小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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「しかしながら人が増えてきたな」
「大晦日だからね」
「逸れないようにしろよ!」
「俺としてはお前が一番の不安だ」
「オレは迷わねぇよ!」

 そういう事じゃないんだけどな。
‐まったくだ
‐離れない事に意味があるというのに

「はぁ…で、ホントにそんな安いモノで良かったのか?」
「ウン!えへへ」
「こっちはこっちで意味がわからん」
「アンタって、女心とか一生理解出来なさそうよね」
「理解したところで変わるってのはよく知ってるよ」
「あら、よくわかってるじゃない」
「お褒めに預かり恐悦至極にございます、お嬢様」

 さっきからチラチラと敵意もない人間が数人こっちを見張ってるからなぁ。
‐さすがお嬢様
‐どうでもいいがね
‐いっそ攫って今月の食費に…
‐おいおい、幼女を攫うんだぞ!?
 カット、カット。

「お賽銭か…はやてはどうする?」
「んー、行きたいのは山々やねんけど、この人混みやからなぁ」
「ということだ、お前さんたちは行ってきなさいな」
「御影君はどうするの?」
「眼鏡が無くて不安なんだ。少し安全な所にいさせてくれ」
「じゃぁ、はやての事は任せたぞ!」
「はいはい。全員行ってこい」

 溜め息を吐いて、近くの木製のベンチに座る。
‐休めるところはいいなぁ
‐人が居るからいいが、居なけりゃ寝てたな

「ゴメンな、夕君」
「ん?」
「お賽銭、行きたかったやろ?」
「さっきも言ったが、眼鏡が無いんだよ」
「そっか…うん、ありがとう」
「なんで礼を言われるんだよ」
「さて、なんでやろね」

 ふふふ、と笑うはやてを見て、もう一度だけ溜め息を吐く。
‐敵意アリ
‐対象はツンデレか
 近くにある石を拾って、手で弄ぶ。
‐空間解析
‐敵との間に障害物の無いルートを選択
‐人間の移動感覚演算
‐予測完了
‐3秒後に直線ルート予測
‐2、1
 曲げた右肘を伸ばし、真横に石を放つ。

「?どないしたん?」
「肘の調子が悪くてな…どうやら大丈夫らしい」
「ふぅん…クロノ君が言うとったけど、あんまり無理したアカンらしいで」
「ハラオウンが……?」

 あいつの心配症も困ったものだな。
‐まったく、油断も隙もない

「そういえば、お賽銭とかで在り来たりな質問をするけど」
「どういう事を願ったか?とかか」
「そうそう。夕君ならどんな事を願うんやろなぁって」
「……フフ、アハハハ」
「ど、どないしたん!?」
「いや、悪い悪い…そっかそっか。神社で願うのか」

 コレはとてもいい冗談だ。
‐気づいてないだろうなぁ
‐仕方ない、少し手助けしてやるか
‐何故?何故手助けをする?
‐友人の友人だからだろ?
 ポケットから小銭を出して、場所の確認をする。

「そうだな…どういう願いをするんだろうな」
「はぐらかしてる?」
「いやいや、はぐらかすならもう少し面白い事を言ってるよ」

 小銭を一枚放り投げて、今しがたきっと願っているだろうバカに当てる。
‐お人好しめ
‐これだから…
 カット。これが俺なのだから。

「そういうはやては。何を願うんだ?」
「私?家族も増えたし…今の幸せを末永くかなぁ」
「はやてらしい」
「うっさいわ。私は答えたで、次は夕君や」
「そうだな……神様に願うほどでは無いけど、みんなの幸せや健康は願ってるよ」
「なんやそれ」
「ん?どこかおかしいか?」
「リィンから記憶をちょっとだけもらったけど、他人の為に尽くしすぎやない?」
「……迷惑か?」
「いや、嬉しいけど」
「ならいいじゃないか」
「私が言いたいことはそこじゃ無くてやな!!」
「おーい、はやてー!!」
「……はぁ…まぁええわ」

 ふむ、諦めたか。
‐お人好しもここまでくると狂ってるな
‐既に狂ってる人間に何を言うか
‐誰の為でもなく自分の為に狂ったバケモノが何を言うか

「おいおい、何そんなに怒ってんだよ」
「怒ってない!イラついとるだけや!!」
「御影君、何かしたの?」
「さてね、身に覚えがない」
「……ふぅん」
「あれ?信じられてない?」
「うん」
「御影だし、仕方ないじゃない」
「お前らの中での俺は一体何なんだよ」
「女心のわからない、唐変木、朴念仁」
「本当に失礼だな、バニングスさん」
「お褒め頂き感謝感激雨霰」

 むぅ、コレは酷い扱いだ。
‐当然の扱いだな
‐まったくだ
‐とにかく帯を掴んでアーレーって!!
‐落ち着きたまへ
‐とりあえずパンツを履いてるか聞いてからだな
 カットカットカットカットカット。











「うへへー」
「えへー」
「おい、こいつらを誰かどうにかしてくれ」
「アンタがどうにかしてるからいいじゃない」
「酔っ払いの相手なんざ、あと十年はしたくないね」
「ユーウー」
「あーはいはい。頼むからへばり付くのは構わんが頬ずりするんじゃないよ」

 現在、月村の時計を確認するに二十三時ぐらい。
 現状、カオスです。

「クソ、他はどこに行きやがった」
「ライトが案内してやる!とかでどこかに連れて行ったわ。アリシアは眠いって言って帰っちゃったし」
「シット。今ここにいるのは酔っ払い二人と役立たずか!!」
「あら、私もいるわよ?」
「……お、おぅ」
「役立たずが私とでも言うつもりだったのかしら?」
「そんな事、口を閉じても言いません」
「口を閉じてたら言えないでしょ?」
「開くと言ってしまいますので」

 ため息を吐かれた。
‐まぁこんな会話をしてる中でもじゃれて来る二人の対処に追われてるわけだ
‐もうアレなんじゃね?触っても許されるんじゃね?
 カット。

「ゆ、ゆぅ……」
「ん。どうした月村?」
「えへへぇ…ふふ」
「甘酒で酔うなよ」
「よっれらいもん!」
「テンプレすぎでございます」
「ホント、モテモテね」
「こんなモテかたなら犬猫にされる方がいい」

 両手に花だけど、アルコールといい匂いが混ざってるのはいただけない。
‐クンカクンカ
‐すーはーすーはー
 カット。

「ンぅ…」
「フェイト、眠いのか?」
「ねむぅ、なぃょ?」
「そうかい。なら膝を貸してやるから横になってなさい」
「ぅん…?うん…」

 ポテンと横に倒れて、膝に頭を置くフェイト。
 何度か位置を直して寝やすい場所を見つけたのか、そこで停止する。
‐コレは、つまり、あれだろ?
‐膝枕なのはいいが
‐やる方よりもされる方が好みだ
‐まぁ何年か経ってからだな

「ゆぅ、わたしも…」
「残念、膝は一つしか空いてません」
「ぶぅ…」
「肩は空いてるからそこで我慢だ、オーケー?月村」
「やだ」
「ジーザス。俺に多足生物になれと」
「月村じゃやだ」
「……あー、すずか?」
「うん、えへへ…肩借りるね」
「あ、あぁ…」

 あれ?酔ってるよな?
‐酔ってる筈だ
‐顔は赤いし
‐深く考えるのは負けか
 肩に頭を置いて、そのまま体重を掛けてくるが…軽いなぁ。

「ホント、イライラするぐらいモテモテね」
「ほとんど酔っ払いの対応だけどな」
「…私にはアンタを理解出来ないようだわ」
「天才に理解されない人間とは、誇っていいか?」
「勝手にどうぞ。甘酒をヤケ飲みしたい」
「一応アルコールだから、多量の摂取はおすすめせんぞ」
「ありがとう、不運に見舞われろ」
「ひどくね?」

 すずかの手がちょくちょくと俺の右手を触れていたので、そのまま握る。
 ふむ、女の子でも手は冷たいのか。

「……爆ぜろ」
「いや、なんでだよ」
「まぁいいわ」
「それならよかった」

 左手でフェイトが飲んで余っていた甘酒を取り、紙コップをそのまま煽る。
‐間接キスを狙った訳じゃない
‐間接キスを狙った訳じゃないぞ
‐勿体ないだけだからな
‐大事な事なので二回

「ホント…アンタって奴は」
「ん?」
「いや…いいわ。多分気づいてないんだろうし」
「ふむ、悪いところなら直すが」
「悪すぎて治しようがないわ」
「なら残念だ」

 もう一度溜め息を吐かれる。
 代わりにこちらは甘酒を飲もう。

「で、アンタって好きな人とかいないの?」
「…いきなりだな、バニングスさん」
「ある意味、いきなりでもないんだけどね」
「そうなのか?」
「そうなの。で、どうなの?」

 好きな人。大切な人は今ここに複数いるが。

「質問に質問して悪いが」
「どうぞ」
「それは恋愛感情か?」
「もちろん。それ以外に何があるのよ」
「親愛、友愛、まぁ色々あるが」
「今聞いてるのはlikeでもなくloveよ」

 寝ている筈のすずかの頭がピクリと動いた。
‐寒いのかね
‐ジャケットでも着せとくか
 自分の着ていた上着をすずかに着せて、少し肌寒くなったので、暖かい甘酒をもう一度飲む。

「ふむ、ラヴねぇ…」
「いないの?こう…夢にまで出てきそうな人とか」
「それなら居るよ」
「へぇ、誰?」
「さてね。俺にはわからないことさ」
「……つまり、知らない人なの?」
「愛してる、って表現もおかしいがね。夢にまで出てくる人はソイツぐらいだ」
「ふぅーん…そっか」

 甘酒をチビリと呑み、やけに視線を強くするバニングス。
‐おー怖いなぁ
‐まったく最近の子供は…

「もし、その人が今、目の前に現れたらどうする?」
「……そうだな、まずは一声だな」
「なんて?」
「おはよう、こんにちは、こんばんは、さようなら」
「なによ、それ」
「挨拶は大切って事さ」

 すずかに握られた手が少しだけ強く握られた。





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〜ご機嫌なすずかさん
 プレゼントから甘えるまで全部こなしてます。しかもちょっと勇気が無くて手が握れなくても、勝手に夕君が握ってくれる仕様でご満悦

〜「ゆぅ」
 酔ってるからこんな感じ。夕でもいいんだけどタと夕が連続するとさすがに(ry
 恐らく「ゆぅ君」で落ち着くかと

〜眠い、帰る
 アリシア姉さんお疲れ様です

〜敵意
 お嬢様を狙う不埒な人間。大衆だから狙い易いよ

〜夕と光
 どことなく仲良くなってるけど、ある意味これが当然の結果です。方やお人好し、方やニコポナデポのチーターなので

〜…爆ぜろ
 リア充爆発しろ。マジそこ変われ、あ、でもすずかタンの座ってる椅子にな(ry

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