小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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「だから、あれほど先に行くなと注意したはずだ」
「面目ない…」
「いや、お前を説教したところで状況は改善されないからいい」
「本当に、申し訳ないです」

 スクライアが元に戻った。理由は簡単だ。罠に嵌ったのだ。
‐魔法の行使不可
‐ふむ、どういうことだ
‐そういった場所なんだろ
‐対魔力領域、といったところか
‐詳しく調べてみないことには対応不可
 否定式が組み込まれるのか、はたまた魔力の結合が緩くなるのか。

「少し休んでから進もう」
「うん…それにしても、冷静だね」
「冷静…なんだろうか」
「十分冷静だと思うよ」

 それを言えば、スクライアもだろう。
‐灯りはユーノきゅんがどうにかしてくれたが
‐やはり古代ベルカの文字か
‐文字がこれほど普及してたなら学んどくべきか

「君が居るから、僕は冷静でいられる」
「…それは聞き方を変えれば告白みたいになってるぞ」
「なッ!?そ、そんなわけないだろ!第一、僕らは男同士じゃないか!!」
「騒ぐな、無駄な体力を使うんじゃない」
「騒がせてるのは君だろう…」

 さてね。身に覚えがない。
‐解析魔法も行使できないか
‐いっそ魔力量を上げてみるか
‐実験楽しいです

「ミカゲ、何してるの?」
「ちょっとした実験だ」
「先に言うけど、遺跡を壊して脱出とかしたら僕は君を殺すかもしれない」
「過激的な発言だこと。単なる解析魔法だ」

 普段の解析魔法を縮小する。
‐多対象から単対象へ
‐魔力消費は変えずに
‐解析魔法、行使
‐ベルカの、城だったのか
‐またややこしい所に来たな
‐辺りがボロボロな理由がつかんぞ
‐解析魔法に綻び
‐魔力結合低下

「なるほど」
「何かわかったの?」
「ここがベルカの城だったてこと」
「そんな事、入った時から気づいてたよ」
「……お前は情報の開示という言葉を知らんのか?」
「ごめん、本当にごめんなさい」
「はぁ…あとは魔力の結合が緩くなるな」
「じゃぁ魔法は使えないんじゃないの?」
「ちょっとした裏技さ」

 アンヘルからの魔力供給だなんて言えるわけがない。
‐ショタを触手で、こう…
‐先が困るからやめろ
‐え?先でシコる?
‐ホモ以外は帰ってくれないか!
 カット。ホモが帰れ。

「…どうして司書の話、断ったんだい?」
「……」
「君が管理局嫌いでも、いい話だと思うよ?第一、僕よりも君の方が優れてるのは明らかだし」
「…スクライア、あまり自分を卑下するな。お前は凄いよ」
「君と比べると、そうでもないさ」
「……俺の解析魔法は、取捨選択ができないんだ。お前の読書魔法より性能はいいかもしれんが燃費も悪いし、イラナイの情報まで入ってくる」
「例えば?」
「本の解析をすると、その本に使われた紙の材質、素となる木材、そして繊維情報、インクに使われた成分、量」
「…ナニソレコワイ」
「本の内容なんて、ほんの一部さ」
「…それでも、」

 一つだけ、溜め息を吐いてスクライアに向かう。

「一つ、昔話をしよう」
「……」
「一人の子供の話だ。
 その子供は幼い時に産みの親にゴミ捨て場に捨てられ、生きるために盗みを働き、その日生きる為に必死だった。
 その日も一欠片のパンを得て、寝座であるゴミ捨て場に戻った。珍しく、その日は追手もなく、言っちゃ何だが楽な仕事だと思った。しかし、ゴミ捨て場で待っていたのは大人共だ。
 あの町に一人しかいなかった少年はすぐに噂になり、そして場所がバレていたんだ。少年は逃げた。ある程度の地理は把握していたし、逃げるルートも数個用意されていた。が、少年は意図も容易く捕まり…罰を受けた。
 死んだ、と思った。落ちていく意識の中で確かに覚悟した。
 その覚悟は無駄に終わることになる。一人の女が、少年を拾ったんだ。詳しくは知らないが、彼女は俺を拾った。
 目が覚めた俺は当然の如く警戒していた。彼女から言わせれば『猫の様だ』だったか。とにかく、そんな少年に彼女は言うんだ。

「君は私を利用しろ。私も君を利用する」

 ってな。意味の分からない女だったが、少年は彼女に救われたんだ。利用される立場であれな。
 そこからの少年の生活は劇的なものだった。料理の出来ない女の代わりに料理をし、言葉を学び、そして一つだけ魔法を学んだ。
 その一つは解析魔法で、彼女の使える唯一の魔法だった。

 時は経ち、そんな生活にも慣れて、解析魔法で色々な情報を喰らっていた少年は料理を作っていた。
 彼女はのんびりと椅子に座りながら本を読んでいたんだ。
 そして上を向き、眉間に皺を寄せた。

少年は聞いた。
「何かあったのか?」
彼女は答えた。
「どうやら、管理局のクソ共がゴミ処理をしに来たらしい」

 数秒後、家を貫いたのは一本の剣だった。剣は一本から二本に、そして三本になり、斧や槍まで降ってくる。
 彼女は俺を守って、剣に貫かれた。滴る血が頬を伝い、少年にそれが現実だと思わせる。
 何故?という言葉だけが少年の頭の中に反芻した。何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も。
 既に解析魔法でわかりきっていた彼女の死期。
 何故こんなことに?
 この剣は一体?
 誰が悪い?
 何が悪い?
 少年は彼女の言葉を思い出す。

 そうだ、管理局が悪いんだ。

 そうして少年は管理局を倒すために、旅をするのでした」
「……少年は、彼女を愛してたんだね」
「恩は感じてた。それが愛かなんてもう確かめ用がない」

 スクライアはようやくと言っていいほどの溜め息を吐いて、続ける。

「わかった。司書には僕がなろう」
「元からそういう段取りだ」
「……君は、まだ恨んでいるのかい?」
「あ、この話の大半は嘘だからな」
「なんだと!!」
「さて、休みも取れたし、出口に向かおうか」
「ちょっと待って、ユウ!!今の話は君が体験した過去じゃないのか!?」
「誰もそんな事言ってませんことよ?」
「チクショウ…なんだ、騙されたみたいなこの感情!!やっぱり君が司書に」
「残念、言質は既に俺の手の中さ」

 騙される方が悪いのさ。
‐騙されたのはどちらだろう
‐騙した内容はどちらだろう
 カット。はてさて、どちらかが本当なのか?
 それとも全て嘘なのだろうか。




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〜ネタなんてなかった
 微妙に真面目回。こういう時に挟まないとすっかり忘れてしまいそうで怖かった。

〜少年物語
 旅に出る少し前、彼女が貫かれて少し後、少年は神様に願い、そして恨み始めました

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