小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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 酔ったのは、いつぶりだろうか。
‐この世界での記憶はないよ
‐前よりも後であることは確かだ
‐バカ野郎どもに飲まされたっけか
 カット。思い出したところで俺の体調が戻るわけでない。
 自販機で水を購入して、ベンチに座る。

 ありきたりな表現だが、空が遠い。雲ひとつ無い空だから余計にソレを感じてしまう。
 こんなに綺麗なら、ここまで綺麗なら、俺ぐらいの汚れも存在していいだろう。

「いや、どうだろうか…」
「君、ちょっといいか?」
「……」

 首を上から前に戻し声の主を見る。
 見た目で判断するなら好青年だ。まるで好青年を絵に描いたような人物だろう。

「確か、高町さんの家で見た顔だ」
「高町 恭也だ」
「自己紹介どうも、ワタクシ、御影 夕といいますです」
「……君は、ナニだ?」
「……」

 意識をようやく彼に向ける。
‐殺す気の相手に意識を向けることの疲れること
‐腕に棒を仕込んでる人間だぜ?
‐キャーオマワリサンタスケテー

「で、高町さんのお兄さんが俺に何かようですか?」
「さっきの質問に答えろ」
「さもなくば、その隠した棒で殴りますか、そうですか」
「……」
「その距離で必殺できないでしょう。どれ、もう少し近くに来ても」
「…御神を舐めるな」
「どうせ殴る覚悟もない人間が、吐くんじゃねぇよ」

 彼の姿が消えて、目の前に木刀だろう影が振り下ろされる。
‐回避可能
‐どうせ回避可能域での攻撃だ、メンドくさい
 ピタリと頭の直上で止められ、高町兄の目を見る。
‐ふむ、本気だったか
‐はてさて、何か気に障ることでもしたかね

「なのはにこれ以上近づくな」
「……は?」
「……返事は?」
「それ以前に、理由を言ってください。まぁなんとなく解りますがね」
「君には悪いモノが憑いている。ソレに、なのはにはアイツがいるんだ」
「なら忠告する意味はないでしょ?アレに何かしらの不安でも?」
「アイツは俺に誓ったんだ、なのはを守ると。真っ直ぐした瞳でな」
「そうですかソーデスカ」

 あぁクッソ面倒だ。
‐アンヘルに反応できてるだけならよかったのに
‐あぁシスコンめ
‐シスターコンプレックスめ
‐牧師にでもなるべきだな
‐撲師にならなれそうだ
‐カエデ物語にでもお帰りください

「もういいですか?面倒すぎるんですけど」
「なのはにもう近づかないか?」
「彼女に近づいたことは今まで一度程度ですよ。それも義務的なモノだ。それ以外に彼女に近づく意味がなかったので」
「アイツは可愛いぞ」
「あなたの思考が妹依存だということを理解した」

 理解したから帰りたい。
‐帰って寝たい
‐酔ってるからな
‐歩行に問題はないけどな

「じゃぁ、帰ります」
「……ライトは君みたいに弱くはなかったよ」
「そうですか。貶して戦いに持ち込まないでください、賭けてイイ物もないんですよ」
「…ライトはノってきたけどな」

 殺気を隠してからモノをいいな、坊や。





◆◆

「あれ?夕君は?」
「えっと、体調が悪いんだって」
「…ふーん。ちょうどええわ」

 隣にいたすずかちゃんの手を掴み、近くの席に座らせる。
 向こうの方でバカがバカ騒ぎしてるけど、喧騒としてバックグラウンドとしては優秀だ。

「すずかちゃん」
「なに?」
「夕君の事、好きやろ?」
「っ、けほ…けほ…え、え?」
「うん、ごめん。まさかそこまで驚かれるとは思わんかった」

 とりあえず口を隠しているすずかちゃんにお手拭きを渡す。

「いやぁ、一緒の人間を見てる人間として牽制とかしとかなアカンかなぁとか思ってんけど」
「はやてちゃんも…だよね」
「うん。私は夕君の事が好き」
「私も、御影君のことが好き」

 お互いに相手の気持ちをわかったところで、何も変わらない。それは彼女も知ってることだろう。

「守る、とか言われたらそれは嬉しいやん」
「確かに、シレっとしながら守って、当然の様にしてるもんね」
「姿形じゃなくて、性格よな」
「頭もいいよね」
「シグナム…あー、例え自分にとって危険でも守る為ならどんな事もするんやで?」
「でも、弱った御影君も可愛くてよかったよ」
「ええなぁ。実は顔が可愛かったりって知ってた?」
「ホントに?」
「ホンマホンマ。眼鏡外してちゃんとした格好したら、アレは伸びるね」
「王子様みたいだね」
「彼に言うてみ、爆笑するで」
「そうだね」

 お互いクスクス笑いながら共通の話題で花を咲かす。
 私達は夕君の事が好き。好き、なのだが。

「問題は本人やからなぁ」
「私告白したのにスルーだったからね」
「うわぁ…私なんて告白紛いされて、名前呼びから苗字呼びに戻ってんで?」
「御影君酷いね」
「やろ?」

 本人は私達の気持ちに気づいてない。
 つまりだ、ココで小競り合いして相手を蹴落とした所で得はない。城を攻める前に野垂れ死にするのはお互い本望では無い。
 ならば城を落としてから、話を纏めてしまえばいい。

「ほな、共同戦線ということで」
「うん。御影君が私達を意識し始めた辺りから競えばいいよ」
「どちらかが夕君に好かれても、もう片方はソレを応援する」
「……寝取りとかは…」
「なしやろ。随分な事考えるんやね」
「えへへ」

 可愛く笑って話を流そうとしてるが、目が冗談でないことを語っていた。

「まぁ夕君が二人とも選んだらソレはそれでええねんけど」
「英雄色を好む、って言うしね」
「英雄みたいな存在じゃないけどなぁ」
「それでも、私達にとっての彼なら、それでいいよ」
「そやね」

 今はそれでいい。
 ここから先、何があっても私と彼女の関係は彼を求め続ける限り変わらないだろう。

「…ほな、サクッとパーティから抜けてお見舞いでも行こか」
「うん。あ…」
「どないしたん?」
「はやてちゃんは、御影君の家知ってるの?」
「……すずかちゃんは?」
「知らないよ…」
「なんや、最初から計画破綻かいな」
「二人ともユウ知らない?」
「体調が悪いらしくて帰ったよ」
「体調が…まだ戻ってないのかな……ちょっと見てこようかな」

 その言葉に反応した私とすずかちゃんの行動は早かった。
 というよりほぼ同時に手を伸ばし、フェイトちゃんの腕を掴んだ。

「フェイトちゃん、夕君の家知ってるん?」
「え、あ、うん。何度も行ってるし…」
「……」

ーコレは、危ないんやない?
ーそういえばフェイトちゃんが転校した時に言ってたような
ーあれや、二人して争ってて漁夫の利される所やったんか
ーダークホース現る、だね
ーまぁ何はともあれ、一番警戒せなあかんやろね
 ここまでアイコンタクト。もちろん、正常に通じあってるかは定かではないが、頷いたのは同時なのできっと通じてるだろう。

「私達も行きたいんやけど」
「別に大丈夫だと思うけど…」
「よかった、じゃあ行こうか」
「え、ちょっと待って、なのは!ちょっとユウのお見舞いに行ってくるね!」
「オイ!フェイト待てよ!」
「ごめんねライト!行ってくる!」
「さー、フェイトちゃん行こか」
「あ、ちょっと転けるから、ってなんで車椅子なのにそんなスピード出せるの!?」
「これが、マジカルや」
「思いっきりフィジカルだよ!!」

 なるべくバカに引き止められないように、私達は彼の城を目指す事になる。
 チリン、と私達をベルが見送った。



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〜悪いモノ
 彼らならば、アンヘルにも気づきそう

〜シスターコンプレックス
 修道女さん。朝起きれば神に祈り、食事で祈り、寝る前に祈る、神の所有物。そんなシスターさんにハァハァしてしまう人を指す言葉

〜シスコン
 そういうシリアル食品があってだな

〜撲師
〜カエデ物語
 作者は詳しく知らない。がそういったネトゲがあり、そういった行動をする人間がいる。程度の認識。これに関してのツッコミは受けず

〜水面下抗争
 鈍感を攻略するために手を組んだ夜天の姫と吸血姫の話。手を組んで両方に利を得るが、実は意図しない所に最強の敵がいたりした

〜マジカルではなくフィジカル
 車椅子を漕ぐ手はマジカルではない。物理運動により発生する、フィジカルだ

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