小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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「あ゛…」

 喉が痛い。頭が痛い。
‐二日酔いの症状だ
‐人間の思い込みの力か
‐いやはや、すごいものだ
 とにかく、水がほしい。

 グラスに水を注いで、一気に飲み干す。
 時計を確認すれば、いつもの時間だ。
‐日常だな
‐あぁ、日常だ
‐もう一杯水を飲んでから出よう
 そうだな。そうしよう。







 この朝に走るという行為も何年も続けていればそれなりの距離になる。
 最初は家の周りだけ。次は少し遠くになり。そして今は瞬間的な移動も含めた鍛錬となっている。
‐寒いな
‐冬だからな
‐あぁ、もうすぐ新年か
‐ハッピーニューイヤー
‐アンハッピーニューイヤー
‐迎えてしまう
 カット。至極、どうでもいい。

「なるほど、ここを走っていたのか」
「……確か、高町さんの」

 立っていた人に声をかけられ、止まる。
‐あの兄の親か
‐ふむ、どうするべきか

「高町 士郎だ」
「御影 夕です」
「あぁ。一緒に走ってもいいかい?」
「まぁ、構いませんが…」
「ありがとう」

 止まっていた足を動かし、いつもより少しだけゆっくりのペースで走る。
‐ガキがランニングする速さじゃないんだけどな
‐成人男性程度のスピードだから普通だろ

「恭也が悪いことをしたね」
「…いえ」
「あの子はまだ不器用なんだ、許してやってほしい」
「許すも何も、当然の行動でしょう」
「そう言ってくれると助かるよ」

 ハッハッハッ、と軽快に笑う男性。
‐苦手だな
‐態度はマシだが、兄と変わらんな
‐あの子供に、この親あり
 カット。判断は早いさ。

「僕はね、この年になって色んな人を見てきた」
「……」
「もちろん、これでも危ない橋も渡ってるんだよ?」
「…それがどうかしましたか?」
「君の目は、その危ない橋で何度か見かけた」
「……黒目なんて幾人も居るでしょ」
「そうじゃない。どういえば言いか……君にはやろうとしている事がある…違うかい?」
「……気のせいでしょう」

 やはり、苦手だ。
‐人の心に容易く踏み込んでくる
‐あぁ、面倒だ

「復讐は何も生まないぞ」
「…復讐だなんて、そんな人生は歩んでませんよ」
「そうかい?僕には中々の修羅場をくぐり抜けた人間に見えたが」
「それこそ気のせいです。僕は一般的な人生を悠々と歩いている、単なる子供です」
「……ふむ」

 男性の走るスピードが上がり、容易く抜かれた。
‐身体強化
‐痛覚遮断
‐おいおい、マジかよ
 左足を軸に振り向く。浮いた右足が遠心力を加えて走っていた俺に迫る。
‐回避可能
‐回避ルート判断
‐坊やと違って当てる気かよ
 地面に着いた足で後ろに跳んでも避けれない。後ろに退路がないのなら、踏み出せばいい。
 左手を迫る右足に添えて、少しだけ前に跳ぶ。
 加えられた遠心力が体を加速させ、縮めた腕を伸ばし射程から完全に逃げる。
‐眼鏡を掠った
‐目測を見誤った
‐受身体勢
‐眼鏡が飛んでいったな
‐メガネが無ければ即死だった

「単なる子供なら、今のはしゃがんでたよ」
「……探りで殺す気か」
「とんでもない。普通の子供だったらしっかりと直前で止めるさ」
「……アンタは、苦手だ」
「嫌われる事をした自覚はあるよ」
「……構うな」
「それは断らせてもらう」
「……」
「さっきも言ったが、僕は色々な人を見てきた」
「たいした人生だ、人間なんざ有色なんだ。色は様々さ」
「復讐は何も生まないぞ」
「……」
「やめておけ。達成して、君はどうする」
「……アンタは、間違ってる」
「そうかい?我ながらいい推理だと思ったんだが」
「俺は復讐と縁遠い人間だ……常に予習しているだけさ」
「……フフ、アハハハハ。なるほど、そうか、そうか。フフ」

 こちらに手を伸ばし、膝をついていた俺を起こす。

「悪いことをしたね」
「…いえ」
「ふむ、眼鏡は僕が新しく買っておこう」
「いや、度数とかもあるんで」
「片方は割れていないだろう?これで作ってもらうさ」
「あー…互いに度数が違うんで」
「なら今すぐに知り合いのしている眼科に行こうか」
「もう、いいです。その両方その度数で」

 ダメだ、やっぱりこの人は苦手だ。
‐全敗だ
‐勝ちなんて元からなかったのさ
‐つまり負けもないのだ
‐勝負ではない不精なのさ
 カットカット。












「で、お前は何用だ?ハラオウン」
「朝早くにスマナイ、少しいいかい?」
「ランニングの後だから、まぁ構わないが…何故俺の部屋を知っている」
「フェイトから聞いた」
「あいつは歩く電波塔か何かか?」

 行く先々で俺の所在を発信しているのではないか?
‐一応管理局お断りなんだけどな
‐拒否登録するべきだ
‐残念な事に電波塔が独自で電波は発信してやがる

「とにかく入ってくれ。話はシャワーの後でいいか?」
「もちろんだ」
「朝食をとりながらでも?」
「もちろんだ」
「一緒に入るか?」
「も、げふんげふん何を言ってるんだ!!」
「冗談だ。落ち着けよ天才殿」
「タチの悪い冗談だ」
「ネコが良い冗談でも困るさ」

 いつでもユーモアを忘れてはならない。
‐朝早くからお盛んですね
‐近所迷惑も考えてくれ
‐まぁ隣は今空部屋なんだけどな
‐エアメールが間違えて投函されてたんだっけか
‐そのあと謎の停電やらがあったそうな
‐おー怖い怖い
 カット。ご近所さんは何も悪くないさ。




「で、話ってのは?」
「君に少し聞きたい事があってな」
「俺に?」
「無限書庫での書類書き換えの件だ」
「……一応全て直した筈だが」
「そこだよ、ミカゲ」

 どこだよ、少年。

「君の能力に管理局が目をつけた」
「難癖をつけられた方がまだマシだったな」
「ご尤もだ」
「……詳細を聞いておこう」
「不明の民間協力者を探し出そうとする動きがある」
「新年を迎えそうってのに、ご苦労なこって」
「こちらではそうでも、ミッドでは違うんだよ」
「なるほど。で、その民間協力者の所在を知ってるのは?」
「ボクと母さん…艦長だけだ。今はね」

 それは、中々に悪いことをしている。
‐いっそ投降するか?
‐バカ乙
‐投身でもしてろ
 カット。

「実際、協力者を隠し通すには少し面倒が生じていてね」
「……そういえば、どこぞの考古学者紛いの少年が無限書庫にいたな」
「彼をスケープゴートにする気か」
「司書ということで雇っていればいいだろ。アイツの検索能力も素晴らしいモノだ」

 実際、検索能力だけでいうなら俺より優れている訳だし。
‐スクライアは犠牲となったのだ

「将来的に見ればそうだろうが…」
「アレも二つ返事で快諾するさ」
「…もし彼が断ったら?」
「断る理由が見つからない」
「君の能力を彼は知ってるだろ」
「アイツはなかなか頭も回る人間で且俺の管理局嫌いも知ってる。尚且つ、無限書庫司書だなんて適役、逃すわけないさ」
「……まぁそうなればいいが」
「そうなることを願うよ」

 尤も、そうならなくても、俺が管理局に入ることはないだろう。
‐あんなところに誰が入るか
‐クソめ
 まったくだ。

「あともう一つ」
「まだあるのかよ」
「気を抜いて聞いてほしい。コレは僕の仮説だ」
「聞こうか」
「上から送られてきたとある民間協力者の改竄データの確認をしていたんだが、おかしなモノを見つけてね」
「それはまた甘そうだ」
「いや、随分と苦い物だったよ」
「……」
「改竄のほとんどは夜天の書に関するモノだったんだが、他にもあってね。ベルカとミッドの術式混合説について、ロストロギアに関して、そして犯罪者リストだ」
「で?」
「このリストが中々の苦さでね。内容は【管理局に害を及ぼす人間】のリストだった。それも改竄されていたんだ。もちろん改竄されていた、という事実だけで、どこが改竄されているかは不明だ」
「それで、お前さんの仮説は?」
「もしかすると民間協力者はこのリストに載っていたかもしれない」
「……」
「……」
「ふむ、なかなか面白い仮説だ」
「だろう?」
「だがね、仮説だ」
「そうだ。これは仮説の域をでない、謂わば僕の考え出した幻だ」
「…俺は少しお前が好きになってきたかもしれん」
「よしてくれ。男色の趣味はない」
「そういうことじゃねぇよ」

 その仮説は大きく間違えている。
‐ミカゲ ユウという存在はリストに載っていない
‐以前ですら載っていなかった
‐民間協力者が書き換えたのはその部分ではない
‐尤も、彼が書き換えたのは管理局への牽制
‐ものの見事に素通りだけどな
 いやはや、ままならん。

「じゃぁ、これで僕は帰るよ」
「あぁ、次来るときはクロノ・ハラオウンとして来てくれ。もてなす」
「そうしよう。君と仕事の話をすると肩がこる」
「年か、早いな」
「四年後、君もこうなるのさ」

 それは怖い。
‐早すぎるよ
‐早いな
‐男児、三日会わざれば刮目せよ
‐老人になってるのさ
 カット。浦島じゃないんだからそれはないさ。





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〜メガネが無ければ即死だった
 メガネがあったから掠った

〜予習
 復習も大事

〜タチが...
〜ネコが...
 ビアン用語集。お母さんに聞いてみよう!!
 すいません、私が怒られるのでやめてください

〜スケープゴート
 速攻魔法。生贄に出来ない四色羊。ただし効果内容でのリリースは可能

〜男児三日会わざれば老人
 男児からすると三日、外からは60年だっけか



〜鍋回
 書いてたんだけど、途中でユウリンが普通に飲酒をしていたので、ボツ。酔ったユウリンは普通のオッサンでした。
 もしくは【構ってさん】?過去が過去だから(ry

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