「……」
私は隣にいたフェイトちゃんと一緒に固まっていた。
救出されてから約七時間、この医務室を占領していた人間が消えたからである。
確かに、ここの艦長さんから『いい加減に寝なさい』と言われて眠っていた。そこまでは、居たはずだ。
そして、ここに来る前にフェイトちゃんに確認したところ、『映像で確認したけど、まだ起きない…』と少し悲しそうな顔で言われた約五分前。
医務室で眠っていた彼が、消えた。
「……ハッ!夢か!」
「はやて、落ち着いて。残念だけど、100%現実だから」
「……いっそ夢であって欲しいいんやけど…」
「私も、そう思う」
「はぁ」
「はぁ」
お互いの溜め息が医務室に広がったところで、ようやく冷静になって考える。
一応、保護観察状態である自分とほぼ同じ状態、というか海に浮かんで私達の一斉砲撃の余波でボロボロになり私より酷い状態の彼はどうしたのか。
『二人ともごめん!すぐに技術室に向かってくれる!?』
「エイミィ?」
「技術室?」
『そこに彼が居るから止めてあげて!!というか、こっちの制止を全く聞かないんだよ!!』
「…すぐ行きます」
『よろしくね!』
「はぁ…病み上がりの体ってわかってるんか?」
「はやてもだけどね」
「しー。今は夕君の話や」
車椅子を押してくれるフェイトちゃんと苦笑しながら、車椅子は技術室に向かう。
自動で開く扉を開くとそこには宙に浮くディスプレイが所狭しと並んでいた。
「アリシア、そこのデータ、もう一回チェック頼む」
「いいけど、あんまり無茶してると私がフェイトに怒られるんだよ?」
「あー、ドンマイ」
「アッハッハッ、この作業が終わったら、私ユウちゃんを殴るんだ…」
「なんだ作業を増やしてほしいのか、」
「ホントにごめんなさい。これ以上はムリだよ!」
金髪で白衣を着た少女と黒髪で白いポンチョを着せられた少年がそのディスプレイを見つめて手元のキーボードを叩いていく。
「ちょ、ちょっと夕君なにしてんねん!病み上がりやろ!」
「はやて、フェイトおはよう」
「あ、おはよう。ユウ」
「ってそこやないやろ!!フェイトちゃんも何をのんきに挨拶なんかしてるんや!」
「一日の始まりに挨拶は基本だろ。全くこれだから最近の子供は」
「アンタも最近の子供やろ!!」
「え、っと。とりあえずはやて落ち着いて」
周りを確認すると白い目でコチラを見ている白衣の人たちとクロノ君。そして苦笑するリィンフォース。
リィンフォース?
「え?なんで?」
「いやぁここまで機材が揃ってるとやれることが違うね。お兄さん少し頑張っちゃったよ」
「これで少しって言うなら全力になった時には地球破壊爆弾でも作れそうだね」
「21世紀の技術を今ここに!なんてね」
「とりあえず四次元ポケットを準備しないと」
「確か四次元軸は『時間』だったか?軸になるんだったら戻れる前提だから、先にタイムマシーンか」
「いっそ別の軸でも…あ、ダメだ、時間を停止させてないと物が腐る」
「ならまずはタイムマシーンからだな」
「ちょっとまてぇええい!!」
思わず声を出してしまった。
発言的にアウトとかそんなのじゃなくて、話の脱線の仕方がオカシイ。
「んで、あたかも私がオカシイみたいな目でこっち見んな!!脱線した話の時はディスプレイ見てたクセに!!」
「病み上がりだから、ほら、はやて、あなた疲れてるのよ」
「なんやねん!あれか、そのまま適当に言い逃れするつもりか!?ふざけんな!」
「で、やってることだけど」
「話が戻った!?このタイミングで!?」
「リィンフォース?まぁ夜天の調整と騎士プログラムの改正か」
騎士プログラムの改正…。
「やらんとは思うけど、シグナム達をどうするつもりやねん」
「違う違う。どうにかするのは【夜天の】の方だよ」
夕君は苦笑して、またディスプレイに顔を向ける。
「騎士プログラムは、烈火の将、風の癒し手、紅の鉄騎、蒼き獣の四つのプログラムによって構成されている。もちろん四人の中のプログラムは一切いじってないけど…。さっきヴィータとシャマルの解析をして一致するプログラムがあったから、ソレを元に【夜天の】に新規プログラムを作成、あとは融合機能を維持、蒐集機能や魔力は主に譲渡する形で話はついた。今は断片データから得た過去の夜天プログラムを復元、修正、新規プログラムとの齟齬を計算中だ」
「……ごめん、もうちょっと簡単に頼んでええか?」
「…毒蛇だった闇の書が魔法使いの手によって姫の握る剣に、姫を守る盾に、姫を救う騎士となりましたとさ、っと」
叩く手が止まり、リィンフォースが少し発光する。淡い朱色の光に包まれたあと、光が収まり、リィンフォースの瞼が上がる。
「新しい体はどうだ?」
「えぇ、以前とかなり変わりましたが…昔と殆んど変わらない、いえ、昔よりも調子がいいんでしょう」
「そいつは良かった。アリシアもご苦労様、助かったよ」
「あ゛ー。こっちもいー経験になったよぉーぉー…これでユウちゃんの作業量こなそうとすると何日かかるのさー」
「ざっと能力見てたけど、アリシアだけなら大体二ヶ月徹夜続けて誤差とエラー大量にあるけど8割完成でぶち込める程度か」
「ひょーかがきつぃー」
「まぁ助かったさ」
「主」
「あ、うん」
「私はあなたを数年蝕みました。それは私にとって仕方がないことでも、事実です」
「…うん」
「あなたの大切な人を傷つけ、そして世界を壊そうとしました」
「……」
「そんな、私を」
「ちょい待ち」
「……」
リィンフォースの言葉を遮り、溜め息を吐く。
どうして私の周りにいる、というか私の騎士はここまで責任感が強すぎるのだろうか。
「まぁ、色々あったよ。あったけど、今はまず言わなあかん事があるんや」
「……」
「おかえり、リィンフォース」
「……ハイ、ただいま戻りました、我が君」
私がギュッと抱きしめてやると、リィンフォースの顔を当ててる辺りが少し濡れて、暖かい。
とりあえず、また夕君に借りができたらしい。尤も彼はコレを貸しだとも思ってないのだろうけど、貸しは貸しだ。
「さて、ミカゲ。もういいだろう」
「あぁ、これで重畳にて十全。悪いな、無茶を頼んだ」
「いや、危険性を考えれば君の意見を通すのが一番だった。貸し1だ」
「おいおい、危険を取り除いてやったのに借り1かよ」
「君が頼んだからな。どうせ僕から頼まなくてはいけないことだったが、貸しは貸しだ」
「まぁここまで連れてこさせたのもあるからいいんだけどな」
夕君とクロノ君が話をしていて、クロノ君が夕君の手を引いて扉を出ようとする。
「ちょ、夕君をどうするん!?」
「コレは起きてすぐにここに来たんだ。状況報告も聞きたいこともある。ついでにメディカルチェックもまだだ」
「いやん、管理局に犯される!!」
「連れてって」
「あぁ」
「おい、お前らその反応は普通に傷つ」
夕君が引きづられ、言葉の途中で扉が閉まった。どうせロクな事も吐いてないので、まぁいいとしよう。
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〜謝罪
エピローグなのに二つ以上に分かれそうな事を先に謝罪。アトガキなのに【先に】とは如何に?
まぁはやての終わりが今回の話になるので、区切る事にします
〜ネタがわかりやすい
というかネタを挟むまでもなく、メタメタしい発言をしていたので、いいかなぁとか
本当にごめんなさい
〜『夜天の』
夕君はリィンフォースを認めた訳でなく、軽く警戒している為、二つ名呼び
〜アリシア一人<ユウリン一人
まだ普通の一般少女よりも頭の回る程度の少女とバケモノを比べる事自体オカシイ
〜アトガキ
どうも猫毛布です。引き続き後書きに失礼します。
androidで文字化けがあったらしく、ご迷惑をお掛け致しました。私ができる事はかなり少ないのですが、出来る限りは改善いたしました。
あとアンドロイドブラウザでの確認も一応して、大丈夫だと思います。
また文字化けや誤字脱字などありましたら、お知らせください。微力ながら尽力します。