小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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「……」
「おはよう、御影君」
「おはようさん、夕君」

 チャイムがうるさくて扉を開くと、はやてとすずかが目の前にいた。
 が、残念ながら、非常に残念な事に昨日は遅くまで走り込んでたのだ。朝の高町父の襲撃も含めて、ストレスの解消もあったのだ。
 そして地面に散らばっていたエアメールの内容を読んで、懇切丁寧に苦情の手紙とレポートを書いてようやく眠ったのは空が少し明るくなってからだ。
 つまりだ、午前十時に鳴るチャイムの音に俺が何を思うか。
 答えは簡単だ。

「あー、えっと、怒っとる?」
「わかるか?隠す気はなかったんだが、これほど早くバレるとは思わなかった。帰れ」
「ちょい待ち!!」
「待った、よし、扉の間にある足をどけるんだ。鉄と肉のサンドイッチなんざ食えたもんじゃない」
「御影君が閉めなきゃ大丈夫だよ!!」
「あぁ、そうだな、もういい。面倒だ」

 扉を閉めようとしていた腕を離し部屋にフラフラと戻る。
‐眠い
‐これはあれだ、寝ながらどうにか出来るさ
‐睡眠学習というなの勉強法があってだな
‐優秀であるツンデレにでも囁かれるのか?
‐ウザったいだけだな
 カット。

「で、何用だ。こっちは寝起きで若干どころか至極イライラしてるんだ」
「あ、だから眼鏡をしてないんだ」
「あー、まぁそれはどうでもいい」
「夕君は今日が何日かわかってる?」
「こっちは棒があれば百万円でも取れそうなぐらいイラつきを抑えてるんだ。要件は、短く、簡潔に、だ。わかったらさっさと要件を言うんだ、おーけー?」
「大晦日に何を言うてるんや」
「……あぁ、もうそんな日か」

 カレンダーを変えないといけない。
‐今年も無駄に年を越すな
‐蕎麦は…いいか
‐いまから準備するのもな

「で、それがどうかしたか?」
「うわぁ…」
「ダメだよ、はやてちゃん。ハッキリ言わないとわからないのは知ってるでしょ?」
「そうやった」
「お前ら一応言うが、そういうことは目の前に対象がいない時に話しなさい」
「コレは失念しとった。今度からそうするわ」
「その発言もだ」

 ニヤリと笑うはやてを見る限りまたやりそうだ。
‐すずかタンが怖いお
‐この怖いのがイイ!
‐おまわりさんコイツです
‐コイツもです
 カットカットカット。

「今日の夜に初詣に行くことになってね。そのお誘い」
「……それは、昼に誘うとか出来なかったのか?」
「昼だと夕君が居らんような気がしてなぁ」
「それは多分間違いだ。恐らく居留守を行使してる」
「そういうのを来る人間の目の前で言うのもどうかと思うで?」
「なら次は言わずにするさ」
「それはそれで…」

 夜からか、今から寝るにしても面倒だな。
‐珈琲をいれよう
‐カプチーノでも淹れれるようになれば遊び心がだな
‐初詣ということはだ
‐着物か!!
‐も、もちろん下は履いて、
 カットカット!!

「くぁ…」
「あーなんかホンマにごめん」
「今度からメールとかで確認できればいいんだけど」
「残念ながら、携帯電話は持ち合わせてないのさ」
「そっか…じゃ、じゃぁ電話番号でも」
「…なんだ、やけに積極的じゃないか。少し前からエラく変わったな」
「え、あ、」
「ソッチの方がいいから戻す必要はない。尤も戻したいなら強制はしないがね」
「その、ありがとう」
「どういたしまして。全く、どうして礼を言われるかね」

 口に入る苦い珈琲が眠気を飛ばしてくれる。
‐ちょっと顔を赤くしてるすずかタンかわゆす!

「ん、どうした?そんなに見て」
「なんにもないよ…」
「珈琲がそんなに飲みたいのか?」
「……はぁ」
「何故溜め息を吐いたし」
「まぁええわ。慣れる事にする」
「あはは…」

 本当にさっぱりなんだが。
‐つまりだ、お前が悪い
‐お、オイラは悪くないでゲソ
‐嘘だタコ!
‐タコの足はタコなのにイカはゲソと言われるっていう
‐食べる主体の違いさ







「ホンマにゴメンなさい」
「……」
「何はやてに謝らせてんだよ!!」
「ホンマに、ちょっとアンタは黙っとこか」
「ま、まぁ落ち着いてよ。はやてちゃん」
「何、アンタ。誘われたのはいいけどメンバーの確認しなかったの?」
「本当に、寝起きだからと油断した」
「底抜けのバカね」
「底が抜けてれば努力という水も落ちるさ」
「秀才にさえなれなさそうね」
「器は上等なんだけどな」

 互いに溜め息を吐いて、チラリとスメラギ君を見る。

「あ?なんだよ」
「いや、いいわ」
「本当に、至極、どうでもいい」

 もう一度だけ溜め息を吐いて、空を見上げる。
‐やや暗いな
‐全く、面倒にならなきゃいいが
‐そ、それよりすずかタンとフェイトたんが着物でござるよ
‐保存だ!保存すべきだ!
‐解析班はよ!!
‐解析班、やられました!!
‐メディイイイイイイイイイイイイイイイック!!
 カット。

「ユウ、どうかな?」
「似合ってる。特に髪を上げてるのがいいな」
「えへへ」
「み、御影君!私はどうかな?」
「……ふむ、どうにかボキャブラリーを尽くして褒めようと思ったが、言葉が出ないな」
「それは捉え方によったら馬鹿にしてるんだよ?」
「お前は正しく理解出来るだろ?」
「うん!」

 寒いから少し赤くなった顔で笑う月村から視線を外す。
 さて、世辞らしいことは言い尽くした。
‐世辞ではないけどな
‐いやぁ、紫髪なのに似合ってるなぁ
‐本当に解析しちゃダメなのだろうか
‐否!解析すべきd
‐メディイイイイイイイイイイイック!!
‐ヤツは犠牲となったのだ


「で、私服組は俺とアリシア、はやてだけか」
「私は車椅子やしなぁ」
「私なんて出る二時間前まで仕事してたんだよ?というか知らされたのがその時点なんだけど?」
「お疲れ、どんまい!」
「殴りたくなった」
「残念ながらクーリングオフは対応しておりません」

 両手を上げて降参を示す。笑顔で拳を握る彼女に勝てるわけがない。

「しかし、フェイトまで着物か」
「えへへ。母さんが送ってくれたんだ」
「……アリシアの分は?」
「あったんだけど、着付けが面倒でやめたわ」
「プレシアざまぁ」
「ちなみに母さんがフェイトの動画が欲しいとかで、全部撮ってるわ」
「やっべ、プレシア様チョービジン」
「それで大丈夫だと思ってるのもどうかと思うわよ」

 何もしないよりはマシさ。
‐どう考えても逆効果です
‐本当にありがとうございました

「で、これからのプランは?」
「出店とかもあるから、食べ歩きしながら新年を迎える感じで」
「このあたりはオレとなのはが詳しいからな!案内するぜ!」
「なら頼むわ」
「はぁ、まったく…」

 保護者の気持ちがわかった気がする。
‐頭痛薬がほしい
‐優しさ半分で出来てるモノだな
‐いっそ薬品十割でできてる方が嬉しいがね





◆◆

 着物姿を褒められてしまった。
 しかもだ、差をつけられていると思っていたフェイトちゃんよりもだ。

「ふふふふふ……」
「バニングスさん助けてくれ、月村が怖い」
「自分で蒔いた種よ」
「コホン、」

 危ない。危なく御影君に危ない人物扱いされるところだった。
 深く呼吸して、思考を切り替える。

「ホント、すずかもアリサもフェイトも着物がよく似合ってるな!」
「私に似合わない物があると思うの?」
「ふむ……なるほど、それはまだ園児服が似合うと自負してるのか」
「ぶ、ぶちのめすわよ!!」
「おっと、やめてくれ」

 常にニコニコしているライト君とアリサちゃん、そして御影君が楽しそうに会話をする。

「私も着物着れればなぁ」
「これから先、幾らでも着れるさ」
「着たらオレに見せてくれよな!」
「あー、はいはい」

 苦笑して迫るライト君をいなすはやてちゃん。
 しかし、どうしてだろう。どこかに違和感を感じた。

「どないかしたん?すずかちゃん」
「……ううん。なんでもないよ」
「そっか、ほら皇君、さっさと次の案内せんかい」
「任せろ!」

 そう、ちょっとした違和感なんて、きっと気のせいだ。
 仲がイイことは、とてもイイ事なんだから。

「そういえば、夕君射的うまかったよね?」
「失礼だな。屋台で出るような遊びはある程度得意だ」
「言ったな、オレに勝てると思ってるのかよ!」
「さてね、お前が魔術師並みの力を持って無ければ楽勝さ」
「SSSなめるんじゃねぇよ!」

 ライト君は射的の屋台に走って向かい、そんなライト君に苦笑と溜め息を吐く御影君。

「月村」
「え?どうかしたの?」
「いやぁ、何かほしいモノとかないか?射的の景品で悪いがね」
「え、取ってくれるの?」
「言われればね」

 射的屋の景品を遠目から見ていく。
 大きなぬいぐるみ。小さなお菓子達。そして私の目が止まったのは、朱色の腕時計。
 御影君が守ってくれた時に光っていた、あの色。

 そんな私の視線が止まってるのを気付いたのか、御影君は景品を見つめる。

「時計か…ふむ」
「よくメガネがないのに見えるね」
「俺の目は見えてるモノだけじゃないのさ」
「?」
「まぁいい。約束は守るよ」
「あ、うん。お願いね」
「イエス、マイロード」





 当たり前のように腕時計を取って来た御影君と大量にお菓子の詰め込まれた袋を持ったライト君が注目を浴びた事は数分後の事だった。




*******************************

〜約束の腕時計
 夕君が本気で勝ちを取りにきました

〜眼鏡のない視力
 ぼんやり周りが見える程度。まぁ空間解析を使える彼には目なんて必要ないですが

〜棒さえあれば百万円
 過去にしていたテレビ番組より。一応ゲームにもなってた筈

〜タコとゲソとイカ
 食べる部分の違い。タコは足を食べるのでそのまま、イカは身体を食べるのが普通であり、アシはおまけなのでゲソ
 でも、ゲソ美味しいよ

〜忙しのアリシア
 研究職は常に時間に追われてる。時間があったところで彼女は着物を着ることはなかっただろう

〜彼女の感じた違和感
 第三者である彼女だからこそ感じることの出来た違和感。対象者達は至って自然


2012/10/12追加
〜屋台ゲームの強い魔術師
 いいかよく聞けモンキーども で通じるなら幸い。通じないなら【ウッディ!!】か【口先の魔術師】で検索すればいいと。特に後者なら出てくる筈

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