繰り返せばいい」
「はやてちゃん!」
「我は闇の書……我が力の全ては」

 夜天が手を上にかざす。顕れたのは、黒色の球体。
‐おい、誰かアレに突っ込めよ
‐冗談、今度こそズタズタにされちまう
‐魔力球じゃなくて中で微妙な魔力渦発生してる
‐ベルカの術式も詳しく調べとけはよかった
‐戦うなんて考えてなかったからな!

「これは、ヤバイ」
「空間攻撃…」
「高町に連絡、すぐに退避もしくは防御出来るようにしとけ」
「ユウ?」
「早くしろ」

 ヤバイ。こんな街中で空間攻撃とか、死ねる。
‐はやてはどう思うだろうか
‐はやての意思はあるのだろうか
‐はやてが望んでいるのなら
 カットカットカットカット。

「主の願い、そのままに―――――――デアボリック・エミッション」

 球体が空に浮かび、徐々に魔力の安定が綻び始める。
‐左手だけで防げるか?
‐否
‐退避は?
‐速度にもよるが、範囲指定不明により危険
‐防御魔法は
‐期待するのがオカシイ

「さっさと退避が勝ちか」
「え?」
「高町には……アレがついてるか」

 解析魔法で判断すれば、既に剣を盾にして構えているバカが高町をかばっている。
 アレは、任せよう。
‐痛覚遮断
‐強化開始
‐スフィアを退避起動に点在準備

「フェイト、すまん」
「え?」

 フェイトを抱えて、足場になっているスフィアを向けて地面を蹴る。
 スフィアを起動させ、魔力弾を踏みつけ、それの推力に加えてさらに加速する。
‐お姫様抱っことか
‐こう……もう少し抱え方があっただろ
‐オッパイが成長してたなら俵担ぎでとかおんぶとかでオッパイの感触がだな
‐夜天魔力接近
‐右足の損傷甚大
‐もたせろ
‐今は割ける魔力も思考も無い
‐だから、オッパイにはロマンが詰まってるんだよ!
‐ハッ!チッパイは男の夢を育てるんだぜ!
‐割ける思考はない!
‐魔力量から範囲を予測
‐安全圏までおよそ四歩
‐おいおい、お前ら、お尻っていう魅力を知らんのか










◆◆

「ギリギリだな……クソめ」

 ビルの影に走り込んだユウは疲れたように座り込む。

「ありがとう、ユウ」
「はいよ。あとその露出の多い服をやめろ。痛み以外で血が出る」
「血?……ッ」

 ユウの右足から出る夥しい量の血液。うっ血したように濁る足。

「ごめん」
「さっき聞いた。気にするな、大した傷じゃない」
「でも!」
「それよりも、高町達の無事を確認……と言っても状況的に見れば、敵みたいな俺に持ってかれてるお前の方が心配されてるだろうが」

 右足に左手を添えて、再度ため息を吐き出したユウ。
 そう、彼はセネターであってつい先程まで敵だった。そして今はいつものユウだ。
 私たちに情報を与え、助けてくれた、ユウだ。

「ユウ…聞きたい事があるんだ」
「……だろうな」
「ユウは、敵?」

 バルディッシュを握り直して、少しだけ緊張する。
 アリシアが新しく組んだ理論を取り込んだらしい相棒は、もう彼には止められない筈。
 セネターである、彼に。

「ミカタだよ」
「それは、誰の?」
「俺は、俺以外の、味方だ」

 ユウは至って真剣にそんな事を吐き捨てた。
 その顔は冗談をいうセネターにもいつものユウでもなくて。
 どことなく、私を助けたときのあの顔を思い出した。つまり、それは無茶をして

『フェイト!』

 考えていたことが大きな声でかき消される。
 頭の中に響いた声に少しだけため息を吐いて、反応する。

『ライト。無事?』
『こっちは無傷だ。確かバg……セネターに連れられてただろ!』
『うん。こっちも大丈夫……セネター、ユウが守ってくれたから』
『チッ……無事ならいい』

 舌打ち?ユウに守られた事がそんなに嫌だったのだろうか。
 チラリとユウを見れば、面倒そうに闇の書の方を見ている。

『とにかく一度合流しよう、対策を立てないと』
『あぁ!アルフたちももうすぐ来るからな』
『そうなの?』
『さ、さっき連絡があったんだよ!』

 アルフから?私には全く連絡が来ていないのに?どうしてライトにだけ?

「ユウ」
「ん……」
「一度なのは達と合流して」
「俺は一人で」
「―――――合流して、対策を立てるよ」
「あー、分かった、わかったよ。頼むからバルディッシュを下ろしてくれ」

 バルディッシュの刃を消して溜め息を吐く。
 こういう時、彼は無茶をするのは目に見えていて、それも母さんから色々と言われていた。
 自分では否定するクセに、母さんはユウの事を好きなのだろう。たぶん言ったら真っ向から否定されそうだけど。

「よし、じゃぁ行こう」
「足は?」
「直した。まぁ俄修理というか、もう無理だったからな」
「ムリ?」
「そ。故に人は化け物にまた一歩近づいたとさ」
「何、それ」
「偽共も言ってただろう?御伽噺の一節さ」

 相変わらず飄々としたユウはコンコンとつま先で地面を叩いて大丈夫な事を示す。

「どう対処するかねぇ」

 そんなユウの疲れたような言葉が、ビルに溶け込んだ。






******************************

〜解除コード
 バインドの解除に使うコード。言ってみればプログラムを「なかった」事にする命令文。双子戦士はバインドが破られたので簡単な式を組み立ててコードに反応するように追加バインドを仕掛けた

〜解除コード反応の追加バインド
 普通は魔力の放出で破られるバインドだが、ユウは元を解析して解除する方法でバインドを崩していたのでそれを逆手に取られた。魔力式は物理と数学やらのプログラムっぽいから有りかなぁとか

〜分割思考停止
 脳震盪による弊害。ついでに痛覚の処理をしていたモノもカットだよ

〜分割なしの空間解析
 慣れているユウでも10秒前後が限界。フェイト達までの距離大凡50Mぐらいだと思うので、自分を中心とする半径50Mの球中で起こる全ての事象に関して無条件で頭に情報がぶち込まれます。情報は座標変化と状態変化の両方を特に詳しくなっているので情報量がオカシイです。
 普段の処理は分割思考の一つが並列で処理して、さらにもう一つの思考が取捨選択しているが、今回は全て一人

〜割ける思考はない!
 ふぇいとたんのふとももすべすべできもちいいお

〜俄修理
〜御伽噺の一節
 俄と言いながら完治。しかしこれで彼に四肢は人間で無くなりました

〜剣を盾に
 たぶんデュランダル(絶世の名剣)あたりなら防げそうだと

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