小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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「ウオォオオ!」
「セァッ!」

 あー。
‐おいおい空気読めよ
‐見てみろよアレらを
‐見てるからこそだろ
‐剣と鎌と魔力拳の応酬だぜ?
‐アレに入れってか
 まだ中距離から隙を見て接触する方がいいわ。というか、マトモに考えてあんなの入れない。

「御影君、行くよ!」
「へいさー」

 もう本当に、英雄思考ってのは嫌になる。
‐スフィア展開
‐魔力弾精製
‐解析帯精製
‐まぁ解析できるかは微妙だけど
‐無いよりマシか
‐解析帯発射
‐解析開始

「……砕け」

 バインド破壊か。むぅ、こういう破壊の仕方が一般的なのか。
‐解析不全
‐微量な解析結果を計測
‐微細予測
‐初期予測値よりズレあり
‐誤差の範囲内
‐修正、再度予測開始

「シューット!」
「行け」

 スフィアから展開した魔力弾を全て夜天に向ける。
‐夜天より防壁確認
‐動きは止められた
‐しかし、刃が来る可能性が捨てれない
 というか、向かい左右の視界がまぶしすぎる。金色と桜色が眩しい。
 桜色に関してはもうそれって少女の魔法じゃなくね?デカくね?

「刃以て、血に染めよ」
「またかよ、まったく」

 フェイトに向かって魔力を放る。
‐魔法展開、簡易防壁
‐位置特定用の簡易サーチャーもつけとくか
‐迷子とか怖い
‐どこに居ても連携とか取れるし
‐連携なんて初共闘でないだろ
‐私メリー、今迷子なの……
 夜天の周りに刃が発生する。滞空するのに跳ねなくてはいけない俺にとっては至極避けづらい。

「穿て、ブラッティダガー」
「なのは!」

 迫る刃を魔力弾で落とし、ついでにフェイトに迫っていたモノも幾つか落とした。

『ありがとう、ユウ』
『気にすんな、ついでだ』

‐はいはいツンデレ乙
‐ここでツンデレとかねぇわ
‐べ、別にオマエのために落としたワケじゃないんだからな!
‐その防御壁もサーチャーつけるついでなんだからな!
‐普通にストーカーしようと思ってただけなんだからな!

 夜天が手を上に掲げる。
‐選手宣誓でもしようってのか?

「咎人達に、滅びの光よ」

 桜色の魔法陣が展開され、空中に散布されていた魔力が吸い寄せられるように集まっていく。
‐魔力の吸い寄せられ方は遅いけど
‐魔法陣解析
‐おうふ、コレは落ちるわ
‐今なら接触出来るんじゃね?
‐距離と集束率計測
‐触れた瞬間に落ちるわ
‐解析しても生きてなかったら救えないし
‐却下、退避する

『ユウ!逃げて!』
『言われずとも逃げてる』
『はや!?』

 正直、魔力弾を足で弾き移動する簡単なお仕事である。
‐なお足の損傷に関して当方では一切責任を負いません
‐ブラックだな
‐ブラックどころの話じゃねぇよ
‐転移でもいいんだけど
‐アレは消費魔力が多いから却下

『どれだけ離れればいいんだよ』
『できるなら、本当に遠くに』
『ナニソレコワイ。発案者の顔を見てみたいわ』
『……ごめんなさい』

 以外に近くに発案者いたよ。いや、世界は狭いな。
‐悪魔だろ
‐フェイトにとってトラウマだろうけどな
‐一回これで落とされてたか?
‐コレかどうかは知らないけどな

『おい!なのはを泣かすなよ!』
『なんだ、高町泣いてたのか』
『な、泣いてなんかないもん!』
『だそうだ、俺は泣かしてない』
『ウッセェ!オレのなのはに手を出してみろ!絶対に殺すからな!』

 あーはいはい。
‐一々煩いガキだな
‐ガキだからうるさいんだろ?
‐念話を遮断
‐サーチャーから考えればあいつは傍にいないのか
‐どういう逃げ方をしたのか
‐高町と一緒に刃くらってなかったけ?
‐あー、空間解析をあっちに向けてなかった

‐サーチャー、動作停止
 は?機能自体は動いてるな。
‐つまりフェイトの移動が止まった?
‐逃げろと言ってた本人が?

『おーい、その距離でいいなら俺はもう逃げ』
『ユウ!一般人が近くに居るんだ!』

 本当に?とは聴かなかった。
‐サーチャーより場所特定
‐一定空間を解析
‐半径100M圏内を解析
‐生体反応あり

『おいおい、面倒な人間だな。放置して逃げろよ』
『ダメだよ!早く見つけないと!』
『見つけてどうするんだ?死んでも運が悪かっただけだ』
『そんな言い方……』
『それが現実ってものだ。高町、12時方向にいるぞ』

 生体反応が動いている。
 こんな意味のわからない状況で動くアグレッシブな人間なら空に浮かぶ桜色の光から逃走するだろ。
‐巻き込まれても単なる事故だ
‐運が悪かったな、人間
‐いやぁ運が悪いと気付けてよかったじゃないか
‐君には運を見抜ける才能があるよ
 程度の事をいってさよならするべきだ。

『すずか、アリサ……』

 ……。
‐サーチャーより場所再度特定
‐集束砲撃着弾確認

「厄介な能力だな!畜生め」

 我ながら嫌になってくる。
‐転移陣展開
‐サーチャーと空間接合
 走っていた勢いのまま赤黒い転移陣に突っ込む。

「御影君!?」
「防御展開はそのまましとけ」

 高町の後ろにいるフェイトと目が合い、驚かれた。さらにその後ろにはバニングスと月村を確認。どうやらまだ無事なようだ。
‐集束砲撃解析
‐四人抱えて安全領域に離脱
‐不可
‐転移魔法行使
‐時間不足
‐左手による防御
‐面積不足


‐アンヘルの展開を選択

「あんまり、見てくれるなよ」

 迫る桜色の方を向き、左手に埋まる赤い石に少しだけ触れる。
 もし意思があるのなら、どうか俺と一緒に耐えてほしい。どうか後ろにいる大切な人達を守れるだけの盾を、壁を。

「アンヘル」

 まるで声に応えるように、赤い石が少しだけ光った気がした。


 グジュルと赤い石から赤黒い触手が生える。
 左腕を飲み込み、地面を穿ち、体を飲み込み、壁を作り上げた。
‐対魔力性能は上々
‐吸収効率上昇
‐集束砲撃着弾
‐吸収開始

「ユウ!」

 煩い。早く転移準備しろ。

「御影君!!」

 うるさい、吸収率下がってるんだ。







 数十秒ほどに渡る余波を耐えて、ようやくアンヘルをしまう。
‐内部に損害なし
‐結果は上々か
 左手に僅かに残る触手、それも意識して直し、ようやく息を吐く。
‐魔力を吸収した端から防壁に使うとか
‐本当に恐ろしい魔法だことで
 途端に何かがこみ上げてくる。咄嗟に手で口を覆う。

「ゲホッ、ゲウェェ……」
「御影君!?」

 近づいてきた月村を左手を向ける事により制止させる。
 ベチャベチャと地面を汚していく真っ赤な何か。生ぬるいソレが手で覆い切れずに地面に落ちていく。

「血……!?」
「ちょっと!すずか!」
「御影君……」

 左手がソっと掴まれる。咄嗟に振り払おうとしたが、強い力で掴まれている。

「ゲホッ、おい、血がつくから離しなさい」
「やだよ……」
「あー、ケホッ、もう……」

 何度か咳き込んで、血がもう吐き出されないことを確認して、唾液を吐き捨てて、口を乱暴に拭う。

「俺は大丈夫だから」
「大丈夫じゃないよ……」
「大丈夫だって。そんなに不安そうな顔をしないでくれ」
「うん……」
「あと左手を離してくれると嬉しい」
「それは、ダメ」

 おいおい、左手にアンヘルが戻ったところは見えてただろ。
‐怖いもの知らずだな
‐怖いもの見たさかもよ
‐つ、つまり触手で襲っても
 カット。

「ごめんな」
「……どうして謝るの?」
「気持ち悪いもの見ただろ?俺はさ……化け物なんだよ」

 言い逃れができずに、結局言ってしまう。
 掴まれている手がさらに強く握られる。化け物の証である手が、月村に握られる。
 月村に目を向ければ、視線が合う。

「――ねぇ、化け物さん。あなたの命は価値があるのよ」
「――ないさ。私は誰にも必要とされず、蔑まれ、嫌われた、化け物だ」
「――なら、その命、私にちょうだい。あなたと一緒に居たい、私にちょうだい?」
「――物好きな少女。君にこの命をやるのはもう少しあとのようだ」
「や、――約束よ、化け物さん」
「あー、もう演技も必要ないさ。転移させるから、そこでジッとしけよ?」
「え、あ、うん。……ねぇ、ゆ…御影君」
「ん?」
「またね?」
「……あぁ、またな」

 転移陣に月村を押して、息を吐く。
‐結界内を確認
‐反応なし
‐安全圏まで転移したか
‐管理局に感謝とかしたくないけどな

「あー、なんでお前らは赤くなってんだよ」
「え、いや、だって」
「い、今のって、こ、告白だよね!?」
「は?……あー、言われてみればそうだったな」
「え?気づいてなかったの?」
「いや、まともに考えて月村が俺に告白をするか?無いだろ」
「……」
「……」
「アレはいつもの小説引用さ。まぁ微妙に違ってたりしたけど、その延長であり、俺にとっては転移の為の時間稼ぎで、月村にとっては…緊張をほぐす何かだろ」
「なんだろう、すっごくすずかちゃんが可哀想」
「なんだろう、どことなく安心したような」
「え?」
「え、えっと。ほら、すずか達も安全なところにいったし」

 どうして俺は睨まれないといけないのだろうか。全く身に覚えがないことで睨まれてる気がする。
‐セクハラ思考がバレたか?
‐なん…だと…!?
‐すずかタンの話からだろ?
‐あ、あれか引用元を言ってないからか
 カット。それならば、また今度本を貸そうではないか。


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〜私メリー、今迷子なの
 私メリー、最近はGPS機能とか付いててすごい便利ね!

〜厄介な能力
 大切と思ってるモノに対して発動。否定すると確実に守れなくなるので助けるしかユウリンに選択肢はない

〜吐血
 擬態魔法で隠してるけど、触手の前面展開とかしてたら侵食が大変な事に……

〜―ねぇ化け物さん
 メドゥーサ男と人間娘の恋愛小説。メドゥーサという化物である事を卑下して森に住んでいた男の元に何故かやってきた娘が訪れるところから始まる。ご存知だとは思うが、架空小説

〜告白だよね?
 え?相手は気づいてないよ

〜不憫なすずかタン
 ちょっとだけ舞い上がってたけど、ユウリンが至って普通の反応をしたので気づいてないことに気づいちゃったすずかタン。でも頑張って【ゆう君】と呼ぼうとしたけど、勇気が足りなかったらしい。
 現在裏でアリサに
「よかったじゃない」
「でもアレ、気づいてないと思うよ?」
「……アレで?」
「うん、アレでも」
 という会話をしてたり

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